父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
- ダイヤモンド社 (2019年3月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784478105511
感想・レビュー・書評
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☆5の評価だが、結論として誰がこの本を読むかということで違ってくる。
高校生や経済学部以外の大学生が経済の成り立ちを知るために読むのだったら、間違いなく良書。社会人がそれを復習するために読むにも良いだろう。
ただし、この本を読んで「経済学を勉強しようかな」って思っている人にはあまりおすすめはできない。経済学の本としてはあまりに初歩的すぎる。
自分も経済の専門家ではないが、本書で「経済学」を学ぼうと思ったら手応えがなさ過ぎると感じる。
それなりの知識を持ったビジネスマンがこの本を手に取る理由としては、「経済の仕組みを素人に説明する時に参考にするため」という理由がベストだろう。
例えば、ジャレド・ダイアモンドの名著『銃・病原菌・鉄』でも述べられている「人類の貧富の格差の発生原因」や、捕虜収容所内で捕虜達がタバコを通貨代わりに使っていたという状況を使っての「貨幣の流通や価値の変動の仕組み」の説明などは、誰が読んでも非常に分かりやすい。
本書を読むに当たって一つだけ注意する点があるとすれば、この本を読む前には必ずキアヌ・リーブス主演の映画『マトリックス』を観ておくべきだ。この本の中で『マトリックス』のシーンが何度も引用されている。
『マトリックス』は、「機械に支配された未来の人間社会」を描いたディストピア映画の古典的名作として既に認識されており、最近の欧米のビジネス書では非常に良く引用されている。
『マトリックス』を観たことが無いという人は、このレビューを読み終わったらすぐにTSUTAYAに直行すべきた。この映画はアクション娯楽作品しても最高に楽しめるので絶対に観て損は無い。
私は当時、映画館に合計4回も足を運んで『マトリックス』を観に行った。これは私の映画鑑賞歴の中で最多だ。
ちなみに第二位はリバイバル上映を含め3回映画館に観に行ったハリソン・フォード主演の古典的名作『ブレードランナー』だ。
『ブレードランナー』は、人間のために、いわゆる3K作業(きつい、汚い、危険)をさせられていたレプリカントと呼ばれる人造人間達が反乱を起こし、その作業から逃げ出したレプリカントが人間社会に逃げ込んでいるという未来社会が描かれている。
そのレプリカントを探しだし、殺すことを任務としているのが「ブレードランナー」と呼ばれている刑事達だ。
この『ブレードランナー』も本書内で何度か引用されているので、観たことが無い人は観てみるとなにか得られるものがあると思う。
『マトリックス』、『ブレードランナー』とも未来の人間のあり方をテーマとしており、非常に深い内容だが、どちらも純粋にアクション映画として楽しめるので気楽に観て欲しい。
という訳で、本のレビューなのか名作映画の紹介なのかよく分からなくなってしまったが、とりあえず本書は読み物として楽しいし、内容も読みやすく、分量も手頃で数時間で読み終えることができるので、気になった人はぜひ手に取ってみて欲しい。 -
今年出た本の中で、もっとも読まれるべき本はどれかと聞かれたら、まだ半年残っているが、迷いなくこの本を推すだろう。それは、この本がわかりやすいからでも、面白いからでも、ためになるからでもない。経済こそは、われわれがいま考えるべき、もっともホットなトピックだからである。なぜなら、われわれ人類がこの先も地球上で生きていけるか、もっと具体的に言えば、私たちの子や孫がこれからもこの星に住み続けられるか、それが経済にかかっているからである。
重要なポイントはいくつかあるが、ここではそのうちのひとつを取り上げるにとどめたい。資本主義(本書では「市場社会」という言い方をしている)は、借金によって成り立っている。たとえば、私がこれから事業を起こそうとしている。だが、それには元手がいる。そこで、銀行からお金を借りることにする。事業が無事成功すれば、その儲けで借りたお金を返すことができる。
では、銀行はそのお金をどうやって用意したのだろう。それは、(著者はこれを現代の黒魔術だと書いているのだが)まさしく無から作り出したのである。事業が成功すればお金は出てくるのだから、それを先取りしてしまうのだ。別な言い方をすれば、未来からお金を借りてきている。
資本主義の成り立ちは、(実際はもう少し複雑だが、そこは本書を読んでいただくとして)、簡単に言えばそういうことである。しかし、この仕組みには重大な欠陥がある。事業は失敗するかもしれないのだ。失敗すれば、私はお金を返せない。困ったことになる。
要するに、資本主義というのは、経済がこの先も成長するという前提のもとに立っている。しかし、いくらなんでも、無限に成長し続けるわけがない。どこかで頭打ちになる。これは資本主義に内在的な欠陥であり、資本主義の限界でもある。
本書はあくまでも資本主義の枠内で、現在の経済の仕組みをわかりやすく説明しているのだが、私はもう一歩先へ進めてもいいと考えている。つまり、資本主義や現在の貨幣システムだけが、経済のあり方ではない。たとえば、本書にも少しだけ触れられているが、利子を禁じたイスラム金融がある。これは資本主義の対抗潮流になりうる。
はじめに、経済はわれわれの子孫の未来がかかっている問題だと書いた。その意味が少しおわかりいただけただろうか。この問題を考えるために、本書は重要な手引きとなる。題名にあるとおり、決して難しい本ではない。半日もあれば読める。だから、多くの人に手にとっていただき、考えてもらいたい。経済を為政者や経済学者に任せることは、宇宙船地球号を彼らの手に委ねることに他ならない。 -
市場、環境、いずれも経済と政治が絡み合う。価値=「市場価値」vs「経験価値」それは人間が利益を追求するようになった世界から始まり、競争により多くの格差を生むようになった。また、現実には「作物を収穫する能力があるのに、飢えた人たちに配分することができない社会」を作り出した、と言う。社会は「余剰」を作り出し市場を独占、あり余った分は廃棄処分するというシステムに変え市場統制をしている、と言う。今後社会はAIロボットとの共存を余儀なくされるが人間の暮らす場所はあっても、工場など生産場所の仕事は失くなる。人間はただ単に消費する生物化し、物事は一才AIロボット(独裁者のように)が仕切る可能性も高く、人間との格差が生まれるだろう。更に追求すると「人間の求める幸せとは何か」、ここにある「無知は幸せ」になるのだろうか。
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「経済」と聞くと、市場だの金融だの債務だのという言葉が踊る、そろばんを弾いたり電卓を叩いたりの、無味乾燥で小難しい印象。しかしこの本では、ギリシャ神話や映画を例に出すことによって、経済の枠組みがとても詩的に語られる。経済と共に、人間の根源的な特質を考えさせる。
「格差はどうして生じるのか」という娘の問いに答えようと口火が切られる。そして著者は、経済学者だけが「経済」を語るのはよくないと再三強調する。経済の専門家に「経済」を語らせたままにしておくと、ろくなことにならないということ、それがよくわかっただけでも、私は読んでよかった。
難解な言葉が一切ない。単刀直入で、煙に巻くところがない。だけど含蓄に富んでいる。アダム・スミスやケインズの論よりも先に知っておきたいこと。「なぜ格差は生まれるか」と訊かれたら、答えるのは難しいけれど前よりは考えることができる。 -
確かにわかりやすく書かれている。よく売れているらしい。複雑なことをわかりやすく広めると、世の中が少し賢くなる。だから必要だ。けれども、「わかりやすさが先行して、粗雑なわかりやすさになってはいけない」。害悪を拡げる本は批判されなければならない。私が★ひとつとするのはそのためである(どうでもいい本ではないから、振り幅が大きくなる。価値がないと言っているわけではない)。私は何の専門家でもなく、単なる読書おじさんだけど、それでも瑕疵がいくつも見つかった。
でも前半は、ほぼなるほどなるほどと思って、読んでいった。こんなところだ。
・通貨には、「信頼できる権威の裏付け」(国家や宗教等々)が必要である。余剰ができたから、国家(軍隊や警察・官僚を持つ)や宗教が生まれた。←それはそうだ。たから、この順番は逆ではないと私は思っている。
・アボリジニやアフリカの人々は縄文時代のようなものだ。余剰は生み出さなかったから、ヨーロッパ人に侵略されたのであり、経済格差は人間としての優劣の差ではなかった。←それはそうだと思う。これは地理的な環境下で起きた格差の問題である。
・金持ちが「もっと豊かになるのは当然だし必要だ」と思い込むのは、君の生活に便利や快適があるのを当然だと思うのと同じだ。格差は、人のせいではなく、社会のせいだ。君は、賢く、戦略的に怒りを持ち続けて欲しい。そして、機が熟したときには、必要な行動を取ってほしい。
・では、国内での格差は何故起きたのか?
・昔、人間の欲求の中に「利益の追求」はなかった。これが歴史を動かすようになったのは、最近のことだ。「利益」と「借金」が結婚してからである。
←ここまではいい。しかし、この後著者は何度も「ゼロからお金が生み出される」仕組みについて説明する。もちろん、その仕組みはある。けれども、私は変なことに気がついた。
・どこからともなくお金を生み出す銀行とその上の中央銀行という国家、そのおかげでずっと自転車操業は続く。
←ホントに続くのか?国家の破綻はないのか?好景気不景気の循環で、銀行は国家をコントロールする。国家は銀行をコントロールする。では、その最終的な富の源泉はどこにあるのか?
ここで、私ははたと考える。世界の労働者の労働力なのではないか?エネルギー不変の法則は存在する。ゼロからおカネは出てこない。著者は、この本でそのことを説明しただろうか?
・経済が社会の「エンジン」で、借金が「燃料」だとしたら、労働力はエンジンに点火するための「火花」で、おカネはエンジンを滑らかに動かし続けるための「潤滑油」だ。
←というまとめに私は納得いかない。燃料は労働力だろ?
著者は、これらの解決策に突然「究極の民主主義」を提案する。まるで「振って湧く」かのように善良な市民が登場するかのごとくだ。そこに至る思考の道筋は、共感するところもあるが、マルクスならば『貧困の哲学』のプルードンを『哲学の貧困』で批判したように、これは「世界が逆さまになっている」というかもしれない。私はマルクスのような頭がないので、著者を論理的に批判出来ない。彼の頭の中には、ホントに生きている市民が、どのようにしたらそういう「究極の民主主義」に至るのか、青写真さえも浮かんでいないように思えるのである。金持ちのための欲望にまみれた経済学者よりも良心的な貴重なものだとはおもうので、誰か根本的な批判が出来ないものだろうか!
2019年4月読了 -
語り口は優しいし、ギリシャの「債務免除」を論理的に正当化している部分は興味深く読んだ。
でも、著者がこの本でいちばん言いたいことであろう「すべての民主化」の話があまりストンと入ってこなかった。
通貨も労働力もロボットも地球資源も、「市場化」「商品化」による管理では金持ちと権力者が全てを支配することになる。自分の利益追求しか頭にない彼らに委ねていては、社会と地球が破壊されてしまう。それを防ぐためには「民主化」「共同管理」がカギになる。というのが著者の主張。(というふうに読んだ)
でも、「民主化」「共同管理」をしても、結局は目先の利益追求に行き着くだけじゃないか?普通の民衆は遠い未来のことより自分の生活の方が大事なんじゃないか?社会主義的な共同所有を目指してるのか?....いやそもそもここで言われている「民主化」って何?
きっと私の理解が浅いだけなんだろう。もう少し勉強してからまた考えることにする。 -
『父が娘に語る経済の話。』
ギリシヤ元財務大臣 ヤニス・バルファキス著
1.はじめに
「FACTFULNESS」は世界を捉える機会の良書とすると、
こちらは経済活動を知る機会の良書だと考えます。
二冊に共通していえるのは、複雑な構造、世界をときほぐすプロセスと表現が簡潔であることです。
2.本を手に取る前に
巻末の著者の後書きを読んでから購入の判断でもよろしいかと考えます。
彼がなぜ高校生の娘さんに経済の話しをしようと考えたのか?
それに共感できるならば、ぜひ世界に飛び込んでみて欲しいです。
3.私と著書
著者と同じく年頃の子供がいます。
大学に進学してから経済について関心をもつはもちろんですが、日常生活の消費活動と経済をつなげて考えるも良い学びと考えます。
私が読んでいたら「次に読ませて」という流れになりました。タイトルがそうしたのでしょう。
4.最後に
著者の意見は極少で、解説が中心です。
そして、かれが伝えたいことは、子供に限らず、僕たち大人いえ一人ひとりの人間が考えるテーマともいえます。
「利益中心の経済のシフト。この数百年のトレンドで地球環境も変化した。
国、民間、銀行そして民がどのように関わりあえたら共生できうるのか?」
交換経済を何と何で成立させる市場とするのか?
学校の教科書。
生きていく、考える機会が欲しいと著書を読了して思いました。