暁の死線【新版】 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488120122

作品紹介・あらすじ

ニューヨークで夢破れたダンサーのブリッキー。孤独な生活を送る彼女は、ある夜、挙動不審な青年クィンと出会う。なんと同じ町の出身だとわかり急速にうち解けるふたり。出来心での窃盗を告白したクィンに、ブリッキーは盗んだ金を戻そうと提案する。現場へと向かうが、そこには男の死体が。このままでは彼が殺人犯にされてしまう。潔白を照明するタイムリミットはたった4時間。『幻の女』で名高い著者の傑作サスペンスを新装版で贈る。

感想・レビュー・書評

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  • 故郷の小さな町からニューヨークに出て来た若者。しかし夢は叶わず生活は苦しい。懸命に生きているのだが、犯罪に巻き込まれる。そして夜も眠らないニューヨーク。こんな背景が生き生きと描かれる。

    深夜のダンスホールで出会った若い男女。娘は女優の夢いまだ叶わず踊り子に、男は失業中。話すと偶然にも同じアイオワ州の小さな町出身。重ねて偶然に家が背中合わせ。同じ高校出身。男はあとから引っ越してきたため会うことは無かったのだ。

    しかし男は顧客の金を盗んでいた。金を返し清廉になって二人で故郷に帰ろう、とその家に行くと、男が殺されていた。これでは犯人にされてしまう。さあ、二人で解決を、故郷行きのバスの出る午前6時までに! 今は午前2時。

    この4時間の間に、当たりをつけた人を訪ねる二人。午前2時とか3時なのですよ。これは、と思う男は妻が産気づいた病院にいた、ある男は確かに人をたくさん殺したがスペインでだった・・ 「幻の女」と同じようなパターンか。

    4時間で探せるか・・ うまくゆきすぎか、という感じもするが、午前2時から6時。でもニューヨークではその時間仕事をして、動いている人がいる、街は眠っていない、という街の空間がよかった。
    うまく映像化すればスリリングだろう。


    1944発表
    1969.4.25初版 1990.3.2第23版 図書館

  • 世評は高い本作。
    流石に古さを随所に感じる部分もあるが、そこを我慢して読み進めると、大団円に向けて後半一気に加速するのが気持ち良い。

    恐らく作者が描きたかったのは、前半部の若い二人の打ち解けるまでの物語だと思う。冷たい大都会の中で奇跡の様に出会う二人が打ち解けていく様が中々に良い。

    ミステリとして読むよりラヴロマンスとして読んだ方が良いかもしれない。

  • ウィリアム・アイリッシュの作品は2冊目。
    都会生活に疲れ偶然出会った2人が故郷へ帰るバスの時間(タイムリミット/Deadline/死線)までに、真犯人を探すストーリーには多少なりとも強引さを感じるが、軽快なテンポにグイグイ引き込まれてゆく。犯人捜しは、文庫本の解説で記されているように「真犯人なんて誰でもいい小説」が言いえて妙である。最後の手紙もとってつけた感は拭えない。
    ただ、ブリッキーが都会に飲み込まれ蝕まれ、田舎に帰るに帰れない生活に追い込まれてゆく姿は(都会をNYから東京と読み替えることで)、何処にでも誰にでも当て嵌まるものかもしれない。
    「都会は、なにかしら一種の頭脳のようなものが備わっていて、…、猫が鼠をもてあそぶみたいに、こっちを見守っては、からかっている」
    夢と挫折。もう一度挑戦してみようという誘惑と、届き損なった舞台。その狭間で、都会に絡み取られるわが身。
    ふっ、と、田舎に帰りたくなった一瞬でした。

  • タイムリミットは三時間、の一冊。

    一気読みの手に汗にぎるサスペンス。
    偶然出会い、意気投合したブリッキーとクィンが遭遇したのは思いもよらぬ事件。

    クィンの潔白のために動き出す二人。

    帰郷へのタイムリミットは明け方までの三時間。

    小さな小さな手がかり、刻々とせまるタイムリミット、刻一刻と過ぎていく貴重な時間。
    こういう展開はやはり読み手の心をくすぐる。ここぞという時の男と女の心の強さの対比、時計の絡め方が微笑ましく印象に残った。
    読後は一本の映画を見終えたような気分。面白かった。

  • 「幻の女」を読んだ時の衝撃は忘れられない。アイリッシュは暗い都会の街の描写が素晴らしい。本作も事態が動き出すまでが長くてまどっろこしさはあったものの、そこに至る街の描写こそが美しくまた大切だとわかり耽読した。そう主人公二人の敵は見えない殺人犯ではなく「都会」なのだ。物語が進み当初見知らぬ者同士だった二人が近づき未来を見据えだすにつれて描写が明るくなっていくような気がした。刻々と過ぎる時間にもドキドキした。残念ながら解決部分はちょっと駆け足だったが、そこはアイリッシュにとっては重要でないからかもしれない。彼にとっては闇の下の都会とそこで絶望しながら、あるいはまじめに、あるいはずる賢くも生きようとする人々こそが描きたい対象なのだろう。その世界を久しぶりに堪能できた幸せ。先が気になり最後はほぼ一気読みだった。最初の頃ヒロインが意識していた時計が語られなくなったと思いきや最後に役割があったのも嬉しかった。解説子のごとく、できれば本書の時間の経過のように一晩で読みたかった。このカバーデザインがまた素敵で本の世界を端的に表現していると思う。ただ私は時計表示の"章題"が頭に入りにくく何度も現在時間を確認した。文字おこし併記はダメだったろうか。また解説を読了後読みかなりがっかりした。アイリッシュの世界観については概ね解説子と同じだったのは我が意を得たりと嬉しかったが、その後は訳者との知己を語るその内容とアイリッシュについて愛情を含めながらもちょっと軽くあしらうような書きぶりは残念。何よりネタばれぎみながいただけなかった。

  • 高野和明さんの作品『グレイヴディッカー』のあとがきで紹介されていたのが、本作品です。高野さんの作品と同様に、主人公は止むに止まれぬ事情で、ある時間までに目の前の難問を解決しないといけいない状況に追い込まれてしまいます。タイムリミットは3時間、果たして彼らは無事に到達できるのか?というお話しです。
    高野さん『グレイブディッガー』がとても面白かったこともあり、似た作風で面白い物語ということで、入手しました。
    1944年に出版された作品ですが、今読んでも楽しめる傑作でした。
    『幻の女』『黒衣の花嫁』という二つの作品も楽しいものらしい。こうして、無限に生まれてくる読みたい作品の数々、仕事している場合ではないなぁ〜と言ったら怒られますなぁ〜笑

  • 「幻の女」よりも好きだなあ。ロマンチックな青春小説だからだろうか。いや、でもミステリとしてもタイムリミットものの傑作である。ニューヨークに住むダンサーと青年。殺人の容疑を問われる彼が潔白を証明するのに残された時間は5時間!手に汗握るサスペンスなのだが、何より2人がロマンチック。そして読後の幸福感が最高。

  • 大都会に打ちのめされた日々を送るブリッキーが出会った青年クィンは、同じ町の出身だった。打ち解けた二人は一緒に故郷の町に帰ろうとするが、問題はクィンが犯した窃盗だった。夜明けのバスで故郷へ向かうため、盗んだ金を返そうと訪れた屋敷で、二人は死体を発見してしまう。このままではクィンが犯人とされるのは間違いない。真犯人を見つけるしかないのだが、残された時間は夜明けまでの3時間ほど。二人の必死の捜索が始まる。

    タイムリミットサスペンスの古典的傑作。甘美で華やかなレトリックに満ちた文体は、稲葉明雄の名訳と相まって、クライマックスの息つく間もない展開まで物語に引き込んで離さない。

  • 創元社から出していた「暁の死線」懐かしかったです。
    あまりに古いので少々混乱して居ます。名義だの何だと。
    アイリッシュとかウールリッチとか辺りが。
    確か、この本は名著「幻の女」と対になっていたんじゃなかったかな。
    バッドエンドとグッドエンドできちんと分けられてたと記憶しているのですが。

  • 「幻の女」が面白かったため、急遽アイリッシュ作品を購入。

    都会の片隅で孤独な生活を送るダンサーのブリッキー。
    ある夜、不審な青年クインと出会う。はじめは、関わりたくもないため避けていたブリッキーだが、クインが同郷出身と知り打ち解ける。
    クインは、仕事で行った金持ちの金庫から現金を盗み出したことを告白する。ふたりで都会から脱出してやり直すために、盗んだ金を返しに行こうとブリッキーは言う。ふたりで返しに行くが、邸内にはひとりの男性の遺体が転がっていた。

    今回も「幻の女」と同じくタイムリミットのある物語。しかも今回の制限は三時間しかない。
    ちょっと短すぎるのでは、というわたしの想像は、半分正解だった。時間が短いため、物語は怒涛の展開、ふたりは目まぐるしい活躍をする。
    こういう部分がリアリティーに欠けると言えばそうだと思う。
    ただ、この作品は最早犯人探しはどうでもよくて、ブリッキーとクインの恋愛小説と言っても良いくらいだ。
    それ程にロマンチックな薫りに包まれている。ロマンチックミステリーとでも呼ぶのだろうか。

    翻訳が少し古いため、若いふたりの会話が何故か古めかしいところも多いけれど、全体としては魅力のある翻訳なのだろうと感じる。

    タイムリミットのある物語になった原因はブリッキーにあるのだが、いくら都会の生活に疲れ故郷に帰りたいとはいえ、そこまで自分を縛り付けるようなことをしなくてもと思った。しかしこれは、就職で故郷を離れざるを得なかったり、都会に憧れる生活を送ったことがないため理解出来ないだけなのかもしれない。

    アイリッシュの作品、は書き出しにとても魅力がある。
    本作でも素晴らしい一文から始まる。
    他の作品もまた読みたくなる作家だ。

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