「働く」ために必要なこと: 就労不安定にならないために (ちくまプリマー新書 196)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480688989

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
     メインの主張を知るためには、表紙を開いてから140ページ捲らないといけないという斬新な構成。最後まで読み切れば全貌と概要が同時にわかる(ミステリーじゃないのだから、できれば最初に概要をおいてほしかった)。
     本書の主張を大雑把にまとめると次の通り。社会への不適応を起こしている若者がげんに存在する。(著者によれば)これらは現在の学校教育の指導や家庭が要因だろう。著者は解決案として、「若者たちが、自らの認知的なクセや特質を把握し、若者やその周囲の人々が協力して、若者たちが社会に適応できように目指す」という認知療法チックなものを提案している。

     わたしく的にはこの提案に首肯する部分が大。個人がどうのこうのできる範囲だから。ただし、こういった特定の問題を考察するさいに、社会の側を変える(環境を変える)方に触れていないのは気になる。個人の要素に多くを帰着させすぎては、せっかくの提案もよくある自己責任論になってしまう恐れがある。
     わがままを言うと、歴史的な視点もほしい。これまでにも、企業文化に不適応な人々は存在していたはずだろう。
     そして、現在中高年でも(程度に差はあれ)不適応な人は存在する。そこに触れないで、インタビューで不出来な若者を貶す意見を載せているので、無用な世代間対立を煽っているのでは? 「最近の若者は……」式の偏見を含んだ感想文がネットに転がっている(例えば読書メーターとか)。

     犯罪学や神経科学の知見を援用する著者の手腕の巧拙や本書の主張の妥当性等を判断することは素人の手にあまるので、専門家に委ねないといけない。この本は専門誌で書評されてたのだろうか? 

     ここから愚痴を書く。まず以下のような些細な点は無視しておく。
    (「社会への適応が無条件に前提になっていること」・「一応は社会に適応した大人たちも問題行動色々あるように思えるが、本書ではまったく触れていないこと」・「適応への〈保護要因〉をどのように増やしていくのか、具体案が少なすぎすること」・「本書の処方箋は遅効性なので大学生が読んでも手遅れ気味に思えること」・「この本のタイトルは『あなたの子供を就労不安定な若者にしないために』等のように明確にすべき」・「第二章の節タイトルが下手」等)
     一番の欠点は構成。冒頭の重いインタビュー群が惹起する問題の大きさ・複雑さと、後半の解決案の適用できる範囲とが、まったく釣り合っていない。竜頭蛇尾な構成で期待すかしだった。ついでに言うなら、噛み合っているかも怪しい。

     最後に、他の読者が納得いかなさそうな論点も挙げておく(わたしく的には優先度低い)。
    ①キャリア指導・進路指導が若者の社会への不適応を助長したのか?(2章)
    ②大学が就職予備校になった?(2章)
    ③本書の言う「自立した大人」は現実味があるのか?(3章)
    ④「企業側の言い分」では、特殊な若者の例を挙げているのでは?(1章2節)


    【書誌情報】
    著者:品川裕香[しながわ・ゆか] (1964-) 教育ジャーナリスト
    定価:本体820円+税
    Cコード:0236
    整理番号:196
    シリーズ:ちくまプリマー新書
    刊行日:2013/05/07
    判型:新書判
    ページ数:208
    ISBN:978-4-480-68898-9
    JAN:9784480688989

    ◆たとえ東大を卒業しても、働きつづけられなければ、意味がない!
     せっかく就職したのに三年以内に離職する人、約30%。経験者扱いもされず卒業後四年めからは新卒扱いにもならない。正規採用への道は困難だ。なのに、働きつづけられないのはなぜなのか。「就労支援」の現場から見えてきた、「働く」ために必要なこと。
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480688989/

    【簡易目次】
    序章 未経験者が正社員になれるのは、基本的に新卒のときだけ 007
    第一章 「働く」がわからない 014
    1 仕事に定着できない若者たちの言い分 014
    2 企業側が理解できない新人たちの増加 058
    3 両者の言い分から見えてくること 074
    第二章 教育現場や家庭では何が起こっているのか 082
    1 就職予備校になっている大学 082
    2 小学校・中学校・高校でやっていること 101
    3 小学校・中学校・高校の課題はどこにあるのか 123
    第三章 社会に適応できる、自立した人間になるために必要なこと 135
    1 「自立する」とはどういう意味か 135
    2 リスク要因と保護要因という考え方 141
    3 教育現場をリスク要因と保護要因の視点から見てみる 149
    4 家庭環境をリスク要因と保護要因の視点から見てみる 155
    第四章 自分の特性を理解すれば、道はきっと開ける 161
    1 第一章に登場する若者たちは、なぜうまくいかなかったのか 161
    2 「自己理解」から始めよう 168
    終章 明日を変えるために 194


    【詳細目次】
    目次 [003-005]

    序章 未経験者が正社員になれるのは、基本的に新卒のときだけ 007
      仕事に定着したいのにうまくいかない若者たち 
      フリーターやニートが正社員になるのはむずかしい
      新卒枠のタイムリミット三年の実態
    註 013

    第一章 「働く」がわからない 014
    1 仕事に定着できない若者たちの言い分 014
      ケース1
      大きな悩みもなぬ、フツウに過ごせた小中高校そして大学
      いろいろやって中堅のメーカーに就職、そして二年で退職
      一年以上就活したがうまくいかず、“とりあえず”派遣社員に
      気がつくと卒後四年で、やりたい仕事はまだ見つからない
      なんでこんな目に遭うのかわからない
      ケース2
      同級生とはソリが合わなかった中高時代
      気がつくといつも面接で落とされていた
      派遣でうまくいかずウツになる
      なんで単純な仕事一つできないのかわからない
      ケース3
      よかったのは入社まで
      新人にはもっと計画的に指導すべき
      この業界はどこも同じと言われ、自分はもつ無理だと思う
      オレらは政治や教育の被害者
      ケース4
      エントリー八十社会に落ちてさ、大学院に
      就職できたし、コミュニケーション能力には自信があった
      自分にもっと合った仕事があるはず
      退職から二年、引きこもりに
    2 企業側が理解できない新人たちの増加 058
      ケース5
      遅刻しても電話一本なく、寝坊したので諦めた、と説明
      会議室に呼んで事情を聴いたらパワハラと主張
      ケース6
      ケース7
      見習い中に先輩に嫌がらせをうけウツになる?
      一方的にフェイスブックに書き込み
      ケース8
      ミスを指摘すると嫌がらせだと受けとる
      “お互い様”は通じない
    3 両者の言い分から見えてくること 074
      「働く」ことを誤解している若者が多い
      人としての基本的な土台が脆弱
      若者たちの不満、企業側の戸惑い
      社会人になる準備ができていない若者を企業が持てあます

    第二章 教育現場や家庭では何が起こっているのか 082
    1 就職予備校になっている大学 082
      キャリアセンターがやっていること
      三年生の就活に向け、あの手この手でバックアップ
      保護者向け就職説明会を開催
      結局教えているのは、就職試験突破のノウハウ
      広島大学のキャリアセンター
      法政大学のキャリアデザイン学部とキャリアセンター
      就労支援は文部科学省主導
      学問よりも研究よりも就職が大事なのか
      「上げ膳据え膳の指導」が若者たちを躓かせる
    2 小学校・中学校・高校でやっていること 101
      ある小学校のキャリア教育
      好きなことを仕事にできるのは、家が金持ちか勉強がてきるヤツだけ
      評判のいいキャリア教育でも、ついていけない子どもがいる
      文部省・文科省がやってきたこと
      知識重視の指導の見直し
      ある中学生の職場体験
      社会人として生きるために必要な力が何か、具体的にはわからない
      社会に適応するにはコミュニケーション能力? 自己理解?
      キャリア教育では社会に適応する力は学べない?
    3 小学校・中学校・高校の課題はどこにあるのか 123
      イベント化するキャリア教育
      成果がないのは子どものせい、はおかしい
      大津の市立中学校舎で起きたいじめ自殺問題からわかること
      家庭に問題はないのか?
      学校も親もイマイチだと気づいたら

    第三章 社会に適応できる、自立した人間になるために必要なこと 135
    1 「自立する」とはどういう意味か 135
      自立のポイントは「他者とともに生きる」こと
      自立するための“武器”を獲得しよう
    2 リスク要因と保護要因という考え方 141
      「人とつながる力」は弾力を養うことから
      リスク要因を減らし保護要因を増やす
     [表] 146-147 
    3 教育現場をリスク要因と保護要因の視点から見てみる 149
      管理主義にのみ偏った教育はリスク要因を上げる可能性がある
      弾力は自分で身につけることができる
    4 家庭環境をリスク要因と保護要因の視点から見てみる 155
      なぜうまく子育てができなかったのかわからない母親
      自分で困難を乗り越える経験が保護要因を養う
    註 160

    第四章 自分の特性を理解すれば、道はきっと開ける 161
    1 第一章に登場する若者たちは、なぜうまくいかなかったのか 161
    2 「自己理解」から始めよう 168
      脳神経の特性にはどのようなものがあるのか
      考え方のクセ(偏り)にはどのようなものがあるのか
    註 193

    終章 明日を変えるために 194

    読書案内 [201]


    【抜き書き】
    □p. 160に掲げられた参考文献(斜体は二重カッコで代用した)。

    Bernard, B (1993), Fostering resiliency kids, 『Educational Leadership』 51 (3), PP. 44-48.

    Brooks, R (1994), Children at risk: Fostering resilience and hope, 『American Journal of Orthopsychiatry』 64 (4), pp. 554-553.

    Gottfredson, G (1987), American Education: American Delinquency, 『Today's Delinquent』, pp. 5-70.

    Hawkins, J (1995), Controlling crime before it happens: Risk-focused prevention, 『National Institute of Justice Journal』 229, pp. 10–18.

    Kats, M (1994, May), From challenged childhood to achieving adulthood: Studies in resilience, 『Chadder』, pp. 8-11.

  • 大学は就職のための予備校ではない。
    結局教えているのは就職試験突破のノウハウ。
    いくらニーズがあるからといってそれでいいのか。

    あれもこれもと先回りした上げ膳据え膳は、自ら解決を導き出す機会を奪う。

    お互いの人間関係が育ち、お互いに信頼や尊敬の気持ちが育ってはじめて、教育現場は安心安全な学びの場となる。

    自立とは誰にも頼らず一人で生きることではなく、他者とともに生きること。

    それは人とつながる力で、知る気付くでリスク要因を減らし保護要因を増やしてコントロールする、失敗しても適応していくしなやかな弾力を養う。
    自分で困難を乗り越える経験が保護要因を養う。

    脳科学的な特性と考え方のクセを知るという自己理解を行うこと。

    2016.10.

  • 昔から、お世話になってきたことのある著者、
    品川さんの本。
    ”発達障害”を(のみを)ターゲットにしたものではなく
    大きく一般的に働くことが、もしくは人とつながることが
    不得手な若者に対しての考察。分析と提言。
    なかなか面白く読みました。書かれてある内容は有用なもの
    が多いと思います。
    当社の中でも、極端ではありませんが、若者を中心として
    他人との関係性をうまく築くことが下手な人もいて。。
    そういう人にも有効なことが書かれてあると思います。
    保護要因を高めて、リスク要因を低減させること。
    当たり前といえば当たり前ですが、そういう人たち、
    あるいはほぼみんなに対して、重要なことであり。
    それは一部分としては、自分で獲得すべき内容もある
    ということ。そういうことを認識するために、認識させる
    ための環境を作ること。。。

  • 学校にいる間に、自己理解ができて、自己選択、自己決定できないと自己実現できないということだと思います。自己実現は自分のやりたいことをするってことだけではなくて、嫌なこととも向き合ったりすることなんだよね、と思います。
    助けて〜が言えないと、自分の力だけでは生きていけない。でも、この助けて〜というのが難しい。
    学校でのキャリア教育をする前にするべきこととして、自己理解があるだなーと。

  • 感想
    働くとは情報処理能力、コミュニケーション能力などを複合的に使いこなすこと。できない人がいるのも仕方ない。どのように手を差し伸べられるか。

  • 序盤、取材した「仕事に定着できなかった方々」の言い分をひたすら聞かされ(読まされる)、すごーい嫌な気持ちになりました。おまえが無能なくせに、無能な上司が悪い、若者が頑張っても報われないのは社会が悪いとか、言い訳してんじゃねえよ!と思いながら読みました。

    けど、最後の30ページくらい(!)で、仕事に定着できない人の多くは、実は脳神経の特性で「目で見たものを理解する」力や「一時的に物事を記憶する」力が弱かったり、協応動作と呼ばれる「大きな運動」と「微細な運動」を組み合わせることが苦手だったりして、しかもそれに気付いてない(自分も親も、普通だと思っている)場合があると。
    要領が悪いとか、真剣さが足りないとか、注意力が散漫だとか、つまりは「頭の悪さ」と「性格の悪さ」だと思っていたものが、ある種の「大きめの個人差」であるかもしれないと。全てを他人や世界の責任だと思ってしまうのも、世界を認識するときの人それぞれの「偏り」のせいなのだと。

    確かにそうかもしれない。彼らは悪ではないのかもしれない。
    けど、そういう若者が自分の部下になった時にはもう、手の打ちようがないことも分かってしまった。

    ひとつ言えるのは、政府主導の教育改革は、いつの時代も的外れだということだ。
    これ、僕の「偏り」ですから、許してね。悪気はないので。

  • 前半はひたすら仕事か出来ない人周辺のインタビューや、学校や家庭がダメだという主張が続き、気力的に読む気ぐ失せる。結論、自分の特性を理解し、その考え方のクセを改めようといったものだが、何をどうすればそれが出来るかを詳しく述べて欲しかった。
    解決策が見えないし、読んでいて精神的に疲れる。

  • ゆとり教育以降
    何のために働くのかわからない
    ネガティブ思考な主張

  • 岡野幸夫先生 おすすめ
    28【教養】366.29-S

    ★ブックリストのコメント
    正規採用への道は困難なのに、就職後3年以内の離職率が約30%という現実。なぜ働き続けられないのか。職場、社会に適応し、自立した人間になるために必要なこと、考え方を分かりやすく解説。

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著者プロフィール

教育ジャーナリスト、(株)薫化舎取締役副会長・発達性ディスレクシア研究会副理事長
『怠けてなんかない! サードシーズン 読む書く記憶するのが苦手な子どもたちが英語を学ぶとき』(岩崎書店、2020年)、『働くために必要なこと:就労不安定にならないために』(筑摩書房、2013年)など多数。読み書き困難等発達課題のある児童の指導を行う薫化舎らんふぁんぷらざ統括責任者HP:www.kunkasha.com

「2021年 『学習障害のある子どもが第2言語を学ぶとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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