「関係人口」創出で地域経済をうるおすシティプロモーション2.0―まちづくり参画への「意欲」を高めるためには―

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  • 第一法規
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784474072763

作品紹介・あらすじ

定住人口の増加等を主目的とした従来型(1.0)のシティプロモーションから、このまちに貢献したいという人々の「意欲」を高め、「関係人口」を創出・拡大することを主目的とした新しいシティプロモーション(2.0)へと自治体の取組みを進化させるための手法を、マンガも用いながら端的に解説。

関係人口は、現在どのくらいいるのかという具体的な結果については、その多様性と概念の幅広さから統計的な把握が難しく実数を測りにくいとされており、シティプロモーションによって関係人口を創出・拡大しても住民や議会に対し、その成果を説明することが難しいと言われているが、本書では、シティプロモーションの成果について根拠に基づく説明ができるように、目に見えにくい「人々の地域参画への意欲」の効果測定(地域参画総量指数(mGAP)の測定)の方法についても解説している。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:318.6A/Ka93k//K

  • 2021.06.05 関与人口をいかに増やすのか。mGAPの考え方は参考になる。

  • シティプロモーションとは、 私の定義では「地域を持続的に発展させるために、地域の魅力を創出し、地域内外に効果的に訴求し、それにより、人材・物財・資金・情報などの資源を地域内部で活用可能としてくこと」を指す。
    (引用)「関係人口」創出で地域経済をうるおすシティプロモーション2.0 ーまちづくり参画への「意欲」を高めるためにはー、著者:河井孝仁、発行者:田中英弥、発行所:第一法規株式会社、発行年:2020年、5

    私はシティプロモーションの理解を深めるべく、河井孝仁氏による前著、『「失敗」からひも解くシティプロモーション ーなにが「成否」を分けたのか』(2017年、第一法規)から連続して、河井氏が著された書籍を読ませていただいた。最新刊では、そこに実際住んでいる「定住人口」ではなく、「地域に関わろうとする、ある一定以上の意欲を持ち、地域に生きる人々の持続的な幸せに資する存在」(本書、33)である「関係人口」に焦点をあてている。この「関係人口」創出で地域経済を潤すことが可能になるという。ただ、河井氏が指摘するとおり、「関係人口」の捉え方が各自治体でマチマチだ。我が国も人口減少時代を迎え、定住人口の増加が見込めない。そこで、ある意味「ゆるい」定義である「関係人口」という言葉がこぞって使われるようになった。しかし、この「ゆるさ」は、行政の都合の良い方向へ進めてしまうことがある。河井氏は、関係人口という考え方を基礎において、多様性と定量化の二兎を追う関係人口ネクステージを定量化するため、河井氏が従来から指摘してきた修正地域参画総量指標(mGAP)を提示する。本書では、具体的なmGAPの定量化する手順が示されている。私は、このmGAPに「感謝意欲」が含まれていることに感銘を受ける。かつて私も地元小中のPTA役員を歴任したり、地元の祭りの世話役などをしてきた。そのとき、まちの行事に参加するためのモチベーションは、周りからの「感謝」であった。その感謝意欲までも定量化し、関係人口を定量化する手法には、私も賛成だ。

    従来、各自治体のシティプロモーション戦略は、ブランド化、定住人口の増加を目指していたフシがある。恥ずかしながら、私もシティプロモーションとは、都市の知名度向上することだと思っていた。いや、実際にそのように考えられていた時代がある。これを河井氏は、シティプロモーション1.0の時代と呼ぶ。これは、2014年に元岩手県知事で現日本郵政取締役代表執行役社長の増田寛也氏が座長を務めた日本創成会議・人口減少問題検討分科会に起因する。この分科会は、「消滅可能性都市896のリスト」を発表した。そして当時、増田氏の編著により、「地方消滅 東京一極集中が招く人口急減」が発行され、話題を呼んだ。この「消滅都市」というセンセーショナルなキーワードは、我が国が人口減少時代を迎える中で、ヒトの「取り合い」が始まった。その救世主として、各自治体は、シティプロモーションを取り入れ、定住人口の増加を目指したのだろう。まさに、我が国におけるシティプロモーションの創成期ともいえるのではないだろうか。

    河井氏の本を読み進め、私は、シティプロモーションが一過性のものでないということを知った。シティプロモーションはブランドを構築すれば良し、子育て世帯の定住人口が増加すれば良しではないのだ。河井氏が提案する関係人口を創り出すプラットフォーム、いわゆる「地域魅力創造サイクル」は、継続性を求める。ややもすると、打ち上げ花火的なシティプロモーションも存在する中で、その地域に根ざし、愛着心を育み、心からプロモートする。その「地域魅力創造サイクル」を回し続けていくことが重要であると思った。そのため、「いまここ」から未来に向け、河井氏は、シティプロモーション2.0を推奨する。定住人口から関係人口へ、単なる知名度向上から地域魅力創造やメディア活用へ、そして地域連携へとシティプロモーションは進化を遂げる。その理由として、私は自治体の独りよがりではない、そこに住む人達や関係している人たちが「主役」となることに気づいたからではないか思った。

    また、本書では、関与者の成長にも言及しているところが面白い。その成長を促すため、野中郁次郎氏らが示したSECIモデルなるものが登場する。この9月、野中郁次郎氏らが新たに「ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル(東洋経済新報社、2020.9)を発刊した。これには、新しいSECIモデルが示されているようだが、企業組織を成長させるこのモデルは、地域を成長させることにも有効だと思った。この河井氏によるシティプロモーション関連の本を読み終え、次に私は「ワイズカンパニー」を読ませていただこうと心に決めている。

    河井氏による最新刊の「おわりに」に、新型コロナウイルスについても触れている。私は、新型コロナウイルスにより、地方がシティプロモーションを展開する絶好の機会だと考えている。それを裏付けるかのように、東京一極集中から、テレワークの推進などで地方への回帰が始まっている。ネットさえつながえれば、東京にいる必要はなくなりつつある。そのため、地方の自治体は、シティプロモーション2.0を展開することにより、関係人口を創出することが容易となってくる。このピンチをチャンスに変えられるかは、各自治体の取組みにかかっている。

    「自助・共助」という言葉がある。近年、防災的な意味合いで「自助・共助」という言葉は多用されているが、そこに住む人々が支え合い、感謝しあい、自分たちのまちを愛し、人々にも推奨する。河井氏による一連のシティプロモーションの本を読ませていただき、この好循環こそが、シティプロモーションではないかと考えるに至った。

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著者プロフィール

かわい・たかよし
東海大学文化社会学部広報メディア学科教授。博士(情報科学・名古屋大学)。静岡県職員を経て現職。専門は、行政広報論、シティプロモーション、地域情報論。公共コミュニケーション学会会長理事、日本広報学会常任理事などを務める。
著書等に、本書と同時刊行の『市民は行政と協働を創れるか』(編著、彩流社、2022年)、「行政広報の本義と、その進化における課題 河井孝仁」所収『広報DX : 次世代の社会を担う情報発信の新指針』(秋葉賢也 編著、宣伝会議、2021年)、『「関係人口」創出で地域経済をうるおすシティプロモーション2.0  まちづくり参画への「意欲」を高めるためには』(河井孝仁 著、第一法規、2020年)、『「地域の人」になるための8つのゆるい方法 まちのメディアを使う・学ぶ』(編著、彩流社、2019年)、『シティプロモーションでまちを変える』(彩流社、2016年)、『「失敗」からひも解くシティプロモーション  なにが「成否」をわけたのか』(第一法規株式会社、2017年)、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(共編著、彩流社、2017年)、『ソーシャルネットワーク時代の自治体広報』(ぎょうせい、2016年)、『シティプロモーション 地域の魅力を創るしごと』(東京法令出版、2009年)、『地域を変える情報交流  創発型地域経営の可能性』(東海大学出版会、2009年)、『地域メディアが地域を変える』(共著、日本経済評論社、2009年)、『創年のススメ』(共編著、ぎょうせい、2008年)、『ハイブリッド・コミュニティ  情報と社会と関係をケータイする時代に』(日本経済評論社、2007年)、『コミュニティ  eデモクラシー・シリーズ』(共編、日本経済評論社、2005年)、『自治体モバイル戦略  ケータイがつなぐ人と地域 ユビキタス社会へ向けて シリーズ 動き出す地域ユビキタス社会へ』(共著、信山社出版、2005年)等がある。

「2022年 『新・シティプロモーションでまちを変える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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