東京骨灰紀行

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480857927

作品紹介・あらすじ

アスファルトの下、累々…。震災と大空襲の両国。小伝馬町の牢屋敷跡、小塚原の仕置場跡…。無数の骨灰をめぐり、忘れられた東京の記憶を掘り起こす、鎮魂行。

感想・レビュー・書評

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  • 読み出しの最初は「江戸っ子気取りのジジイが東京の墓や史跡めぐって、お江戸自慢するエッセイか」と思って、なんだか乗れずに読み流していたんだけど…。

    全くの認識違い、江戸から東京を襲った、天災人災の数々を墓地と史跡から振り返るフィールドワークの記録なのである。語り口が軽妙洒脱で学術の臭いが薄いから、ついついエッセイのように読んでしまうが、油断していると鋭い切り口に「え?」と読み直すことになる。

    「諸君は興業をなしたまえ、私は忠義をするさ」の吉田松陰が戦中、滅私奉公の手本となってしまう様の記述、後藤新平の帝都改造計画を昭和天皇が振り返るあたりの記述など、鋭いだけでない辛辣さが所々にひょいと顔を出す。その都度ページ繰る手が止まり、ちょっとした思案タイムが生じる。それが良い。

    江戸明暦の大火、安政の地震、上野の彰義隊(江戸城無血開城は愚かな人間による数少ないマシな行為なのかも)東京になってからの、関東大震災に東京大空襲。
    実はこれら、単発の事故事件ではなく、連綿とつながる歴史なのだということ。そして天災で無力に死んでいく数万の命、再発防止に取り組んでもさらなる悲劇が見舞い、さらに多くの散っていく無力な人間の命。

    何よりもむなしさを覚えるのが、それまでの天災事変を合わせたよりはるかに多くの命を奪っていったのが戦争(東京大空襲)であったこと。当時の日本人はなぜあんな道を選んでしまったのか?亡くなった一つ一つの命の口惜しさを感じるとともに、政治家指導者と言われる連中の怪しさアホさに、情けなくなる。

    そのアホさは過去のものではなく。令和の世も連綿と続いている。
    その一例が、来年のオリンピックである。マラソン競歩が札幌で開催されるのは、気候のせいだけではない。スポーツのすがすがしさとはほど遠い、政治と利権がほの暗いジメジメとした一面なのだから。作者はあのオリンピックをどう見てるのだろうか?

  • こういう歴史もありか。地層のように過去の人たちが地表に顔を出しているのですね。読んだ後に新宿に行くことがあったので、成覚寺(子供合埋碑)をお参りしてきました。

  • [そこは、黄泉の大都会]高層ビルが林立し、人々が忙しく行き交う東京。そんな現代的な都市の薄皮を、ぺらっとめくってみれば現れる数多の骨灰を巡りに、霊園や牢屋敷跡をぶらぶらと尋ねる一風変わった東京案内です。著者は、詩作などの多彩な文筆活動で知られる小沢信男。


    今まで見たことがない東京の顔を知ることができる一冊。無機質に、それでいて活気溢れて見える街が、こんなにも死(本作の中ではあくまで柔らかいものとして捉えられているのですが)と隣り合わせになっているとは思いもしませんでした。それでいて本書から漂ってくるからっとした雰囲気はいったいなんだろう......。

    〜都会という不自然な形態は、いかに不自然な死者たちを絶えず生じさせることか。その無量の屍たちのうえにこそ、おかげさまで、多様な町暮らしの喜怒哀歓が、営々とくりひろげてこられたのだなぁ。そのこしかたを忘れはてた集団に、崩壊以外の、どんな未来がありえようか。〜

    また東京に帰れる日が楽しみだなぁ☆5つ

  • ヨーロッパにしてもアジアにしても、きっどどこでもそうだろう。都市は大抵、多くの災害や人災の死屍累々の上に成り立っている。そのことを、ともすれば、今現在生きて繁栄を享受している者たちは忘れてしまいがちになる。考えないでいたがる。

    2009年初版ということで、東日本大震災以前に書かれた本であるが、天災人災への言及は、まるでその後に書かれたかのようである。震災後の政府の対応などを預言しているかのようでもある。

  • なんとなく知っていたこと、と、いつも何の気無しに出歩いている場所がつながる。死んで墓があるということはその人が存在していた、ということで、死んだ後も名前だとか墓碑だとかあれば、それもまた後々に誰かが見守ってくれるから存在する、とは甘いか。
    無縁仏ということばが、孤独死ということばが、妙にリアルに親近感を以て感じられる。総霊塔、忠魂碑…人知れず、生きた人は世の中に数知れず。そういう自分も間違いなく同様に。
    地下鉄サリン事件の、本所被服廠の…地震、火事、竜巻…上野戦争の、ご一新の…吉原、回向院。現実は歴史になり、風化していくのだとしたら、誰かが何か残さねば。しかし自分が残せるのは風の中の塵のような、骨粉か。
    着眼点の鋭さに、舌をまく。頭が下がる。

  • (要チラ見!)

  • アスファルトとビルに覆われた東京。空には高速道路、地下には
    縦横無尽に張り巡らされた地下鉄網。

    そんな東京も、江戸の昔から辿れば災害と戦争の街だった。そんな
    東京の死者を祀る場所を巡る本である。

    日光街道から江戸への玄関口・千住、東海道からの玄関口・鈴が森。
    一定の年齢の人であれば、そこが刑場であったことを記憶しているだろう。

    今では恩賜公園の上野の山では戦場となり、江戸の大家と大地震で、
    東京は死屍累々の街だった。

    東京メトロ日比谷線・三ノ輪駅の近くには吉原の遊女たちの供養塔、
    両国回向院には鼠小僧の墓。東京の文学散歩は有名だが、有名人の
    墓巡り散歩を好む人たちも多くいる。

    本書の文体は少々苦手だが、死者を辿る東京散歩もまたいいのではないか。

    尚、南千住駅再開発の時、地下から人骨がざくざく出て来たなんて話は
    東京の地下に多くの死者が今でも眠っているのだなと思わせる。

    うぅ…散歩へ行きたい。

  • ここのところ高齢者の本を読む機会が多い。
    筆者は花田清輝、長谷川四郎と交流があったとのこと。
    良い本だった。三ノ輪のあたりに行ったことを思い出す。

  • 【配架場所】 図書館所蔵なし

  • 全く存在を知らなかった本だが、朝日新聞読書欄の「ゼロ年代の50冊」に入っていたので読んでみた。「江戸」にも「東京」にもさしたる思い入れのないこととて、ぼんやり読み始めたのだが、じわじわ引き込まれていって、最後までたどり着いた時にはずっしりとした感慨が胸に迫ってきた。

    タイトルの通り筆者はひたすら東京に残る「骨灰」を尋ね歩く。巨大都市東京が何と多くの屍の上に築かれていることか。それは東京に限ったことではないけれど、その規模の大きさ、変貌のすさまじさが圧倒的なのである。

    綿々と続く土地の記憶をすっぱり断ち切り忘れ去っていくことを良しとするような時代に私たちは生きている。過去はノスタルジーの対象としてのみ振り返られる。傲慢、としか言いようがない。

    作者の語り口は実に独特だ。道連れの人に語りかけるような口調で、東京の街角が目の前に現れてくる。おじいさんに案内してもらって歩いているような感じか。でもこのおじいさん、しばしば、ずーんと胸にこたえることを言うのである。心に残る1冊になった。

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著者プロフィール

1927年生まれ。東京・銀座西8丁目育ち。日本大学芸術学部卒業。大学在学中の52年、『江古田文学』掲載の「新東京感傷散歩」を花田清輝に認められ、53年に「新日本文学会」に入会。以後、小説、詩、俳句、評論、エッセイ、ルポルタージュなど多ジャンルにわたり文筆活動を行う。著書に『私のつづりかた』『東京骨灰紀行』『裸の大将一代記』『悲願千人斬の女』(以上、筑摩書房)、『俳句世がたり』(岩波書店)、『通り過ぎた人々』(みすず書房)、『捨身なひと』(晶文社)、『本の立ち話』(西田書店)などがある。

「2012年 『東京骨灰紀行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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