搾取都市、ソウル ――韓国最底辺住宅街の人びと (単行本)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480837219

作品紹介・あらすじ

貧困層の住宅「チョッパン」。住民の話や苦心の調査で新聞記者が明らかにしたのは、「見えない」富裕層による搾取の実態だった。韓国社会の闇に迫る渾身のルポ。

感想・レビュー・書評

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  • ここ数年、ドラマや映画、小説等で、韓国文化を楽しんでいる。裕福な人が豪邸で暮らす様子が描かれる反面、映画「パラサイト」の半地下の家族をはじめ、ドラマでは親に先立たれた貧しい子どもが屋上の家に住んでいたり…と架空の世界の話とはいえ、韓国の貧困家庭の住宅事情が気になっていた。

    読後、以前読んだキム・エランの著書のなかの言葉を思い出した…「すべての価値と信頼が滑り落ちてしまうこの絶壁、儲けばかりは上に上げ、危険と責任はいつも下に押しつけてくるこの急で危険な傾きという問題に、どうやって答えを見つけていったらよいのか」…この本に書かれていることはまさにそれだ。

    この夏の豪雨で、ソウルの半地下住宅が浸水し、死亡者も出たという。この本で問題とするチョッパンはこの半地下よりもさらに過酷な環境にある部屋である。猛暑の夏、彼らはどんな生活をしているのだろうか…胸が痛む。

  • 記者である著者が、貧困街の火災の取材をきっかけに、現代ソウルで生じる搾取の連鎖を認識していく。社会の大小の搾取に自覚的になることで、貧困を歴史的・階級的・構造的観点から区別できるようになる。

    また、第二部では、著者自身が20代で経験した、住民難民の実態を議論している。搾取が構造や制度に組み込まれることで、当事者が自覚できない・認識できない状態が作り出されることが明らかにされてる。

    訳者あとがきにあるように、これらの構造は日本にも共通要素があるように考えさせられる。近年、日本政治でも若者の貧困や構造的貧困といったテーマをよく目にするようになった。マクロ、ミクロ両方の視点から考えなければ、個人を救うことも、構造的貧困への適切なアプローチもできないということを、素人ながらに考えるようになった。

  • 日経新聞202257掲載

  • 後味悪い。

    もちろん内容はひどい。
    K国の裕福な資産家達が、劣悪な条件弱者の住居権を翻弄し、搾取している。これは許されることではない。
    という、記者の告発。

    その通りなのだが。

    だが。
    取材に当たっては、当事者に意図を隠し、取材であることも隠して接近して情報を取り、一言の告知もなく記事にする。当然のように騙した無的な苦情の電話があっても、言質を取られれば裁判で不利になるかもと、「親しく」なった取材対象にも一言も答えず、これであたしも一人前の記者になったのかと思ったとか。

    告発はいいんだが、案外、住んでる人達はしょうがないと思ってたりしてて。
    で、その搾取してる方の資産家達には、これっぽっちも取材しない。

    遠くから正義を振りかざして何もしない人。
    突然やってきて、なんとかしないといけないですと吠えてる、あなたが批判している政治家と、根っこのところはそう変わらない。

    じゃあ解決はなんなのか。
    絶対値としての家賃は安いにしても、坪当たりの単価は異常に高い。
    だから、家賃を下げるのか。
    それとも、居住環境を改善させるのか。
    なんも言わない。

    家賃が上がれば、住めない人も出てくるって、言ってるんでしょ。

    そもそも、ソウルなんてとこでなければ、まともな生活が出来ない。
    それが現実かどうかは知らないが、そうしないと「階級」が上がらないと信じているところが歪んでるんじゃないのかな。
    一部の「両班」にならないと人ではない、それ以外は全て負け組、俺は睥睨する地位に値する人間だ。

    そういうところが問題じゃないのかね。

    と、ちょっと思った。

    後味悪いわあ。

  • ふむ

  • チヨッパンは消え去るべきだろうか。人類史上、一度も解決されたことがない難題である貧困。こんな薄っぺらい質問では、結局「撤去か,存続か」という一元的な解決策しか導き出されない。
    と著者は書いている。(抜け出せないチヨッパンの囲い65ページ)

    若者の本当の貧しさは目には見えない。…韓国の貧困は、今や群れをなさずに「バラバラ」をになっていることで、その存在感は薄くなっている。(第二部 学生街の新チヨッパン 200ページ)

    この素晴らしい,まだ若いジャーナリスト,チヨッパンに住むのも取材で飛び込むのも大変そうな韓国日報紙の女性記者さんによる探査ジャーナリズム
    第一部,考試院の火災で焼け出された貧困住宅の人、上司に言われて仕方ない取材のためチヨッパンを訪れ、こんなところがあるのかとおどろきあとりつくしまもない新聞記者のイヘミさん。構造的なおかしさ,不正義に気付き探査報道に入って根気よく事実を突き止めていく様子にハラハラもするし、逞しくも感じた。
    一転して第二部では自らが学生時代住居貧困層として地方からソウルに出てきた幸運と努力の学生時代に転々と少しでも安い少しでもマシな劣悪住居を求めなみなみならぬ苦労をしていたことがなんとも堂々と語られるのだ。
    ここからの学生や学生もどきの人らが餌食となっている学生街の新チヨッパン,ミニミニワンルームというような違法建築に暮らす若い人たちの現実と精神的現実逃避に切り込んでいく。
    最後の考察が素晴らしい。他の新聞社の調査で、韓国の若い人が生きる上でたいせつなものも選んだのは,健康,経済的安定。各自図生カクチャドセンという言葉で切実に表される韓国社会、日本でも失われた30年に言われ続けたのは若者も年寄りも自己責任,自助。
    小さくても確かなしあわせという村上春樹の言葉が、韓国台湾での流行り言葉として、小確幸ソファクヘンとして引かれている(私個人的にはこういうところが,村上春樹好きじゃない理由だけど)小確幸の意識構造。ソウルに出てきた大学卒業した正社員になれた。今はミニミニワンルームもとい新チョッパン暮らしだけど,チヨッパンや考試院に埋もれているおじさんおばさん高齢者たちとは違う今は一時的、自分の未来は今よりはよくなるだろうという、若い世代にあるべき希望成長展望ではなく,少しでも安定すれば今より良くなればという身体に染みついた諦念。これはもはや,公助,社会的な機能やサービスには期待も保障も無いことを感じ取り自分が今より少しでも良い部屋に少しでも高い給金に少しでも安定を感じられたら良いということになるのだ。
    部屋をベニヤて割り小さくしてその中に息を潜めて小さく暮らす彼らは、隣の貧困住居層の人とも関わらないし,自分のささやかな暮らしの上昇のみを期待して、また分断と格差が広がるだけだろう。
    チヨッパンのおじさんおばさんも新チヨッパンの学生や若者もとにかく切り刻まれた部屋同様に切り離され細かくバラバラな存在にされている。
    こんな人たちに子供を産め次世代を作れ再生産しろ,と要求してよいのか、と強く問いかける。
    何処も同じこの国も同じ。

    パラサイト半地下の家族が公開され時にも、半地下の劣悪環境に暮らす日本の若い女性の話がブログがなにかにあり、この本を読みながらも気になり検索したら、やはり考試院やミニミニに,家賃と収入の折り合いつけると仕方ないか,給料上がるまでの辛抱,それでも憧れの韓国ソウルで働くことに引き換えたら我慢できると、、、

    伊東順子さんの解説,丁寧の翻訳洞察共感力も素晴らしい。

    構造的な貧困ビジネス,搾取,格差の放置と拡大に加担するシステム。

  • チョッパンというのは部屋を細かく区切った住居のことで、最近の韓国、特にソウルに多いという。
    もともとワンルームだった部屋を3つや4つに区切ることで全体の利回りを上げるためにやっている。これは貧困ビジネスだ、搾取だというのが著者の主張。

    彼らの悲惨な暮らしぶりは気の毒に思うが、日本にいる者からすると、なぜそこまでしてソウルに拘るのかが理解できない。日本もそりゃ、普通の収入で六本木で暮らそうと思ったら、とてつもなく狭い住居でがまんしないといけないから皆、千葉や埼玉に住んだり、出身地で就職したりするのだけれど、韓国社会はそのへんが整備されていないんだろう。
    韓国では保証金が高いほど家賃は低くなり、家賃は月30万ウォンでも保証金が2000万ウォンほどのアパートは多い。中にはチョンセといって保証金だけのものもあるとか、不動産の慣習も国によって色々違うんだなぁと思った。

  • 前にTVで見た番組を思い出した。それはホームレスを集め、住まわせ、生活保護を受給させては、家賃だ食費だと言ってその生活保護のお金をけっこうな割合で払わせるというシステム。
    それを一概に良い悪いと判断はしないが、なんとか
    生きてはいけるし、少しは自分の趣味や嗜好品に当てられるが決して抜け出すことはできないだろう生活。
    あの番組がふと頭の中によみがえった

  • 洒落にならなかった。10年ひと昔。
    韓国の2030世代の感覚、不動産問題、居住権の問題の一端に触れ、少し分かることができたように感じた。
    巻末の訳者解説だけでも目を通す価値あり。

  • 2018年11月9日に発生した国一考試院(クギルコシウオン)での火災で亡くなった命。それは韓国社会において都市の透明人間のような見えない者とたちの生命だった。チョッパン、考試院、旅人宿・・・一人の若者がソウルで元手もなく生活を始めるにあたってまず検討する住まいである。日本の賃貸住宅には民法・借地借家法が適用され、賃借人の人権や生存権を最低限守るセイフティーネットがあるが、韓国には一度転げ落ちたら底なしの底辺が待っているその日暮らししかない住環境がある。本書に描かれているような韓国社会に潜む闇を報道できる韓日日報が存在するということは韓国社会にも日本と同じような民主主義の価値観・報道の自由があるのが確認できたが、やはり韓国は我々が想像する以上に格差社会である。

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著者プロフィール

2015年釜山日報に入社。その後、韓国日報に。企画取材部などを経て、現在政治部。韓国女性記者協会「今年の女性記者賞」、韓国記者協会「今月の記者賞」、「今年のデータ基盤探査報道賞」「オンライン・ジャーナリズム・アワー大賞」など受賞。

「2022年 『搾取都市、ソウル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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