社会問題とは何か: なぜ、どのように生じ、なくなるのか? (筑摩選書 199)

  • 筑摩書房
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480017185

作品紹介・あらすじ

組織犯罪、あおり運転といった社会問題が人々に認識され、展開し、収束する過程を6段階に分けて考えることを提唱。社会問題を考えたい人にとり最適の入門書!

感想・レビュー・書評

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  • 社会学、構築主義の教科書的著作。

    社会問題とは社会の客観的状態を指すのではなく、「これは問題である」と人々が認識している問題のことを指す。その社会的な認識状態が作り出されていく過程をモデル化した社会問題過程の自然史モデルを基本とし、各アクターの動きや相互影響のあり方についての整理、理解を試みる内容。

    社会問題過程のモデル化がまず分かりやすい。
    ①クレイム申し立て:人びとは、ある特徴、原因、解決をともなった社会問題が存在することについてクレイムを申し立てる(例)マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのような公民権活動家は、合衆国南部の州の人種隔離政策を求めて、デモ行進を行う
    ②メディア報道:クレイムについてのニュースがより広く聴衆に届くために、メディアはクレイム申し立て者について報じる(例)新聞やテレビの記者は、公民権運動をめぐる対立について説明する
    ③大衆の反応:大衆の見解は、クレイム申し立て者によって認識される社会問題に焦点をあてる(例)人びとは人種隔離政策に関心を寄せて、反対のキャンペーンを支持するようになる
    ④政策形成:法律家や政策を形成する権力を持つ人びとは、問題に対応する新しい方法をつくり出す(例)連邦議会は公民権法と投票権法を可決する
    ⑤社会問題ワーク:政府機関は、さらなる変化を要求することを含めて、新しい政策を実行する(例)新しい連邦法のもとで、国家と地方自治体は人種隔離政策の公的な政策を終了させなくてはならない
    ⑥政策の影響:新しい構造に対して、さまざまな反応が見られる(例)人びとは、人種差別を減少させるためにさらなる変化を求める。それに加えて、女性や他の諸集団の権利を向上させるキャンペーンを要求する

    上記のモデルは必ずしも単線的な過程ではなく、各過程、各アクターが相互に影響し合う。

    各アクターは平等ではなく、権力、地位、接触、教育、資金などの各種の資源の有無が各過程に影響を及ぼすことを容易にする。

    また、あるトラブル状態はさまざまに理解されうるのであり、トラブル状態を伝えやすく説得しやすくするために再構築されるというレトリックの働きが各過程で起こる。

    資源やレトリックの影響を受け、さまざまな社会問題クレイムは各過程において競合しながら進んでいく。

    ・クレイムの基本的なレトリック
     前提:トラブル状態についての情報・証拠(代表的でしばしば劇的な「典型例」、社会問題に名称を与える「命名」、問題の範囲を示す大きな数字「統計」の3つのレシピが揃っていると新しい社会問題は認識されやすい。その他「追加的な前提」として「状況の悪化」「関連する人びとの類型」「影響を受ける人びとの範囲」「既存の解釈に対する挑戦」などがある)
     論拠:価値の正当化・訴えートラブル状態に何かしなければならない理由(動機づけフレーム)
     結論:問題対処のために推奨される変化や新しい政策など(予後的フレーム)


    ・日本のNPOはクレイム申し立て者としての自らの存在意義と価値を認識できなくなっている場合が多いのではないか。アドボカシーや普及啓発を明確に事業活動の中に位置づけている団体以外は、トラブル状態に対しての緊急支援のみに従事しており、クレイム申し立てとしての情報発信などを意識できておらず、社会問題として認識させ、解決に近づけていく視野を持つことが出来ていないといえる。
    ・対人支援の現場においては、社会問題ワーカーとしての役割が主な事業・活動となっている団体も多い。この場合NPOに限らず水際の対人支援者全般に言えることだが、相談に対して対応する/しないの判断、どのような対応・処理をする/しないの一つ一つの判断それ自体が社会問題形成過程の一つであるという認識を持てていないケースが多い。この課題については、この認識の醸成を誰の責任のもとで行うべきなのかという責任の所在特定がまず難しい。
    ・社会問題を認識する社会的なパラダイムが医療化してきているというのは前にもどこかで読んだが、改めて読むまで忘れていた。聖職者が社会的な影響力を持つ社会では社会問題は宗教用語で説明されることが多いのに対し、医師が影響力を持つ社会では「病気、症候群、機能不全、嗜癖」といった医学や他の科学の分類にもとづく言葉を使いがちになる。文化の影響もしばしば受け、例えばアメリカでは特定の社会課題への取り組みが「◯◯との戦争(貧困との戦争)」などと表現されることが多い。

  • 社会問題はなくならない。あらゆる分野、立場の人たちの相互作用により回り続ける。社会問題は、人々の関心が集まり浮かび上がり、関心がなくなり消え、また新しい社会問題に関心が移る。社会問題に対する正しい態度は、批判的に捉えた上で思慮深く考え自分で評価を行うこと。

    •社会問題は状態ではなく関心である。
    •社会的構築は、相互作用の過程なのである。
    •本書は、社会問題の何を考えるかを告げるものではなく、いかに考えるかを提供するものである。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765381


  • 感想:
    「社会問題とは何か?」
    問題がいつ、どのように生じるか、そして亡くなるのかが描かれている。

    個別に対しての問題や問題解決のアプローチは扱っていませんが、全ての問題に適用できる抽象的なフレームワークを提供。

    本でも指摘されているがwhatよりHow。

    ただこのHowに対して取るべきアプローチと考えるべき変数が網羅的にフレームワークでまとめられていると感じました。

    批判的思考で今何が起きているのか一歩引いて整理できる枠組みを提供してくれるので迷っている方はぜひ。

    歴史を紐解くと、問題と言われているものは昔からあったりすることが多いです。しかし、近年になって注目されているのは不利益を受けている主体者が声を上げ、それに呼応する人が集まった結果。SNSというメディア媒体もそれを後押ししていると思います。

    社会的構築は、「相互作用の過程」。
    社会問題同士でも関心の奪い合いが起きている。

    新しいメガネで世界を見たい方にはおすすめ。

  • 社会構築主義による社会問題論の概説本。キツセとスペクターの議論を引き継ぐ。

  • 東2法経図・6F開架:360.4A/B39s//K

  • 翻訳のためか難しい言い回しで、読み終えるまで苦労しました。
    およそ、全体の流れは理解したのですが、深いところは不十分な理解で終わってしまいました。
    当初想定していた具体的な社会問題を記した本ではなくて、社会問題がいかに構成されているのか、といった内容でしたが勉強にはなりました。

  • 系・院推薦図書 総合教育院
    【配架場所】 図・3F開架 
    【請求記号】 360||BE
    【OPACへのリンク】
    https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/volume/455947

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著者プロフィール

1946年生まれ。デラウェア大学社会学・刑事司法学部教授。カリフォルニア大学バークレー校博士課程を修了。1971年にPh.D.(Sociology)を取得。著書に『統計はこうしてウソをつく――だまされないための統計学入門』(林大訳、白揚社)、『社会問題とは何か――なぜ、どのように生じ、なくなるのか』(赤川学監訳、筑摩書房)などがある。

「2021年 『Think critically クリティカル・ シンキングで真実を見極める』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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