よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則

制作 : 尾形 聡子 
  • 誠文堂新光社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784416614600

作品紹介・あらすじ

犬を繁殖するに当たっては、生まれてくる子犬の健全性、また毛色がどのように遺伝していくのか、さらに劣性遺伝とはどのようにして起こるのかなどの、繁殖を志す方であれば 当然知っておかなければならないことがたくさんあります。しかし、繁殖者やこれから繁殖を目指そうとする方は、経験値をもとに繁殖を手掛けているのが実情です。経験も大きな要素ですが、その上に学問が加わればより一層、目標に近い子犬を作出できるはずです。特に毛色の遺伝などはなかなか思うようにはいきませんし、組み合わせによっては、健康を損ねた子犬が生まれることもあります。本書は誰もが知ってるメンデルの法則から、DNAの正体など、平易は文体と表現でわかりやすく解説します。

感想・レビュー・書評

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  • 2018-4-29

  • 犬にはいろんな種がいます。グレートデンのような大型犬からチワワのように非常に小さいものまで。身体の大きさだけでなく、毛の長さ、色、模様もさまざまです。
    犬の姿形、また作業特性や体質の元になっているのが遺伝子です。
    本書では主に、毛色と毛質に注目して、「犬の遺伝学」をやさしく解き明かしていきます。
    えー、遺伝とか昔習ったけど忘れちゃった、という方も、最初の1章は遺伝学の基礎から解説していますから大丈夫。
    さて、ではちょっと中味を見ていきましょうか。

    犬は驚くほど多様な形質を持ちますが、異なる純血種を交配して「雑種」を作ることができることからもわかるように、遺伝子の相違はそれほど大きいものではありません。さらには、多様な犬種があり、犬種内での遺伝子は相当均一です。
    そうしたことから、犬は実のところ、どういった遺伝子がどのような形質を担っているのかを調べるのに適した生きものと言えます。

    毛色や毛質の基本はメンデル遺伝です。
    ただ、例えば「黒」という色を決めている遺伝子は1種類ではなく、いくつかの系統のものがあります。Bシリーズと呼ばれる遺伝子は黒か茶かを決めます。黒が優性で茶色が劣性です。BBとBbは黒、bbの場合は茶色になります。このほか、Aシリーズという遺伝子は黒っぽい色と黄色っぽい色のスイッチを司ります。Eシリーズという遺伝子は色素を身体に広げる働きを支配します。
    こうした遺伝子シリーズ間には強さの違いがあります。Eシリーズが赤~黄褐色を示す形質eeである場合には、これがほかのシリーズの働きを打ち消して、個体は赤~黄褐色になります。ですから、eeBBでも黒にはなりません。
    こうしたいくつかの遺伝子の組み合わせにより色が決まり、毛質や斑点などの模様も同様に決まっていきます。

    本書で紹介される理論の元になっているのは、Clarence Cook Little博士のThe Inheritance of Coat Color in Dogsという著書です。なんと、1957年に出ています。ちょうどDNAが二重らせん構造を取ることをワトソンとクリックが発見した頃です。ですから、もちろん、遺伝子配列を解読するという時代ではありません。繁殖データに基づいて、毛色や柄を支配するいくつかの遺伝子座があると仮定したのです。
    その後、遺伝子が特定されたものもあります。やや現状と異なり、修正が必要と考えられる部分もあるようですが、それにしても、複数の遺伝子が関わるかなり複雑な法則を想定し、それがかなりの部分でおそらく正しいというのはすごいことです。

    毛色の遺伝を知るというのは、評価が高い模様の犬を生み出すことに止まりません。
    毛色に付随して遺伝する病気というのもあります。直接、その遺伝子が病気の元になっている場合もあるでしょうし、たまたま毛色の遺伝子と病気の遺伝子がすぐ近くにあって、一緒に遺伝する場合もあるでしょう。
    毛は発生の起源からすると外胚葉という胚の外側に属する部分で、ここには神経系や感覚器などもあり、こうした一連のものが発育異常となる病気というのもあります。

    遺伝病の危険性だけでなく、やはり純血種よりも雑種の方がさまざまな点で丈夫であるのは間違いないでしょう。健全な繁殖のためには、研究によってわかったことも考慮にいれて、疾患になる個体を作るようなものは避けていくことが望まれます。
    従来の「スタンダード」に固執するのではなく、集団の「多様性」を保っていくべきだろうと思います。


    *イラストはかわいくて親しみやすいのですが、やはり○○種の△△タイプの模様、などという話には写真が添えられているとわかりやすかったなぁと思います。巻頭にはいくつか写真があるのですが、本文中の犬を網羅するものではなく、わかりにくい箇所もありました。予算等の問題もあったのかとは思いますが。

    *著者さんは法学部卒で、その後、犬の繁殖に興味を持ち、農学系で修士号を取っています。語り口がわかりやすいのはそうした経歴によるところもあるのかもしれません。

    *洋犬に比較して日本犬が比較的丈夫である(遺伝病に関する話をあまり聞かない)のは、「純血化」の度合いが低いためではないか、と個人的には思っています。多分、明治維新で洋犬が入ってきて、一度わーっと日本犬と洋犬の間の雑種が生まれ、その後、日本犬を保存しようという動きが起こった→つまり育種自体の歴史が浅いのではないかと推測しています。このあたり、また機会があれば別の本で追ってみたいところです。

    *遺伝病についても随所で触れられているのですが、もう少し突っ込んだことが知りたいような気もします。これはまたいずれ。

  • 「マール」「ドミノ&グリゾル」「ベルトン」・・・みんな、犬の毛色のパターンを指します。例えば「ハルクイン」は白地に黒の斑が入ったグレート・デンの柄だそうです。個性的で美しいあの毛並みはどういう仕組みで形成され、伝わるのか。犬好きには興味深い入り口から、遺伝学というテーマに迫るユニークな本です。

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