ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか―感情労働の時代

著者 :
  • 大和書房
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479761488

作品紹介・あらすじ

"笑顔で対応の仕事"や"やさしい看護師"…、感情の演技を求められる仕事=感情労働で心が擦り切れないために。

感想・レビュー・書評

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  •  最近、気になっている「メンタルヘルスの相対的な悪化」はよく成果主義のせいにされるんだけど(それも一理あると思う)、個人的には「労働の質的変化」のほうが気になる。それを思ったときにふと思い出したのが「感情労働」。
     肉体労働でもなく、知的労働でもなく、自身の感情の統制が求められるこの労働について知りたくて借りた本。
     入門書としては適切に思う。


    _________________
    職場では個人としての感情より、職業人としてのあるべき感情がしばしば優先される。

     感情労働者は顧客をある特定の感情状態にするために、声のトーンや表情、態度を調整することによって自分の感情を管理するのです。

     感情労働という場合には、「自分の感情を加工することによって相手(顧客)の感情に働きかけることが重要な職務」となっていて、それにより、陰に陽に報酬を得ていること、すなわち「感情に商品価値があること」がポイントになります。

     他人を欺いていくうちに、本来の自分らしさが失われていく、これが感情労働の代償あるいは副作用なのです。

     (デブリーフィングセッションでは客観的なデータよりも、自分が感じた主観的なことがらをメインにする)こうしたかたちで誰かに話を聞いてもらい、受け入れてもらう体験はケアされる体験でもある。

     人々にとって家庭で行う家事や育児といった複雑な感情ワークのほうが「仕事」になってしまい、居心地の良い職場が「家」になっていると指摘します。

  • 感情をそのまま表すことのできない仕事は人に負担を強いる。感情と表層感情が食い違うと、アイデンティティが揺らいで苦しいし、それが進むと深層の感情を凍らせてしまう。
    また、共感疲労という物もあり、相手の苦しさや状況に共感出来たら出来たで、解決できない無力さが大きなストレスを与える。
    注意喚起の書であるが、様々な事例が乗っていて興味深い。ただ、職場などでの解決策はこの本からは得られない。システムとして感情労働のストレスを緩和させる方法は無いのかな。個別に戦うしかないのだろうか。

    オランダは法的に安楽死が罰せられない事となった国。でも、その終末期の患者の療養院での体験記からの告白が胸を打つ。

    「たいていの場合、われわれ人間は後ろ向きに死の中へ入ってゆくのだ。新聞を読んだり、痛みや息苦しさと闘ったり、廊下の伝統がつけっぱなしになっていることに腹を立てたりしながら。」

    「セロハンで死を包装しているうちに自分の死さえ、否応なく紙切れと同じに思えてくる。」

  • 第二章 ギリギリの感情労働を生き延びるために
    第五章 失われた感情をどう取り戻すか

    の項目に期待して読み進めた。

    明確な答えはない。(残念だったがいたし方ない)


    書いてあることは違和感なくそうだよねぇと思えた。

    時々書いてある事件は すべて衝撃的で覚えているし、
    一般人は なんで看護職がそんなことをするの!?という驚きトーンで報道していたが、

    虐待してしまう気持ちがわかるなぁと思ったことは絶対声にだせないとプレッシャーに思ったことを覚えていたから。

    なぜプレッシャーに感じたかをこの本は 分かりやすく書いてくれている。

    そして、10年以上看護師を続けてこれた私は 

    ここに書いてあるような一般的な看護師とは違う感性を育ててきたのだと思った。

    ある程度自分の感情をシャットアウトする術を覚えたというか。

    感情コントロールするというか、感じないようにし「鉄仮面」のような表情というか。

    ともあれ。

    おしゃべりできない新人が 早期退職するのは実感としてある。

    昼休憩に携帯をしてまったく会話に入ってこない人は たいてい早期退職だ。

    辛くなったときにまた読みたくなるかもなぁ。

  • エモーショナルレイバー(Emotional labor)=感情労働と呼ばれる労働は、肉体労働・頭脳労働に次ぐ第三の労働として近年注目されている概念だ。

    つらい時につらい顔をできない、笑いたい時に笑うことができない。不愉快なときに不愉快な顔ができない。どういう仕事が該当するのか、具体的には、レストランのホールスタッフ、量販店の販売員、飛行機のスッチー、そして著者が以前働いた看護婦。などが挙げられる。

    ちょっと鳴り物入りでAMAZONでは売れていたが、内容はどうもいまいちだ。感情労働の話なのか、若者の労働の問題なのか、論点があっちこっちに飛び火している気がした。ただ一つ言えるのは、本来何らかの行動に対する反応として何かしらの感情が突出するにも関わらず、それを強制的にコントロールすることは、何かしらの支障を来す可能性があるということ。勿論、短期的には良いのかも知れないが。

    全くの赤の他人にあいての望む感情を提示すること事態不自然なのだが、でもそれは結構まかり通っている。
    感情もサービスであり、それを貨幣価値に換算できてしまうというのは、何だか、良い気分にはならなかった。

    そういえば、僕も営業職だから、ある意味Emotional labor であるのかも知れない。そんな事を思った。

  • 非常に分かりやすく書かれている本でした。

     「感情労働」という言葉は、聞き慣れないと思いますが、社会学上の言葉で「表情や声や態度で適正な感情を演出することを求められる仕事」のことを言うそうです。
     だから、「自分の感情を加工することによって、相手(顧客)の感情に働きかけることが重要な職務」となり、それによって「報酬を得ていること」すなわち、「感情に商品価値があること」だそうです。

     で、これは、肉体労働、頭脳労働につづく、第三の労働形態だそうで、サービス業なんかは完全にこれに入るんじゃあないかな。マクドの店員なんて、笑顔を売っているわけですから(笑)。

     まあ、こんな感じで本ははじまるんですが、自分には関係ないと思いのあなた。日本って国は「気配り」の国ですし、「察する」文化ですから、結構納得させられるし、整理がつきます。
     著者は看護大学で教鞭をとっておられるので、看護師の話が例えとしてよく挙げられているんですが、それが的を得ていて非常に分かりやすい。

     対人関係でお疲れのあなた。読んでみる価値はあると思います。

  • ☆医学部図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA79888763

  • 看護師を中心に、「感情労働」と言われる人たちの苦悩や特徴を示していった本。
    ただ単に感情労働そのものを解説するだけではなく、感情労働が現代の社会でどのような位置づけにあって、なぜ感情労働が現代で盛んになっているのか、その流れまで示している。その意味では、一貫性があって良い。
    特に、看護師や駅員などに暴力的な言動を受けた人の心理状態は、行う側の心理状態が投影されたもの・・・という部分は、思わず膝を打った。
    この本に続き、専門書も読んでみたくなる。感情労働の入門書としてはぴったりだと思う。

  • 目次(11/1)
    はじめに ”善意の職業”人の暴発 「感情」にもTPOがある
    1 「感情労働」という心を売る仕事
    2 ギリギリの感情労働を生き延びるために
    3 「人のために働く人」の落とし穴
    4 暴力をふるう男達の弱さ
    5 失われた感情をどう取り戻すか
    6 「マクドナルド化」する世界
    終 感情労働の時代を生きる
    読めてないけど読み終わったことにする(11/12)

  • 人を相手に接客、接遇しながらのお仕事は、キャビンアテンダントから看護師まで、普通以上にどーんとつかれるといわれているが、その一番の理由を感情労働を求められているから、という。その感情労働はどのように機能しているのかを③年がかりでいろいろな例を上げて、分かりやすく開設してくれている。
    たぶんいまどきの世の中で、専門的な仕事している人にはだれでも、読んで、そうだったのかと、納得がいくことだろう。

  • 思っていた本とは違っていた
    著者が看護の世界の人間であるのでそちらの話題に終始していた
    とはいえ、サービス業や営業職の人間がなぜ疲弊するのかという点にはヒントがあったかなと

    利益を追求しようと思えば正規雇用じゃない方がいい、でもサービスは落とせない、だから能力給とか接遇マニュアル
    糠に釘、暖簾に腕押し、馬耳東風

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著者プロフィール

武井麻子(たけい・あさこ)

1976年東京大学医学系研究科修士課程2年のときから12年間、治療共同体をめざす千葉の民間精神科病院である海上寮療養所に看護師およびソーシャルワーカーとして勤務。その間、英国ケンブリッジのフルボーン病院にて半年間研修。1988年千葉県立衛生短期大学を経て、1990年日本赤十字看護大学に。以来、25年にわたり看護教育に携わる。その後はOffice-Asakoを立ち上げ、援助職向けに個人とグループのコンサルテーションを行うかたわら、東京都立大学特任教授を兼任した。日本赤十字看護大学名誉教授。主な著書に『レトリートとしての精神病院』(編著・ゆみる出版)、『精神看護学ノート』『感情と看護』『「グループ」という方法』(いずれも医学書院)、『グループと精神科看護』(金剛出版)など。

「2021年 『思いやる心は傷つきやすい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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