最後の語り部

  • 東京創元社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488011246

作品紹介・あらすじ

十三歳のペトラは家族と共に崩壊目前の地球を脱出し新天地を目指す植民船に乗る。物語を聞かせてくれた大好きなおばあちゃんを残して。目的地に到着するまで眠っているあいだに、ペトラの脳には膨大な民間伝承や神話がインストールされる。そしてまた家族一緒に暮らすはずだった。だが目覚めたとき……。ニューベリー賞、プーラ・ベルブレ賞受賞。過去の記憶と想像力を失った世界で物語を武器に戦う少女を描く、最後の語り部の物語。

感想・レビュー・書評

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  • ★5 彗星衝突のため地球を脱出した少女。睡眠から目覚めると画一的で理想的な社会で… #最後の語り部

    ■あらすじ
    地球にハレー彗星が衝突してしまう西暦2061年の近未来。限られた一部の人間だけが宇宙船で地球を脱出をすることができた。
    宇宙船に乗り込んだ主人公の少女ペトラとその家族は、新しい住処である星へ移動するため、380年間の長時間睡眠をしていた。
    そして長時間の移動を経てペトラが目覚める。目の前には家族の笑顔があるはずだったのだが…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    おもしろいっ
    本作、設定自体は地球脱出もので、よくありそうではあります。しかし次々と主人公ペトラに襲い掛かる難題が、読み手を惹きつけてやまないんすよ!エンタメ性が抜群で熱中して、あっという間に読んでしまいました。

    何と言ってもペトラが愛おしすぎる。
    まだ13歳の少女が、誰も経験したことないような環境に晒され、不安の中で生き抜いていく。完全に親目線で感情移入しまくってしまいました。

    誰も助けてくれない宇宙の彼方で、ひとり脳みそをしぼって立ち向かう姿が泣ける。少女の生き抜く術が、おばあちゃんから引き継いだ『物語』というところが、あまりにも慈愛に満ちてる。しかも彼女が物語を語らうシーンは、まるで魔法をかけているかのように幻想的で美しい。

    また本書は現代の差別社会の問題が強烈に描かれています。
    本書引用、父の言葉「平等は素晴らしい。しかし平等と画一は違う。」

    見た目、ルール、価値観を画一的に統一にすれば、過ちは発生しない…どこかの地域にありそうな主義主張。難題にひとり彼女が立ち向かっていく愛と勇気は、新しい大地のように広く、満天の星空のごとく綺麗でした。

    ■ぜっさん推しポイント
    生き残るために知恵を絞るペトラが、おばあちゃんの物語から「強さ」の本当の意味を知る。女の子だった少女から、一人前の人間に成長する姿があまりにも痺れる…

    そして物語の後半、ペトラとある人物と対峙するシーン。
    心が通じ合う瞬間なんて、なにも語れなくなるんですよね。こんな胸が詰まるシーンは久しぶりです。

    これだから読書はやめられない。素晴らしい一冊でした。

  • 滅亡する地球から脱出し、新たな星での民話や伝承を伝える「語り部」なることを夢見るペトラ。だが星へ向かう途中船内で革命が起こり、再び起きた時には「画一化、均一化」を掲げる社会が形成されていた。
    説明にあった「物語を武器に立ち向かう」とはどういう事なのか興味を持ったのがきっかけで読み始めました。

    新天地で活躍するため、最新の技術により科学の知識を脳にインストールすることができるSF要素と、おばあちゃんから伝説や民話を教わる場面が同居してて味わったことのない読書体験でした。

    知識や物語は脳にインストールしただけでは意味がなく、自分のものとして使う(語る)事で意味が生まれる。
    誰もが同じ身体、同じ考えに統一された世界で少しずつ自分や仲間の記憶をつないでいく話でした。

    毎度のことながら…知識無しで読んだので児童文学という位置付けということを知らず、終盤まで「この大風呂敷畳むの無理では!?」という気持ちでしたが、事件の解決というよりも主人公が語り部として成長するまでを描いているのだと納得し満足。
    これは子供にも読ませたいかも(まだ当分先ですが…)

    多様性の話、コチラは肯定的ですがちょうど今「正欲」を併読していて合わせて色々考えてしまう。

  • Donna Barba Higuera
    https://www.dbhiguera.com/

    home - Hiromi Chikai Illustrations Site
    https://www.chikaihiromi.com/

    reco本リレー【32】杉田七重さんのreco本『あたしが乗った列車は進む』|TRANSLATOR's
    https://www.fellow-academy.com/translators/others/reco_sugitananae/

    最後の語り部 - ドナ・バーバ・ヒグエラ/杉田七重 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488011246

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ariari123さん
      絶賛ですね!早く読みたい。。。

      猫的には千海博美のイラストが象徴的で気になったのですが、
      英語版も素敵です...
      ariari123さん
      絶賛ですね!早く読みたい。。。

      猫的には千海博美のイラストが象徴的で気になったのですが、
      英語版も素敵ですよね。

      Raxenne Maniquiz(@raxenne) • Instagram写真と動画
      https://www.instagram.com/raxenne/?hl=ja
      2023/04/07
    • ゆきつばきさん
      装画、千海博美さんっておっしゃるんですね。素敵ですよね!
      装画、千海博美さんっておっしゃるんですね。素敵ですよね!
      2023/04/07
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ariari123さん
      東京創元社は、挿画や装丁まで記載してくださっているので好きです(猫は絵から入るので)。。。

      千海博美は平面的...
      ariari123さん
      東京創元社は、挿画や装丁まで記載してくださっているので好きです(猫は絵から入るので)。。。

      千海博美は平面的なのに物語を想像させるモノの配置が絶妙で好きです!
      2023/04/07
  • ドナ・バーバ・ヒグエラの児童文学、SF作品。
    図書館を利用。

    彗星の衝突により地球滅亡が迫る未来。宇宙へと脱出する植民船に乗った少女ペトラが380年後にコールドスリープから目覚めると、コールドスリープ中にお世話をするはずの人間たちがクーデターを起こしていた。

    おばあちゃんたちから受け継いだ物語の力で強大な敵に立ち向かう話、かと思いきや、どちらかというと、地球の記憶を忘れていない唯一の人として奮闘する少女の話か。SFだからこそできる意外な展開、切ない展開もあったが思ったより爽快感はなかった。物語の力と、ペトラの弱点がそこまでストーリーに生かされていないというか。。。面白かったのは間違いないけど、その点だけ少し残念。

  • 作中でも語られる通り、創作は現実ではありませんし、フィクションの物語も実際の人間の過ごす物語(人生)も、その全てがハッピーエンドというわけでもありません。

    地球を離れて、恒星間植民船に乗り込んだ主人公は、コールドスリープの間に目的地に着くはずでしたが、目覚めた時には両親もおらず、周りの仲間も地球での記憶を消されていました。そして、「それぞれの違いが争いを生んだ原因で、全員が感情や私欲を捨てることが理想」とする「コレクティブ」という集団が船を牛耳っていたのです。
    一人ひとりの人生を無視するコレクティブのやり方に反発する主人公のペトラは、おばあちゃんから教わった物語を「語り部」として語ることで、家族と仲間を守ろうと奮闘します。

    難しい状況に置かれたときにこそ発揮される、物語の力を感じさせてくれる小説でした。
    結末はやや無理やりに「救い」をもたらしたような気もしますし、中盤には読み進めるのがしんどい所とありましたが、読後感は悪くありませんでした。
    とはいえ中々に歯応えのある読書経験でしたので、軽い読み口の本が読みたい、という時にはオススメしにくい作品でもあります。

  • 2061年、地球は彗星が衝突する軌道にあり、ごく一部の人間が宇宙船で380年かけて惑星セーガンに移動しようとしていた。主人公のペトラ12歳は弟のハビエル七歳、科学者の両親とともに乗船する。昔話が得意な祖母は地球に残りペトラはそれが悲しくて仕方ない。宇宙船は船に乗れなかった人との闘争や睡眠を促し保つシェルターに入るときの不穏さを見せ発射する。宇宙船には世話人と呼ばれる眠らない人たちも乗船していて、ペトラの世話人ベンはなにか思うところがあるようだ。人に遅れて眠りについたペトラが目覚めるとそこには一緒に目覚めるはずだった家族はおらず、船はコレクティブという単一で、まるでエビのような透明な肌の人?たちに支配されていて、睡眠中に知識を詰め込んだ地球人のままグループはコレクティブに奉仕する存在となっていた。
    杉田七重の訳本!歴史や民族に関わるような児童書かと思いきや、SFとは。でも、訳文が美しく、独特の世界に没頭して読みました。たった一人で、記憶をなくしたふりをしながら自分の良しとする世界を、祖母の物語を支えにして探していく主人公がまっすぐで、応援しながら読みました。家族との再会シーンもありますが、驚愕の出会いです。しかし、現実であと40年後には睡眠で遠くまで行く技術は確立するのでしょうか?睡眠も結構カロリー使うし、子どもは厳しい気がするなぁ。
    翻訳もの特有の読みにくさはあるものの、一応小学生から大丈夫。一般的には中学生以上向けです。

  • 一気読みしたけど、気になったのが日本が数日のうちに何機か恒星間宇宙船をあげるっていうところ。
    今の日本じゃ到底無理。
    違う世界線やねんなーって思ってしまったのをひきずってしまった。
    弟と会えたところはめちゃくちゃ泣きそうな気持ちになったけど、うーんすいませんあまりよい読者になれなかった。

  • 児童図書館員研修同窓生による読書会の課題図書。

    自分で読んだときは、「語り部」というタイトルから想像した内容とは違い、「多様性を認める」ことが広がりつつある現代と正反対の思想は、大好きな『ギヴァー』を思い出させる展開。
    主人公の父親の
    「平等自体は素晴らしい。しかし平等と画一は違う。」
    「過去の間違いや過ちを忘れずにいて、子どもや孫たちの未来がより良いものになるようにするのが、われわれの務めだ。互いの違いを認め合いながら、平和な世界をつくりだす方法を見つけなきゃいけない。」
    という言葉は、イスラエルとパレスチナの指導者に聞かせたい。

    読書会では、
    「立派な語り部になるには、単に右から左へ物語をそらんじて見せるのではなく、物語を自分のものにして語る必要がある」

    など、「語り」について考えを深められたとの意見が多く、私が理解できなかったラストについて、他の方の考え方を聞くことで、それぞれいろいろな捉え方ができるんだなあと思いました。

    一般向けだと思いますが、中学生に勧めたという方もいました。ただし、読書に慣れた子向け、かな。
    日頃本の仕事に携わっている方でも、苦手な方が少なくなかったので。

  • おばあちゃんの言葉
    物語は遥か遠い昔から大勢の人間に語り継がれて、おまえのもとへ行き着くんだ。それをおまえが自分の物語にして語ればいいんだよ。

    おばちゃんを地球に残し、目の疾患を隠し、選ばれた者だけが滅びる地球より宇宙船で脱出、カプセルで眠り380年後に新しい星で目覚めるが…
    ペトラの賢さとたくさんの物語を聞いて、おばちゃんのような語り部になりたいと願う少女が愛おしい。
    記憶を消されて洗脳された世界でどうやって生きるのか。
    映画化もいいね

  • 初(?)のSF小説読了。
    最初はなかなかイメージが湧きづらかったけど、主人公の少女の真っ直ぐな姿勢と涙を流しながらも孤軍奮闘する内容に一気に引き込まれた。
    最終的に誰が味方、敵になるのか最後まで分からずドキドキハラハラしっぱなしだった。
    コレクティブ達の言う事も、もっともだぁー!だけどだけど……過去から学ばないコレクティブ達は果たして生き残れるのかな。

    「まったく同じである必要はない。互いに自分にないものを補い合えばいい。違いっていうのは、全体で見れば美しさの要素なんだ」
    「戦争がない。飢えない。でもその代償は?」
    「お話も、人間も、どれひとつとして同じものはない。乱雑なまでにばらばらだ。確かにまとまりには欠ける。しかし世界は多様であるからこそ、豊かで美しいのではないか。」
    最後、コレクティブ達のした事も結局は過去の人間達と同じなのでは…?

    終わりは、しっかり書かれていない。
    作者の、物語はまだ終わっていない。この後は読者自身の言葉で語ればいいというメッセージなのかもしれない。

    SDGsが満載に盛り込まれた内容だった。
    ぜひ、中・高生に読んで、いろいろと自分なりに考えてほしい。
    そして、宇宙船の中やセーガンの風景、コレクティブがなかなかイメージできないので、映画にしてほしい。

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