シルエット―アイリッシュ短編集 (4) (創元推理文庫 (120-6))

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (385ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488120061

感想・レビュー・書評

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  • 「窓の明り」(The Light in the Window)ミステリ・ブック・マガジン1949.4 
    戦争で離ればなれになった恋人達、いいだしかねて、思い込みの悲劇。

    「青ひげの七人目の妻」(Bluebeard's Seventh Wife)ディテクティブ・フィクション・ウィークリイ1936.8
    いわるゆ青ひげ公の話をアイリッシュ風に。妹が会ったばかりの男と結婚した。男は血とナイフが嫌いだったが・・ 兄が動く。
     
    「殺しのにおいがする」(He Looked Like Murder 改題;Two Fellows in a Furnished Room) ディテクティヴ・フィクション・ウィークリイ1941.2
    友人二人と部屋をシェアしている男。友人が彼女と会うから今夜は部屋を空けてくれという。俺は夜学に通っていて、今夜は週1回の授業の予習をする日なのだが・・ 戻ると、なんと彼女は殺されていた。当然友人が疑われるが・・ 男二人の友情。夜学に通う、図書館で勉強する、実は貧しい彼女の家庭事情など、そこらへんの社会情勢がさりげなく描かれている。

    「パリの一夜」(Underworld Trail 改題;One Night Paris)アーゴシイ1936.5 
    水兵の二人。ルアーブルで48時間の下船時間にひとつ花のパリにいってみようじゃないかということになり、仲間に教えてもらった男と連絡をとると、男に「鉛筆150本持ってこい、と言われそのとおり持っていくと・・
    コメディとして映像化したらおもしろそう。


    「シルエット」(Silhouette) ディテクティヴ・フィクション・ウィークリイ1939.1
    ピーターズ夫妻はブリッジに招かれ、帰りのバス停で待っていると、向かいの窓で男が女に襲いかかっているようなシルエットを見る。新聞に「主婦行方を絶つ」と載り、警察に連絡し、裁判の証言台に・・ しかしシルエットの実演をその場で再現され・・  しかし女の目からみた1点が・・
    すぐに警察に、という妻と、いや待て、という夫の考えの違いがコミカル。


    「生ける者の墓」(Graves for the Living)ダイム・ミステリー1937.6
    題名通り、生ける者の墓、のある暗く冷たい墓地での話。実は裏に犯罪があるのだが、それもどこか幻想に満ちている。なにかよくわからない感じも。主人公の父はまちがって生きながら棺桶にいれられ、棺桶を開けたその顔を主人公が9歳の時に見ていた、というトラウマがベースになっているが・・


    他に、
    「毒食わば皿」(Murder Always Gathers Momentum 改題;Momentum;Murder Is a Snowball;Murder ZGather Momentum)(コーネル・ウールリッチ短編集4)ディテクティヴ・フィクション・ウィークリイ1940.6

    「死の治療椅子」Death Sits in the Dentist's Chair 解題;Hurting Much?(コーネル・ウールリッチ短編集1) 

    「秘密」 Silent as the Grave(コーネル・ウールリッチ短編集5:妄執の影) 

  • これほど続けてサスペンスを読むとやはり設定にヴァラエティを凝らしているとはいえ、展開が読めてくるのが悲しい現実。恐らく現在続々と出てくる小説で語られる話というものは実は既に世の中で語られた物語の焼き直しに過ぎない。
    今まで観たことのない、読んだことのない物語は果たして生まれないのではないかとも云われている。で、そんな中、傑作と呼ばれる作品は他の類似作品と何が違うのか、今回はその答えの1つを見つけたような気がする。

    今回収められた作品9編のうち、最も印象に残ったのは「秘密」。
    都会の片隅に住むケンとフランシス夫婦の物語。熱烈な恋愛を経て結婚した二人。ケンはプロポーズのときにフランシスに自分は過去、人を殺したことがある、それも意図的にと告げる。
    しかしそんなことは2人にとってなんら障害ではなかった。2人の生活は順調だったが、ある日ケンの上司が変わったことから生活が一変する。新しい上司パーカーとそりが合わないケンは給料を減額されたりと冷たい仕打ちを受けていたがついに不満が爆発して上司を殴り、解雇される。
    折りしも世間は不況。仕事を探すが見つからない。
    しかし元上司の伝手で新しい仕事を紹介され、勢い込んで面接に行ったがパーカーからの紹介状により不採用となる。絶望したケンは突発的にその夜、出かける。翌朝の新聞にはパーカー殺害の記事が。果たして夫の仕業なのか?というのが大まかなストーリー。
    この作品の良さは都会の片隅に静かに暮らす若い夫婦に訪れる不幸や不遇が、夫ケンがそりの合わない上司殺人の動機と有機的に絡み合う色づけになっている。凡作と傑作の違いはこういった味付けがしっかりしているか否かにあるとつくづく感じた。
    その味付けの最も濃い部分は夫ケンが失業して得たバイトが半身裸になって商品の宣伝をドラッグストアのショーウィンドウで実演するもの。技術者の彼が二束三文を得るためにプライドを捨ててまで仕事に打ち込む姿を見て涙する妻。こういった情に訴えるエピソードが物語の厚みを増す。
    あまりにも皮肉なラストはケンが過去に殺人を犯したという最初の告白が伏線となって不幸な夫婦をさらに不幸にする。物語のエッセンスが凝縮されている。全てが有機的に働いた、いい作品だ。

    準ベストは「生ける者の墓」だ。これも独特の設定で読むものを恐怖へ追い込むがオリジナリティがあるとは全面的には云えない。
    かつて自分の父親が生きたまま棺桶に入れられ、苦悶の表情で死ぬのを見てから葬式に出くわすと棺桶の死体が生きていると思ってしまうというトラウマがあり、それを克服しようとしていたところ、生きながら埋葬され、そこでわずかばかりの酸素で死を克服する団体に行き当たり、強制的に入会させられ、埋葬させられることが決まった。逃げようとするがその団体の包囲網は細かく、四六時中見張られていた。
    結婚を決意した彼女とニューヨークかイギリスへ逃亡することを決意したが、捕まってしまう。しかしなぜか釈放され、彼女は来ない。
    どうも彼女は私の身代りに埋葬されたらしいのだ。早く助けなければならない。彼女が死ぬまでに果たして間に合うのか?警察の必死の捜索が始まった。
    これはチェスタトンの『木曜の男』を想起させる。乱歩氏はこの最初のエピソードから材を得て『お勢登場』を書いたのではないかとも思え、作家たちの物語のアイデアが連鎖的に繋がっているように感じる作品。
    この作品はその構成の上手さにある。冒頭に墓を掘り起こす男を持ってきて、どういう理由でそんな行為をやっているのかを徐々に明らかにさせ、しまいには予想もつかない奇妙な犯行団体の話に着陸する。
    時系列に語っても物語の牽引力はあるのにこれを変えることでさらに読者を先へ先へと引っ張らせる。これも傑作と凡作の大きな違いだ。

    他に良かった水準作を簡単に述べていくと、まず「毒食わば皿」。気弱な男がのっぴきならない状況に追い詰められ、殺人を重ねていくノワール調のストーリー。詩的な文体で語るアイリッシュの手に掛かると不思議と男が殺人を重ねるのに必然性が生まれてくる。最後の妻の一言もツイストが利いている。
    「死の治療椅子」もいい。殺人の疑いをかけられた友人の歯科医の無実を晴らす刑事の捜査物語。本格ミステリ並みのトリックも入っているが、これは一読瞭然。しかし主眼はこれにあらず、自らにこの罠を仕込ませて証拠を確保する刑事の心境をサスペンス豊かに語るのがやはりアイリッシュ。チープな本格にせず、サスペンスとして処理したアイデアがよい。なかなかこうは行かない。

    他の「青ひげの七人目の妻」、「殺しのにおいがする」、「シルエット」は数あるアイリッシュサスペンスの1つとしてのみ記憶が残る程度か。アイリッシュが用意する手持ちのカードのうち、今回はこの結末を選んだ、それくらいの範疇で終わっている。

    戦争による精神障害の男の話「窓の明り」、パリに訪れた悪漢二人の誘拐解決劇「パリの一夜」も詩的な文体が横溢しているがちょっと合わなかった。

    前述にあるように続けてアイリッシュサスペンスを読んでいるものでいささか食傷気味になっているのは否めないが、それでもなお、読ませる作品を提供するこの作者の底力を思い知らされた短編集。限りなく4ツ星に近い3ツ星。

  • アイリッシュの作品は主人公の孤独感、焦燥感がひしひしと伝わってきて、どの作品も大好き。

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