「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―――正義という共同幻想がもたらす本当の危機

著者 :
  • ダイヤモンド社
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感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478006832

感想・レビュー・書評

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  • 「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのかと叫ぶ人に訊きたい」は、この本の中でたくさん提起されているトピックの一つで、副題の「正義という共同幻想かもたらす本当の危機」のほうがこの本を貫くテーマとしてわかりやすい。
    著者の考え、立ち位置はいろんなテーマで私と逆だ、もしディベートしたら相手方になる人だと感じたけれど、その理由、どうしてそうなのかを読むと一理あるなあ、島を変えちゃいそうと思うことが多かった。「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのかと叫ぶ人に訊きたい」を含め、興味深いトピックは多かったけど、いかにも連載していたものをまとめました感があって、蛇足では?と感じるトピックもあった。読んでてちょっと中弛みしたけど、分かりやすいことはよいばかりではないのだなと気付きがあってとてもよかった。

  • 話の7割くらいは賛同できず、本人が言うように「お前の頭の中はお花畑か!?」とも思ってしまう。しかし、残り3割が激しく同意できるし、今まで自分が気づかなかったことなので、タチが悪い。
    この人の話もっと聞きたいと思ってしまうよ。

  • 当事者でもないのに、なぜこれほど居丈高になれるのか?不安や恐怖、憎悪だけを共有しながら、この国は集団化を加速させていく―。取り返しのつかない事態を避けるため、今何ができるのか。

  • 雑誌『経』に掲載された著者の40編ほどの連載を、加筆修正してまとめたもの。
    古くは2007年のものから、2011年の東日本大震災直後に書かれたもの、本書刊行の直前(2013年夏)に書かれたものまである。

    実は印象的なタイトルにひきつけられ、死刑制度についていろいろ著書のある著者の本であることもあって、そのあたりを掘り下げた本かと思い手にしたのだが、タイトルはあくまで連載の一つにつけられたものだったようだ。
    よって、話題はオウムはもちろん、国際社会の在り方から司法、思想、現代社会の暗部などなど多岐にわたっており、本来のテーマとしては、サブタイトルがそれを集約しているものと思われる。

    人々が集団になったとき、実体のない「共同幻想」(吉本隆明氏の造語らしい)にとらわれ暴走する。その論理が、社会で起きている様々な現象に当てはまっていることを、著者は危険視している。
    「国家は前提であり実体はない」という言葉は印象的だ。一見唐突なようだが、国というものを端的に表している。国際社会という視点で物事を考えるとき、常に頭の隅に意識しておいたほうがいいのかもしれない。

    さて、やはりというべきか、本書の中でニルス・クリスティの修復的司法の本『人が人を裁くとき』について言及されている。著者はご本人にも会われたらしい。
    クリスティの本、ずっと積読のままだなあ、読まねば。

  • 新聞で見かけたのがキッカケだったように思う。
    タイトルが印象的で。
    すべてこの話なのかと思ったら、連載の単行本化だったので、一表題だったことを読み始めてから知りました。

    どれも興味深いものだった。
    善意は暴走しやすい、というくだりは、某弁護士ドラマを思い出し。
    印鑑文化の話はその通りだとも思うが、印鑑を作っている人のことを考えるとなぁとも思ったり。
    テレビがうるさい、というのは同意見だ。
    真実を解明し切れていないことに対する不安感の欠如はあるように思った。
    推定無罪の有名無実化については、何とも。。。だから誤認逮捕の場合でも周りから犯人であるかのような目を向けられてしまうのだと思った。

  • 賛否を問うのではなく、論理的思考とはどのようなものなのかを知るためにより多くの人が読めばいいと思う。
    引用が多用されているようにも感じられるだろうけど、より客観的であろうとする試みとして受け入れられる。
    死刑の是非を考えるテーマで、非常に考えさせられた引用があった。命は罪を償う手段として利用されるべきではないというもの。確かに、罪は償えない。時間を戻せないのと同じ。加害者の死の執行と、被害者の死の取消とどちらを望むかは明らかだ。

  • これ、まだ読んでないけど、あらすじ読んだだけで超共感!!

    本屋行って開いてみる。


    以下あらすじ拝借

    被害者遺族の思いを想像することは大切だ。
    でも、もっと大切なことは、自分の想像など遺族の思いには絶対に及ばないと気づくことだ。

    被害者遺族の深い悲しみや絶望、自分を責める罪の意識や底知れない虚無。
    これを当事者でもない者がリアルに共有することなどできない。
    「被害者遺族の気持ちを考えたことがあるのか」と叫ぶ人たちは、
    恨みや憎悪などの応報感情だけを共有しながら、一体化したかのような錯覚に陥っているだけだ。

    そうした叫び声を上げる人たちを突き動かすのは、「自分たちは正義だ」という善意だ。
    だから、そこには何のためらいも躊躇もない。
    だって自分たちは「正義」なのだから。

    だからこそ、そうした意識が集合体となり、「この社会を脅かすものを駆逐しなければならない」という民意が形成される。
    その結果、この国では厳罰化が進み、さらには中国、韓国を仮想敵国とする強い自衛意識が生まれている。
    「正義」という名の共同幻想を駆動力にしながら、加速度的に集団化が進んでいる。
    危機を叫ぶメディアや政治家に煽られながら、社会の異物や仮想敵を探し続けている。

    韓国、中国との関係が悪化する中、参院選では改憲を唱える自民党が圧勝した。
    この国は今、どこへ向かおうとしているのか。
    取り返しのつかない事態を避けるため、今何ができるのか。

  • 「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と書いた人に訊きたい|森達也 リアル共同幻想論|ダイヤモンド・オンライン
    http://diamond.jp/articles/-/16819

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    「「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」
    「被害者遺族の気持ちを考えたことがあるのか」
    「自分の身内が殺されてから言え」

    今、この国ではこんな叫び声があちこちから聞こえてくる
    でも、そう叫んでいる人たちは、本当に被害者遺族の気持ちがわかると言えるのか?
    本当にその気持ちを共有していると胸を張れるのか?
    もし、そう言い切れるのなら、それこそ不遜だと思う。

    被害者遺族の思いを想像することは大切だ。
    でも、もっと大切なことは、自分の想像など遺族の思いには絶対に及ばないと気づくことだ。

    被害者遺族の深い悲しみや絶望、自分を責める罪の意識や底知れない虚無。
    これを当事者でもない者がリアルに共有することなどできない。
    恨みや憎悪などの応報感情だけを共有しながら、一体化したかのような錯覚に陥っているだけだ。

    この国では今、「正義」という名の共同幻想を駆動力にしながら、加速度的に集団化が進んでいる。
    危機を叫ぶメディアや政治家に煽られながら、社会の異物や仮想敵を探し続けている。

    韓国、中国との関係が悪化する中、参院選では改憲を唱える自民党が圧勝した。
    この国は今、どこへ向かおうとしているのか。
    取り返しのつかない事態を避けるため、今何ができるのか。」

  • 面白かった。被害者の人権。仮想敵と共同体の暴走。薄気味悪い善意。普段深く考えないことをゆっくり考える機会になった生きていくための思考の本。

  • 正義という相対的な思想は、時に戦争という非人道的な惨劇に転化する。法のもとで人を殺す死刑制度、それが果たして正義なのか。正義をとことん疑う。メディアから溢れ出てくる情報は発信する側のフィルターがかかった偏向な事象でしかない。盲信という安易な価値基準から抜け出していく。悩まない日常に平穏は訪れない。苦悩する果てに未確定な希望が見えてくる。"安心安全" を謳う怪しさはすぐさま正義を持ち出して線引き・分断を提示する。そこに怒りをこめて打破したい。ここにも "苦悩" と "怒り" が秘められている。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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