国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784420310871

作品紹介・あらすじ

街頭に国会審議映像を持ちこんでスクリーンに映しだし、その横で自らマイクを握り、ライブ解説を加え、国会で起きていることを人々に知らせる。
これが「国会パブリックビューイング」である。政党や労働団体と組まない独自の活動だ。
「国会をみよう。そして考えよう」と主宰する上西充子教授は呼びかける。
本書はそのようにして誕生した「国会パブリックビューイング」という、小さいが新しいメディアによる1年間の活動記録である。


本文「はじめに」より
国会パブリックビューイングの街頭上映は、夕方から始まる。
スクリーンを組み立ててプロジェクターから映像を映し出すので、あたりが暗くないと映像が見えにくいからだ。(中略)
活動を始めたきっかけは、マスメディアや既存の市民運動・労働運動の力だけでは、いま国会で起きている問題について、広く市民に共有されていないと感じたからだ。
このままでは、さらに状況が悪化するという危機感があった。自分の思うように街頭行動をやってみると、反応が返ってくる面白さがあった。
自分たちで街頭行動をおこなう経験を通して、自分たちが主権者であり、政治を変える主体なのだという自覚も芽生えてきた。
従来の市民運動・労働運動に便乗するかたちで新しい要素を付け加えるのではなく、自分たちで独自に団体を作って、自分たちが考えるスタイルで街頭行動を実施してきたからこそ、従来の街頭行動には足をとめなかった人が足をとめてくれていると感じる。
また、自分たちでやってみるという行動を私たちが示しているからこそ、自分もなにかやってみようと動く人たちが、各地で生まれてきていると感じる。

【目次】
はじめに
第一章 国会で起きていること
第二章 活動の立ちあげと展開
第三章 映像がもたらしたもの
第四章 進行中の国会審議を取りあげる
第五章 野党議員による質疑の役割
第六章 路上という公共の政治空間
第七章 臨機応変な番外編
第八章 小さなメディアが開いた可能性
おわりに

【著者略歴】
上西充子(うえにし みつこ)
1965年奈良県生まれ。東京大学教育学部卒業後、同経済学部に学士編入して卒業。同大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得満期退学。
日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構)の研究員を経て、現在は法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院キャリアデザイン学研究科教授。専門は労働問題。
2018年6月より、「国会パブリックビューイング」の代表として、国会の可視化に向けて取り組んでいる。
2018年の新語・流行語大賞トップテンに選ばれた「ご飯論法」の受賞者のひとり。
2019年、日隅一雄・情報流通促進賞の奨励賞を受賞。著書に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(共著、旬報社)、『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)など。

感想・レビュー・書評

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  • ふらっと立ち寄った最寄りの図書館で、大好きな司書さんがいらしたので、何気なくおすすめの本を聞いたのだ。したらば、とても悩みながらも、この本を紹介してくれた。それは、今月の図書館のおすすめにも載せている本だった。自分では絶対に手に取らない類のものだ。けれど、大好きな司書さんが熱心に語ってくれる姿に、その本を借りていくことに決めた。普段、絵本やら児童書しか読まない私には、ふりがなのついていない漢字続きの文章がひどく読みにくく感じた。一体どれだけ文章を読むということをサボっていたというのだろうと思うと情けなくもなる。もちろん、新聞なども読んでいないこともモロバレである。いわんや国会をや。それでも、アベノマスクってちっちゃいよね、ほどの関心しかないことがよくないことだとは、うすうすは気付いているのだ。

    以下は、私の心に響いた部分の抜粋である。

    「国会パブリックビューイングの取り組みに関する機材情報などを掲載したウェブサイト「国会パブリックビューイング@ウィキ」に、私たちは「国会パブリックビューイングとは」という文章を載せ、こう記した。
     
     国会パブリックビューイングは、現実の国会の審議の様子を街角で上映することで、「国民の代表機関」の実態を多くの人たちに向け可視化し、透明性を高めることを目的としています。そして、虚偽答弁やごまかし、論点ずらしや言い逃れ等の、甚だしく不誠実で民主的議論の精神にもとる行為への抑止効果を発揮していくことを目指しています。

     端的に言えば、国会の可視化による正常化を目指しているということだ。私たちは国会答弁の不誠実さを問題にする。それは、現政権を倒したいからではない。仮に現政権が倒れたとしても、こういう国会審議の現状が問題にされないならば、次の政権も同じことをくり返しかねない。」(p213より)

    「私は国会パブリックビューイングの活動を主催するようになってから、日本国憲法の第十二条の条文が実感できるようになった。

     第十二条 この憲法が国民に保証する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

     主権者は私たちであり、私たちが不断の努力によって、憲法が保障する自由や権利を守り続けなければいけないのだ。誰かが自由や権利を保障し続けてくれるわけではない。憲法が保障すると言っても、その自由や権利が侵されているときに、それを回復する努力をするのは、私たち自身なのだ。」(p214~p215)

    「日本国憲法の第九十七条には、次のように、基本的人権の由来特質が記されている。

     第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
     
     歴史を生きた人たちによって私たちに信託された権利。その権利を、私たちは守り、そして、後世の人たちに引き継いでいく責任がある。その権利を守ることを託されているのは、私たちだ。
     そう実感できる手段を、私たちは、多様に、豊かに、持つ必要がある。国会パブリックビューイングも、そのひとつだ。今後も、参照され、応用される活動で有りたいと考えている。」(p216)

    これらはいずれもこの本の結びの部分にある文章だ。私たちがやらなければならないことであり、さらに言えば多くの人間が現状ほとんど出来ていないであろうことが、そもそも国民の権利であり、不断の努力をして保持していかねばならないことであると熱弁されている。
    それをしなかった時、私たちは七十余年前にいかなることが起こったかを思い起こさなければならないだろう。

    高プロの話や裁量労働制の話は、そもそも全く知識がなく難しくはあったが、政府の答弁が不誠実であるということはさまざまな実例を以って十分に伝わった。
    途中で、「国会答弁って見てるとイライラして切っちゃうんだよね。」と言う男性が、国会パブリックビューイングを長時間立ち止まって見ていたという記述があったが、その方の気持ちが私にもよく分かる。一人で国会答弁を見ているとイライラするのはなぜだろう。それは、答弁がまともになりたっていないことを感じ取っているからではないだろうか。実を言うと野党側の喚き立てるような口調(のイメージ)も苦手だが、何よりのらりくらりと躱すような政府の答弁にイライラしてしまうのではないだろうか。けれど、それだけ露骨に不誠実な対応をしている政府に対して、国民が何のアクションも起こさないことを考えると、こののらりくらりと真実を有耶無耶にする「ご飯論法」が、結果として成功してしまっているということなのだろう。
    意味がわからず、また意味のないと思える国会答弁を、私たち一般市民が意味があるものとして認識するためには、専門とする人の解説が入った「国会パブリックビューイング」はとても意義のあることだと思う。

    以下、目次を掲載しておく。

    はじめに

    第一章 国会でおきていること
    論点ずらしの「ご飯論法」/なぜ『今日の国会ダイジェスト』はないのか/「ご飯論法」答弁の実例/不誠実さの背後にあるもの/不都合な事実には向き合わない政府答弁/数の力に対抗するには/もどかしい思いから生まれた国会パブリックビューイング

    第二章 活動の立ちあげと展開
    国会の中と外をつなぐ/デモの場を借りて街灯上映とライブ解説を組み合わせる/届くためのスタイルの発展形/最初の取り組みは独自番組の制作/無告知無人上映の試み/活動の輪が広がっていく

    第三章 映像がもたらしたもの
    スクリーンをきっかけに立ちどまる/映像の切り出しかたで変わる印象/やりとりの細部に潜む大切なこと/言い淀みや言い直しから見えてくるもの/映像だからこそわかること/時間をかけて考える材料を提供する/編集しないで一次資料を提供/可視化することで明らかになること/受け取れるものの多様さと幅広さ/映像をもとに語り合う

    第四章 進行中の国会審議を取りあげる 
    新しいテーマに対応する/専門知識を持つゲスト解説者の協力/緊急街灯上映という新たな試み/現在進行形の国会審議を上映するには

    第五章 野党議員による質疑の役割
    答弁を引き出すための質疑/国会における検証に耐えうるか/隠れた実態を明らかにする/答弁で取った言質を省令や指針に活かす/問題の全体像を描きだす/国会審議に消極的な政府与党

    第六章 路上という公共の政治空間
    道路使用許可は取らない/街灯上映に適した環境/上映を支えてくれる人たち/国会審議の解説が求められている

    第七章 臨機応変な番外編
    「知る権利」に関する抗議行動/「多様な働き方を選択できる社会」とは/香港の自由と民主主義を守る緊急行動/一周年記念交流会でノウハウを伝達

    第八章 小さなメディアが開いた可能性
    一年間の活動を振り返る/フリースタイルの表現活動/異なる専門スキルを持つ者が組むことで可能になること/見る人の視点に立つ/国会を少しだけ身近に/不断の努力と、後世への責任

    あとがき

    国会をみるための参考資料
    国会パブリックビューイングの主な活動記録


    なお、実際の国会パブリックビューイングの様子はYou Tubeで見ることが出来る。
    メディアを生業としない一般人が、このように情報を自由に伝達できる時代に感謝するとともに、本来ならば情報を一般人に正しく開示するべきであろうマスメディアは、一体何をしているのだろうとも思う。
    けれどもそう思うのならば、「ではあなたがどうぞ」という時代でもあるのだろう。
    政府に、マスメディアに、在り方を委ねるだけではいけないのだ。


    追記・筆者は、相手に伝わるためには、届くためには、何が必要かとの問に対して、「相手への敬意」だと言っている。
    「押し付けるのではなく、強い口調も使わずに、相手に対して配慮をもって差しだして、それを受け取るか否かは相手の判断に委ねること。その方が、相手は受け取りやすく、そして、丁寧に深く受け取ってもらうことができる。」と。(p208)
    実社会のいずれにおいても通じる、心に留めておきたい作法であると思った。

  • ついこの間まで国会が開会してるかどうかでさえ把握してなかったような状態のツケなんだけど、いま本当に腹立たしいことが目白押し。
    国会パブリックビューイングのような、適切な解説があって、周囲の人と一緒に視聴できる環境、メチャクチャ良い
    野党の役割果たしてもらうためにきちんと見なければ。

  • 最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00601743

  • 副題に「試み」とあるが、まさに自分たちの試みをレポートし、それを他の人々にもつなげていこうとする実践の書である。自分たちがやったことの意義を課題に見せるのでもなく謙遜するのでもなく、具体的に率直に書き記している。そうでなければ、次に続く人々からの信頼は得られないだろう。自分たちの思いを他の人々と共有するための知恵やノウハウが詰まっている。この本を読むと、観念的な運動論がいかに空疎であるかを実感できる。そして国会のあるべき姿を実例に即して説く書物としても秀逸。

  • 街頭で国会審議映像を解説付きで流す「国会パブリックビューイング」の活動記録。
    安倍・菅政権については、その政策内容の是非はともかく、「ご飯論法」や公文書改竄に象徴される国会、ひいては国民への不誠実な態度は否定できないと思われる。その中で、この「国会パブリックビューイング」は、とても意義のある試みだと感じた。

  • (特集:「政治/民主主義/選挙」)

    ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00554309

  • 街頭で国会のパブリックビューイングを行っている著者。アイデアと勇気に脱帽です。

  • 『呪いの言葉の解きかた』に続いて、こちらも読んでみましたが、上西さんの視点や考え方、取り組みにとても共感できます。ラジオ「荻上チキsession-22」にも度々出演しています。

  • 東2法経図・6F開架:KW/2020//K

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著者プロフィール

1965年奈良県生まれ。東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得中退。
日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構)研究員を経て、2003年に転
職。現在、法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院キャリアデザイン学研
究科教授。
2017年3月に衆議院厚生労働委員会にて、2018年2月と2019年2月に衆議院予算
委員会にて、意見陳述(順に、求人トラブル問題、裁量労働瀬データ問題、統計
不正問題)。2018年6月より、国会パブリックビューイング(@kokkaiPV)代表。
著書に、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(石田眞・浅倉む
つ子との共著、2017年、旬報社)、監修に『10代からのワークルール』(2019年、
旬報社)など。
『Yahoo! ニュース 個人』や『ハーバー・ビジネス・オンライン』に「働き方改革」
など時事問題を寄稿。

「2019年 『呪いの言葉の解きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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