- Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480062970
作品紹介・あらすじ
過去の暗闇に隠れている出来事を発掘しその意味を考えることから歴史探究は始まる。本書は、岩船地蔵と刻まれた一体のお地蔵様の発見から始まる、歴史探索のプロセスを開示したものである。関東甲信・静岡の各地に散らばる地蔵を捜索し、関連の文字資料を発掘する過程で、江戸中期の享保四年(一七一九年)に、下野国の岩舟を出発点にして地蔵が村から村へ送られ、地蔵が通った各地の村に「岩船地蔵」が建立されたことが明らかになる。なぜこのような流行仏が出現したのか。何気ない路傍の地蔵から、歴史と民俗の織り成す豊かな水脈へと読者をいざなう、大人のための実践的歴史入門書。
感想・レビュー・書評
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享保年間に民間信仰として流行を見た「岩船地蔵」の謎を追っていくことで、民俗学と歴史学の2つの学問が、それぞれ異なる結論へと導かれることを示した本です。
岩船地蔵に関する文字資料によって明らかにされた史実は、「岩船地蔵」信仰の流行が、村の秩序からの一時的な解放をもたらす熱狂を村々にもたらしたというものでした。しかし現在まで各地に伝わる岩船地蔵にまつわる伝説は、こうした文字資料によって知ることのできる歴史を伝えることはほとんどなく、むしろ水難救助や雨乞い、あるいは豊作をもたらす農耕神としての「岩船地蔵」信仰でした。
歴史学が、「特定の時代に特定の地点で起こった史実」を明らかにすることをめざすのに対して、民俗学は人びとが語り伝えてきた、いわば「累積する歴史」を対象とします。著者はこうした歴史学と民俗学のそれぞれが異なる結論へと導かれることを具体的に示すことで、この2つの学問の違いを読者に示しています。
著者自身が「あとがき」で述べていることですが、やはりもう少し明確な結論が与えられることを期待していたので、肩透かしにあったような印象は否めません。もちろん著者の意図はそれとして理解できるのですが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
享保4年、岩船地蔵が関東地方に大流行したことがあった。着飾った念仏踊りとともに村から村へと村送りされ、武蔵、信濃、甲斐、駿河、遠くは越後まで伝搬した。この本では岩船地蔵そのものよりも、その流行の内容を文書、石仏など実際の事物に則して30年にわたって調査したものである。そして地道な調査というのは文字通り地道な作業であって、華々しい学説などとは無縁の営みなのだなと実感する次第。
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積ん読状態から解放すべく読んだ。
享保4年(1719)、関東西部の村々に突如大流行した岩船地蔵。
各地に残った文書や岩船地蔵を元に、流行の経路や当時の人々の熱狂を掘り起こす、という内容。
あらましを一読するだけでわかるこの地味さ。
けれども、路傍にただ佇んでいた石仏が調査によって意味を取り戻していく様は、読んでいて楽しい。
個人的には、江戸時代に度々起こった種々の流行神についての記述がおもしろかった。
農民たちが社会体制に収まりながらもそこから逸脱するという、奇妙な爆発。
「ガス抜き」と一言で片付けることのできなさそうな現象というところに興味が湧いた。
副題に「歴史探索の手法」とあるとおり、何か対象物の背景に迫る方法のお手本のよう。
だけど大事なのは根気と人脈、という感じ。
まず根気。
著者は約30年もの間、岩船地蔵の調査を続けているとか。
しかも半ば以上、趣味として。こんなことはなかなかできないね。
そして人脈。
この調査は実に多くの人に支えられてます。
著者が培ってきたつながりが、岩船地蔵の情報を生み出してる。
ただまぁ一番大事なのは著者自身が楽しそうってところかな。もう読んでてわかる。
新たな発見があるたびに小躍りせんばかりに喜ぶオッサ…もとい歴史学徒の姿が目に浮かびます。 -
一つ一つの事例は断片に過ぎないが、それが蓄積されるとそこに全体像が浮かび上がってくる。結論を急がずに継続していくことが成果になると言うこと、研究は一人でできない。大勢の人の協力と支援が必要であると言うことを、享保四年に関東甲信と静岡で流行った岩船地蔵建立ブームの実体と謎に対する30年に及ぶ研究の過程をを通して教えてくれる「大人のための実践的歴史入門書」
大学時代のゼミの先生を見ていて感じたことだが、研究はいくつかテーマのストックを持っていて少しずつあたりを付けていく中で30年間続くような研究テーマが出てくるのだと思うのである。 -
ちょっと福田アジオらしくない本だったとおもう。なんだかパワー不足。