- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480083333
感想・レビュー・書評
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『異人論―民俗社会の心性』(1995年、ちくま学芸文庫)以降に書かれた著者の論文のなかで、『異人論』と同様のテーマをさらに追求した内容のものをまとめた本です。
「異人殺し」などの伝説が生成するプロセスを解明することが、本書における中心的な課題のひとつだといえるように思います。
著者は『憑霊信仰論』(1994年、講談社学術文庫)などでも「異人殺し」の伝説をとりあげ、構造人類学的な観点から、村落共同体の社会構造において「異人殺し」の伝説がどのような意味をもっているのかということを考察していました。本書でも「村はちぶ」についての考察がなされているところでは、「スケープゴート」をつくり出すことで村の秩序が維持されるしくみについて、おおむね前著と同様の観点から分析がなされています。
一方本書では、近世から近代にかけての「異人殺し」伝説の変容が生じた理由について考察をおこなっています。中世においては、村落共同体の内部に「憑き物」の家を発見することで社会秩序の安定をもたらす役割を果たしていました。これに対して近世以降においては、村の外から富を運んでくる「異人」の殺害によって特定の家の急速な繁栄の理由が語られることになります。著者は、近世以降に貨幣経済が村落共同体の内部にまで入り込んできたことが、このようなちがいを生み出した理由なのではないかと論じています。
また、こうした伝説が生み出されるにあたって、シャーマンの「託宣」などの果たした機能に注目して、伝説の生成されるプロセスに目を向けている論考なども収録されています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1 異人の歴史学
異人殺し伝説の生成
異人殺し伝説の歴史と意味
2 支配の始源学
村はちぶをめぐるフォークロア
支配者と御霊信仰
天皇制以前あるいは支配者の原像
3 妖怪の伝承学
雨風ふきしほり、雷鳴りはためき
鬼の太鼓
鬼を打つ
江戸の稲荷と狐
4 悪霊の人類学
悪霊憑きから悪霊物語へ
悪霊祓いの儀礼、悪霊の物語
あとがき
文庫版あとがき -
2010-10-22
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・神が怒って災厄をもたらすとき、神を怒らすことをした者のみがその災厄を受けるというのが多いが、まったく関係のない人々もその災厄を受けざるを得ない場合もある。たとえば、ある人が水神を怒らせて大雨が降り、多くの村人の作物を腐らせたり、家屋を流失させる水害になったりすることもあるのである。
・怨霊は大別して二つのタイプが考えられる。一つは、人間が犯した罪に対しての神秘的制裁としての神霊の祟りというタイプである。それは神霊の人間社会全体に対する祟りといえるかもしれない。中世の擬音牛頭天王による疫病の流行とそれを鎮めようとする御霊会=祇園祭には、そうした性格が顕著である。
いま一つのタイプは、祟りの発現を特別の人々の罪に帰するというタイプである。つまり、祟る例は特別の個人に対しての恨みを晴らすために祟りをなしているのだが、そのために当事者以外の者まで巻き込まれて、祟りの被害を受けているというわけである。 -
昔旅の××を殺したことで――と語られる悪霊の物語は、いつ、どこで、だれが語りはじめたものだったのか。妖怪が、立ち現れるのは一体どのような状況の時か。
"悪霊・つきもの"を語る・語っていた人々を巡る一冊。 -
悪霊物語が作られるメカニズムを解明している。理解不能な出来事を(次々と村人が死ぬなど)、人間の理解の範疇に置くためにシャーマンによって「悪霊のたたり」が作られる、というプロセスが書かれる。
面白い。 -
1989年(著者42歳)に刊行された単行本の文庫化。1997年(著者50歳)に刊行された。
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異人など村の問題とも絡んでいて、かつての村という共同体にとってどんなに外からの「モノ」が怖ろしいか分かる。