ニューヨーク・ブルース―アイリッシュ短編集 (6) (創元推理文庫 (120-8))

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488120085

感想・レビュー・書評

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  • 「三時」「命あるかぎり」など、とても緊迫感を感じて読んでいてびりびりした。「ニューヨーク・ブルース」の独白文体は独特の雰囲気があり、物語に引き込まれる。

    「三時」
    妻はどうも浮気をしているようだ。そっちがそうならこっちは報復するまでだ。時計屋の夫は地下室に時限爆弾を作ってセットしに入ったが・・ 思わぬハプニングが・・ 爆弾の時間までの緊迫感がすごい。2重のどんでん返し。いや3重か。

    「自由の女神事件」
    たまには博物館に行って彫刻でも見て教養を高めたら、と妻に言われた刑事の俺。ならでかい彫刻を、と自由の女神を見学に。すると登りにはいた太った男が帰りにはいない。休暇の間に一件落着した刑事。

    「命あるかぎり」
    ローマで目と目が会い電撃の出会いをした二人はニューヨークで結婚生活をスタートした。だが夫はサディストだった。逃れるべく妻は車で逃げ出すが・・ 残酷な終わり方。ウールリッチは終わり方がハッピーエンドとバッドエンドと両方ある。

    「死の接吻」
    腐れ縁のギャングと女。女はどうにかして男に報復したい。ある夜男は何かよからぬことをやって戻ってきた。そこで女は・・

    「ニューヨーク・ブルース」
    女をスカーフで殺したらしい男がホテルの部屋にひとりでいる。そこに警察がやってくる。つかまるまでの男の瞑想?

    この男はウールリッチの分身かと思うような気がする。独白の文体と言葉が夜のニューヨークに漂う。午前0時から3時くらいの時間。

    ホテルの部屋にひとりの男。真夜中、酒が友でリアルな友はいないようだ。私のポケットには赤黒いしみのついたスカーフが入っている。これはあの女のものか・・ 「何度となくともに過ごし、何度となく愛し合ったふたりではないか、・・・あれはただ、愛情が裏返しに出ただけだった。孤独が外へ向かって出ただけだった」おりしも男のルームナンバーを訪ねる警察の声が階下でする。

    「特別配達」
    赤ちゃんの誘拐事件が起きた。その赤ちゃんは特別な配合のミルクが必要だ、と親は新聞に出した。俺は夜中から朝にかけて愛馬のマミーでミルクを家家に配達する仕事。が・・ 今日の配達の家は? 牛乳配達屋と愛馬マミーの「特別配達」とは?

    「となりの死人」
    配達の牛乳を飲んだ金のない若い男を思わず殴ってしまったハーラン。動かない男を隣のあきべやに押し込めた。おりしもへんな臭いがアパートじゅうに立ちこめ、せっぱつまったハーランは・・
    「毒食わば皿」みたいな、やらなくてもいい殺しをしてしまうはめに陥る、追い詰められた状態、を描く。


    「ガムは知っていた」
    殺しをした男は指紋を消すために、ホテルの上と下の階のドアノブを取り換え、これで逃げおおせたとおもったが・・ ホテルの掃除係のいつもの習慣が・・
    「一滴の血」みたいな、ごくわずかの痕跡で御用。

    「借り」
    不注意から車を家の前の湖に落とした刑事。そこには幼いわが子が乗っていたが、男が湖に飛び込み救ってくれる。何年かたち、ある殺人犯がその町に逃げ込んだとしてその刑事は張り込みをしていたが・・ 苦しい選択。


    「目覚めずして死なば」(コーネル・ウールリッチ短編集2)
    「さらばニューヨーク」(コーネル・ウールリッチ短編集別巻)
    「ハミング・バード帰る」(コーネル・ウールリッチ短編集別巻:セントルイス・ブルースとして)
    「送って行くよキャスリーン」(コーネル・ウールリッチ短編集3)

    初出
    「三時」three O'Clock(ディテクティブ・フィクション・ウィークリー1938.10.1号)

    「自由の女神事件」Red Liberty(The Corpse in the
    Statue of Liberty)(ダイム・ディテクティブ1935.7.1
    号)

    「命あるかぎり」For the Rest of her Life(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン1968.5月号)

    「死の接吻」Collared (ZOne Night in Chicago)(ブラック・マスク1939.10月号)

    「ニューヨーク・ブルース」New York Blues(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン1970.12月号)

    「特別配達」Mamie 'n'Me(オール・アメリカン・フィクション1938.5.6号)

    「となりの死人」The Corpse Next Door(ディテクティブ・フィクション・ウィークリイ1937.1.23号)

    「ガムは知っていた」Stuck with Murder(Stuck)(ダイム・ディテクティブ1937.10月号)

    「借り」L.O.U-One Life(L.O.U*;Debt of Honor)(ダブル・ディテクティヴ1938.11月号)

    「目覚めずして死なば」If I Should die Before I Wake(ディテクティブ・フィクション・ウィークリー1937.7.3号)

    「さらばニューヨーク」Good bye,New York(Don't Wait Up for Me Tonight)(ストーリイ1937.10月号)

    「ハミング・バード帰る」Humming Bird Comes Home (The Humming Bird)(ポケット・ディテクティブ1937.3月号)

    「送って行くよキャスリーン」One Last Night (
    I'll Take You Home,Kathleen)(ディテクティブ・ストーリー1940.5月号)

    1977.4.22初版 図書館

  • アイリッシュの短編は同じ趣向の作品が多く、テクニックは目立つものの、印象に残る作品は少なかった。
    しかし最後の最後でかなり印象深い作品が揃った。

    最初の2作、「三時」と「自由の女神殺人事件」は都会が生み出す人間心理の歪み、タイムリミットサスペンス、皮肉な結末と典型的な作品だったので今まで同様、水準作ではあるが突出したものはないなと思っていた(後者は自由の女神を上っていた男が忽然と姿を消す本格物の趣向だが、事件の真相に関わる登場人物が最初から出ていなかったりと単なるお話でしかない)。

    しかし、3作目の「命あるかぎり」からガラリと印象が変わった。
    まずこの作品、題名から連想する悲哀がこもった感動作では全然ない。夫の暴力に怯える女性の逃亡譚だが、結末はあまりに救いがなく、ゾクッとする。文体はアイリッシュの美文が連続する詩でも読んでいるかのような流れる文章であるがゆえ、最後のインパクトは強烈に印象に残った。

    この作品で心動かされたためにもはや作者の術中にはまったも同然で、続く「死の接吻」の、打って変わって軽妙な文章は小気味良く感じられ、内容もコン・ゲーム風クライムノベルと読ませる。去年物(ラスト・イヤー)と呼ばれる主人公の女性がたくましく、じわじわっと来る読後感がたまらなかった。

    次の表題作ははっきりいって文体に癖がありすぎて内容を十分に把握できなく、全くストーリーが頭に入ってこなかったが、その次の「特別配達」は貧乏人の善行を語る昔話的なお話で、非常に私好みだった。最後の台詞もよく、非常に微笑ましい。

    その他にも娘の恩人が数年後、殺人犯人となって助けを乞いに来る「借り」は長編にしてもおかしくないほどの濃密な内容だった。設定から語り口まで全てが一級品だと思ったし、主人公が刑事として最後に取った決断は予想と違い、結末も最後の台詞も良かった(特に冒頭の車が湖へ落ちていくシーンの描写は短く簡潔なのにすごく写実的。贅言を尽くすクーンツに読ませたいくらい)。

    「目覚めずして死なば」は少年の視点で誘拐事件の顚末を語る話。少年少女の世界を書いてもアイリッシュは上手く、普通ではちょっとおかしいだろうと思わせる状況を巧みに説得させる筆致もすごい。少年の視点で語っているがために主人公の無力感が伝わり、久々にドキドキした。なぜ刑事の父親が子供達の居場所を知ったのかが不明だが、愛嬌という事で。

    「となりの死人」と「ガムは知っていた」は典型的なアイリッシュ節で、中休み作品といった感じ。
    しかし最後の3編がまた素晴らしかった。

    まず「さらばニューヨーク」。前短編集収録の「リンゴひとつ」から派生したような話。あの話の登場人物の1つに同じ都会で貧困に喘ぐ夫婦が出てきたが、あれの別ヴァージョンのように貧困に喘ぐ夫婦がお金のために(それもたった500ドル!)殺人を犯してニューヨークを脱出しようとする話。最後の結末の先行き不安な物語の閉じ方はめったにないスタイルで主人公達の行く末が案じられ、逆に心に深く残った。

    「ハミングバード帰る」も読後がすごかった。盲目のママ・アダムスには何年か前に出て行った息子がいた。ラジオから息子が出て行った先で銀行強盗があったことが報じられていた。その矢先、鼻歌を歌いながら息子が突然帰ってくる。相棒と共に。どうも銀行強盗の犯人は息子らしい。怯えるママ・アダムスは息子を警察の手に引き渡す事を決意する。

    たった15ページで語られる話は濃密な物語だった。主人公が盲目であるための感覚的な筆致も素晴らしいし、なによりも最後に息子を信じたママ・アダムスを裏切る結末はどこか物哀しかった。

    そして最後の「送って行くよ、キャスリーン」。刑務所から出所した男が昔の恋人と最後の別れをするために逢いに行ったがために起こる悲劇を描いている。

    主人公の男を助ける刑事が調査をする辺り、冤罪を着せられた男をある男が救うために奔走する『幻の女』を思わせるが、こちらは正統派。バークという主役の男の人生を彩る哀しさ、彼を助ける刑事ベイリーの行動力に深く感動した。読後にこの題名が痛切に心に響き、アイリッシュの詩人ぶりを再認識させられた。

    本作が今までの作品集に比べ、好印象を持ったのは前述したように意外な結末だけでなく、主人公の心理に同調できるような作品が多かったこと。

    特に不安を掻き立てられる作品が2つも載ったことは短編を連続して読む身には心を大きく振幅させられた。本短編の作品順は出版元である東京創元社が決めたのだろうが、この並べ方はかなり良かった。短編集は作品の並べ方で傑作集と凡作集との評価が大きく分かれるのだろうと強く思った次第。

  • アイリッシュの作品は主人公の孤独感、焦燥感がひしひしと伝わってきて、どの作品も大好き。

  • 2014/04/26/Sat. 購入。

    2017/04/05/Wed.〜7/16/Sun.

  • 「ニューヨーク・ブルース」
    2004年7月頃

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