忘れられた花園〈下〉 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488202064

作品紹介・あらすじ

祖母から英国コーンウォールの崖の上にあるコテージを相続した孫娘カサンドラは、祖母ネルの書き残したノートと謎めいた古いお伽噺集を手に英国に渡る。ネルはなぜ遠い地にコテージを買ったのか? ネルはいったい誰だったのか? 今はホテルとなった豪壮なブラックハースト荘、その敷地のはずれ、茨の迷路の先にあるコテージの手入れを進めるうちに、カサンドラは封印された庭園を見出す。そしてブラックハースト荘の秘密とは……? 解説=川出正樹

感想・レビュー・書評

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  • 再読!
    三つの時代を行ったり来たり。
    闇のロンドン市中やコーンウォールの蔦に囲まれたお屋敷や庭、既視感たっぷりなのに何度ページを捲っても新しい。

    私にとって一生モノの本です。

  • 下巻になると、ネルの出生の謎もいろいろわかってくるので、ページをめくる手が早くなります。

    現時点での2005年、ネルがオーストラリアに着いた2013年、21才の誕生日の1930年、ネルが孫と暮らし始める1975年、ロンドン1900年、ブラックハースト荘1900年、ブラックハースト荘1907年、と行きつ戻りつしつつ物語は進む。

    早川海外ミステリハンドブック2015:時代を作る・作った新世代ミステリ

    2008発表
    2011.2。25初版 2011.10.20第5版 図書館

  • 2005年、オーストラリア。祖母を看取ったカサンドラは、葬儀の席で大叔母たちから実は祖母のネルが養子だったことを知らされる。驚くカサンドラだったが、ネルはもうひとつ謎を遺していた。オーストラリアから遠く離れたイギリスのコーンウォールにコテージを所有していたのだ。「これをカサンドラに遺贈する。いずれその意図を理解してくれることを願って」と書き残したネルの足跡を追って、はるばるコーンウォールのトレゲンナという村にたどり着いたカサンドラは、かつて貴族の邸宅だったブラックハースト荘で貴族の令嬢と童話作家と画家が過ごした日々にネルの出生の秘密が隠されているのを知る。百年の時を行き来しながら、一人の女性のアイデンティティにまつわる謎を追った歴史エンターテイメント。


    時空を超えたシスターフッド、そして祖母と孫を描いた作品。ネルがなぜ偏屈ばあさんになったのか、その絡まった糸をときほぐすうちに、カサンドラが抱える傷も少しずつ癒されていく。心地よい距離感を保ったシンクロニシティとも言うべきこの関係性は、親娘間では書きにくいことのような気がする。
    物語は3パートに分かれている。一つ目がカサンドラのパート。軽いタッチのロードムービーふうで、少しおせっかいなキャラクターが次々登場し、後半にはラブロマンスもある。二つ目はネルのパート。船でのかくれんぼの記憶に始まり、人生が一変してしまった婚約パーティーのこと、謎解きの果てにトレゲンナにたどり着いたことが描かれる。三つ目はイライザのパート。サラ・ウォーターズの『荊の城』を思いだすようなイライザの身の上とローズとの友情。三つのパートを細切れに語って謎の解明を引き延ばすと同時に、同じ人物の時を経た姿が多角的に描かれる構成になっている。
    一番の眼目はブラックハースト荘のパートだが、ミステリーを意識した(?)ミスリードが余計に感じてしまう。イライザが実母に決まってるんだから、もっとローズとイライザとナサニエルをめぐるドロドロに注視してゴシック気分を盛り上げてほしかった。友情で繋がるローズとイライザ、性愛で繋がるローズとナサニエル、創作で繋がるイライザとナサニエル…という掘り下げがあるものと思っていたので肩透かしを食らった。イライザがだんだん破天荒じゃなくなるのも寂しい(これは物語上必然性があるが)。アデリーンの徹底した悪役ぶりが一番好感度高い。
    でも作中でイライザが書いたとされる童話が全部ちゃんと面白いのは偉い。元々は「Authoress」という題にするつもりだったというから、イライザの人生から妖精物語が生みだされるその飛躍こそがテーマだったのだろう。直接血筋と関係があるネルやカサンドラだけでなく、ジュリアがローズのスクラップ帳を、クララがナサニエルの原画を、クリスチャンがイライザの庭をそれぞれ大事に思っているところは、創作物と時間の経過とその需要のあり方をあたたかく描いていると思った。
    最初に「時空を超えたシスターフッド」と書いたのは、ネルもイライザもローズも苦しみ傷ついて、秘密を抱えたまま亡くなったが、その気持ちを受け取る相手が未来にいたのだとわかる物語だからだ。過去に苦しんだ人びとへの共感が、いま前を向くためのパワーに還元されていくというポジティブなメッセージがあるからこそ、二人のキャラクターの死の場面で終わるにもかかわらず、読後感は明るい。

  • ゴシックミステリーというジャンルらしい
    イメージより地味な読み心地ではなく
    サスペンスフルで
    次々とページをめくってしまう。

    途中で真相に気づいてしまったが
    それでも最後まで引っ張られる
    解説によるとやや荒さもあるみたいだけど
    綺麗にまとまって面白かった。

    他の本のあらすじをよんでみると
    こういう感じの話が多い作家さんなのかも

    映像化したら見てみたい。

  • 一番の謎は予想通りでしたが、面白かったです。
    過去の人物視点で語られる事は、現在の人物は自分で調べないと知りえない事で、それも、詳細まではわからない、という構成も面白いです。

    それから、作中にバーネットが登場するのですが、彼女がブラックハースト荘のガーデンパーティに招かれるのが1907年。『秘密の花園』の初版発行が1911年。成程、そういう仕掛けかぁ、と。

    本編にはあまり関係がないのですが、読んでいて疑問に思った事が、訳者あとがきですべてツッコまれていたので、「あ、何だ、そう思ったのは私だけじゃなかったんだ!」と、少し面白かったです。

    『秘密の花園』と『茨の城』がお好きな方にはおすすめです。

  • 3人の女性の視点で物語は進む。
    章ごとに視点が目まぐるしく入れ替わり、少しずつ秘密が解かれていく構成。

    主題は、ネルとは一体誰だったのか。読み進めていくと想像はできるけど、3人がたどり着く結末が気になり最後まで一気に読んでしまった。

    ミステリというより、ハーレクイン。
    読後感は良かった。

  • いやあ、楽しい読書でした。
    子どものころ読んだイギリスのお話みたいな部分と、ハーレクインみたいな部分。
    「秘密の花園」の作者、バーネット夫人もちゃんと出てきます。

    推理小説として考えると物足りない。
    ネルの正体は、割と簡単に想像がつきます。

    けれどイライザの悲しいまでに切ないローズへの友情。或いは愛情。
    本当の自分を知りたいというネルの強い欲求。
    過去の後悔から自分を解き放つことのできないカサンドラ。

    この3人の人生が年代を超えて複雑に織りなしていく物語なのですが、この巻ではもっぱらイライザの人生について。
    自分の力で生きてきた少女時代のイライザが、母の実家であるマウントラチェット家に引き取られ、本来の自分とローズとの友情にすがる自分との間で引き裂かれていく様子が、哀しいくらいの説得力を持って迫ってくる。

    貴族のお嬢様というのは、家の奥深くに隠されて、世間を知ることなく、家族と使用人しかいない世界で育つのだね。
    だからとても世界が狭い。
    ローズの母であるアデリーンの、どこまでも満たされない欲求が、どんどん不幸を拡散していく。
    誰もそれを止めることができない。
    だって、狭い世界しか知らないから。
    その圧倒的な負の情念を誰も知らないから。

    “「人生は自分が手に入れたもので築き上げるものよ。手に入れ損なったもので測っちゃ駄目」”

    アデリーンの不幸は、手に入れた貴族の生活という幸せではなく、手に入れられなかった妻としての幸せ、そして決して泥を塗ってはいけない世間からの評価で自分の人生を測ってしまったことだ。

    ローズの不幸は、そんな母から知らず知らずのうちに植えつけられていた、貴族意識。
    本来は手に入れることのできないものを、どうしても欲しいという気持ちを我慢することができなかった。
    我慢の必要を教えられることなく育ったローズは、自分の要求が、自分の大切な人たちと、そして自分自身をも不幸にしてしまうと最後まで理解できなかった。
    誰も教えてくれなかった。

    それに比べたら、一見不幸の連続のイライザは、自分の才能を知り、報われずに終わったとはいえ彼女のほうからは決して失うことのなかった友情を知り、本当に愛するべきもの、大切なものを知ったことで、前向きに人生を終えることができたのではないだろうか。

    ネルは、両親が実の親ではなかったことを知って、自分の人生を半分捨ててしまったが、意に反してカサンドラと暮らすことによって、自分が本来持っていた自分自身を取り戻すことが少しはできたのではないかと思う。

    そしてカサンドラ。
    失ったものにとらわれていた彼女は、これからはきっと手に入れたもので人生を測ることになるだろう。

    そんな女たちの大河小説。
    小さな疑問というか、突っ込みどころはあるけれど、大きな流れに任せてしまえばなんともいえない物語の魅力に包まれてしまうのだ。

    そんな小さな突っ込みどころの一つ。
    最後まで精神的な大人になることがなかったナサニエル。
    もう気持ち悪いの。
    自分とジョージアナしか世界にいなくて、時間が止まっていて、生きているのに世の中に何一つ貢献できない男。
    この悲劇のそもそものきっかけを作った…わけではないけど、まあ拡大した男、ナサニエル。
    彼の不気味さは、これ以上の悲劇を引き起こす予感があったのですが…うーむ。

    上巻の時も思いましたが、訳者あとがきがめっちゃ長い。(笑)
    今回も長いですわよ。

    読み終わって本を閉じて思ったこと。
    あ~、面白かった。

  • 下巻は続きが気になり、一気に読破!

    カサンドラもネルも大好きになった。そして、イライザは切なくなった。

    3人に共通するのは、自分の居場所をそれぞれが必死になって見つけようとしていたところ。自分が何者なのか、ないもの、もしくは失くしてしまったものを必死で追い求めて、本当に大切なものをちょっぴり見失ってしまう。

    私は、人間にとって大切なもののひとつに「自分の居場所を見つけること」があると思っているので、この物語は本当に面白かった。

    この本のタイトルの意味も下巻まで読むとわかります。

  • (上巻より)

    22歳の時に、自分の子供ではないと父親に告げられ、
    婚約を解消し、それまでの人生に背を向けたネル。
    そのネルが、自分の出生を探しに訪れた秘密の花園にいた少年に、
    ネルの足取りを追ってきた孫がめぐり合う。
    ちょっとご都合過ぎると思いながらも、良かった。

    自分や祖母の過去を追う謎解き自体も面白かったが、
    挿入されたおとぎ話が美しい。
    その美しさがこの物語の核だろう。

  • オーストラリア出身でイギリス在住の作家「ケイト・モートン」の長篇ミステリ作品『忘れられた花園〈上〉〈下〉(原題:The Forgotten Garden)』を読みました。
    「ダフネ・デュ・モーリア」の後継者… 21世紀の「ダフネ・デュ・モーリア」… 等々のキャッチコピーが気になり、読んでみることにした作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    1913年オーストラリアの港にたったひとり取り残されていた少女。
    名前もわからない少女をある夫婦が「ネル」と名付けて育て上げる。
    そして2005年、祖母「ネル」を看取った孫娘「カサンドラ」は、祖母が英国、コーンウォールにコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。
    なぜそのコテージは「カサンドラ」に遺されたのか? 
    「ネル」とはいったい誰だったのか? 
    茨の迷路の先に封印された花園のあるコテージに隠された秘密とは?

    〈下〉
    祖母から英国コーンウォールの崖の上にあるコテージを相続した孫娘「カサンドラ」は、祖母「ネル」の書き残したノートと謎めいた古いお伽噺集を手に英国に渡る。
    「ネル」はなぜ遠い地にコテージを買ったのか? 
    「ネル」はいったい誰だったのか? 
    今はホテルとなった豪壮なブラックハースト荘、その敷地のはずれ、茨の迷路の先にあるコテージの手入れを進めるうちに、「カサンドラ」は封印された庭園を見出す。
    そしてブラックハースト荘の秘密とは……? 
    解説=「川出正樹」

    *第3回翻訳ミステリー大賞受賞作
    *第1位 第3回 AXNミステリー「闘うベストテン」(2011年)
    *第7位『ミステリが読みたい!2012年版』海外篇
    *第8位〈週刊文春〉2011ミステリーベスト10 海外部門
    *第9位『このミステリーがすごい!2012年版』海外編

    ●数々の書評から

    魔力に満ちた一冊――ニューキャッスル・ヘラルド
    最後の最後に明かされる真実。驚愕の真相とはまさにこのこと――カーカス・レビュー
    読者を別世界に誘う壮大で豪奢な作品――NYデイリー・ニュース
    「モートン」は読者を時に驚かし、時に当惑させ、そして徹底して楽しませてくれる――スター・テレグラム
    あざやかな筆致、堪能すること間違いなしの作品――デイリー・エクスプレス
    「ダフネ・デュ・モーリア」の完璧なまでの後継者――ル・フィガロ
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    2008年(平成20年)に発表された作品で、「ケイト・モートン」の長篇第2作目にあたる作品です、、、

    舞台はオーストラリアそしてイギリスのロンドンやコーンウォール、時代は1800年代終盤から2005年と、舞台と時代を行きつ戻りつしながら、空間的にも時間的にも大きな広がりをの中で、自らの、そして祖母の出自の謎を解き明かす物語… 面白かったです。


    第1次世界大戦前夜の1913年、オーストラリアの港で、ロンドンから着いた船の乗客が去ったあと、たったひとり取り残されていた少女を港の職員が見つけ、自宅に連れ帰ることに… 小さな白いトランクと少女、トランクの中身はわずかな身の回り品と、お伽噺集『少年少女のための魔法のお伽話集』が一冊、、、

    名前も思い出せないらしいこの少女を連れ帰った職員は、妻とふたりで彼女を「ネル」と名づけて育てることに… その後、妹たちが生まれ、長女として明るく育った「ネル」が21歳になった夜、父親は彼女に真実を告げる。

    「ネル」は、自分が何者であるのかがわからないという驚愕から、心を閉ざし、人が変わったようになってしまう… 時は流れ2005年、祖母「ネル」を看取った孫娘「カサンドラ」に、祖母の友人が驚くべき知らせを持ってくる。

    「ネル」が彼女にイギリスのコーンウォールにある小さなコテージを遺してくれたというのだ… なぜ、祖母はそんなコテージを持っていたのか? いつ手に入れたのか? 祖母の遺したノートと、かたみの古びたお伽噺集を手に、彼女はコーンウォールを訪れる、、、

    コテージは、今はホテルとなった豪壮な館・ブラックハースト荘の敷地のはずれ、崖の上にあった… そして、そこには茨の迷路と、閉ざされ忘れられた花園が……。

    「カサンドラ」の祖母「ネル」はいったい誰だったのか? 「ネル」はブラックハースト荘とどんなつながりがあったのか? 幾重にも重なる謎を解き明かすことはできるのか!?


    1880年代から1913年に至る時間内では名門「マウントラチェット家」にまつわる物語が、主に一族の女主人と娘、そして当主の姪「イライザ」の視点から描かれ、1975年前後の時間内では「ネル」によるロンドンとコーンウォールでのルーツ探しが描かれ、2005年前後の時間内では「ネル」の死後、白トランクは孫「カサンドラ」へと受け継がれ、彼女は祖母の謎を解くべく渡英して謎を解き明かそうという姿が描かれ… という3つの物語が、1つの物語として編み込まれていく展開が愉しめました、、、

    「ネル」が辿り着いた真実… 「カサンドラ」が辿り着いた真実… それは、ちょっとだけ違う部分もあるのですが、読む側は全ての真実が理解できる展開となっており、モヤモヤ感がなくスッキリとした読後感が味わえました。

    凶悪な殺人事件やトリックを活用した盗難事件は起きず、自分のルーツを探るという地味なテーマにも関わらず、最初から最後まで読者の興味を惹きつける展開でしたねー

    「ネル」は誰と誰の子どもだったのか?

    「ネル」の本当の名前は?

    誰が何の目的で「ネル」を屋敷から連れ出したのか?

    なぜ、その人物は「ネル」をオーストラリア行きの船に乗せたあと消えてしまったのか?

    なぜ、その後、誰も「ネル」を捜しにこなかったのか?

    全ての謎が解けたときのスッキリ感は、何とも言えませんでしたね… ホントに面白かったです。

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著者プロフィール

1976年、南オーストラリア州ベリに三人姉妹の長女として生まれる。クイーンズランド大学で舞台芸術と英文学を修めた。現在は夫と三人の息子とともにロンドン在住。2006年に『リヴァトン館』で作家デビュー
『湖畔荘 下 創元推理文庫』より

ケイト・モートンの作品

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