パルチザンの理論 (ちくま学芸文庫 シ 3-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480082282

感想・レビュー・書評

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  • 18世紀ドイツにおいては強い枠づけがなされることでの戦争の正規性が発展したため、敵はあくまでも慣習的な敵として深刻さを欠いた遊戯的な戦争であったのに対し、シュミットはナポレオンに対するスペインのゲリラ戦(パルチザン闘争)の非正規性、土着性に着目し、それが古典的な国家間による慣習的な戦争形態を変容させ、新しいラウム(空間)が開かれたとし、それを国家に代わる政治的なものの担い手として期待するのである。『パルチザンの理論』が「政治的なものの概念への中間所見」という副題をとっているのは、『政治的なものの概念』で示した、ヨーロッパ公法下での「慣習的な敵」と「絶対的な敵」という2種類の敵に加え、その間に「現実的な敵」という概念を持ち出すことで、「絶対的な敵」に移行することなく政治的な終焉に抵抗するカテコーンとして、またその「土地的性格」ゆえに敵対関係のエスカレートを回避できるということで肯定的に評価することで『政治的なものの概念』を補足しているからである。ただスペイン・ゲリラ戦争にはパルチザンの理論が、さらにプロイセン解放戦争にはその実践が伴わなかったとしている。20世紀にはいると国家の代わりに世界革命的な政党が主役に躍り出て、そのパルチザン的な闘争を不可避として重要視していたのがレーニンであった。レーニンにあっては友と敵を峻別として、常に革命の目標として絶対的な敵を規定することを重視したが、シュミットは郷土愛に根差したパルチザンの土着性に注目し、それを実践した点で毛をレーニンよりも評価するのである。しかし第二次世界大戦後になるとパルチザンが利害関係のある第三者からの援助を受けるために、その理念に沿って正当化を付与されイデオロギー化される必要が生じ、徐々に土地的な性格を失い、世界内戦に巻き込まれさらにそれは闘争技術の高まりによって加速されることとなる。しかし第三者からの政治的な承認を求めることなく、自らその正統性を打ち立てようとして失敗したのがラウル・サランであった。サランは自国では非合法的な存在として犯罪者として扱われ、世界政治的には第三者の援助を受けることなく反植民地主義という敵と対決しなければならなかった。ここに今日においてパルチザンが合法性の名のもとにその非正規性を非合法性に変えられて弾圧され、場所喪失を引き起こすという困難な状況が表されている。

  • シュミット没後30年を迎えた昨年『 現代議会主義の精神史的状況 他一篇 (岩波文庫) 」』が文庫化されたのは、それが岩波文庫!ということも含めて画期的な出来事だったが、近年とみに高まるシュミットへの関心に比して、晦渋を極めるその諸著作について、専門書はともかく気の利いた一般向け解説書は少ないし、手軽に読める文庫本も限られているのが現状である。その中にあって本書はいち早く(1995年シュミット没後10年にあわせて)文庫化された。シュミットの他の著作に比して、立論はオーソドクスで奇をてらったところが殆どないのがその理由だろう。かつてクラウゼヴィッツが定義した外交の延長としての戦争から、ナポレオン戦争以降、二度の世界大戦を経て戦争の性質が根本的に変容した。一言で言えば「正しい戦争」としての「正戦」の一般化だが、その重大な帰結に警鐘を鳴らすのが本書の狙いである。レトリックとしてならともかく、かつて戦争に正しい戦争も邪悪な戦争もなかった。戦争とはあくまで利害に導かれ、一定のルールのもとに勝敗を決するゲームのようなもので、自ずとある範囲に限定されていた。これに対して近代の「正戦」は思想戦であり、世界観の衝突である。それは敵に打撃を与えるだけでは済まず、徹底的な殲滅戦に至ることも稀ではない。「悪」を正し、戦争を「根絶」するための戦争が、逆説的なことに、いかに凄惨で壊滅的な帰結をもたらすか、ある意味で、9.11以降の袋小路を予見した書と言えるかも知れない。シュミットと言えば鋭利な刃物のような初期の理論的諸著作が注目されがちだが、本書も含め後期の著作には地に足の着いた穏健なものも少なくない。その〈可能性の中心〉を読み解く作業は緒に着いたばかりだ。

  • カール・シュミットといえば、ごく短い時期とはいえ、ナチス側の第一の論客として活動したことがあり、戦後は危うく戦犯として処罰されかねなかった。もともと代議制の欠陥を強く指摘したシュミットは、あるいはニーチェと同様、いやそれ以上に、ヒトラー政権を生み出す機運に加担したと言えるかも知れない。
    それでもとりわけ近年はカール・シュミットに注目が集まっているように思える。それはやはり、緻密な社会・政治学思想として、そう簡単には看過できない独創的で秀逸な着想がそこに見られるからだろう。
    この本は1963年の刊行で、ナチズムとも代議制民主主義とも関係がない。
    ナポレオン軍が攻め入ったとき、スペインの民が、正規の国の軍隊とは全く別個に、自発的に団結・蜂起して独自の抵抗戦争を繰り広げた。とりあえずこれが、この本に描かれる「パルチザン」の最初の姿だ。
    トルストイ『戦争と平和』で描かれた、ナポレオン軍に抵抗し勝利したロシア農民も「パルチザン」ということになる。日本軍に占領された中国の民衆にも、随所にパルチザン的な抵抗の姿があった。
    パルチザンは、正規軍ではなく、場所(土地)に根ざした一群の民衆の蜂起であり、その動きは俊敏で隠密的である。そしてその「抵抗」的な運動は必ず政治的な行動としての意味を持つ。パルチザンは国家の外部にあり、国家間の戦争の外部にすらある。
    私はアンジェイ・ワイダが映画でえがいた、ナチス占領下のポーランドで地下に組織されたレジスタンスの戦いを思い出した。イタリアでも、ムッソリーニのファシズム政権に対し、国内民衆の抵抗勢力が暗躍して、これは最終的にパルチザン側が勝利してムッソリーニを退却させた。
    カール・シュミットは、そうしたパルチザンなるものの抗争を独特な視点で強調し、時代と共にパルチザンの行動が重要性を持つようになってきたとする。
    たとえばベトナム戦争では、ベトナム兵とベトナムの民衆のパルチザンとが見分けがたいまでに入り乱れ、あの「戦争」を泥沼化したのだった。
    もちろんパルチザンが正義とか悪とか、そういう単純な問題ではない。ときに残虐行為を行うパルチザンは恐ろしい連中でもある。
    しかしややアナーキー寄りな私の心性としては、「お国のために」身を犠牲にする「国家」の兵よりも、自らの「土地」に根ざして動くパルチザンの方が、どちらかというと自然に見える。いや、人殺しは良いわけがないのだが。
    そういえば、アルカイダや「イスラム国」などのイスラム過激派、いわゆる「テロリスト」も、もともと「パルチザン」の系譜から来ているのではないだろうか。発端は、合衆国が石油利権を求めて中東に余計なちょっかいをかけすぎたことにあり、アメリカという「帝国」の「支配」に対する、ナチュラルな抵抗が原因だったのではないだろうか。
    無論暴虐きわまりない「テロリスト」を賞賛はしないが、アメリカ的「帝国主義」も誉められたものではない。
    イスラム「テロリスト」がパルチザンだとすると、米国は国家として、「国家の外部にある」存在と「戦争」をしていることになる。なるほどこれは奇妙だ。
    もっともこの本にはそうしたイスラム「テロリスト」については記述がない。この本より後に起こっていることが、興味深いのである。

  • 誰かの推薦で購入したのだが、長く積ん読状態であった。
    年末に本の整理をしていて出てきたので、読んでみようかと思って読み始めた。
    難しかった。
    法学に興味のある人とかならば、面白く読めるのだろうか。
    読み進めるのが苦痛に思う時もあった。

  • ユダヤ人問題、ケルゼンの敵、第二次大戦の戦争責任などであまり評判の良くないカール・シュミットの手による戦争論・政治論。<パルチザン>による戦闘は近代世界の敵概念に大きな変容をもたらしたと主張しています。これは、立場的に正反対にあるベンヤミンとかなり類似した問題意識によるものであり、シュミット擁護者および批判者ともに必読の書です。特に、NYテロ事件の問題を深く考えるのにも有効だと思います。

  • パルチザンを「絶対的な敵」という概念で呼び、国家対国家の戦争での相手方とは異なり、国家間の武力行使を規律する枠組みにおさまらない対象となっていることを適切に表している(今はその枠組みの中に国家側は勝手に入れているわけだが。)。今の時代にあらためて読む意味のある本だと思った。

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著者プロフィール

一八八八~一九八五。ドイツの法哲学者、政治理論家。「敵は殲滅せよ」という友敵理論や「例外状態」を想定して強力な権力の登場を説く「例外状態理論」などで知られ、ナチス政権の理論的支柱と言われた。戦後、逮捕・訴追されたが、ニュルンベルグ裁判で不起訴。著書に『陸と海 世界史的な考察』(日経BPクラシックス)、『政治的ロマン主義』、『政治的なものの概念』、『現代議会主義の精神史的地位』、『大地のノモス』他。

「2021年 『政治神学 主権の学説についての四章(日経BPクラシックス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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