そこから青い闇がささやき ――ベオグラード、戦争と言葉 (ちくま文庫 や-60-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480438331

作品紹介・あらすじ

紛争下の旧ユーゴスラビア。NATOによる激しい空爆、戦火の中の人びとの日常、文学、希望……。戦争の実際を詩人が描く。解説 池澤夏樹

感想・レビュー・書評

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  • 山崎佳代子『そこから青い闇がささやき』NATOのベオグラード空爆を体験した詩人によるエッセイ集~そこで何が起きていたのか
    https://shakuryukou.com/2022/04/13/dostoyevsky698/

    そこから青い闇がささやき :山崎 佳代子|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309015644

    そこから青い闇がささやき 山崎 佳代子(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480438331

  •  1990年代、ユーゴスラビア内戦、それがあったことはニュース等で知っていた。民族間の対立により血が流され多くの人の命が失われたことや、その結果として構成国が次々に独立し旧ユーゴ連邦が解体してしまったことなど。

     一人ひとりのかけがえのない命が失われること、それまで隣人として共存していたのが突然◯◯人として敵扱いされ、家も仕事も失い“難民“となることの悲惨。そうした戦争によって人の人生がいかに変わってしまうのか、そしてそんな中、人はどうやって生きていけば良いのか、などについて、本書は実に沢山のことを教えてくれる。決して声高にではなく、人と人とを繋ぐ言葉を丁寧に紡ぐことによって。

     著者は大学卒業後、1979年ユーゴに留学し、その後ユーゴの大学で日本学科の教師をすらなどして滞在、91年のクロアチア内戦から始まるユーゴ内戦下、難民支援活動にも従事するなどし、99年のNATOによる空爆が始まってからもベオグラードに留まり続けた。
     その間に著者が出会った人たち、難民の人々、同僚、著者と同じユーゴの詩人、あるいは同じアパートに住む隣人たちと話したこと、感じたこと、出会いと別れが綴られる。

     当時のニュース等で知る限りでは、セルビアが完全に悪者になっていて、だからこそ経済制裁や空爆まで行われたのだなと思っていた。しかし、経済制裁により現実に困るのは市井の人々や治療を受けられなくなる病人であり、空襲は軍事関連施設をピンポイントで狙うとはいえ、普通の生活者だれもが等しく命を奪われる恐れがある。

     しかし、そのような厳しい現実であっても、人は生きていかなければならない。著者も決して悲観ばかりを語ることはない。たくさんの印象的な言葉や文章。

     「乱暴に踏みにじられ刈り取られ、火を放たれ毒薬を撒かれても、いつかまた種を落として根を張り、目立たない花を咲かせて実を結ぶ。」(115ページ)
     「大きな声、激しい音には、新しい命を生む力はない。…小さな声、かすかな音にこそ、力は潜んでいる」(174ページ)
     空爆のため亡くなってしまった隣人の二人の子どもたちを悼んで作られた「階段、二人の天使」の一節。(3ページ、179ページ)

     とりあえずユーゴ内戦は終わったが、世界では今も戦火が続いている。戦火の中で暮らす人々に思いを馳せ、何かできることを考えるために、重みの詰まった一冊。



  • 最初に載っている詩「階段、ふたりの天使」でいっきに引きこまれる。戦争の悲しさをこんなふうに表現するのは、すぐれた詩人にしかできないのだろうと思う。

    国と国の戦争といっても、そこに暮らす大多数の人は戦争を望んでいない。具体的な誰かをこらしめたくて攻撃しても、実際に傷ついているのは名もない知らない誰か。

  • 戦禍にあるユーゴスラビアに留まり過ごした、日本人詩人による人々の暮らし、文学、未来への希望を記した一冊。

    ニュースで見る、遠い異国の戦争のイメージは薄い。
    異国で戦争が起きると、そこに住む現地国民以外の人々は故郷へ「帰国」する。しかし山崎さんはそうしなかった。帰る場所を焼かれ「脱出」への出口も塞がれる人々、空爆の下で生活を営む人々、国連による「制裁」により受けられるはずの治療も無くなり死を待つ病院の人々の姿を描く。ロシア・ウクライナもそうだし、現在起きてしまったイスラエル・パレスチナ間の戦争状態に介入しようとする他国。戦争状態になくとも経済制裁の影響を受け困窮する一般市民は今も溢れている。

    戦争は起きてはいけない。しかし、実際に今も各地で戦争・紛争は起きてしまっている。本当に守られるべき、戦争に巻き込まれた人々の為に外部の人間がするべき事・出来る事の正解は何であろうか…考えさせられる。

  • 『何のために、私たちは異国の言葉を勉強しているのだろうか。』

    セルビア在住の詩人で翻訳家の山崎佳代子さんが、1990年代のユーゴスラビア内戦と、NATOによる空爆について、ご自身の体験を書いた本である。

    山崎佳代子さんはその著書の中で、「言葉が戦争を作り、人を殺す」ということを訴え続けているが、これはユーゴスラビア内戦の民族間の対立を、西側メディアがセルビアだけを悪者にして報じ、経済制裁と空爆で国家を追い込んだことを指している。

    冒頭の言葉は本書からの引用であるが、セルビアという国に惹かれ、留学・移住し、日本語・セルビア語両方で詩作を重ねてこられた上でのその言葉はとても重い。
    言葉を知るということは、同時にその国の文化や歴史、思想を知ることであり、同じ言葉を知る者同士で会話できるということである。
    その素晴らしさを伝えてくれる短く力強い一節に圧倒された。

    巻末には、文庫版出版に当たって2022年5月に書かれたメッセージがある。
    ご自身の体験を踏まえた上で、現在の世界情勢について言及されている。
    一人でも多くの人に今読まれることを願ってやまない本です。

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著者プロフィール

詩人、翻訳家。一九五六年生まれ、静岡市に育つ。北海道大学露文科卒業。サラエボ大学文学部、リュブリャナ民謡研究所留学を経て、一九八一年よりセルビア共和国ベオグラード市在住。ベオグラード大学文学部にて博士号取得(比較文学)。著書に『パンと野いちご』(勁草書房)、『ベオグラード日誌』(書肆山田)、『戦争と子ども』(西田書店)『そこから青い闇がささやき ベオグラード、戦争と言葉』(ちくま文庫)など、詩集に『黙然をりて』『みをはやみ』(書肆山田)、『海にいったらいい』(思潮社)など、翻訳書にダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』『死者の百科事典』(創元ライブラリ)などがある。 

「2022年 『ドナウ、小さな水の旅 ベオグラード発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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