生命観を問いなおす: エコロジーから脳死まで (ちくま新書 12)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480056122

作品紹介・あらすじ

環境破壊から脳死問題まで、現代社会はきわめて深刻な事態に直面している。このような現代の危機を生み出したのは、近代テクロジーと高度資本主義のシステムであり、我々の外部に敵があるのだという主張がある。生命と自然にかかわる諸問題に鋭いメスを入れ、あくなき欲望の充足を追求する現代システムに生きる私たち自身の内部の生命観を問いなおす。生命と現代文明を考える読者のためのやさしいガイドブック。

感想・レビュー・書評

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  • 個々の話(章)はいいんだけどねぇ。。全体を貫く主張が、最初にしか出てこなくて、読み進めていくうちに、結局臓器移植の話がしたかったのね、と。いやそれはそれでいいんだけど。1冊の本にするために無理にエコの話をいれたのでは疑惑。

    ・やはり一番価値があるのは後半の臓器移植の章であろう。  ・エコロジー思想の歴史の話は知識を得るためのものと思いましょう。

  • ふむ

  • 難題に挑む試み。
    正解のない問いかけ
    どうすれば民意は育まれるのか
    結論には納得できるものがある。
    人々の欲求が現在の便利な生活をつくり出してきた。今後はこのままで良いのだろうか。

  • 環境問題から脳死問題まで、現代は生命にまつわるさまざまな問題に直面しています。しかし、これらの問題を生み出したのはわれわれ自身であり、われわれの「生命」の本性の奥深くに、他のいのちを犠牲にしてまでも生きたいという欲望が根を張っていると著者は指摘します。そのうえで、生命を「調和」や「共生」などといった美しいことばで語るのではなく、生命の奥底に存在するさまざまな矛盾に向きあい、解明しなければならないと主張しています。

    著者はこうした観点から、生命にかんする具体的な問題に切り込んでいきます。たとえば、リサイクル型文明の提唱が資本主義システムと結びつき新たな南北問題を生み出すのではないかという指摘がなされています。また、1980年代以降のアメリカにおけるディープ・エコロジーとニュー・サイエンスの勃興や、日本における「いのちと癒し」にまつわる言説の流行をとりあげ、「生命」を称揚するそうしたロマン主義的な言説が、生命と現代文明との間に存在する入り組んだ関係を見ようとしないことを批判しています。

    さらに脳死問題についても突っ込んだ考察がなされており、とくに梅原猛による文明論的な観点からの脳死問題への取り組みが俎上にあげられている。梅原は、「他人の臓器をもらってまでも自分が生き続けたいという「エゴイズム」を、みんなでサポートしてゆく」という社会システムの分析・批判をおこなっていないと著者は批判し、そのために彼の主張する大乗仏教の菩薩道に基づく彼の臓器移植論も、なし崩し的にシステムの内に取り込まれてしまう恐れがあると批判しています。

    著者の基本的なスタンスは明確ですが、「生命の欲望」と現代文明との関係を解明することの必要性を主張するにとどまっていて、立ち入った分析がおこなわれているわけではないように思えます。著者の提唱する「生命学」の序論という位置づけの本だといってよいのではないでしょうか。

  • 201507つまみ読み
    蔵書。必要に迫られて。

  • 鬼頭秀一によると、著者森岡は「日本に恐らく初めて環境倫理の考え方を持ち込んだ人」。よって、少々身構えて本書を手に取ったが、読みやすくて、主張もストレートでよい。

    一部に「環境倫理学批判」のような記述もみられ、かつ生命倫理学との絡みでものを語ろうとしているので、興味深い。環境倫理のような話にしばらく傾倒しかけていた私の、関心領域(スコープ)を本格的に生命側まで広げてくれた一冊。

  • 「第六章 反脳死論を解読する」で展開されている梅原猛批判が刺激的だった。
    梅原は90年論文において、デカルトの心身二元論とアメリカのプラグマティズム思想に根ざした西洋文明によって脳死と臓器移植が推し進められているということを指摘する。とりわけデカルト哲学は、「思惟」が人間の存在根拠となっているが、本来は人間というのは地球の発展の結果であり、「生命」の一派成形態でしかない。デカルト哲学には「生命」が無い。こう主張する。
    これに森岡は一定程度の理解と含蓄を認めるが、一方で梅原が臓器移植には賛同している点に疑問を投げかける。
    梅原の臓器移植肯定論のポイントは、臓器移植が菩薩行であるという点にある。しかし森岡はこれを批判する。菩薩行であるという主張だけでは、梅原が批判するデカルト哲学を否定しきれず、むしろ肯定することになるという。
    私の理解では、自己決定権に基づく愚行権の行使と菩薩行の客観的差異が生まれず、結果としてデカルト哲学を推進する方向へ働くということだと考えている。
    梅原の以前の論文(89年論文)では「覚悟」という言葉で、原始仏教にあるような「執着を滅する」ということと関連するような、臓器移植を受ける側への訓示もあったにも関わらず、90年論文ではなぜかそこが削除されている。
    脳死、臓器移植論の文明論的批判を行うには、梅原のこの路線を推し進める必要がある、というのが森岡による梅原批判の骨子だと理解している。

    以前、『無痛文明論』を読んだ時、「捕食」という概念が出てきた。当時はその意味がよくわからなかったのだが、今は少し分かる気がする。
    他者(他人や地球環境など)を利用し自らの糧とする欲望は、決して現代の病理などではなく「生命」の根幹にあるものだという。この点に森岡の「生命学」のオリジナリティがあるのだろうし、ロマン主義的に「調和」や「共生」という言葉を用いて生命倫理や環境倫理を説く人間との違いがあるのだろう。
    「捕食」は、この「生命」とはいったいいかなる構造を持つのかを理解し、その根幹にある「生命の欲望」を認識した上で、他者を利用していくことにあるのだと思う。

  • 生命学という現代文明を顧みるための新たな学問を提唱するその軸として、エコロジー思想や生命倫理にフォーカスをあてて新しい生命観を模索する意欲作。筆者自身も最後に書いているが、この本はそういった壮大なテーマに立ち向かうための準備体操としての位置付けであるため、繰り返しが若干多い。そのおかげでとてもわかりやすくなっている。読みながらそんな考え方があったのかと驚くと同時に、自分はデカルト哲学に端を発する近代文明に期せずしてどっぷりと浸かってしまっていたことに気づかされる。個人的にディープエコロジーをどうやって自分の中で処理するか苦しんでいたところ、この本と出会い、仏教的に話を展開する刺激的な論調に出会えて本当によかった。ぜひ生命学入門も読みたいと思う。

  • ディープエコロジーやニューサイエンスなどを含めた生命観の変遷や、その問題点などが述べられ、最後には脳死に関して述べられている。
    全体を通じて非常に分かりやすく、生命倫理を知るための最初の一冊としては良いのではないだろうか。

    ただ、幅広く論じられているため、一つ一つの項目に対する記述が若干浅いようにも思われた。

  • [ 内容 ]
    環境破壊から脳死問題まで、現代社会はきわめて深刻な事態に直面している。
    このような現代の危機を生み出したのは、近代テクロジーと高度資本主義のシステムであり、我々の外部に敵があるのだという主張がある。
    生命と自然にかかわる諸問題に鋭いメスを入れ、あくなき欲望の充足を追求する現代システムに生きる私たち自身の内部の生命観を問いなおす。
    生命と現代文明を考える読者のためのやさしいガイドブック。

    [ 目次 ]
    序章 環境倫理と生命倫理
    第1章 生命テクノロジーの甘い罠
    第2章 エコ・ナショナリズムの誘惑
    第3章 リサイクル文明の逆説
    第4章 ディープエコロジーと生命主義
    第5章 専門の囲いの中で―脳死身体の実験利用の現実
    第6章 反脳死論を解読する

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著者プロフィール

1958年高知県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得退学。大阪府立大学にて、博士(人間科学)。東京大学、国際日本文化研究センター、大阪府立大学現代システム科学域を経て、早稲田大学人間科学部教授。哲学、倫理学、生命学を中心に、学術書からエッセイまで幅広い執筆活動を行なう。著書に、『生命学に何ができるか――脳死・フェミニズム・優生思想』(勁草書房)、『増補決定版 脳死の人』『完全版 宗教なき時代を生きるために』(法藏館)、『無痛文明論』(トランスビュー)、『決定版 感じない男』『自分と向き合う「知」の方法』(ちくま文庫)、『生命観を問いなおす――エコロジーから脳死まで』(ちくま新書)、『草食系男子の恋愛学』(MF文庫ダ・ヴィンチ)、『33個めの石――傷ついた現代のための哲学』(角川文庫)、『生者と死者をつなぐ――鎮魂と再生のための哲学』(春秋社)、『まんが 哲学入門――生きるって何だろう?』(講談社現代新書)、『生まれてこないほうが良かったのか?』(筑摩選書)ほか多数。

「2022年 『人生相談を哲学する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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