- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480421272
感想・レビュー・書評
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野沢一馬『大衆食堂』ちくま文庫。
大衆食堂をテーマに日本の食文化と風俗を描いた非常に面白いルポルタージュ。
ファミレスやファーストフード店、コンビニなどの台頭により、今や絶滅の危機に瀕している大衆食堂。本書に描かれるのは昭和の高度経済成長の頃から多くの労働者の食を支えてきた所謂、老舗の大衆食堂ばかり。時代の変化に抗いながら、安くて、美味くて、温かい食を多くの庶民に提供し続ける店主の努力と心意気が伝わる。
昔は、こうした大衆食堂があちこちに見られたが、今や稀少な存在となっている。数年前には本書にも描かれている上野の聚楽台が閉店し、淋しい思いをしたものだ。東京ばかりではなく、地方の大衆食堂など殆ど見当たらない。
しかし、一方で面白い現象も起きており、仙台発祥の半田屋などはチェーン店化し、どんどん勢力を増している。また、最近は街の名前を冠した大衆食堂チックなチェーン店もちらほら目に入り、現代に於ても大衆食堂のニーズの高さが窺える。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
購入。
大衆食堂という業態の店での食事レポートと店主や従業員へのインタビューが主な内容。外食産業の略年表もついている。
外食を必要としていた時代の状況が見え隠れするところが、ただの食事レポートと違ってよいと思う。味も大事なのだろうけど、店の雰囲気が伝わってきたり、時代に合わせて商いの方法を変える店側の話があったりする部分が貴重だと感じる。 -
いわゆる大衆食堂というものを利用したことがない。
それは、一人で飲食店に行かないということもあるけれど
「どうせ外で食べるなら、家で食べないもの、食べられないものを食べたい」
というケチくさい根性からかも知れない。
とはいえ、昨今の食堂ブーム(?)は やはり気になるところ。
大戸屋を始め、ファミレスよりもっと惣菜感が強く、家庭料理の定食屋といった感じなのだろう。
この本で紹介されているのは そういった「にわか大衆食堂」ではなくいずれも昭和の経済成長を担った労働者達を支えてきた町の食堂。
グルメ本ではない、「当たり前に旨い」店の紹介。
なので、本文は店の雰囲気と主人たちとのやりとりに費やされている。
そして、メニューの記載。
定食600円前後から、一品料理各種100〜300円くらい。
それらを見るだけでも温かい手作りの味を思い起こし、食べてみたくなるだろう。
しかし、時代や街並、人の暮らし方が変わっていくなかで、
立地等の問題もあるだろうが、細々と日々を暮らしていながら
やめるにやめられない店もたくさんある。
かつての隆盛があるだけに、その主人たちの言葉の裏から漂う悲哀は一層際立つ。
もちろん、時代に対応しながらその良さも悪さも残しつつ、いまだ賑わいを保っている店もある。
そういった店は概ね、タクシーの運転手さんなどがご贔屓らしい。
使い込まれたカウンターやテーブル、椅子。
茶けた壁と短冊に書かれた手書きのメニュー。
その時代を過ごしてきたであろう年代にはそれらが想像に難くない。
ということは、自分もどこかでそれを経験しているのだろうか。
飲食店も食文化も多様化していく中、
価格や内容は上も下もきりがない状態になっている。
本物の「町の食堂」はこの先どうなっていくのだろうか。
風のように流行り廃りが行き交う今にあっても
昭和という時代はひっそりとそこここに息づいている。
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分類=外食産業・大衆食堂。05年8月文庫化(02年8月初出)。