貴婦人として死す (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488118402

作品紹介・あらすじ

数学の教授だったアレックは六十、年の離れた妻リタと村はずれで平穏に暮らしていたが、バリーという若造の出現で状況は一変する。ある晩リタとバリーは突如姿を消し、海へ真っ逆さまの断崖まで足跡がついていた。二日後遺体は発見されたが、腑に落ちない点が多すぎる。二人の死は心中か殺人か、村に住む老医師が綴った手記から浮かび上がる真相とは? 張りめぐらした伏線を見事回収、目配りの利いたヘンリ・メリヴェール卿活躍譚。

感想・レビュー・書評

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  • カーです。H・M物です。
    今回は怪奇趣味はあまり見られませんでしたが、お得意の不可能犯罪に加え、H・Mのドタバタぶりが面白かったですね。
    もともとカーの作品は仕掛が大掛かりなのでビジュアルなイメージも湧きやすいのですが、今回のH・Mは脚を怪我してエンジン付き車椅子での移動ということで、悪態を喚き散らしながら、車椅子でどこへでも暴走する姿はジブリ映画並みの活動シーンが満載でした。(笑)
    まあ率直に言ってトリックは大したことがなかったと思いますが(笑)、活動的な場面が多かったので、全体的に映画向きの作品だったのではないでしょうか。

    美貌の妻リタは歳が離れ年老いた夫アレックを愛してはいたが、目の前に現れたバリーに熱烈な恋をせずにはいられなかった。
    苦悩するリタ。夫アレックを傷つけたくはないものの、バリーと一緒になりたいリタはある夜、ひとつの計画を実行する。
    その夜、アレックの邸宅に招待されていたルーク医師は、二人の足跡が邸宅の建っている崖の先で消えているのを見つける。果たして二人は心中したのか?
    そして、数日後、二人の遺体が海岸に打ち上げられ・・・。

    犯人当てとしては私は見事にハズしてしまいました・・・。
    物語のスタイルとしては、ルーク医師の一人称形式での語りということで、まさかあの名作の追随はないだろうなあ~と思いつつ(笑)、結果としてはあまり○○○○○○かったあの人が犯人だったので、これはもしや逆手にとった叙述物だったのかな?
    しかし、その夜の様々な小細工を考えると、本当にできる状況だったかというと、かなり無理があるような・・・。(笑)

    この作品の魅力は不可能犯罪トリックよりも、一人称で語られるルーク医師目線の描写や心理の流れですね。
    ルーク医師の密かなるリタへの想いや騎士道精神、ドタバタに動き回って結果としてコミカルさが増していたH・Mの姿を、ルーク医師の視点で語られるという趣向が面白かったです。ルーク医師自身も被疑者となっていた点も良かったですね!
    後半ではこの趣向を活かすべくルーク医師自身の冒険譚もあり、これでもかと展開される事件の経過にも一人称視点が微妙に活かされていたように思います。

    意外な犯人だっただけに推理小説として私には・・・なんですが(笑)、締めくくりも含め物語としては構想が面白く進行も良かったので成功だったといえるでしょう。
    カーの作品として上位にランクしても良いと思える佳作です。

  • とことん自分勝手で、車椅子でふんぞり返っているHM卿が、探偵らしくなくてとても良いですね!
    足跡のトリックは単純ながらも、盲点だった。しかし今回はトリックよりも、村の人間模様がメイン。ルーク老人が、慕っていたリタのために、必死に犯人を追い求める姿が、真相を知った後では切ないな。

    自身の名声を何よりも重視しているHM卿が、ルーク老人のために、あえて事件を隠蔽したことにほろりとくる。

    本作は、途中までルーク老人の手記で物語が進む。手記形式であることにも、きちんと理由があるのがよかった。

    カー作品の中でも、バランスの取れた作品だと耳にしていたのだが、単純ながらも盲点をついたトリック、意外な犯人、HM卿をはじめとする登場人物たちのキャラクターの豊かさ、切ない結末と、あらゆる要素で楽しめる作品だった。

  • 戦時下のイギリスで、俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって発見された。心中か、殺人か…???というストーリー。
    以前読んだ「夜歩く」より随分読みやすかったです。また、探偵役のヘンリ・メリヴェール卿が破天荒なじじいで笑かせてくれました。
    意外な犯人物で、面白かったです。

  • HM卿シリーズ。

    意外な犯人と、口は悪いがなんだかんだ優しいヘンリ・メリヴェール卿が堪能できた。

    初期のオカルティックな舞台設定も好きだが、中期以降の作品のためか、外連味は薄め。
    (今作はそこまででもないが、実現可能かどうかギリギリの)凝ったトリックと、結構複雑な犯人の導線が最後にHM卿から明かされる場面は、いつものことながらワクワクして読めた。

    毎年少しずつ新訳が出るので楽しみに待ってます。

  • ・首謀者による事件のトリックは割とシンプルだけど、HM卿、語り手、犯人の思惑が重なり、複雑に見える、形が面白かった。
    ・語り手の突然の死自体は、展開としてはそれほど珍しくはないが(びっくりはしたけど。)、それによって、語り手がほぼ真相の一歩手前までたどり着いていたにも関わらず、探偵役とはなり得ない構図が無理なく感じられて、死の必要性があったことが良かった。(ただ読者を驚かせるためだけじゃない感じが)
    ・HMが、証拠隠滅まで行っていて、或いは語り手の死がなければ事件を永久に葬り去ってしまえと思うほど、医師にどんな魅力を感じたのか、ピンとこなかった。


  •  
    『貴婦人として死す』
    初のディクスン・カー となりました。
    散々カーは読みにくいとか怖いとか周りの噂を聞いていて未読でしたが、この歳になってようやっと初カー。 
     
     
    佐賀ミスのカーを愛してやまないお姉さまから初読を選んでいただき、巡り合わせが良かったです。
     
     
    ざっくり感想ですが、まず二つの死角に唸ります。
    一つは一度ついた足跡を再び違う目的の為に付け直すと言う発想。
    一度残された証拠は、その時点からそのままであると言う読み手側の認識による死角が出来るわけです。
    二つ目は、手記と言う形式を大部分取り入れた話運びによる、形式の性格上の死角。
    日常的である程、記録には残りにくいと言う、文字記録にありがちな偏向を書き手が認識していない事で、読者にアンフェアな視点が提供されると言うやんわりアンフェア(笑)
    それも包み込んで挑んで来い!と言うかのような本格推理の壁。


     
    兎にも角にも、この2つが巧い。
    一つ目については某道具の性格をかなりミスリードを狙って最後あたりまで隠していてアンフェアギリギリラインじゃないかと言う感じながらも、巧い。
    記述形式については疑って然るべきなのだけれども、初読でこれに気づくのはなかなか難しかったです。
     
     

    反対に、散りばめられた伏線の細かさに対するH.Mのコミカルさは落差で驚きます。
    しかし、そのコミカルさから干満差への伏線を繋いでしまう伏線張り魔、チャンスは逃さない作り込みに唸ります。
    困ったのは、カー初読なので、H.Mのイメージが初登場シーンの勢い良さから宗像教授のビジュアルで脳内再生してしまい、本当にこれで良いのか悩みます…(笑)
    ラジオニュースなどの小道具やラストの締め括りも戦時下ならではでした。
     
     

    タイトルの『貴婦人』には最初悩んだのです。
    タイトルにあるからには作者はこれに強く思う所がある筈ですが、ふと考えればアレックは爵位あるのか?と疑問が。
    爵位無く妻がレディ?
    爵位関係なく、単にレディ?

     
    考えてみればリタはロミジュリ好き。
    さり気なく作中にて語られています。
    ここからは勝手な私の妄想推理になりますが、
    リタがロミオとジュリエットのファンであるならば、最初の心中に見せかけた駆け落ち計画はロミジュリのように愛によって命を捨てると言う形式美に自分を擬えようとしたのではないかと。
    リタが。

     
     
    実際は死なずに駆け落ちた先での生を考えていたのだけれども。
    綺麗な姿で自分を死なせよう、しかし恋人との新天地での生は確保しようと言う所にリタの幼さやエゴを感じます。
    結局、リタは好きなロミジュリにもなれず、新天地の生も得られず、自らのエゴで蔑ろにした元恋人に殺されるのです。
    つまり、意図せずにロミジュリのように"愛のすれ違い"で死ぬと言う訳ですね。
    そこだけは、ジュリエットと同じになれた訳です。
     
     

    そう言う皮肉な意味での『貴婦人として死す 』と言うタイトルなのかと思いました。
    a Ladyであって、the Ladyでないのは"ジュリエット"にはなり得なかったからでしょうか。
     
     

    ちょっと伏線で気になったのは、流砂に車を処分する時、夜に青と緑の色を識別するのは難しかったのではないかと言う事。
    ベルは明るい所で見ていたって記述あっただろうかと疑問が。
    良くH.Mはパスポートとわかったなぁと思うた次第です。

    次にカーを読むならヘンリー・メリヴェール卿が出るのを選ぼうかなと。
    キャラ濃かった(笑)

  • 面白かった、皇帝の嗅ぎ煙草入れを超えることはないけど、足跡のトリックは全く考えてもないもので、論理的だった。手記を元にしているから、たしかに多く語られなかったことも納得できて、そこが読者の私にとっても盲点となっていた!

  • 第二次世界大戦に突入した時代の小さな村で起きた事件。
    なぜストーリーが登場人物の日記なのか、しっかり伏線になっています。
    カーらしくフェアな展開で古典の名作です。
    好みの問題ですが、H.M卿のいろいろなくだりがないほうが、物語としてはすっきりして読みやすかったのでは、と思ってしまいました。

  • 翻訳の中ではかなり読みやすい。気になってどんどん読めた。
    心臓が止まるかと思った…お見事。手記で触れられない理由も納得できる。確かに近すぎて見えないものは多い。H・M卿が真相を明かさない理由に胸が痛む。何でもかんでも明らかにするだけが名探偵じゃない。
    解説は寒い。

  • カーの作品は以前が沢山読んだのですが 最近はこれが
    初めてです H.メリヴェール卿シリーズ。
    田舎町での心中・殺人?
    私の凡頭では 犯人の見当が見事に外れました。

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著者プロフィール

Carter Dickson (1906-1977)
本名ジョン・ディクスン・カー。エラリー・クイーン、アガサ・クリスティーらとともにパズラー黄金時代を代表する作家のひとり。アメリカ合衆国のペンシルベニア州に生まれる。1930年、カー名義の『夜歩く』で彗星のようにデビュー。怪事件の連続と複雑な話を読ませる筆力で地歩を築く。1932年にイギリスに渡り、第二次世界大戦の勃発で一時帰国するも、再び渡英、その後空襲で家を失い、1947年にアメリカに帰国した。カー、ディクスンの二つの名義を使って、アンリ・バンコラン、ギデオン・フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)らの名探偵を主人公に、密室、人間消失、足跡のない殺人など、不可能興味満点の本格ミステリを次々に発表、「不可能犯罪の巨匠」「密室のカー」と言われた。晩年には歴史ミステリの執筆も手掛け、このジャンルの先駆者ともされる。代表作に、「密室講義」でも知られる『三つの棺』(35)、『火刑法廷』(37)、『ユダの窓』(38)、『ビロードの悪魔』(51)などがある。

「2023年 『五つの箱の死』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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