サウンド・ポスト (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.45
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本棚登録 : 178
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480815644

作品紹介・あらすじ

「トーチャン、音楽って言葉なんだ!」--英語がわからない父親と日本語がわからない娘が、オーストラリアの地でつむぎ、響きあう、言葉と音楽の物語。

感想・レビュー・書評

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  •  図書館で新刊の棚に置かれていたこの一冊。知らない作家さんで、題名の意味もよくわからない。手に取って装画を見ると、素敵な親子と楽器の絵が…なんとなく心が惹かれ、他にも読みたい本がたくさんあったのだけれど、この本を借りて帰りました。

    サウンドポストとは、ヴァイオリンの中に立っている柱のことで、日本語では「魂柱」と呼ぶヴァイオリンの心臓とも言えるパーツだそうです。

    オーストラリアに住み、フランス人の母、日本人の父を持つメグ。メグが幼い時に母は亡くなり、シングルファーザーになった料理人の崇。そのビジネスパートナーの瑛二も加わり、他人種が共生する異郷の地でメグを育てていく。

    メグは友達の影響でヴァイオリンを始め、没頭し、才能を開花していく。

    父親の、愛娘を、慣れない中、周りの助けを借りながらも、一人で必死にサポートしていく姿に心を打たれます。日本ではない土地でならではの壁にもぶつかりながら、弱々しくもあり、逞しくもあるトーチャン。二人目の父親のようなエーチャンは、一番好きな登場人物でした。

    音楽を勉強している身としては、ヴァイオリンの先生がレッスン中に発した言葉にも惹かれました。

    ☆もちろん、楽譜通りに弾くことは守らなければならない。楽譜は音の粒を紙に書きつけたもので、この曲を作った人に、「こんな曲ですよ、だから、こう弾いてください」と、話しかけられているのと同じ。どの曲にも作った人の思いが込められているのだから、それを無視することは失礼でしょ?でも、同じように話しかけられても、どう答えるかは、人それぞれ違う。みんな、それぞれ違うお話を持っている。

    ☆五線譜に引っかかって離れない音符も、その曲が生まれたときのことをちゃんと覚えているの。記号も音楽用語も、正確に思い出すためにあるの。メグ、楽譜に書かれていることには、一つ一つに意味があります。無駄な音、無駄なしるし、無駄な言葉はひとつもありません。そそれをどう弾くかは、あなたの心が決める。音楽は心で奏でるものなの。

    ☆意志を秘めた最初の一音が立ち上がったあと、その体はその楽器と同じく音を共鳴させるための伽藍になった。

    作者はオーストラリア在住だそうです。この本を読むきっかけになった装画は、伊藤彰剛さんという方が描いているそうです。この本に出会えて良かったと心から思いました。

  • 表紙の絵に惹かれて借りてみた。

    異国の地で、ある日突然愛する人を亡くし、父子家庭になってしまう。幼い子供を抱え、頼れる人もいない中、どれほどの悲しみ、不安だっただろう。

    英語が分からない父親と日本語が分からない娘は言葉での意思疎通が取れないが、バイオリンを習い始めた娘と一緒に父親もまたバイオリンを習い始め心を通わせていく。

    「トーチャン、音楽って言葉なんだ!」
    言葉は通じなくても音楽を通して通じ合うことができる。音楽の力ってすごいなぁと思う。

    トーチャンとメグが永遠に幸せであってほしいと願う。

  • 音楽と子育て。ともに正解が分からない。

  • 父娘の切ない成長物語。

    日本人の父とフランス人だった母の間に生まれたメグは
    オーストラリアで育つ。

    父娘の共通言語の音楽を
    父はシェフなので1番自分が理解しやすい料理の言葉に置き換えて
    娘への理解を深めていく。
    父が娘を誕生から次の世界へ送り出すまでの愛の物語。

    透明感のある文章が美しい。

    他国で暮らすということがどういうことなのか
    そういう意味も含めて
    オーストラリアの住んでいる日本人の作者が書いた小説を興味深く読んだ。

  • この作家さん、こんな作家さんだったっけ?
    『MASATO』『MATT』の青春小説っぽい作品以来だからか、意外。

    早くに妻を亡くし、3歳から幼い娘を、一人育てる父の物語は
    高倉健の映画のような・・・黙して語らぬ趣。

    それでも、多人種国家の中の文化ギャップを書き上げるのが
    得意な作家さんの持ち味が出ている。
    ここでは父と子が通じ合う言語を持たない設定!
    日本以外で暮らしたことのない私には、全くわからないのだけれど・・・
    そういう家庭が普通という国が、世界には、たくさんあるのだろう。
    作家さんの暮らすオーストラリアなど、筆頭かも知れない。

    その状況で、この父娘にはバイオリンがある。
    音楽のわからない板前の父は、バイオリンを料理に重ねあわせ、
    娘の音楽から、想いを言葉を感じ取る。

    (個人的には、同時に、音楽についても、深く感じさせられた)

    正直、予想通りの結末だったのだけれど・・・
    奇をてらわなくて良い。

    こんなオトナの心持ちも描けるのか・・・
    と、別の作品も読んでみることにした。

  • 胸が痛い。読んでいる間ずっとメグを応援し、不器用なタカに添い、お人好しのエーチャンに微笑み、なんて素敵な物語だろうと思いながら読み、最後に泣かされた。期待以上の作品だった。

  • オーストラリアで日本食の料理人をしている崇は、フランス人の妻との間にできた娘・メグと二人暮らし。妻はメグが3才の時に亡くなった。保育園に通うメグは、日常会話は英語になっていく。一方、崇は日本人の経営する店で働いていることもあり、なかなか英語が上達しない。そしてメグは、小学校に上がると友達の影響からバイオリンを習い始め、その才能を認められるようになる。

    異国での父子家庭として厳しい環境ともいえるが、良き仲間たちに支えられ成長していくメグ。オーストラリアの公立高校を卒業して、フランスの大学へ進学を決めるまでを描いている。
    フランスへ飛び立つメグを見送り孤独感にさいなまれながらも、亡き妻にしっかり生きることを誓う崇にエールを送ろう。

  • 母国の異なる父と娘が音楽を通じて心を通わせていく。以前読んだMasatoがとても良かったし表紙も良かったので購入。
    父親の娘に対する深い想いに共感するけれど、文章がなぜか翻訳っぽかったり心情が表面的に感じられて残念だった。

  • 読み友さんのレビューに惹かれて図書館にリクエストした本。思っていた内容とはちょっと違っていたけれど、とてもよかった。
    フランス人の妻に先立たれ、言葉の通じない3歳の娘を前に途方に暮れる崇と、幼いなりに自分の置かれた境遇を理解し明るく振る舞う娘のメグ。共通の言葉として音楽(バイオリン)に出会った2人は、それぞれにふさわしい父娘となっていく。
    子供に音楽教育を受けさせることの意義や、親としてどのように対処すべきかなど考えさせられた。まあ、今更考えても手遅れだが。
    ラストは切なすぎて泣けた。

  • 図書館の新着コーナーで表紙の親子のデザインが気になって...。

    小さい頃にお母さんを亡くし、日本語を話せないメグ。妻を亡くし、幼い娘をひとりで育てる事になった英語の苦手な崇。そんな2人の繋がりを深めていったのがバイオリン。

    -----☆-----☆-----☆-----☆-----☆-----

    音楽を続けるにあたって、色々な困難もあり親子でそれを乗り越えていく様子になぜか切なさを感じてしまう。なんのためにバイオリンを弾くのか、誰のために弾くのか...。弾きたいから弾くのではダメなのか。

    そして最後の結末に切なすぎて涙。

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著者プロフィール

大阪生まれ。2013年『さようなら、オレンジ』で第29回太宰治賞を受賞し、デビュー。同作で第150回芥川賞候補・第8回大江健三郎賞受賞・2014年本屋大賞4位。2015年刊行の『Masato』(集英社文庫)で第32回坪田譲治文学賞受賞。他、『ジャパン・トリップ』(角川文庫)、『Matt』(集英社)、『サンクチュアリ』(筑摩書房)の著作がある。

「2022年 『サウンド・ポスト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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