イングランド・イングランド (海外文学セレクション)

  • 東京創元社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016395

作品紹介・あらすじ

ロンドン塔、二階建てバス、マンチェスター・ユナイテッド、紅茶、ウェストミンスター寺院、ロビン・フッド、ガーデニング、生温いビール、シェイクスピア、洗濯嫌い、ハロッズ等々。ワイト島に行けば、イングランドのすべてを見られる、すべてを体験できる。名づけて「イングランド・イングランド」王室も島のバッキンガム宮殿にやって来れば、「タイムズ」も島で発行されるようになり、「オールド・イングランド」と呼ばれるようになった本物のイングランドは…。子供時代、イングランド全州のジグソーパズルに熱中したマーサ、彼女はこのプロジェクトに参加したのだが…。『フロベールの鸚鵡』で世界中の読書人の心を掴んだバーンズのアイロニーと風刺に満ちた傑作!ブッカー賞最終候補作。

感想・レビュー・書評

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  • めちゃおもしろいー!沖縄のテーマパークと重ね合わせて読めたのもよかった

  • いかにもイングランド的なsarcasticてんこ盛りな一冊。1990年代の頃にイングランドの有り様に対する痛烈な皮肉を感じた。何度も危機を迎えながら昔の遺産で生き延びているような姿はイングランド人には受けるだろう。でもanglophileな自分でもここまでディープだとちょっと物語に入り込めず、またイングランド・イングランドの如何にも人工的な雰囲気にも馴染めず、読み飛ばすようにさらっと読んでの読了になった。それでも第III部でマーサの境遇には哀しさを覚えた。英国(イングランド)が立て直せなかったら本当にアングリアになってしまうだろう。エルガーの威風堂々やビートルズが第III部になって出てきたのにも苦笑。89ページのリスト、マーマレードが入っていてマーマイトが入ってないのが不思議。
    入り込めなかったのは訳が自分に合わなかったのもあるかなとも思う。『終わりの感覚』も読んでみるつもり。

  • 四十手前にして再就職先を探していたマーサは、労働者階級出身の野心家サー・ジャック・ピットマンに雇われ、彼の思いつきからはじまった〈イングランド・イングランド〉計画に参加することに。それは、イングランドの南に浮かぶワイト島を買い取り、島全体にイングランドの歴史的建造物や観光名所のレプリカを建て、「もうひとつのイングランド」として高級観光地にするという、途方もなくバカげたプロジェクトだった。


    英国らしい強烈な皮肉が効いたコミックノベル。だが、ひとつの島にイングランドをコピーするという設定のナンセンスさを味わえるのは後半になってから。前半はサー・ジャック・ピットマンという強烈なキャラクターがぜんぶを掻っ攫っていく(イギリスの権力者、特殊プレイ風俗に通いがち) 。それゆえ、彼の権威が失墜してからは物語の勢いが落ちたような印象を受けるが、王室に対する容赦ない滑稽描写に、サミュエル・ジョンソンを演じるうち完全に同化して鬱になってしまった役者やら、本当に密輸をはじめる密輸業者役者、本当に反乱を起こすロビンフッド役者などが出てきてしっちゃかめっちゃかになっていく様は十分に楽しい。
    だが、マーサの虚偽の記憶の話ではじまった本書は、虚偽の歴史が作り出されていくのを静観して終わる。その語り口は苦く、「レプリカとオリジナルを分けるものは何か」「記憶も歴史もそれを語る瞬間に作り出されるものであって、真実というものは追求に値しないのではないか」という問いを突きつけてくる。
    マーサが求めていたこととは何だったんだろう。冒頭に出てくる豆のエピソードのように、自分だけの完璧なオリジナルを生み出すことだったのかなぁ…。

  • 大金持ちが島を買って、金にあかせて島を好き勝手に作り変えてしまうという話が主題の一つになっている。ポオの『アルンハイムの地所』や『ランダーの別荘』に想を得たと思われる江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』を思い出させる趣向である。しかし、中身はまるでちがう。ポオや乱歩の自己の夢想に忠実な仮想空間の実現という、ある意味純粋な個人の欲望の具現化に対して、サー・ジャックがやろうとしているのは、観光目的の施設の姿を借りた独立国の創設である。その意味では、既存の国家の中に独立国を作ろうとする井上ひさしの『吉里吉里人』の方が似ているかもしれない。

    『フロベールの鸚鵡』や『101/2章で書かれた世界の歴史』を書いたジュリアン・バーンズは英国小説界きっての知性派で知られている。歴史に対する懐疑的な姿勢は前掲の二作にも明らかだが、個人の記憶に関して同じ主題を扱った『終わりの感覚』が、いちばん気に入っている。本作が主題の一つにするのも、一つは個人の記憶の不確かさであり、アイデンティティというものが持つ曖昧さである。それは、主人公であるマーサ自身のアイデンティティであり、イングランドという国家のそれでもある。

    そういうと、いかにも難しそうな気がするが、三部構成の一部と三部がマーサの少女期、晩年にあてられ、脂の乗りきった中年のマーサが活躍する第二部が、小説の中心であり、サー・ジャック・ピットマンの片腕となって「イングランド・イングランド」を創出し、やがてそのCEOとなるまでの波乱万丈の人生はまさに怒涛のエンタテインメント。知性派の側面をかなぐり捨て、とまではいかないものの皮肉と諧謔を椀飯振舞して読者サービスに勤めている。ブッカー賞の最終候補まで行ったのも分かる。

    マーサの父は、マーサが子どもの頃、家を出て戻らなかった。多くの子がそう感じるように、両親の離婚の原因が自分にあるように思いこんだマーサは賢く育ったが、神を信じず、皮肉屋で、男は誰もがマーサに惹かれたが、マーサはそうではなかった。成人したマーサは父との再会を果たすが、マーサの記憶の中心部分を占めるジグソーパズルも、父の記憶からはすっぽり抜け落ちていた。最後のピースが失われたせいで完成しないジグソーパズルは、マーサの人生の暗喩になっている。

    さて、小説の核となる第二部は、「タイムズ」を買い占め、ワイト島にイングランドのレプリカを作るサー・ジャックという成り上がり男の野望を描く。マーサは、近くにイエスマンばかりが集まるのを厭うサー・ジャックがコンサルタントとして雇い入れた、いわば任命皮肉屋である。そこには、公認歴史学者のマックス博士、アイデア・キャッチャーのポール・ハリソン、その他のスタッフが集まり、アイデアを出し合う。ピットマンは、島内に二分の一サイズのバッキンガム宮殿を造営し、金と甘言を駆使して国王夫妻を迎え入れる。

    その名も「イングランド・イングランド」という観光施設は、ディズニー・ランドではないと言いながら、まさしくその英国版。ビーフ・イーターもいれば、ロビン・フッドのアトラクションもある、イングランドを満喫するべく造られた総合アミューズメント施設である。イングランドのアイデンティティとは何か、をとことん追求してゆくのだが、そこに出てくるのは底の浅い、出来合いのイングランド像であって、アメリカ人や日本人観光客が喜びそうなものばかりだ。

    おそらく愛情の裏返しなのだろう。徹底的に戯画化されたイングランド像がそこにある。そこを支配するサー・ジャックもまたその戯画化を免れない。自身は所属しない名門クラブのメンバーにしか許されないサスペンダーをし、唯我独尊。相手を挑発し、すべて自分の思い通りにいかなければ許せない。ある意味幼児的な自我は、赤ちゃんになっておむつをされて喜ぶという秘密の趣味を持つ所に現れている。いつクビにされても文句を言えない立場であるマーサとポールは、サー・ジャックに切られた新聞記者を雇い、その秘密を探り当てる。いざというときはこれを使って強請るつもり。それが功を奏して、ついにCEOに上りつめたマーサであったが、最後のピースは敵の手にあった。

    第三部はオールド・イングランドのその後を描く。「イングランド・イングランド」を追放されたマーサは、諸国をさまよった後、故国であるイングランドに戻るのだが、国家の実体、つまり経済から情報発信、それに国王まで「イングランド・イングランド」に奪われてしまっては、旧イングランドに以前のような威厳は亡くなっていた。国土は荒れるままに放置され、それこそロビン・フッドがいた頃のアングリアに戻ってしまっていた。オールド・ミスと子どもに囃される年齢になったマーサは、故国と自分の来し方、行く末を見つめ感慨に耽る。

    このすべてを奪われ、ただただ国民国家以前の旧態に先祖返りしてしまった旧イングランド、現在はアングリアと呼ばれる土地に、何故か不思議に惹かれる。インフラが整備されず、食べる物すら自給自足の産物でまかなうしかない、究極の地場産業、スローフードな暮らし方。進歩とも成長とも無縁のありのままな暮らし方。もし、許されるなら、私もそこで暮らしたいとさえ思う。メディア王によって国を丸ごと買い占められたオールド・イングランドをディストピアとして描きながら、おそらく、現実としてはあり得ないユートピアを皮肉にもそこに現出させる魔術師のような手捌きにうっとりさせられた。

    主題であるアイデンティティについてマックス博士がマーサに説く言葉に我が意を得た思いがした。「私に言わせれば、たいていの人間は自分の人となりの大部分を盗むのだ。そうしなければ、貧しい人間ができあがってしまう。あなただって、意識するしないにかかわらず、大なり小なりそうしたつくりものなのだよ」。このどこか作家自身を彷彿させるマックス博士の言葉をもう一つ引いておく。「愛国心の最も熱烈な同衾者は無知であり、知識ではない」。これもまた然り。

  • ジュリアン・バーンズの魅力を知った1冊。
    『10と1/2章でかかれた世界の歴史』もおもしろかったが
    こちらの方が、エンタメとして楽しめるかも。
    イギリスという国の思い込みとイメージを体現したテーマパーク。
    それをあれこれ想像するだけで楽しめる。

    が、そこはさすがジュリアンバーンズ。
    本物を求めれば求めるほど、造りモノになってゆく、
    そのパラドックス。
    ストーリーを見るとドタバタになってもおかしくないのに
    どこかしっとりとした語り口。

    お気に入り著者ってことで星1つおまけで(笑)

  • イングランドのすべてが揃う、大規模テーマパーク・オブ・イングランド(=イングランド・イングランド)を小さな島に作るプロジェクトが進行していた。独裁者的な大富豪で起業家のサー・ジャック、賢く辛辣なコンサルタントのマーサなど個性的な面々がプロジェクトをめぐって喧々諤々。いよいよイングランド・イングランドはオープン!ところが…。【以下ネタバレ含むため未読の方はご注意】王室にバッキンガム宮殿、ハロッズ、クリームティー、シェイクスピア、ダブルデッカー(二階建てバス)に黒塗りタクシー、ロンドン塔、MU、ロビン・フッドまでイングランド的なものならなんでも集めたテーマパークというところに惹かれて読み始めた。うーん、魅力的。ホントにあったら絶対に行きたい!!!って思ったらアメリカ人や日本人がメインターゲットのように書いてあって苦笑。ストーリーがまた面白い。第1部は主人公のマーサが少女時代から大人になるまでを追った短い物語。農産物品評会の豆に憧れ、ジグゾーパズルが好きで、父親の浮気に傷ついた少女時代。マーサはもともと皮肉屋の素質はあったけど、育った環境の影響も大きいなぁと感じられた。そして中心となるのがプロジェクト立ち上げからオープン、繁栄を描いたのが第2部で、こちらの第2の主人公サー・ジャックの強烈な濃厚キャラが際立っている。もっともこれくらい傲慢な人物でないとこんなとんでもないことは実現できそうにないなぁと思わせる。精力的に活動する彼にはある忌まわしい秘密があり、これをネタに足元をすくわれることに…。一方、繁栄するイングランド・イングランドの影で、すっかり衰退してしまった本国(オールド・イングランド)の様子、偽物を本物より本物らしくという論理、ロビン・フッドと仲間たちがそれを追求しすぎたために起こった反乱など、内容が多岐にわたっていてどれも辛辣で辛口。第3部のアングリアでは、マーサが島を追われた後、放浪の果てに昔に戻ったような本物のイングランドでの静かな暮らしを描いている。本物とは何か?幸福とは何か?繰り返しとり上げられるこれらのテーマの結論はでておらず、読者へ投げかけられた形で終わっている。つい解り易いオチを求めて結論を急いでしまう読書傾向の自分にとって、ちょっと新鮮だった。盛りだくさんの内容なので、ストーリーを素直に楽しむもよし、哲学的な問いかけを熟考するものよし、読み手によっていろんな楽しみ方ができる本だ。

  • 2009年の日経書評だったか

  • ジュリアン・バーンズ久々の翻訳!ということで、書評で見つけて即買いに行きました。

    バーンズ、相変わらず面白いです。
    概略についてはいろんなところでいろんな人が紹介されているので省かせてもらいますが、今回のこの作品はこれまで私が読んだ中では、もっとも映像化に向いているのではないかと思いました。
    実際、ロビン・フッドと「愉快な仲間たち」が英国特殊部隊と一戦交えるところなんて、見てみたいじゃありませんか。

    2段組だけど、ソフトカヴァーで読みやすいです。
    「小説らしい小説」が読んでみたい人におすすめです。(ジュリアン・バーンズはすべて)

  • ちょっと気になっている本。

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