精講 漢文 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480098689

作品紹介・あらすじ

往年の名参考書が文庫に! 文法の基礎だけでなく、中国の歴史・思想や日本の漢文学をも解説。漢字文化の多様な知識が身につく名著。(堀川貴司)

感想・レビュー・書評

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  • 漢文とは何かを、丁寧に解説したものが本書である。

    現在が、アメリカから英語で制度や技術を参照としているのに対して、明治以前は、超大国であった中国から、文化や技術を学んできた。
    当然当時の中国語で書かれているわけであり、その中国語を解読するための方法論が漢文であった。
    ただ、その内容は、漢文の読み方のみならず、中国の歴史、詩、小説、思想、日本の漢文学史にも及ぶ、650頁にも及ぶ大作なのである。

    気になったことは、次の通りです。

    ・漢文のテキストは、原文、書き下し文、(現代文)、語釈、通釈、解説の形となっている。
    ・漢文を理解するためには、まず、漢字を理解する必要がある。漢字には、①象形、②指事、③会意、④形声、⑤転注、⑥仮借 の6種がある
    ・漢字には書体がある、甲骨文字⇒金石文⇒①篆書⇒②隷書⇒③楷書⇒④行書⇒⑤草書 さらに現代では、略字がある。
    ・漢字の音には、時代があって、①呉音、②漢音、③唐宋音 があって、微妙に呼び方が違うものがふくまれているが、もはや治せない
    ・祖先にとって、漢文を読むことが必須の教養であったわけであり、漢文に優しく読める符号を付与して音読できるようにする方法を、訓読と呼ばれた。
    ・それに必要なものとは、レ点、一二点、返り点、送り仮名などである。
    ・平安時代、漢文に、訓読をつけることができる官職を、博士家といわれて、その方法は秘伝とされた。菅原家、大江家、清原家などである。

    ・歴史の章では、中国史を概報している。
    ・中国の役人は、科挙などで登用される上級官僚を、”官”といい、世襲に近いかたちの下級官僚を、”吏”とよび、合わせて、”官吏”とよんでいる。
    ・中国の歴史では、特筆されない限り、女子が数に加えられないこと、子どもが3人といえば、男子3人ということで、子が3人、女が2人であれば、子どもが5人で男3人、女2人ということ。
    ・同姓では結婚できないこと、女性は結婚しても姓がかわらないこと。
    ・名前には、姓、諱(他人に知られてはいけない本名)、字(通称、他人に伝えるための名前)、号(自分でつけた、自分の名前)などがあること。それ以外にも、官名や、居住地など、さまざまなものがあることが語られる。ちなみに、諱も、字も親がつけてくれる。
    ・歴史書:書経、春秋、戦国策、司馬遷の史記の前までのもの。史記からが中国の正式な歴史書であり、明史までを24正史という。、清の清史稿は正式ではない。
    ・正史を通読するのは非常に困難であるため、そのダイジェスト版が、曽先之の十八史略である。
    ・史記の記述は、紀伝体といわれていて、人物単位の独特の構成をとる。(本紀、表、書、世家、列伝)。通常の時系列方式は、編年体とよばれる。
    ・中国史を貫くためには、北宋の司馬光があらわした、資治通鑑が、王朝を超えた編年体であり、重宝をされている。

    ・詩文は、歌から始まっていて、韻を踏む。漢詩は、4文字からなるものを、四言詩という。
    ・詩にはきまりがあって、対句になっていること、同じ文字を2回つかってはいけないことがある。
    ・駢儷文:美しい文、散文:歴史や、時文:小説などに用いられる通常文、詩は、駢儷文でなければならない。
    ・詩文の例
      先秦:素朴な民謡からのもの。詩経、
      漢魏:楚辞(楚の屈原)、司馬相如
      六朝:陶淵明、文選
      唐:李白(自由自然、古来のもの)、杜甫(民衆の嘆きを詩に)、王維(人間の自由な喜びを)、白居易
      宋以降:欧陽脩、王安石、朱熹
      明:唐詩選

    ・小説、もともとは、怪談のような猟奇的なものから出発する。六朝に仏教が伝来して、仏教の説話の物語などが含まれるようになる。
    ・唐にはいって、伝奇、俗講(かたりもの)、話本(通俗小説)、演義(歴史もの)
    ・明の時代に小説は、質量ともに充実する。水滸伝、三国志演義、西遊記がつくられた。
    ・清の時代は、紅楼夢、樹林外史など。牡丹燈記(幽霊もの)、清末には、魯迅の狂人日記など中国文学の近代化が達せられる。

    ・中国思想の中心は儒学である。
     ■孔子:論語 とその注釈本 論語集解、論語集注、論語正義
     ■経書:易経、書経、礼(周礼、儀礼、礼記)、春秋(歴史書という意)(左氏伝、公羊伝、穀梁伝)
     ■四書:論語、孟子、孝経、爾雅
     ■孟子、荀子
     ■董仲舒:漢の武帝の時代に儒教を国家公認に、賢良政策という
     ■宋学から道学へ:周帳二程子(周敦頤、張載、程顥・程頤)⇒朱熹が、近思録にまとめる:朱子学、格物致知
      四書:論語、孟子、大学、中庸 他易経、詩経に独自の解釈をおこなっている
     ■陸九淵:心即理の説、心学
     ■王陽明:陽明学 致良知。知行合一の説。伝習録
     ■黄宗義、顧炎武、王夫之 実学 経世致用の学 だが、国家・の弾圧を受けて、考証学へ。
    ・道家 老子、荘子、楊朱
    ・陰陽家 騶衍
    ・法家 管子、韓非子、
    ・墨子 兼愛、非攻
    ・縦横家 蘇秦、張儀
    ・仏教伝来後、儒教、仏教、道教の3教とよばれた。

    ・日本の漢文学
    ・本書では、邪馬台を(やまたい)ではなく(やまと)とよんでいる。
    ・帰化人が漢字を日本に定着させ一般化させた。
    ・以後、日本語を漢字で記録する方法 
      ①日本語に漢字を当てて、音をあてて表現:万葉がな、からかなへ 女性中心の文化へ。和歌へ。
      ②日本語を漢文に翻訳して書く方法 日本の正史はこれで記載されている、江戸時代まで
    ・最初に漢文でかかれた、日本の文章は、聖徳太子の十七条憲法
    ・日本書紀は漢文で、古事記は漢文と万葉がなでかかれている。
    ・漢詩もつたわっていて、日本最古の漢詩集が、懐風藻である。
    ・漢文を読み、作るのは特殊技術 文書博士が担当した。菅原道真、紀長谷雄、三善清行ら 中央には大学がおかれ、弘文院、勧学院ら私学も建てられた。
    ・平安時代 男性は漢文で書き、女性は仮名で書いた。
    ・鎌倉期以降、公家が衰退したあとの漢文翻訳の任は、もっぱら、禅僧が担っていくこととなる。
    ・金沢文庫は北条氏が、そのあとの足利学校は上杉氏が支援をし、書を集め、教育をほどこした。
    ・道元らが、漢文を出版、五山版という
    ・江戸時代 内閣文庫、湯島聖堂、昌平坂学問所など。藩学、私塾。士農工商の別なく教える塾も現れた。
    ・新井白石、木下順庵、熊沢蕃山、貝原益軒、荻生徂徠ら、朱子学。本居宣長:国学、杉田玄白:蘭学ら
    ・日本外史、日本政記は、漢文で書かれている。

    目次

    第1章 漢文入門
     第1節 漢字
     第2節 音韻
     第3節 文法

    第2章 歴史
     第1節 王朝の交替
     第2節 中国史の知識
     第3節 歴史書

    第3章 詩文
     第1節 詩の形式
     第2節 文の形式
     第3節 辞賦の形式
     第4節 先秦の詩文
     第5節 漢魏の詩文
     第6節 六朝の詩文
     第7節 唐の詩文
     第8節 宋以後の詩文

    第4章 小説
     第1節 小説の起源
     第2節 六朝の小説
     第3節 唐の小説
     第4節 宋元の小説
     第5節 明清の小説
     第6節 文学革命

    第5章 思想
     第1節 孔子の思想
     第2節 諸子百家
     第3節 漢唐の思想
     第4節 宋元明清の思想

    第6章 日本の漢文学
     第1節 中国文化の伝来
     第2節 平安時代の漢文学
     第3節 鎌倉室町時代の漢文学
     第4節 江戸時代の漢文学

    練習問題解答
    助字用法一覧
    人名・書名・重要事項索引
    語彙索引
    解説

  • 私は、漢文と訳文などの部分は一切飛ばして、歴史や思想の解説を読んだ。
    現代でいえば、講義系参考書に分類されるべき本であり、非常にわかりやすい。
    これまでいろいろと漢文関連の本は読んできたはずだが、呉音と漢音の解説は本書で初めて目にした。
    文系で世界史、日本史を使う受験生は、私と同様のやり方で本書をざっとで良いから読むことをお勧めする。得るところ大だと思う。

  • こ、これはすごい本だ!

    歴史、文化。漢文を読むときに気になるあれこれが網羅されており、かゆいところに手が届く良書。
    一つ気になるのは、書体の歴史。この本では楷書から行草に発展したと書いてあるが、行草から楷書ができたんじゃなかったっけ?

  • 諸先輩方々が高校時代にこれを標準の学参書としていたことに驚愕!…自分は詰込学習も自律学習も必要だと思ってるので、とても感嘆してます。紙本も所持しているのに電子書籍も買ってしまった(´д`)。

  • 東2法経図・6F開架:820A/Ma27s//K

  • 苅部 直(政治学者・東京大教授)の2018年の3冊。
    漢文の読み方にとどまらず、中国文学史・思想史の便利な概説書にもなっている。

  • 第1章 漢文入門
    第2章 歴史
    第3章 詩文
    第4章 小説
    第5章 思想
    第6章 日本の漢文学

    著者:前野直彬(1920-1998、東京、中国文学)

  • 面白かった。構成は大きく言って、漢文と解説の二本立てである。解説は明晰で分かりやすいから、漢文学の理解が進むけれども、知識の披瀝に過ぎない面があり、ずっと読んでいると退屈する。その点、漢文の方は才気煥発な名文だから、読んでいて愉快である。しかも、漢文は中国の文化の華を集めており、非常に楽しい。ただ、ここまで広範にカバーしてあると、私の方でも受けつけない内容があり、老子や韓非子はそれに当たる。文学は古文や唐詩が好きだし、歴史は紀伝体が好きである。思想はやはり儒教で、兵法も好きである。逆に言えば、四六駢儷文や古詩は馴染みがない。それにしても、これだけ網羅的なのは著者の力量に脱帽である。

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著者プロフィール

1920-98年。東京帝国大学文学部卒業。東京大学文学部中国文学科教授、同名誉教授。著書に『風月無尽 中国の古典と自然』、『中国文学史』(いずれも東京大学出版会)、訳書に『唐詩選』(岩波文庫)、『中国怪異譚 閲微草堂筆記』(平(★正字)凡社ライブラリー)などがある。

「2018年 『精講 漢文』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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