増補 アジア主義を問いなおす (ちくま学芸文庫 イ 60-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480097583

感想・レビュー・書評

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  • アジア主義を問い直す

    本書を手に取る方にまずお伝えしたいのは、太平洋戦争中に喧伝された大東亜共栄圏という思想と、アジア主義は似て非なるものである。たしかに、アジア主義は大東亜共栄圏という思想を胚胎している。しかしながら、そこには本来、戦前の思想として一括りにして戦後社会の中で切り捨ててはならない重要なエッセンスが隠されている。
    本書は、アジア主義と言うものについて明治から現代まで、歴史の流れとともに解説するものである。特に興味深かったのは、昭和研究会によるアジア主義の思想的定義である。三木清は、アジア主義をリベラリズムとファシズムの止揚であり、欧米の帝国主義に対するアンチテーゼとして、東洋諸国がそれぞれ独立して平等な立場での東亜の統一、資本主義社会の是正を目的としているとした。これが、昭和研究会における当初のアジア主義である。そして、当時アジア主義に基づいて東亜の統一をした際の経済体制については、最大の交易国として、アメリカを想定していた。実際に、中国を蹂躙し、アメリカと戦争をした際に唱えられていた大東亜共栄圏という思想とは全くの正反対のものである。
    そうしてみると、やはり未だ資本主義社会の是正という達成されていない課題を考える上では、アジア主義も一つの選択肢となりうるのではないか。帝国主義の世の中において、圧倒的な努力により追いつけ追い越せで、そのゲームの中でのトップに近い立場まで日本は来た。戦後も経済大国として躍進をした。しかしながら、現在はESGやサステナビリティのような新ルールにより、またしても日本は後れを取っていると指摘されている。日本は一度ルールを把握できれば強い。しかしながら、どうやってもルールを作る側には構造的に勝てない。そうした中で、ルールを作るという意味で、ビッグピクチャーが必要であり、アジア主義にはそのヒントがあるようにも感じた。

  • 東2法経図・6F指定:319.1A/I57a/Inoue

  • 319.102||In

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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