- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480857927
作品紹介・あらすじ
アスファルトの下、累々…。震災と大空襲の両国。小伝馬町の牢屋敷跡、小塚原の仕置場跡…。無数の骨灰をめぐり、忘れられた東京の記憶を掘り起こす、鎮魂行。
感想・レビュー・書評
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こういう歴史もありか。地層のように過去の人たちが地表に顔を出しているのですね。読んだ後に新宿に行くことがあったので、成覚寺(子供合埋碑)をお参りしてきました。
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[そこは、黄泉の大都会]高層ビルが林立し、人々が忙しく行き交う東京。そんな現代的な都市の薄皮を、ぺらっとめくってみれば現れる数多の骨灰を巡りに、霊園や牢屋敷跡をぶらぶらと尋ねる一風変わった東京案内です。著者は、詩作などの多彩な文筆活動で知られる小沢信男。
今まで見たことがない東京の顔を知ることができる一冊。無機質に、それでいて活気溢れて見える街が、こんなにも死(本作の中ではあくまで柔らかいものとして捉えられているのですが)と隣り合わせになっているとは思いもしませんでした。それでいて本書から漂ってくるからっとした雰囲気はいったいなんだろう......。
〜都会という不自然な形態は、いかに不自然な死者たちを絶えず生じさせることか。その無量の屍たちのうえにこそ、おかげさまで、多様な町暮らしの喜怒哀歓が、営々とくりひろげてこられたのだなぁ。そのこしかたを忘れはてた集団に、崩壊以外の、どんな未来がありえようか。〜
また東京に帰れる日が楽しみだなぁ☆5つ -
ヨーロッパにしてもアジアにしても、きっどどこでもそうだろう。都市は大抵、多くの災害や人災の死屍累々の上に成り立っている。そのことを、ともすれば、今現在生きて繁栄を享受している者たちは忘れてしまいがちになる。考えないでいたがる。
2009年初版ということで、東日本大震災以前に書かれた本であるが、天災人災への言及は、まるでその後に書かれたかのようである。震災後の政府の対応などを預言しているかのようでもある。 -
なんとなく知っていたこと、と、いつも何の気無しに出歩いている場所がつながる。死んで墓があるということはその人が存在していた、ということで、死んだ後も名前だとか墓碑だとかあれば、それもまた後々に誰かが見守ってくれるから存在する、とは甘いか。
無縁仏ということばが、孤独死ということばが、妙にリアルに親近感を以て感じられる。総霊塔、忠魂碑…人知れず、生きた人は世の中に数知れず。そういう自分も間違いなく同様に。
地下鉄サリン事件の、本所被服廠の…地震、火事、竜巻…上野戦争の、ご一新の…吉原、回向院。現実は歴史になり、風化していくのだとしたら、誰かが何か残さねば。しかし自分が残せるのは風の中の塵のような、骨粉か。
着眼点の鋭さに、舌をまく。頭が下がる。 -
アスファルトとビルに覆われた東京。空には高速道路、地下には
縦横無尽に張り巡らされた地下鉄網。
そんな東京も、江戸の昔から辿れば災害と戦争の街だった。そんな
東京の死者を祀る場所を巡る本である。
日光街道から江戸への玄関口・千住、東海道からの玄関口・鈴が森。
一定の年齢の人であれば、そこが刑場であったことを記憶しているだろう。
今では恩賜公園の上野の山では戦場となり、江戸の大家と大地震で、
東京は死屍累々の街だった。
東京メトロ日比谷線・三ノ輪駅の近くには吉原の遊女たちの供養塔、
両国回向院には鼠小僧の墓。東京の文学散歩は有名だが、有名人の
墓巡り散歩を好む人たちも多くいる。
本書の文体は少々苦手だが、死者を辿る東京散歩もまたいいのではないか。
尚、南千住駅再開発の時、地下から人骨がざくざく出て来たなんて話は
東京の地下に多くの死者が今でも眠っているのだなと思わせる。
うぅ…散歩へ行きたい。 -
ここのところ高齢者の本を読む機会が多い。
筆者は花田清輝、長谷川四郎と交流があったとのこと。
良い本だった。三ノ輪のあたりに行ったことを思い出す。 -
【配架場所】 図書館所蔵なし
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全く存在を知らなかった本だが、朝日新聞読書欄の「ゼロ年代の50冊」に入っていたので読んでみた。「江戸」にも「東京」にもさしたる思い入れのないこととて、ぼんやり読み始めたのだが、じわじわ引き込まれていって、最後までたどり着いた時にはずっしりとした感慨が胸に迫ってきた。
タイトルの通り筆者はひたすら東京に残る「骨灰」を尋ね歩く。巨大都市東京が何と多くの屍の上に築かれていることか。それは東京に限ったことではないけれど、その規模の大きさ、変貌のすさまじさが圧倒的なのである。
綿々と続く土地の記憶をすっぱり断ち切り忘れ去っていくことを良しとするような時代に私たちは生きている。過去はノスタルジーの対象としてのみ振り返られる。傲慢、としか言いようがない。
作者の語り口は実に独特だ。道連れの人に語りかけるような口調で、東京の街角が目の前に現れてくる。おじいさんに案内してもらって歩いているような感じか。でもこのおじいさん、しばしば、ずーんと胸にこたえることを言うのである。心に残る1冊になった。