ガロ編集長: 私の戦後マンガ出版史 (ちくま文庫 な 4-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480021595

作品紹介・あらすじ

1964年夏、奇妙な誌名のマンガ雑誌が、ちっぽけな出版社から創刊された。この「ガロ」のともした小さな炎は、またたくうちに大きく燃えあがり、驚異的なマンガ文化隆盛へとつながっていった。名物編集長が綴る戦後マンガ出版の裏面史。

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  • 伝説の月刊漫画誌「ガロ」の編集長を務めた長井勝一さんの自伝である。満州での山師や戦後の闇市商売など驚きの体験を経て、貸本マンガ誌の発行に至る。そして、結核で死にかけたことから、自分の人生で何かを残したいという思いから、ついに「ガロ」の創刊に至る。その情熱に応えて、白土三平や水木しげる、滝田ゆう、真崎守、村野守美などのベテランの代表作を掲載し、林静一や佐々木マキ、安部慎一、鈴木翁二、古川益三、ひさうちみちお、鴨沢裕至、安西水丸などの個性あふれる新人を発掘した。私も愛読していた雑誌だけに、その舞台裏の苦労がしのばれた。

  • 往年の名物編集長、長井勝一氏の自伝である。

    「ガロ」は、光文社や小学館などの大手が出していた漫画誌と好対照をなす、貸本文化から派生したやや暗くて屈折した(絵柄も概してスマートではない)雑誌で、全共闘の空気を濃厚にまとった作家群を輩出している。前者の代表選手が手塚治虫氏だとすれば、後者の代表選手が白戸三平氏である。

    「ガロ」が本屋に並んでいたのは覚えている。やや沈鬱なイメージである。
    ぱらぱらめくったことくらいはあったろうけど、買って読んだことはない。子どもの頃、鉄腕アトムなどは喜んで読んでいたものだが、「ガロ」はちょっとムリだろう。
    南伸坊や糸井重里、湯村輝彦なども巻き込みつつ雑誌は2002年頃まで続いたというが、その後もあまり縁はなかった。

    長井氏は1921年生まれ。「ヤマ師(鉱山師)」を志して早稲田工手学校に入るが、その後満州へ行ったり、戦後の混乱期に闇屋をやったり、ゾッキ本と言われる古本(倒産出版社の横流しが多かったらしい)の卸を手がけたりする。何度か結核を患うなど、浮き沈みが大きかった。

    「好きなギャンブルは人生」を地で行くみたいな裏道的人生である。でも思い立ったらじっとしていないバイタリティがあった。

    その戦中戦後の描写や、白戸三平氏との出合いの経緯はスリリングでエキサイティングだ。傍系ではあるが確実に存在感のあった、戦後漫画史のひとつの流れを知る上でも貴重なエピソードが続く。

    漫画に対する、それも煩悶している新人作家に対する温かいまなざしがあった。「ガロ」は、そうした世間の底辺でうなだれている作家たちに発表の場を提供したいという一心で続けられた。

    青林堂(「ガロ」の出版社)は「カムイ伝」の連載終了後、経済的に苦しくなって来たが、まだまだ有望な新人が存在する…と希望の灯のように書かれたところで、自伝はいささか唐突に終わっている(初出は1982年だそうだ)。濃密な断章というところである。

    長井氏は1996年に亡くなっている。

  • どんな文化も
    一番初めは
    たった一人から産まれ出る

    深山の泉の一滴が
    こぼれて
    川の源流になって
    その泉が流れ出て
    ちいさなせせらぎから
    小川になり
    だんだんと大きな流れに
    なっていく

    長井勝一さんが
    編みだした
    「ガロ」は
    マンガ史という大河
    の大きな源流の一つなのだ

    白土三平さんを
    始めとする
    戦後の漫画家さんたちが
    綺羅星の如く
    登場してくるのも
    また 興味深い

  • ガロ創刊者の自伝。編集日誌みたいなものを想像していたら、戦前・戦中・戦後にかける長井勝一の人生が書かれていて、とても読み応えがあった。特に、戦後の混乱に乗じて商売の世界でのしあがっていく様がたくましい。クレイジー。偉大すぎる!
    他にも語りたいところは色々ある。白土三平のイカれっぷり(カエルの話はヤバイでしょ笑) 長井さんが白土さんの才能に惚れ込んでる所、ガロというメディアがどのように生まれて、いかに特殊か。結核の怖さ。治療方法。戦後のデタラメ。
    最後の章、ガロに載ったマンガ作品の四方山話も興味深く読んだ。こんな目で世界を見ている人がいる。その存在がポジティブな気持ちにさせてくれる。

  • 1987年(底本1982年)刊行。カムイ伝で知られる雑誌「ガロ」の編集長の自伝。◆確かに、「ガロ」刊行前後のことも面白いが、それにも増して著者の戦前・戦中における経験談はさらに面白い。地図製作ができるということで、スパイもどきの活動をする羽目になったり、あるいは、朝鮮独立義勇軍との接触らしきこともあったりする等、戦前戦後の一時代を切り取った生々しい事実が浮き彫りになっている。

  • 『ガロ』を作った長井勝一のおはなし

  • 水木しげる先生の話を読みたくて手に取った。貸本時代にでたらめな版元が多い中、ガロを作ることになる長井氏はきちんと原稿料も渡し、作家たちの信頼を勝ち取っていっただろう。白土三平氏との心温まる交流など、漫画家を大事にしていたのだろう。
    そんな青林堂も長井氏の死後、分裂騒動に巻き込まれ、ガロも今はもうない。古き良き時代をふと懐かしむ。

  • 漫画も好きなものはたくさんありますが、1つに絞れと言われるととても難しいですね。
    強いて挙げるなら、作品ではないのですが、「ガロ」という雑誌には影響を受けましたね。 つげ義春さんや、蛭子能収さん、水木しげるさんといった今も伝説的な方もいらっしゃるんですが、 基本的に非常にマイナーで、でもとても衝撃的でした。

    他の漫画はただ楽しいし、面白いんですが、ガロに出ている漫画は何か「息吹」のようなものを感じたんです。 映画で言う、独立系のインディペンデントの映画を見ている感じですよね。 毎回、次はどんな人が出てくるんだろうととても楽しみでした。
    あのような雑誌に出会って創作の場をもらった作家は幸せだなと思ってましたね。
    映画も昔はATG(日本アート・シアター・ギルド)のように、マイナーででも良質の映画を作らせてくれるところもありましたが、 今は漫画も映画もそういうものがなくて、切磋琢磨する場所がもっとあったらいいとは思います。

  • 魚喃キリコがデビューしたということで知ったコミック。売り上げの立たなくなった追い込まれ時期はギャラも出ないということで有名であったが、この漫画家たちはのびのびと描いていて、その独創性を重視して自由にさせた編集長もすばらしい。
    コミックでは一番優れていた雑誌だと思っている。

    もう廃盤なのが悲しい、。
    なのでアックスをたまに買う、、。

  • ガロ出身作家のエピソードがつまってる。でも有名な人の話はどこでも聞ける。ここでしか読めないのは、一作だけで終わった名もないマンガ家たちのこと。創ることに足を踏み入れながらも、苦しむことだけ覚えて消えた作家たち。そんな人たちの話がひっそり書かれてる。(けー)

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