大衆の国民化 ――ナチズムに至る政治シンボルと大衆文化 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (455ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480510297

作品紹介・あらすじ

ナチズムを国民主義の極致ととらえ、フランス革命以降の国民主義の展開を大衆的儀礼やシンボルから考察した、ファシズム研究の橋頭堡。解説 板橋拓己

感想・レビュー・書評

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  • 意義はある本なのだろうがおれには食べられる部分が少なすぎた

  •  ドイツからアメリカに亡命したモッセによる1975年刊行の歴史書。
    「ナチズムに至る政治シンボルと大衆文化」というサブタイトルが示すように、ナチズムは突然現れた異色のものではなく、19世紀から連綿と続いた大衆意識の根源的脈動が、国民主義の高まりによってナチズムへと必然的に流れ込んだのだ、という。
     本書を読み出して直ちに驚いたのは、nationalis(z)mが我々に親しい「国家主義」ではなく、「国民主義」と訳されていることである。「国家社会主義」ではなく、「国民社会主義」となるのだ。
     365ページ以降の訳者解説(1994年版)に詳しく書かれているが、どうやら我々日本人の概念把握が間違っているようなのである。「国家主義」と我々が捉えたナショナリズムは、人民ではなく「国家」という概念を至上のものと見定めた傾向と思われる。この場合、人民(国民)は国家権力に隷従し、自らの自由も幸福も犠牲にするような体制が想像される。
     対して、ナショナリズムを正しく「国民主義」と訳するとどう感じるか。それではまるで、庶民の権利や生活を第一とするリベラル的な考え方の意味になってしまうのではないか。・・・だが、これが長いこと日本語環境に馴染んできた者の勘違いなのである。「大衆の国民化」という本書の題がズバリと示すように、「大衆」が自らを「国民」として強く意識し、一体感に酔い、排外的な恍惚の中で「国」と「国民」が合一して自らの力量発揮をもくろむ。この「国民主義」の流れ・雰囲気に上手に乗って出現し、この流れを加速させたのがヒトラーのナチズムであって、突然出てきた独裁者があくどいやり方で権力を掌握し、それを濫用して国民を苦しめた・・・といった我々の従来の認識は、根底から間違っているということになる。
     こうした点において、本書を読みまさに目から鱗が落ちたようだった。
    「国民」という一体感(ある意味それは宗教である)のシンボルとして機能した建築や彫刻、祭祀などがこの暦書には詳しく記述されている。もちろんここでの「シンボル」は、カッシーラーやランガーの言うそれとは全然違い、とても狭義な意味を指している。だが読んでいくと、極大にまで肥大化した集団的自我としての「国民-統合性」がいかにランガー的な意味でのシンボル作用をしめしているか、つくづくと考えさせられた。
     ここで描出されたファシズムへ流れ込む「国民主義」は、大戦期の日本にも相当共通するものであろうと思われ、現在のネトウヨ界隈の脈動もまた、すこぶるこれに酷似している。現在またもや、「ナショナリズム」に親権に対峙する必要が出てきているのだ。

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著者プロフィール

ジョージ・L・モッセ(George L. Mosse)
1918-99年。ベルリン生まれ。ウィスコンシン大学・ヘブライ大学名誉教授。専門はドイツ社会史。1933年ナチスの迫害を逃れて亡命。37年ケンブリッジ大学入学。39年にアメリカ移住後、ハーヴァード大学で博士号を取得。著書に『大衆の国民化』(ちくま学芸文庫)などがある。

「2022年 『英霊 世界大戦の記憶の再構築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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