パヴァ-ヌ (ちくま文庫 ろ 8-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480429964

作品紹介・あらすじ

1588年、英国女王エリザベス1世暗殺。混乱に乗じたスペイン無敵艦隊が英国本土に侵攻。英国は欧州世界と共にローマ法王の支配下に入る。プロテスタントによる宗教改革は鎮圧され-。20世紀、法王庁の下で科学は弾圧され、蒸気機関車だけが発達。その閉ざされた「もう一つの欧州」でついに反乱の火の手が上がる。高い完成度と圧到的なリアリティを備えた不朽の名作。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史改変小説。『パヴァーヌ』は、楽曲のように、序章から終章に挟まれた6つの章(旋律)があり、それぞれに語り手となる主人公が紡ぎ出す物語で構成された連作小説です。各内容が意外なところで関連しており、特に5章からそれらの繋がりが明確になって行きます。気がつけば、すっかり物語の世界に没入してしまいました。

    1587年、女王エリザベス一世は、カトリックの復興ひいてはイングランドを脅かす可能性のあるスコットランド女王メアリー・スチュアートを、「エリザベス暗殺未遂」という罠に嵌めて亡き者にしました。

    本作は、その翌年の1588年、自身も暗殺の憂き目に遭い歴史の歯車が狂いを生じたところから始まります。混乱に乗じたスペイン無敵艦隊にイングランドは敗れ、プロテスタントの宗教改革は鎮圧、欧州世界は法王によるローマ・カトリックの支配下に入ります。

    そこは、教理に反するとして、テクノロジーの発展が阻害された世界。エネルギーは蒸気機関頼りであり、人々は電力の恩恵をうける事なく不便な日常を強いられており、教会に反すれば異端として弾圧されてしまいます。時代は下り20世紀末、鬱屈した閉塞感の中で、ついにイングランド南部から反旗が上がり…というお話し。

    機関車や信号塔の細かい描写は作品にリアリティを与え、人々の暮らしぶりや閉塞感、風景などの自然を描き出す文章がとても美しい。物語も、構成がよく練られていて、後半から歴史が動いていく様子に心が掴まれました。

    第六旋律のコーフ城の話しのように、実際の歴史を上手く物語に溶け込ませてあるのも良かったです。

  • 2013/01/14 - 再読。話の筋を追うのにエネルギーをかけなくて済む分、初読時より詳細を楽しめた。でも、状況を変えるにはどうしても人が死ななくちゃならなくて、その結果たどり着くのは現実の社会と変わりがなさそうで、息苦しいような読後感。各エピソードの筆致にはとても引き込まれるけれど、本書を貫く背骨部分がどうにも苦手なのかもしれない。リアルで手も足も出なくって。

    2012/11/18 - 世界を制覇したカトリックが新技術の使用を禁止したら?というイギリス南部が舞台の歴史改変SF。開発されない土地とそこで生きる人たちの暮らしが地味に克明に描かれていて、読み心地はSFというより中世歴史物。自然や遠景の描写がなんとなく知っているイギリスとぴったり重なって、ちょっと行ってきた気分になった。

    場所も時代も少しずつ違う連作短編集で、それぞれに違う味わいがあるのだけれど、現実世界では主流たりえなかった技術とそれに携わる人たちを描いた第一話と第二話(機械が動くって楽しいですよね)、それにナウシカみたいな女の子が戦を指揮する第六話にわくわくした。

    自分として食べ足りなかった点。この改変された世界のしくみについてもっと読みたかった。教会勢力と英国国王の確執とか、「古い人々」はどれくらい彼らに介入しているのかとか。面白かった三つの話も、ぶっちゃけ外伝で読めればいいかなって。このロバーツの文章で世界の中心のドラマが読めたらそれは素晴らしかったのでは。

    あと、技術革新を抑制したいとか、だからエラい人が庶民のことは考えてやるっていう感性には抵抗したい気持ち。これは68年という時代背景もあるだろうけれど。人間より上位の存在って、いわゆるSFだったら簡単に受け入れてしまいそうなんだけれど、本書はとてもリアルなのでどうにも気になってしまった。

  • 1588年、英国女王エリザベス1世が凶弾に倒れた。 混乱に乗じたスペイン無敵艦隊が英国本土を掌握。 プロテスタントによる宗教改革は鎮圧される。 
    こんな設定から始まる、改変された世界(オルタネート・ワールド) 
    とにかく、改変された20世紀の描写がとても詳細。 ジプリアニメ(宮崎駿風味)がよく似合うガジェットが盛りだくさんです。 
    原作は1968年なので、その後に確立された「スチームパンク物」から比べると物静かなストーリーです。 
    終楽章で語られる、ある登場人物が息子へあてた遺書がある意味「ちゃぶ台返し:黙示録3174年」なんじゃないかと・・・
    初出はあのサンリオSF文庫。 ほんと名作揃いです。 

  • 2000年に亡くなったイギリスの作家が1968年に発表した作品で、
    16世紀ヨーロッパに普及した行列舞踏の意。
    英国女王エリザベス1世が愛好したために付けられたタイトルという。
    史実と異なり、エリザベス1世が1588年に暗殺されたところから始まる物語で、
    もし●●が××だったら――という仮定の下に展開するオルタネイト・ワールド小説。
    アルマダの海戦に勝利することもなく、スペイン無敵艦隊に侵攻され、
    英国はローマ法王=カトリックの支配下に入り、故に科学は弾圧される。
    従って産業革命も起きず、
    テクノロジーといえば蒸気機関車のみが発達した程度の暗鬱な世界を舞台に、
    そこで生きる人たちの姿が描かれる。
    序盤、地味な話だと思っていたら、ちゃんと後半のドラマティックな展開への布石が打たれていた!
    というより、本文(エラナーのセリフ)にあるとおり、
    始めから終わりまで『原因と結果』が見事につながっている(p.360)。
    第一旋律(第一章)の主人公ジェシー・ストレンジが失恋し、
    憂さを晴らすようにがむしゃらに働いた結果、
    会社は大きく成長し、財を蓄え……そのことが、後で、
    姪のマーガレットや、更にはその娘エラナーの役に立つのだった。
    姪を静かに慈しむジェシーや、女城主となったエラナーを献身的に支える執事といった、
    寡黙で器の大きいオジサンたちが素晴らしくカッコイイ。
    というか、この執事=ジョン・ファルコナーこそが陰の主役じゃないかと思うのだけど。
    第六旋律(第六章)でのエラナーとジョンの会話や大立ち回りには何度も鳥肌が立ったし、
    叙景も心理描写も細かく丁寧で、猛烈に引き込まれた。
    終楽章(最終章)での物語全体の〆は、ままあるパターンで、
    読む人によって好き嫌いが分かれるだろうけど、もの悲しさを引き立てていて、凄くいいと思う。
    それにしても、
    独立した幻想短編としても読める第二旋律(第二章)は痛い描写てんこ盛りで本当に辛い(涙)
    しかし、これも一つの機能の終焉の予兆として、結果へと「見事につながっている」のだった。

    【以下、詳細は非公開メモ欄へ】

  • スチーム・パンクと言えなくもない。。。文庫だから嬉しい~

    筑摩書房のPR
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480429964/

  • 「1588年、英国女王エリザベス1世暗殺。混乱に乗じたスペイン無敵艦隊が英国本土に侵攻。英国は欧州世界と共にローマ法王の支配下に入る。プロテスタントによる宗教改革は鎮圧され―。20世紀、法王庁の下で科学は弾圧され、蒸気機関車だけが発達。その閉ざされた「もう一つの欧州」でついに反乱の火の手が上がる。高い完成度と圧到的なリアリティを備えた不朽の名作。」

    ロバーツ,キース
    1935‐2000。イギリスの小説家。87年に長編小説『Gr´ainne』で英国SF協会賞長編部門を受賞

  • オルタネイトヒストリー物。短編をつないでSFの首尾をつけてるが、そんなんより手旗信号、蒸気機関など消えゆく技術に向けた執念めいた架空リアリズムにどっぷり浸る作品。

  • 短編の連作という形を取っているせいか、話の前後の繋がりが重要だと思い込んでいたので読み進め方に戸惑った。

    第二旋律の途中から面白くなってきて、終楽章まで一気に読んだ。
    時々遠回しな表現でまどろっこさを感じた部分もあったが、あまりに描写が細かいので、途中で改変歴史小説だというのを忘れてしまった。

    途中で疑問に思った点もあとがきのお陰で答えを得られた。
    読後、表紙の絵を改めて見返した。

  • 好:第三旋律「ジョン修道士」

  • 閑散とした大地を疾走する蒸気機関車。吹き上がる黒煙は寒空を覆い、耳を劈く汽笛は荒涼たる山間にきえる。灰色の雲は低く、強風に急きたてられて進む帆船の眼前に広がるは暗澹の大海。教会の祝詞が人々を包み、蒸気と手動の信号が国を往来する世界は、英国キース・ロバーツの歴史改変小説の傑作と名高い長篇「パヴァーヌ」です。

    1588年、英国女王エリザベス1世が暗殺され、混乱に乗じたスペイン無敵艦隊により英国本土が強襲される。プロテスタントの気運高まる英国は、カトリック・ローマ法王の支配下におかれ、欧州では大きなうねりと化していた宗教改革はついに鎮圧されてしまう。
    時はながれ20世紀、法王庁の弾圧により、科学の進歩は足踏みをしていた。そこはガソリン車が存在せず、蒸気機関車のみが発達し、信号塔と呼ばれる人力の通信技術が闊歩する世界。暗く閉ざされた「もうひとつの欧州」。しかし、ついに反乱の火の手があがり…

    あらすじのとおり、20世紀が舞台の小説ですが、雰囲気は中世ヨーロッパ。野盗に怯え暗く貧しい生活を強いられる平民と、権力を貪る教会/貴族の横暴が終盤のカタルシスに繋がります。が、本書にとっての魅力は、やはりこの改変世界に関する圧巻のリアリティでしょう。まるでこの世界が現実に存在していたかのような濃密な描写は、登場人物の息づかい、その吐息の冷たさまでもが目に浮かぶほど。その筆致は情景描写に限らず、貧しさのなかで必死に生きる人々の不鮮明な感情をも描きます。このリアリティがあるからこそ、閉ざされた世界に反発する人々の苦悩を味わい、その微妙な感情をわかち合うことができるかと。

    さて、物語は終盤、マーガレットが語る次の台詞がとても印象に残っています。
    「時々私、人生全体が意味の集まりだという気がするの。いろんな種類の糸が綴れ織りか錦のように縦横に織り上げられているのよ。だから一本でも引き抜いたり、断ち切ったりすれば逆に布全体の模様をすっかり変えてしまうことになるの。そうかと思うと今度は……全く意味なんかないんだという気もするわ。後から見ても前から見ても全く同じことで、結果が原因を導き、その原因がさらに結果を導いて行く……おそらく私たちが『時』の終わりまでたどり着いた時に、それが起こるのかもしれない。世界中がばねみたいにパッと勢いよくほどけて、それからまた最初に向かって少しずつ巻いて行く……」
    ちょっとメタ的な発言とも捉えられなくはないですが、協会による圧制のもと、人生を悲観めいて、そして第三者的に眺めるこの発言には、なんだか「もうひとつの欧州」のなかで実際に生きる人間の言葉をきいたような気がするのでした。

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