ルポ プーチンの戦争 (筑摩選書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480016768

作品紹介・あらすじ

戦争が続くウクライナの現実。訓練された謎の覆面部隊、撃墜された民間航空機、クリミア半島のロシア編入……。何が起こっているか。ロシアの狙いは何なのか。

感想・レビュー・書評

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  • 8年前のロシアのクリミア併合~ドンバス戦争の際に、現場主義で多くの市民・政治家・活動家・兵士等を取材したルポ。今、ウクライナへの侵攻を始めたプーチンの考えが全く理解できないのだけど、この頃の話を知ればまた違うかと思って読んだ。

    今回のイメージで、クリミア併合やウクライナ東部の独立宣言地区も、住民を無視してロシアが一方的に進めたのかと思っていたのだけど、当時の現地では、汚職まみれで重税を取る中央政府に不満を持ち、ロシアからの移民をルーツに持つ親露派が多く、ロシアの傘下に入れば生活も良くなると期待する住民も多かったようなのは意外だった。

    親露派の大統領を追放し欧州とつながりを深める政府、歴史に奔放され何度も移住を余儀なくされた少数民族のタタール民族、そこを埋めるよう移住したロシア系。多くの国と民族の歴史がからみあっていて、それぞれに「我が祖国」のイメージがあり、それを目指した結果が出ている。複数の民族と国家の長いせめぎあいの結果としてクリミア併合やドンバス戦争があり、その延長線上に今回のウクライナ侵攻があるというのはわかった。今始まった戦争ではなく、ずっと続いている戦争だと。
    早々に問題が解決して終結するとは思えなかった。本当に、私は何にも知らないんだなあ。日本は極東の島国で、世界から見れば特殊な国だというのはわかっていたけれど。

    それにしても、8年前は住民自らの反政府運動→住民投票→親露派自治区擁立という流れで、あくまでロシアは無関係、戦いは政府ー反政府のウクライナ国内の問題という「ハイブリッド戦争」に徹していたプーチンが、今回あからさまにウクライナに侵攻したのは何故だろう。とうとう最終段階が来たと判断したのだろうか。

    ドンバスの多くの市民のインタビューが掲載されていて、ウクライナ軍と反政府軍の戦争で破壊されていく町で暮らす様子が辛かったけれど、今は直接ロシアからの激しい攻撃を受けている。
    自分の無力さ無知さを感じるけれど、とにかく早く戦争が終わることを願う。

  • 2022年2月、ロシアがウクライナを侵攻したニュースを見て、現代のヨーロッパでこんなことが起こるのかと不思議に思い、ロシア(プーチン)について知りたいと思った。2022年以前から、ロシアはウクライナを侵攻していた。クリミア侵攻、ドンバス侵攻・・・他にもウクライナではないがジョージアの南オセチア、日本の千島列島もしかり。ウクライナの中でも温度感は様々だった。ウクライナの人口構成もこの問題を複雑にしている。西側は親欧米寄りの住民が、東側に親ロシア寄りの住民が多い。プーチンはウクライナからの解放だと声高に言って、東部地方やクリミアを侵攻・支配している。ロシアの侵攻を喜ぶウクライナ人も居れば、侵略だと言って抵抗するウクライナ人も居る。多民族が、一つの国家で平和に暮らすというのは非常に難しいことだと分かる。

  • クリミア併合を戦争と捉えていなかったが、今回のウクライナ侵攻まで長く続くまさに戦争であることがわかった。この本ではプーチンは冷静で戦略的な人物のようにみえるが、今回の侵攻は荒っぽく急進的に思える。何があったのか、プーチン。

  • クリミア半島侵略前後の数年に渡り、ウクライナやロシアなど現地を回った貴重な記録。

    東部地域はロシア系住民が多いとはいえ、過半数はない。それでも侵略を許してしまったのは、ウクライナ政府の失政が積み重なり、人民の信頼が失われていたことが大きい。
    逆にウクライナ政府がまっとうな政治を行い、信頼を得ていたのなら、こうも簡単に侵略を許さなかったのではないかと思う。

    世代間の意識の違い、「為政者が変わればバラ色の生活に変わる」というような妄想、情報戦、結局被害を受けるのは現地の一般市民、など、2022年のロシアの蛮行における状況と同じ状況や、現在につながることが多い。

    各地の一般市民、兵士、政治家など、双方の様々な人の声を丹念に拾っていて、とても充実した内容となっている。切実な状況が伝わってくる。

  • 著者の真野森作さんは、毎日新聞記者。2013年10月から3年半モスクワ特派員として旧ソ連諸国を担当され、本書は丁度その頃から表面化されたウクライナ内での政治的不安定(ヤヌコビッチ大統領のロシアへの接近、反政権デモの拡大、大統領の逃亡、親欧米派の政権樹立)、親ロ派と政権側との衝突、クリミアでの武装集団による庁舎等の占拠、プーチンによるクリミア編入宣言、親ロ派勢力による東部ドネツク,ルガンスク州の主要都市での行政庁舎占拠と独立宣言、ドネツク州上空でのマレーシア航空機爆撃による墜落事件(ロシアは否定しているが、調査結果では親ロ派がロシア製地対空ミサイルで撃ち落としたとされる)、戦闘の拡大を、実際に現場に赴き見聞きした内容で書いている。

    今でこそ毎日のようにウクライナの戦闘が報じられているが、思い起こせば2014年には既に衝突があり、ロシアから身柄を隠した兵士が親ロ派武力組織と合流して、ウクライナの破壊的な工作を行っていたのだ。
    欧米や日本からも一部制裁を行っていたものの、全く気合いが入っているものではなく、2016年12月には当時の安倍首相がプーチン大統領を地元山口に招待し、熱烈とも言える歓迎をしている。

    現場ルポもさることながら、ウクライナの歴史、クリミア·タタール人の歴史が紹介され、特に東部やクリミアでのロシアの存在感を理解することの参考にさせてくれる。
    最後に大物へのインタビューを通じてプーチンの戦略が述べられる。

    火種が残る中の民主化は難しいものだ。こうなることは予想されていたとは言え、ソ連崩壊により独立から間もないウクライナにとって、ロシアとの縁を完全に断ち切ることは不可能だっただろう。
    またウクライナの核兵器廃棄と引き換えにウクライナの安全を保障するとした1994年のブダペスト覚書をロシアが守らなかったにも関わらず、その締結に入っていたイギリス、アメリカの無策は責任が重い。
    戦闘が続き前が読めないウクライナ紛争、かの国の将来はプーチン一人の掌にあると分かっているのだが…

  • 2018年刊行で、2022年のウクライナ侵攻前に書かれたもの。読む前に思っていたウクライナ侵攻へのイメージが大きく覆された。確かにロシアの非人道的行為は許されないものである。一方で侵攻以前の出来事、そこに至る背景やクリミア半島併合時の住民の反応は想像していたものとは大きく異なっていた。

  •  2012~2015年の3年間、モスクワに暮らした身としては、懐かしさと共に、欠けていたパズルのピースがひとつひとつハマっていくような快感すら覚える好著。冒頭から最後までワクワクしながら読み進むことができた(かなりの文量、情報量だけど)。
     ソチ冬季五輪が終わってから急転したロシア=ウクライナ関係。干渉から内戦へ、あっという間(という気がした)クリミア併合、マレーシア機撃墜、次々に強化される西側の制裁。国民生活にも直結する事態でもありながら、最終的には、それなりの安定を取り戻していく大国の度量に畏れ入ったと感服していたが、そうとうに用意周到にコトが運ばれたことを、時系列で推移を追ってみて改めて思い知らされる。
     “皇帝”の剛腕の凄み。北方領土が還ってこないのは、まだいいほう。その気になれば北海道くらい簡単に掻っ攫われそうだ。

     ウクライナとロシアの歴史的関係、地域的な文化や言語、民族の違いなども丁寧に解説されていて、たいへん勉強になる。
    1991年に初めてロシア(当時はまだソ連)の地で暮らしたときに仲良くなったタタール人の一家がいたけど、当時は不勉強で、彼らがどんな立場、どんな歴史を経てロシアの地に居るかを知っていれば、また違った接し方があったろうか。いろいろ考えさせられる。
     そんな歴史的背景を踏まえ、ロシア側、ウクライナ側、親露、ノンポリ、市民、軍人、政治家、地方記者、学生、etc. 立場の違う多くの当事者、関係者の意見、見方を拾い上げているところが本書のなによりの読みどころ。とはいえ、

     “「冷戦の勝者」を自認する米国の一極支配にあらがって多極的な世界を構築し、ロシアがその一極の座を死守することー。 それがプーチン政権の目標”

     とし、プーチン元側近アンドレイ・イラリオノフから、プーチンの狙いについて

     「ソ連崩壊後の世界を修正したいと考えている。その一環がクリミアであり、ドンバスだ。彼は『ルースキー・ミール(ロシア的世界)』と呼ばれるものを復興させようとしている。その基本理念は完全には明確ではないが、現在のロシアの国境線を膨張させる考えだろう」

     との発言を引き出し終盤に配するあたり、誰がなんと言おうと、ウクライナでの一連の動きは、ロシアの、つまりはプーチンの野望とも言える構想の中で展開されたということを強く印象付ける。
     俯瞰的に見ればそうと思えるが、それなのに、本書でインタビューされた立場の違う多くの人が、それぞれの思惑、狙い、感想を持っている事実こそが、これこそ情報戦も含めた、ハイブリッド戦争だということを、本書は不気味に浮かび上がらせる。 皇帝の視座からは、全てが見えていたのかもしれないが、市井のレベルでは、あらゆる価値観が存在し、それぞれの正義に基づいた“事実”が存在する。
     著者と行動を共にし現場へ入ることの多い地元記者ヤナ・トカチェンコの言葉に、こんなのがあった。

     「砲弾がどこから飛んできたのか、はっきりしないことには注意した方がいい。前線の両側から弾が飛んでくる。人々はみんな自分が信じるように語っている」。

     内戦や紛争が起こっている現場の状況を語ったものだが、「砲弾」を「情報」という単語に置き換えてみると面白い。それぞれに自分の信じる真実がある。これが近代の戦争の姿、あるいは世の理(ことわり)ということだ。
     可能な限り、立場、階級、思想を跨ぎ越えて、多くの証言を縦横に駆使して本書は構成されているが、それによって、ひとつの真実を炙り出しているのではないという気がした。

     ♪様々な角度から物事を見ていたら、自分を見失ってた(『イノセント・ワールド』作詩:桜井和寿 Mr. Children 1994)

     平成の世がはじまった頃に流行った歌の詞であるが、ひとつ元号を終え、四半世紀の時を経て、情報伝播の速度が格段に加速した今の時代、様々な角度から様々な見方があるどころか、このイノセント・ワールドには様々な物事、様々な真実すら存在することを、改めて認識させられた。

     真実が、ひとつなどと思わないほうが良いという示唆、強烈な警鐘が本書からは聞こえてくる。

  • 2022/03/12 amazon 1023円

  • ウクライナ戦争関係で読んだ本のなかでベスト。

    と言っても、これがでたのは、2018年で5年前。つまり、クリミアの併合から、ウクライナ東部での戦争、親露派の国際的に承認されない独立の流れをいろいろな立場の人のインタビューを中心としたルポ。

    現在、進行形のウクライナ戦争は、本が執筆されてから、世に出るまでに状況が変わっていって、微妙な読後感があるのだが、今、このウクライナ戦争前のルポを読むことで、この戦争のもとになるロシアとウクライナの対立、そしてウクライナ国内の分裂の構造が見えてくる気がした。

    とくに、親露派の人たちがどうと考えているのかがリアリティをもって伝わってくる。かれらにはかれらの思いがあるのだなと。

    そして、それを踏まえた上での、プーチンの非情な政治的、戦略的な思考がみえてくる。そして、それを国際社会に対して、もっともらしく説明するやり方が恐ろしさを感じさせる。

    このクリミア併合にいたる戦争は、誰が当事者なのかもわからないハイブリッド戦なのだなとあらためて、21世紀の戦争の姿を実感するとともに、今回のウクライナ戦争が時代を100年くらい遡った古典的な戦争なんだなと思った。

    この逆行がなにを意味するのか、そのあたりに興味は向かっている。

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著者プロフィール

真野 森作(まの・しんさく):1979年生まれ、東京都出身。一橋大学法学部卒。2001年、毎日新聞社入社。北海道支社報道部、東京社会部、外信部、ロシア留学を経て、13~17年にモスクワ特派員としてロシア、ウクライナなどをカバーした。大阪経済部などを経て、20年4月からカイロ特派員として中東・北アフリカ諸国を担当。単著に『ルポ プーチンの戦争―「皇帝」はなぜウクライナを狙ったのか』(筑摩選書、18年12月刊)、『ポスト・プーチン論序説 「チェチェン化」するロシア』(東洋書店新社、21年9月刊)がある。

「2023年 『ルポ プーチンの破滅戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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