パルプ (ちくま文庫 ふ 50-1)

  • 筑摩書房
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感想 : 96
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480433473

感想・レビュー・書評

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  • たまになんだか良く分からない物語を読んで、「なんだったんだ、これは」という気持ちで終わるのは嫌いではない。怪作とか傑作とかの惹句に引かれて読んではみたが、怪作なのか傑作なのかは分からない。それを考察したほうが良いのかどうかも分からないから考えない。でも、時々こんな世界観のものを読んで楽しむのは好きだ。最初の3ページを読んでみて楽しめそうだなと思ったら多分受け入れられると思う。

    自称有能なダメ人間の日常はどこにでもあって、どうでもいいことの繰り返しの中にたまに何か興味深い出来事がある。そんなことはよくあることで、その興味深い出来事がハチャメチャでダメ人間もハチャメチャだとこの『パルプ』みたいな物語になるのかもしれない。主人公のニック・ビレーンは探偵である。このビレーンが好き勝手生きていい加減な人生を送り、色んな人たちを巻き込んで何もなし得なかったことは忘れない。

  • はは。無頼派ジジイ、チャールズ・ブコウスキー最後の作品にして、ハードボイルド風SFコメディ的無頼小説とでもとりあえず言っておけばいいや、っていう作品。
    文句あるか?文句のある奴はその2つの玉をむしり取ってハトにでもくれてやるぜ!
    女には無い!?そんなの関係あるか。何でもハトにくれてやる!!
    内容!?内容なんて何にもないんだよ。屁のようなものだ!
    自分じゃLA1の名探偵だと思っているニック・ビレーンが、死神からの死人調査の依頼だの、葬儀屋からの宇宙人を追い出してほしいという依頼だの、妻の浮気を調査してケツを押さえつける依頼だの、赤い雀を探せという依頼だの、時給6ドルでクソのような調査を一気に引き受けちまったはいいが、飲んだくれてケンカして馬券を買って、その合間にとりあえず調査しとこうという話さ。
    人生なんて、食べて飲んでクソしてそのうちこの世とおさらばする以外に何もないということよ。
    仕事?それなりでとりあえずやっていけるんだよ。
    人生に中身なんて何にもないんだよ。三文の値打もない。
    事件の解決?何か知らんが物事は勝手に解決していくのさ。
    何でもスピーディで脳みそが掻き回される感覚がヤバイかもな。
    自分がまともだと思うなら読むのはやめとけ。酒飲んでマスでもかいてろ。
    とりあえず、愛車のビートルをカブト虫と呼ぶのはやめてくれよな。
    もうこんなクソレビューを書いているのも飽き飽きしてきたぜ。じゃあな。

  • 「パルプ」
    ダメダメ探偵ビレーンの話
    なんでもありだな…色々気にする人なら読めないね。
    あと体調とかも悪いとだめかな…

    活躍というより四苦八苦
    ビシッと解決じゃなく、ダラダラ
    B級作品とわかってて楽しめるかどうかですね。暇つぶしに心地よく、まじめには読まず隙間時間で楽しみました。
    併読してる本が暗く辛過ぎて現実逃避のために読んだけど、こっちはこっちで頭がこんがらがるので、深く考えず汚い会話をただ楽しむだけにしました。

    ちょっと前に読んだ短編集で、主人公は地球外生命体と地球の存亡をかけた戦いに勝ち、神は全ての主人公以外の記憶を消して地球外生命体を消し去った。
    全ては主人公の夢として扱われてしまうことを悟り、主人公は絶望する。
    でも例え宇宙人が依頼人でも、おかしな奴らに騙されてもビレーンは絶望しない、ずっと絶望してるから。

    ダメダメでもなんとか転げ回って暮らす
    ビレーン。
    解説でブコウスキーが好きと言いづらいと書いてあったがなんかわかるかも「下層に寄り添う」って感じにとられかねない。
    そういうわけでもないけど、ダメな自分自身と重ねると、お腹周りの脂肪も増えてきたし…読むと気分を少しだけ正常に戻してくれるかも(※個人の感想です)

  • オビ文の「伝説の怪作」の文言に嘘偽り無し。
    高橋源一郎・万城目学両先生の推薦文も決して褒めてはいないのだが最大級の賛辞を寄せておられる。
    オビ袖の「『パルプ』の由来について」まで抜かり無く本作をB級小説だと強調している徹底ぶり。

    訳は柴田元幸先生。

    探偵、ニック・ビレーンは中年で腹が出ている。とりあえずすぐに酒を飲み競馬場に向かってしまう。ロクに推理もしない。舞い込む依頼は宇宙人を何とかすることや死神からの人探しなど。

    こんなに声に出して笑える探偵小説なんてなかなか無いだろう!


    また読んでみようかな。


    2刷
    2021.11.7

  • ずっと昔、中1の時に「くそったれ!少年時代」を読んで以来のチャールズ・ブコウスキー。読み進めるうちに当時の衝撃を思い出してきた。ずっと忘れてたのに、やはりあれは強烈な読書体験だったんだな。再認識。

    ハードボイルドな探偵小説だと思って読み始めたのに、全然なんじゃこりゃな代物だった。いい意味で。死神は出てくるは宇宙人は出てくるは、最後までめちゃくちゃかつテキトー。謎解きもアクションもまるで出てこない。

    題名の「パルプ」がそもそもアメリカで昔流行った大衆向けの安っぽい娯楽小説を意味する言葉らしいし、むしろこれは正しいパルプ小説だってことになるみたい。

    この主人公がどうしようもなくダメでみっともなくて痛ましい感じ。美女にモーションかけられてるのに美味しい思いをできない(意図的にしない)三枚目の感じ。刹那的で破滅的。常に飲んだくれてる。だけど憎めない。
    「くそったれ!〜」のチナスキーに通じるものがある。

    ストーリーはあってないような脱力系だけど、ところどころでグッとくるカッコいい一文がある。『俺を喜ばすのは難しくない。気難しいのは世間の方だ』とか。これがブコウスキーの味なんだろうな。

  • アメリカ文学や、アメリカの芸術について勉強していて出会った本。はっきりいってジャケ買いと、皆さんのレビューに一目惚れ。勉強は二の次になるほど面白かったです。正統派の『パルプ』。まさに本来の意味でのパルプ・ノヴェルでした。

    LA随一の私立探偵(自称)ニック・ビレーン。彼のもとに次々と入る依頼は、死んだはずの詩人、嫌われ者のセリーヌを探すこと。浮気中の妻の証拠探し。実在するかどうかも分からない『赤い雀』の捜索…。宇宙人から頼まれようが、うだつの上がらない人物から頼まれようが、同じ態度でニックは事に当たります。すなわち、人に話を聞き、酒を飲み、ぶちのめし…女とすれ違い、そして、ひとり。

    概要は他のレビュアー様の書かれている通りで、それ以上でも以下でもなく、一人の男が嘯き、飲んだくれて。そして終わる。そういうお話です。が…私は、この小説、とても静かな小説だなと思いました。切なかった。読んでいるあいだじゅう。

    すごく饒舌で、賑やかで、笑っちゃう内容で。間違ってもお上品なんかじゃない言葉遣いにも関わらず、ふるいつきたくなるような、ジューシーな女たちが出てくるにも関わらず、かなしく、せつなさがひとひら。スコッチ・アンド・ソーダに混ぜてある感じが、ずーっとしていました。いい感じに酔っ払わされ、ベッドに放り込まれて、手を出されるのかと思ったら、だぶだぶのパジャマを着せられた。そんな錯覚。

    「いい子だからそこで見ていな。ベイビー。アンタはこの街に紛れ込んだんだ。」

    もう一杯飲むの、とわがままを言えば、しようがねぇなと飲ませてくれて。キスしてよと口を滑らせれば、肩先にグラグラしたくちづけが落ちて。うとうとしていたら、窓ガラスの割れる音と銃声と、とぼけた喧嘩の声。背景にはさらさらと雨音。

    そうして。

    「物事はいつか終わるんだ。ベイビー。明日も明後日も続くように思うだろう?でも、唐突に終わるのさ。すっぱり、こうやって」

    ひらめくナイフを弄ぶ、ゆらゆらした男の声。

    「さあ、次に目が覚めたら、アンタはここにはいない。また会おう。シュガー。ベイビー。次があれば。」

    そんな、だらしなくて、どこかやさしい。
    ダメな奴の晩歌。
    女の私から見ると、そんな感じでした。

    コークスクリュー・コメディーだと思って読んでも正解。一応探偵小説だと思って読んでも正解。暇つぶしだと思って読んだら、大正解。きっと、世界で一番格好よくて、ろくでもない暇つぶし。

    最後に訳者の柴田氏に、盛大な拍手を。
    最高にクールな文章でした。

  •  再読。
     僕が読んだのは新潮文庫から出版されたもの。
     長らく絶版となっていたのだが、ちくま文庫から復刻されたので、嬉しくなって思わず買ってしまった。
     感想は以前読んだ時と殆ど変らないので、新潮文庫を読んだ時のものを以下に写しておく。

     はちゃめちゃに見える物語の中に、人間の真理をズバっとついたような文章が散りばめられている。
     まさに「パルプ」って印象を受けるけれども、実は何か大切なものが伝わってくるようにも感じる。
     探偵小説とかハード・ボイルド小説を期待したら裏切られます。
     まぁ固定概念に縛られないこと。
     それに、この探偵、やはりタフですよ、タフ。
     弱音は吐くし、しょっちゅう負けているけど、けっして逃げ出さない。
     充分にタフです。
     ラストで現れる「赤い雀」はやはり「死」のメタファーなのだろうか。
    「死の貴婦人」だけが最後まで彼のそばにいるのも、何かを暗示しているのだろうか。
     チャールズ・ブコウスキーの遺作。
     当作品出版直後に白血病で逝ってしまった。
     自身の死を暗示していたような気もする、ってのは深読みのし過ぎだろうか。

  • 正真正銘、ニック・ビレーンは史上最低の私立探偵です。ほんとうにサイテー。下品で、低俗で、どうしようもないクズ。

    ストーリーはビレーンのうだつの上がらない生活をただただ見守っているかんじ。堕落しきっている駄目人間・・・なんだけど、じわじわと親近感がわいてきてあっという間に読み終えていました。

    死んでいるはずの作家、死の貴婦人、宇宙人、そして赤い雀。そういうのがファンタジーではなくとてもリアルに感じられるのはビレーンの徹底した人間くささによるのでしょうか。

    ラストはなんかもう、「お疲れさま」って言ってあげたくなりました。

    なお、タイトル「パルプ」の由来については、あとがきで柴田さんが書いてくださっていて、
    “表題の『パルプ』とは、かつてアメリカで大量に出版され大量に消費された三文雑誌のことをさす。”(p.306)
    とのこと。

    消費する悲哀というか消費されていく無力感というか、なんというか。

  • 帯のセリーヌに呼ばれて読みました。
    荒唐無稽・意味不明な展開の狭間で、主人公がちょいちょいもらす「いつか死ぬし」「どうせ死ぬのを待っているだけ」みたい愚痴にはすごく共感できて、しんと静かな気持ちになった。
    下品だけど下劣ではない、その理由は、東山彰良さんの解説の以下の文章を読み、腑に落ちた。
    「上手く世渡りができず、いまにも爆発しそうな怒りを腹に呑んだまま生きているくせに、それでもなお悪いのは自分なのだと知っているすべての者のために、この小説はある。」
    人生の冴えなさの責任を他人に転嫁しないところに、なけなしの潔さがあったのですね。

  • 私立探偵のニック・ビレーンのもとに不思議な依頼が次々と舞い込みますが、彼の仕事ぶりは場当たりで無責任です。口先ばかりで話の筋とも関係なく競馬やバーでだらだらと時間を潰し、実際に作中の説明を読む限り終結までに少なくとも数か月は経過しているようです。探偵ものに限らずここまで怠惰な主人公を据えたものも、ちょっと珍しいかと思います。

    その日暮らしで惨めな毎日にもそれなりに満足しているようにも見えるニックですが、読み進むにつれて実は生きることに倦み疲れて深く絶望しているのではないかと、読み終わった頃に彼への見方を改めさせられました。

    とはいえお話としては、奇抜な登場人物が多数登場することでかえって起伏に乏しく単調で、似たような展開も多いため、あまり期待を込めて読むと裏切られるかもしれません。ページ数はそれほどではなく会話文も多いので読み通すのは容易です。

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著者プロフィール

1920-1993 ドイツ生まれ。3歳でアメリカ移住。24歳で初の小説発表、郵便局勤務の傍ら創作活動を行う。50歳から作家に専念、50作に及ぶ著作発表。『町でいちばんの美女』『詩人と女たち』等。

「2010年 『勝手に生きろ!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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