- Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480021922
感想・レビュー・書評
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47冊目『合葬(がっそう)』(杉浦日向子 著、1987年12月、筑摩書店)
江戸風俗研究家でもある漫画家、杉浦日向子の代表作。彰義隊に所属する幼なじみ3人の運命を描き出す。
上野戦争を舞台とした合戦絵巻であり、物語が進むにつれ若人たちの危うい血気がむんむんと立ち上がってくる。そして、その緊張感がピークに達すると同時に全ては儚く消え失せる。戦争に散った若き隊士たちへ捧げられた、まるで線香花火のような哀歌である。
お世辞にも絵が上手いとは言えないが、爽やかで時に耽美的なタッチが胸を打つ。
〈あゝ 鳳凰が。〉詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸をこよなく愛された杉浦さんの江戸レクイエムでした。彰義隊は、ビジョンも名分も軍略もない烏合の衆でした。これに飲み込まれる末端士分の若者たちの視線で、江戸が消えてしまう上野戦争の惨劇を描いています。「維新とは実質上、末期幕府が総力を挙げて改革した近代軍備と内閣的政務機関を明治新政府がそのまま引き継いだにすぎない」とは杉浦さんの醒めた近代史観です。文庫サイズではなく、大判で味わいたかったなぁ。
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合葬 杉浦日向子 筑摩書房
幕末の彰義隊を描いた歴史小説漫画
ほぼドキュメントタッチでもあるかのように描くリアリティがすごい
特に立ち居振る舞いなど
細部の髪型や小道具で酔わせてくれる
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この時代に漫画ってあったかな?と思ってしまうほど当時の空気が感じられる。
そして、内容に浸ってから読むあとがき「日曜日の日本」、これがたまらなく心が揺れる。 -
森まゆみ『彰義隊遺聞』を読んだら無性に読み返したくなり部屋中探したのだけどみつからなかったので買い直しました。映画の帯がついたバージョンで、そういえば2015年に実写映画化されたのだっけ(見てない…)青林堂から出た版が実家にあったはずなのだけどあれも行方不明かも・・・。
閑話休題。慶喜謹慎後の彰義隊、秋津極は「君辱めらるれば臣死す」という潔癖頑固な武士気質ゆえに彰義隊で命を捨てようと覚悟、許婚の砂世との婚約解消を申し出る。砂世の兄で極の幼馴染である福原悌二郎は長崎留学から帰省中にこの話を知り納得がいかず、極を彰義隊から脱退させようと談判に赴くが逆に巻き込まれ・・・。一方で、同じく彼らの幼馴染である吉森柾之助は、養子先の陰険な養母らに愛想を尽かし出奔、たまたま極らと再会して成り行きで彰義隊士に。やがて上野戦争が始まり、三人の少年たちはそれぞれ思いがけない結末を迎えることに。
極が美形で好きだったなあ。杉浦さんの絵は独特の味わいがあり、時代の転換期の若者たちのやや過激な思想や行動、残酷な戦争の現実を描きながらも描写は淡々としていて過剰に感情に流れず、それでいて得も言われぬ情緒がある。悌二郎がふと柾之助に語る、子供の頃に蝉の羽化を見たことを語る場面や、逃走中の極と柾之助が納屋でふと目をさます場面など、なにげないエピソードを今でも夢の中でみた光景のようにふとした瞬間に思い出して涙ぐんでしまう。彼らは実在の歴史上の人物ではないけれど、こういう無名の市井の人々が確かに実在し生きて死んだというその血肉の通わせ方が素晴らしい。
ところで実写映画の出演者の中にオダギリジョーの名前をみつけて、イケメン役なら春日左衛門か丸毛靫負かなと思ったらまさかの森篤之進、いやしかしこれはこれでいい感じ。映画もそのうち見たい。 -
幕末の幕軍側についた彰義隊の少年たちの漫画です。戦争漫画だからと言って、ことさら煽るような描き方ではなく、淡々と物語は進みます。ラスト近く、見開きの青空の美しいこと。泣きました。時代の変革期に犠牲が出てしまうのを「仕方ない」と片付ける世の中になってほしくないと思いました。名作です。
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先月、深川の杉浦日向子展に行って、未読のものを読んでいこうと思った。 それぞれの事情で彰義隊に加わった3人の若者の行く末。未熟さゆえに時代に翻弄される切なさ。映画版も見てみようと思います。
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なんて素晴らしい作品なんだろう。「歴史」とひとくくりにされがちな戦争からかつての人の息づかいを強靭に甦らせる。小沢信男による解説がまた素晴らしくて、一冊の本として満足感がすぎます。
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著者を江戸の「師匠」と慕っている。2005年に鬼籍に入られた今となっては全てが遺作なのだが、師匠の漫画を読むのは久しぶりだ。上野戦争を若者の視点で描いた本作は、解説にもあるとおり類書に抜きんでているのだと思う。江戸っ子の落首「うえからは明治だなどと云ふけれど 治明(オサマルメイ)と下からは読む」は秀逸!