泉鏡花集成 12 (ちくま文庫 い 34-12)

著者 :
制作 : 種村 季弘 
  • 筑摩書房
3.14
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本棚登録 : 33
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (597ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480032423

感想・レビュー・書評

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  • 「婦系図」および「日本橋」を収録。前者は日本文学史上に残る名作だが、わたしはタイトルと著者以外の情報を知らなかった――解説などには「湯島の白梅」の場面が有名と書かれているが、わたしはその場面すら知らなかった――ので、いわゆる「純文学純文学」している小説なのかと思っていたが、ところがどっこい、本書の解説でも称されているように、本作はエンターテインメント性に溢れた「ピカレスク・ロマン」である。それに加えて、「隼」以降の怒濤の展開、とくに早瀬主税がその正体を明かす場面に、わたしは某推理小説の「ヴァン・ダインです」というセリフにも似た感じを覚えたので、推理小説のような趣もある。しかし、本作が娯楽一色なのかといえばそういうわけでもなく、最後の展開が物語っているが、エリート主義的な社会規範に対する反抗という、社会的なテーマも主題となっており、この二重性がまた、今日に至るまで高い評価を受けている所以であろう。以前ほかの小説の書評でも似たようなことを書いたが、一見ただの恋愛を描いているように見えて、その実社会的な深遠な要素も含まれているというのは、文学の基本に見えて、大変高度な技術だと思う。こういった良質の文学に触れることができてとても満足している。また、「日本橋」についても、それが感想の主軸ではないのだが、最後の急展開は、まるでジェット・コースターのようで、探偵役が登場して一気に物語が動き出す推理小説のような感じもあった。純粋な意味での推理小説ではないだろうが、広義ではそれに該当するとも捉えられる。大正期には、谷崎潤一郎が犯罪小説を書いたり、あるいは今日までその真相が議論の的となる芥川龍之介「藪の中」が著されたりしているが、それよりも早い時代に、このような小説があったとは知らず驚いた。

  • 「日本橋」だけ拝読。

     普通の泉鏡花作品とちがい、歌舞伎を意識して書かれたものか、(無駄に)話の筋が複雑な気がします。
    この筋が無駄に複雑に感じるというのは、私個人の感想なのですが、なぜそのように思うのか、我ながら不思議に思っています。

     でも、歌舞伎とは明らかに違う、精神が違うというかノリが違うというか、独特の世界なのですよね。これを歌舞伎のファンが見ておもしろいと思っていただけたのだろうか、ということは疑問に感じました。

     あと、熊さんわりと良い人じゃないかと思いました。芸者同士の意地の張り合いというのは現実にあったのだろうけど。正直そう言う風に張り合ってくるお考さんは、めんどうくさい人だと思います。

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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