源氏物語の教え――もし紫式部があなたの家庭教師だったら (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689993

作品紹介・あらすじ

シングルマザー紫式部が中宮彰子の家庭教師となり、宮中サロンを盛り立てるために書いた源氏物語。
そこには、女子が幸せをつかむにはどうしたらいいのか、自身の苦い思いと経験と、そして知恵が詰まっている。

『源氏物語』は面白い。そこに、「教え」やら「実用性」を見出すほど野暮な話はないだろう。が、今回、野暮を承知で、それを試みた。なぜなら、何が凄いって、大きな事件や動きがあるたび、あ、これって『源氏物語』に書いてあるのと同じ……というようなことがあるからだ。
(「あとがき」より抜粋)

感想・レビュー・書評

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  • 2018/10/19

  • 紫式部が源氏物語を通して伝えたかったことをわかりやすく解説している本。

    今年の大河ドラマ「光る君へ」の影響で気になって読み始めたが、当時の文化(通い婚など)を踏まえて源氏物語の描写がどういう意味を持つのか、が描かれており、大河を観ているとより楽しめる。
    紫式部は彰子の教育係という立場ではあったものの、それは決して立場が強いということではなく、人数(ひとかず)にも数えられないようなものと知り、私が思っていた以上に当時のヒエラルキーがあったことに驚いた。
    またパワハラだけでなくセクハラもかなりあったことにも驚き。何となく平安時代は雅で煌びやかなイメージしかなかったが、源氏物語には女性を”まわす””誰かの代わりに犯す”といった表現が堂々とセリフとして描かれているなど、女性にとって生きづらい時代だったと思う。社会的運動として改善され始めている現代に生まれた私よりもずっと苦しかったはず。

    「そんな時代、源氏物語では女性自身が強く、自立する必要性を「男は女の往生を妨げる罪深い生き物」として書かれている」という著者の表現はかなり興味深かった(「女は男の往生を妨げる罪深い生き物」として描かれる仏教説法との対比)
    「パワーカップル」や「キャリアウーマン」などの言葉が流行ってきたのは最近。これらの言葉は経済的な自立に近い意味だとは思うが、女性の自立という観点では1000年も前から同じことが言われていた。
    精神的な面で言えば、「親や男に決断を委ねるな」「他人から見てダメでも落ちぶれて見えても、自分自身がダメなわけでは決してない」という教えは今にも通ずる。紫式部自身もそんな考えを持ちつつ、「不倫」をテーマにした源氏物語を書いている。

    平安時代は一夫多妻制で、誰かの身代わりとして愛されることからも、「結局他人にとってあなたは代わりある存在である。でも、あなたにとってあなたの代わりはいない、かけがえのない存在である」ということは源氏物語からの大切なメッセージである。
    源氏物語において、なぜあんなに光源氏が関係を持つのか不思議だったが、そういうメッセージがあったのか、と考えると腑に落ちる。

    “わりなしや人こそ人と言はざらめみづから身をや思ひ捨つべき"(理不感ね。他人が私を人間扱いしないとしても、自分で自分を見捨てていいものか。いいはずがないよね)(『紫式部集』)”

    ーーー
    紫式部に関連するものだけでなく、古文にも関心を持つことができた。昔読んだ「あさきゆめみし」もまた違った読み方ができるかも。

    今まで古典は苦手意識があり、どこか遠い物語のような感覚だったが、いい意味でも悪い意味でも同じ人間。根本は1000年前から変わらないのだと思い、親近感が湧いた。大河も後押しして色がついて来た感覚が得られておもしろかった。
    自分が学生の時に出会えていたら、もう少し古典も頑張りたいと思えたかもしれない。

    若干同じ内容の繰り返しに感じるページもあったものの、全体的にはかなり興味深く読むことができた。

  • やりたい事は分かるけど構成は考えて欲しかった

  • 刊行されたタイミングで買って、ずっと積読になっていた(当時高校生だった長女はたぶん読んでる)。大河ドラマで「源氏物語」ブームなので、思い出して発掘してきた。大塚ひかりさんは、学生時代に『源氏の男はみんなサイテー 親子小説としての源氏物語』を読み個人全訳(現代語訳)も読んでいたので、大体の路線の想像はついていたが、この本はそのなかではかなりマイルドで、当時の読者(貴族たち)にとっての「物語」の立ち位置、女性たちへの教育の実態、この物語に託された紫式部の考え(自らの体験と広い見聞から得た女性が幸せに生きるための教訓)がわかりやすくまとまっているし、それ(自己肯定感や自己決定の大切さなど)が案外いまもまったく古びていないことがわかる。

    「光る君へ」は「紫式部日記」や当時の史実に基づきつつ「源氏物語」のさまざまな要素をまひろと道長の物語にちりばめたような構成になっているので、こういう知識があるのもドラマを楽しむ助けになるかも。

  • 紫式部は最高の家庭教師でしたね。
    だからこそ、彰子はあんなに成長した。
    昔から知っている『源氏物語』ですが、深い。
    研究していくと、どんどん深みにはまっていきますね。

  • 源氏物語が純粋な娯楽や文学ではなく、そこに平安の女子が現実を生き抜くためのメッセージが潜んでいたなら...という視点から読み解いた本。
    あながち検討外れでもなさそうなのが面白い。

    古典の授業で感じた、何故こんなにも気持ち悪い事をわざわざ物語にしてそれを面白く読んでいたのかという疑問が、この本を読むと少し納得した。
    現実と照らし合わせているのならば、若紫を拉致して妻にしたり、女性同士がドロドロの対立をするところを愛や憧れという綺麗な物で飾る事も腑に落ちる。

  • 大塚ひかりさんの独特の視点で書かれた
    源氏物語を実用書として読むとどうなるか。
    とても面白い!

    まず、源氏物語の時代には
    有力な実家の後ろ盾のない貧しい女性には厳しい社会で
    ブスは言うまでもなく、美人でも貧しければ
    人間扱いされない、と指摘する。
    だが、そんな環境でも、自分らしさを保てば
    ブスで貧しくても、生きられることもあるという。
    末摘花などがその例。

    一方、経済的に豊かで、美人なら、
    きちんとした扱いは受けるものの
    受け身で愛されるだけの女性(=なめられる女)は
    死ぬ運命にある、という。
    例えば、桐壺の更衣のように。

    そして、宇治十帖はダメ女たちの物語で、
    特に浮舟は、貧しくて、特に取り柄もないという
    最下層の超ダメヒロイン。
    その超ダメヒロインが自分の気持ちに気づき、
    自立に目覚めていくというのが、ラストシーン。
    このきっぱりした語り口には、感動した。
    は~、なるほど!

    ちなみに、源氏物語の中で最強の女は藤壺、という
    鋭い指摘。
    この人は桐壺に似ているというものの、
    人柄は全く似ていない。
    全然なよなよしたところはない!
    むしろ、不義の子を産むというものすごい大罪を犯しながら、
    しれっとその子を皇位につけることを考え、
    その実現のためには、不屈の意志で、
    自分も、かの光源氏もコントロールするというツワモノ。
    この視点で読むと、ホント、藤壺ってすごい女性。
    ホント、最強!
    やわなイケメン光源氏の敵ではない、って感じ。

  • 紫式部は、それまでのおとぎ話的な現実離れした物語ではなく、宮廷女子の抱える身近な問題のリアルな話を物語にしました。大塚さんは、「史上最強の家庭教師」が書いた幸せになる方法だとして、この本を書きました。
    https://www.honzuki.jp/book/285823/review/277338/

  • 「女系図でみる驚きの日本史」と同様に、同じものを素材にしても、扱い方ひとつで見え方が変わる面白さを味わった。

    平安貴族の「セクハラ満載の社会で女が生き延びる」ために、何が必要かを説く物語として読むことができるなんて。確かに、抄訳や「あさきゆめみし」でしか読んでなくても、全然光源氏ステキ、とは思えなかったんだけど、そうか、これは源氏をダシにさまざまな女の姿を描くことが主眼だった、かもしれないから、仕方ないんだ。
    もちろん、どんな物語からだって教訓は引き出せるわけだから、これが正しい読み方なのかは分からないけど。でも、こういう読み方もできるってことを知るのは、面白い。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/772843

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著者プロフィール

1961年横浜市生まれ。古典エッセイスト。早稲田大学第一文学部日本史学専攻。個人全訳『源氏物語』全六巻、『源氏の男はみんなサイテー』『カラダで感じる源氏物語』『ブス論』『愛とまぐはひの古事記』『女嫌いの平家物語』(以上、ちくま文庫)、『快楽でよみとく古典文学』(小学館)、『ひかりナビで読む竹取物語』(文春文庫)、『本当はひどかった昔の日本』(新潮社)など著書多数。

「2016年 『文庫 昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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