- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488186036
作品紹介・あらすじ
ふるさと祭りの最中に突発する、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの、“生け贄” の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。何不自由ない暮らしを送る主婦が続ける窃盗。麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠す真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』を凌駕する第2短篇集、ついに文庫化!
感想・レビュー・書評
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『犯罪』と同じテイストで、濃淡ある表現で、とりたてて珍しくない普通の人たちが薄氷から落ちるまでと落ちたあととを描いた物語です。
のんびり読んだので、最初のほうは内容が抜けてしまいました……。最後の短編だけ、そのオチが他の短編とは異なり不気味さより面白さが先行していたことが印象的です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シリーズ2作目で15話の短編集。3-4ページしかない話も。前作未読であっても支障なし。前作に比べて前半に胸糞の悪い話が多く一度中断してしまったが、後半は前作同様に楽しむことができた。調書のように事実を淡々と語りながらも、巧みな文章表現で事件に関わる人たちの人間性を描き出すところに文学的面白さを見出す。また事件や裁判のその後が短文ではあるが添えられており、本書の主題は人生なのだと感じる。まるでノンフィクションのように錯覚する程の没入感、リアリティが癖になる。
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この短編集もバラエティ豊かで面白かったです。
淡々とした描写だけれど冷たくない。
罪を犯してるけど裁かれなかった事件や、これから罪を犯そうとしてた人が呆気なく…もあり。遣る瀬無くなります。
「アタッシェケース」「清算」に特に掴まれました。「清算」には、(そんな裁判官いるのか…)と思いました。
「秘密」はそうきたか!とちょっと笑ってしまいます。
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前作以上に短編のバラエティが豊かになり、シーラッハの才能を存分に味わえる1冊。
あまり感情を挟まない描写から、被害者や加害者の人生、言葉にできないような複雑な心の動きが、苦しいほど伝わってくる。
特に名作だと思うのは、冒頭の『ふるさと祭り』『遺伝子』『イルミナティ』。全て重量級の衝撃が胸に残る。
ショートショートの『解剖学』『アタッシェケース』も好き。世にも奇妙な物語みたい(もっと残酷だけど)。
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ドイツの作家「フェルディナント・フォン・シーラッハ」の短篇集『罪悪(原題:Schuld)』を読みました。
「ハラルト・ギルバース」、「アンドレアス・フェーア」に続き、ドイツ作家の作品です… 「フェルディナント・フォン・シーラッハ」作品は、約2年前に読んだ『犯罪』以来ですね。
-----story-------------
罪人になるのは簡単なのに、世界は何も変わらない。
──ふるさと祭りの最中に突発する、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。
秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。
何不自由ない暮らしを送る主婦が続ける窃盗事件。
弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。
「このミステリーがすごい!」第二位など、年末ベストを総なめにした『犯罪』に比肩する傑作!
解説=「杉江松恋」
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2010年(平成22年)に刊行された短篇集で、以下の15篇が収録されています… たった3ページの短篇というより掌篇というべき作品もあり、前作よりも、一つひとつの作品が短くて読みやすかったですね。
■ふるさと祭り(原題:Volksfest)
■遺伝子(原題:DNA)
■イルミナティ(原題:Die Illuminaten)
■子どもたち(原題:Kinder)
■解剖学(原題:Anatomie)
■間男(原題:Der Andere)
■アタッシュケース(原題:Der Koffer)
■欲求(原題:Verlangen)
■雪(原題:Schnee)
■鍵(原題:Der Schlussel)
■寂しさ(原題:Einsam)
■司法当局(原題:Justiz)
■清算(原題:Ausgleich)
■家族(原題:Famllie)
■秘密(原題:Geheimnisse)
■解説 杉江松恋
後味の悪い嫌な印象を残す物語の展開は、この第二作でさらにパワーアップ… でも、それがリアリティを感じる要因でもあるんですよね、、、
嫌だなぁ… と思いつつも、ページを捲る手が止まらない作品群でした。
そんな後味の悪い作品の中でも特に印象に残ったのは『ふるさと祭り』かな、、、
小さな町の六百年祭、ともかく熱い8月1日に、きちんとした仕事をしている人たちのブラスバンドのサークルでひどい暴行事件が起こる… 17歳の娘が楽団員たちにレイプされ、被疑者は楽団員の8人全員で、そのうちの誰か1人が事件を通報していた。
刑事訴訟では、被疑者は黙秘が許され、証拠を提出しなければならないのは告発側… 弁護士とは因果な商売で、明らかに犯罪者と分かっていても、そして裁かれるべきだと分かっていても、そちら側の利益に尽くすしかないんですよね。
やりきれない気持ちで読み進む物語が続くのですが、『鍵』については、ロシアの女にカミソリで大腿動脈を切られるシーンで、気分が悪くなりそうになりました… 刃物には弱いんですよねぇ、、、
大切な鍵を犬が呑み込んでしまい、糞まみれになって鍵を探すシーン等、ちょっとコメディの入った作品かと思って油断して読んでいたのに… このシーンの影響で、ある意味、忘れられない作品になりました。
珍しく嫌な感じが抑えめでカタルシスを感じれられるた『清算』も印象に残りましたね、、、
「アレクサンドラ」の結婚した相手は酒を飲むと暴力をふるった… それでも、我慢を続けた「アレクサンドラ」だったが、夫から「娘が10歳になったので俺の女にする」と聞き、さすがに許せなくなり、夫が寝ているときに彼を撲殺。
そして裁判では… 明らかに情状酌量の余地がある罪とは言えない罪でも行為としては犯罪になってしまう、、、
というのを大岡裁きで逆転させる展開… 珍しく痛快な筋書きでしたね。
最後に収録された『秘密』は、狂人と私の立場が入れ替わってしまうラストが象徴的… 作品の最終話を飾るに相応しいオチでした。
本シリーズ… 読みたくないけど、でも、読んでみたい… 魅力と嫌な感じが同居した、不思議な作品群ですね。 -
感情を抑えた文体で、とつとつと語られるように感じるが事件の内容自体は非常に凄惨なものも多くあった。翻訳小説が苦手な私でも読みやすく感じました。
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2020年9月11日読了。
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前作『犯罪』に次ぐ15編からなる短編集。
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『ふるさと祭り』
『遺伝子』
『イルミナティ』
『子どもたち』
『解剖学』
『間男』
『アタッシュケース』
『欲求』
『雪』
『鍵』
『寂しさ』
『司法当局』
『清算』
『家族』
『秘密』
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前作『犯罪』と同様に、弁護士である『私』の周りで起きた、犯罪に手を染めてしまった者・巻き込まれた者・関わった者達についての様々な話が収められている。
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読んで思った事は前作よりも重く、切ない内容の話が多い気がした。
『ふるさと祭り』『イルミナティ』『寂しさ』『清算』など、女性や子供が恥辱や暴力を受ける作品は心を傷めずにはいられない。
人権を尊重する為に被疑者の弁護をする弁護士という存在が必要なのは理解出来るが、明らかに加害者である者であっても検察側の証拠提示不十分・弁護次第によっては何の罪にも問われず、被害を受けた者やその家族の気持ちを想うと居た堪れず、制度の不条理さを感じてしまう。
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その反面、『解剖学』『鍵』『秘密』など、ユーモラスな作品もあり楽しませてくれる。
『解剖学』はまさにショートショート。たったの3ページで起承転結が見事に成立している。
『鍵』はエンタメ要素が強く他とは一線を画しているし、『秘密』のラストのオチは落語に通じるものを感じさえした。
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前作の『エチオピアの男』のような心が温まるような救いのある話が今作では見受けられなかったのが少し残念。
強いて言えば『雪』がそれにあたりそうな気もするが、やはり切なさの方が勝るかな。
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全体的に重く暗めの読後感だっけど、前作に負けず劣らずバラエティ豊かな作品だった。 -
ふるさと祭りで突発した、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社にかぶれる男子寄宿学校生らによる、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こした悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠した真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。
第二短篇集。飛ばし読みには向いていません。じっくり味わった。 -
2020.5.16読了
前作「犯罪」に劣らない完成度の高い作品群だった。
弁護士である作者が経験を元に創作したと思われる刑事事件が並んでいる点で前作と構成は変わらないが、異なる点として、作品数(前作が11作であったのに比べ本作は15作。「解剖学」(3頁)等掌編が含まれるから)の他、文庫版の解説にもあるようにテーマの違いが挙げられるように思う。
ただし、解説者の言う、前作は「憐憫」、本作は「嘲笑が基調」と言う見方は素直に受け入れ難い。
前作はあくまで「犯罪」そのものにスポットが当てられ、事件の加害者になってしまった人々の背景、経緯、動機といったところに関心がおかれたが、本作はもう少し広く、人間がそもそも抱えている「原罪」とその周辺を照らしているように思う。
感情を抑制し淡々と綴られる短い文章の連なりに、人生の悲哀とこの世界のやるせなさ、稀に顔を出す希望と言ったものが立ち現れ、深く印象を残す。
平凡な日常というのがこの上なく幸福なことなのだと思い知らされる気がした。