声 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (475ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488266059

作品紹介・あらすじ

クリスマスシーズンで賑わうホテルの地下で、一人の男が殺された。ホテルの元ドアマンだった男は、サンタクロースの扮装でめった刺しにされていた。捜査官エーレンデュルは捜査を進めるうちに、被害者の驚愕の過去を知る。一人の男の栄光、悲劇、転落……そして死。自らも癒やすことのできない傷をかかえたエーレンデュルが到達した悲しい真実。全世界でシリーズ累計1000万部突破。翻訳ミステリー大賞・読者賞をダブル受賞の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 時に罵り合い、時に掴み掛かり、、、それぞれの家族の複雑な関係が、暗く、悲しく明かされていく。
    子牛のなめし革に簡潔に書かれたという、アイスランドの伝承文学〝サーガ”を意識しているという作者らしく、一切の無駄がなく、究極まで削り落とされた文章である。
    伏線回収は?と思うような意味のない登場人物、エピソードの類いがなく、そこがまた読みやすく、シリーズ作品の次が読みたくなる理由である。

  • 長く積読していた作家さんの三作目。

    こちらも二作目同様、深く沁みる家族の物語でした。21世紀の今なら~なのに登場人物の人たちの中では自分が人生の主人公なのに、
    抱えてゆくジレンマが多すぎてまたこのような悲劇的なミステリーに。
    (北欧ミステリー、あの作品この作品、どうしてこう情けないカッコ悪!だけどカッコいい中年の独り者刑事が多いのでしょう?)

    この表紙の画像がミスリード?
    そして二転三転する推測。
    たっぷり楽しませて頂けました。







  • アーナルデュル・インドリタソンは「このミス」で見つけた。「湿地」「緑衣の女」に続いて三冊目になる。流行の北欧ミステリなのだが、同じ地域だと大雑把に捕らえても、その作風はそれぞれまったく違っていて面白い。
    アーナルデュル・インドリタソンの作品の舞台からは当然北の風土感が伝わってくるが、読みどころは捜査官のエーレンデュルの心理描写や風景描写は、繊細で品がいい。

    エーレンデュルが抱えている個人的な悩みも深い、エピソード風に挿入されている過去に起きた出来事、彼の未だに囚われている苦しみに事件解決よりも惹かれるときがある。

    今回の事件は、クリスマス前の浮き立つ世間をよそに、有名ホテルのドアマンが、地下に与えられている小部屋で殺されていたことが発端になる。イベントに着るサンタの上着をはだけ、ナイフで滅多刺しにされ、下着は足元までずらした異様な姿だった。
    被害者のグロドイグルは28歳から20年間、ドアマンをしながら雑用も引き受け無事に勤めてきた。
    グロドイグルは子供時代は天才的なボーイソプラノ歌手で、地方で認められ始めていた。北欧巡業も決まっていた。が初めての大きな舞台で歌い出そうとしたとき突然変声期を向かえ、その後は消えてしまった。
    その後彼にまるで関心のなくなって家族は断絶した。

    しかし胸に何度も突き刺されたナイフの跡は何を意味するのか。調べを進めるうち、直前に接触した人物が分かる。
    彼はイギリスから、殺されたグロドイグルが子供時代に吹き込んだレコードを買いにきたのだった。
    残ったレコードは収集家が莫大な値段をつける超レアものだった。彼は手付金を受け取っているはず、が部屋にはなかった。
    麻薬も関係がない、ホテルの陰の娼婦斡旋も利用したことがない。不審な人の出入りもない。

    彼の過去は、子供スターとして短期間は世間に知れ、それが原因で学校では苛め抜かれ、常に公演の失敗を笑われ実に惨めに生きてきた。
    スターにするという夢のために父との過酷な日常を耐えた日々、ついに父と争って動けなくした。姉は手の平を返すように冷淡になり、家を出た。

    世間との接触をたって、ホテルの制服の中に逃げ込んでいた。彼がぬいぐるみを着るクリスマスのサンタは子供ちに人気だった。

    エーレンデュルとチームが次第に彼の過去に迫るにつれ、形は違っても、自分が抱えている癒されない過去が思いだされ苦しみながら話が進んでいく。
    一人の男の人生がこうして幕を閉じた後も、周りの人々の暮らしは続く。グロドイグルと関わった人たちの思いと、犯人の思いが、暗い地下の隅から、人々の前に姿を現す。
    しかしグロドイグルには誰にもいえないひそかな悲しい秘密があった。
    アイスランドの首都、レイキャヴィクのクリスマス前の数日が舞台である。


    一一一
    家。
    家とはなんだろう?
    人生がどうしようもない事態になり、崩壊と不幸の淵に沈んでしまう前に、家族と過ごした子ども時代に戻りたいと思うものだろうか?友達であり親友でもあった母親と父親、そして姉に囲まれて過ごした生家、そこで子ども時代に戻りたいという気持ちだろうか?生きていくのが苦しくてこれ以上耐えられないとき、失いたくない思い出、慰めとなった思い出を求めて、人の目につかないように生家に忍び込んでいたに違いない。
    もしかすると彼が忍び込んだのは、宿命と闘うためだったのかもしれない一一一

  • どちゃくそ面白かった。このアイスランドの憂鬱な感じ。そして、名前が特徴的なことが印象に残る。とにかく夢中で読んだ。一人の人間の栄光と没落……どころか、栄光にすらたどり着けず、すべてが陰鬱であるのが面白い。アイスランドに行きたくなる一作。

  • 読み終わってレビューを読んで、あ、シリーズ物だったんだ、と知る。

    以前読んだ翻訳ミステリー大賞がかなり良かったので、引き続き購入。
    鎌谷悠希の「少年ノート」という漫画をふいに思い出した。
    最終話まで読んでいないのだけど、音の描き方が素晴らしくて、芸術だなーと思わせる作品です。
    その中に登場するボーイソプラノ達を、この小説のグドロイグルに重ね合わせた。

    グドロイグルの声が持つ稀有な美しさ。
    けれど、それは父親の管理下だからこそ発揮され、変声期を迎えたことで貶められ、果ては家族としての居場所を失ってしまう。
    そんなグドロイグルの死を追う警察官エーレンデュルにも、家族としての居場所を求める娘エヴァの存在が描かれる。
    そして、父親からの虐待を疑われる事件を担当するエリンボルグのカット。

    それぞれのシーンが上手く切り替わりながら進んでいくのだけど、シリーズ物だからか、割と終わり方は雑な印象。
    んー。まあ続きを読むにはちょうどいいのかもしれない。

  • ★4.0
    過去2作と同じく、事件が起こっている“今”ではなく、常に“過去”と対峙しているエーレンデュル。そして、“家族”、中でも“子ども”の在り方を問いかける1冊だった。幼いエーレンデュルを襲った事故、ボーイ・ソプラノとして脚光を浴びた少年、暴行によって大怪我を負った少年…、本当に思っていることを口に出せなかった少年たちのために、タイトルに「声」が冠されたような気がする。また、当事者の少年たちだけではなく、姉として弟を見守っていた彼女が吐露した本心も切ない。誰よりも身近な分、“家族”は愛おしくも難しい。

  • クリスマスは幸せな人たちのもの。
    この小説はこの文章に全てが凝縮されていると思った。
    色んな出来事が重なって語られる。かつて子供スターになりかけた元ホテルドアマンがサンタクロースの格好でホテルの地下で殺されたのはなぜだったのか。
    西欧はクリスマスが特別なお祭り? なのでクリスマスに少しでも家族が幸せになれるというプレッシャーがすごく強いのかなとは思う。この作者の書くアイスランドはとても暗い色の世界に見える。エーレンデュルが10歳の頃から闇を抱えていたことをエヴァ=リンドに告白できて良かった。二人がゆっくり家族になっていくのイライラするけど、次の作品を読むの楽しみ!

  • 4月-1。3.5点。
    ホテルのドアマンが、ホテルの地下室で殺害される。
    少年時代、ソプラノ歌手だった被害者。

    哀しい人生。この作家、事件と言うよりは被害者の人生の描き方が珠玉。背景が哀しく、はまれる。

    次作も期待。

  • ホテルのドアマンの殺人事件と並行して、児童虐待の疑いの父子の件と、エーレンデュルの家族の話が展開していく。
    親子関係の、というか親が子供に与える影響の大きさに慄然とした。
    エリンボルクのがかかえてる事件の方の真実も気になる。

  • 北欧の小説はどれもそうなんだが、社会に蔓延る問題を上手く取り入れて作品にしている。

    この声という作品もミステリーなんだけれど、ミステリーの前に社会派をつけるとしっくり来る。

    子供はある程度の年齢がきたら1人の大人として接するべきだし、ましてや親の世間体やつまらない見栄、自己満足の為に子供に何かを押し付けたり縛りつけるなんてもってのほかだ。

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