雪と毒杯 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488269050

作品紹介・あらすじ

クリスマスが迫るウィーンで、オペラ界の歌姫を看取った人々。チャーター機でロンドンへの帰途に着くが、悪天候でオーストリアの雪山に不時着してしまう。彼らが避難したのは小さな山村――だが雪で外部とは隔絶していた。小体なホテルに落ち着いたものの、歌姫の遺産をめぐって緊張感は増すばかり。とうとう遺書が読み上げられた直後に、事件が起きて――。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • オペラ界の大御所歌姫アントニアの臨終を看取った関係者一同8人はチャーター機での帰路の途中で悪天候の為雪山に不時着。近くの村に避難出来たが雪でその場からしばらく動けない状態に。そんな中歌姫の遺言状が開示されたが内容には不満しかない一同。財産の大部分を受け継ぐとされた長年の相手役リチャードは新たに遺言状を作成し始めたが途中で毒殺される。誰に機会があったか、からきちんと組み上げていく推理過程はお手本の様だがその分意外性はない。しかし舞台の雪に閉ざされた村の中のホテルの雰囲気が美しい。映像映えしそう。何人かで推理していく形式だが中心人物の秘書スーザンのエキセントリック振りが駄目だ。1960年刊行なのを頭においても行動に一貫性なさ過ぎ。中心人物の魅力は大事だ。

  • クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫・アントニアの最期は訪れた。看取った人々はチャーター機で帰る途中、悪天候で雪山に不時着してしまう。彼ら八人は小さな村のホテルへとどうにかたどり着いた。だがそこで、事務弁護士・ニールによって歌姫の遺言状が読み上げられると、その信じられない内容に一同は凍りつく!雪で閉ざされた村で巻き起こる遺産相続ミステリ!

    エリス・ピーターズ名義で1960年に刊行された作品が本邦初訳!ぼくが好きな笹沢左保先生や、読んだばかりのウェストレイク先生のデビュー年と同じ1960年とは、不思議な縁があってびっくり!チャーター機が不時着する偶然のトラブルを端緒に、雪で閉ざされた村×遺産相続争いという要素が重なる状況が面白い。どこまでが偶然で、どこからが必然か。白い雪だった人間関係に落とされる、毒の黒い染み。言葉というマドラーでかき混ぜられた毒は、注がれたブランデーのように人々を熱くして争わせていく。

    視点は何人かで切り替わりながら進んでいく。一番の主人公は秘書のスーザン。彼女なりに頑張ってはいるものの、「おいおい冗談はよしてくれダーリン!」と思わず洋画風に頭を抱えてしまうシーンが多い(笑) その割を食うのがアントニアの伴奏者を務めてきたローレンス。遺産が欲しくてたまらないのが丸わかりの母・ミランダに気苦労を負わされ、さらにはスーザンと良い感じになったと思いきや災難に巻き込まれるという。あそこから立ち直るローレンスはすごい。

    あと、素人探偵を率先してやり出すパイロット・マクヒューの自由さが楽しい。こんなにノリノリで素人探偵し始めるキャラ初めてだわ(笑) 不謹慎だけど憎めない愛嬌がある。そして、亡くなったアントニアと、親友であり同じ舞台に立っていたリチャードの結びつきもよかった。どうなるものかと思ったけど、最後はほどよく雪解けして心があたたかくなる作品。渋いタイトルとは裏腹に、ミステリ×ラブロマンスで赤川次郎先生的な軽やかさがある。ビールやブランデーを飲みながら、のんびり読むのがちょうどいいかも。

  • 第1章の、アントニアとリチャードの別れが美しくて他の場面覚えてない

  • みんな大好き「修道士カドフェル」シリーズのエリス・ピーターズによる初期のノンシリーズもの。雪のクローズドサークル、伝説の歌姫の遺言状、そして若き恋人たち…と由緒正しき英国本格の舞台装置は揃っている。作家としての力量は伸び盛りでも、まだそこまで底意地が悪くなれない、という謂わば「性格のいいアガサ」といった感じの作品で、なんだか微笑ましい。最後のちょっとしたサプライズのおかげで温かい読後感もおまけで付いてくる。

  • カドフェル修道士シリーズと同じ作者だったので。

    オペラのディーバが亡くなる。
    みとった人々が乗ったチャーター機が雪山に不時着し、
    雪に閉じこめられた小さな村で遺言を聞くことに。

    と、ここまでは多少ありがちな展開だが、
    ディーバの秘書が、
    わざとディーバの甥を告発したためにややこしいことに。
    クリスマスに、伝説のダイヤモンドに、
    そして、当然恋物語も。

    憎めないディーバを初めとして
    12世紀でも現代でも、人間の描き方は見事。
    当然ハッピーエンドを期待していたが、期待通りで良かった。

  • オペラ歌手というものに、かつて憧れていた。

    椿姫として歌って死に、
    カルメンとして歌って死に、
    トスカとして「死ねー!!」と歌って死に、

    燦然と輝く舞台の上で、
    時に切々と、時に高らかにアリアを歌い、
    数多の観客から喝采をあびる・・・・・・

    さぞかし気持ちよかろうと、少女の私は思いこがれたのである。

    歌に生き、愛に生き、
    歌姫の人生には伝説がつきものだ。

    世界を飛び回り、王公貴族や億万長者などと派手やかに交際し、名誉とシャンペンと宝飾品の数々をほしいままにする。

    「なりたい」という夢はいつしか他の夢にとって変わられたが、歌姫の生き方は劇的、伝説的であってほしいとの夢は、まだ持っている。

    しかし、悲しいかな。

    花の盛りに惜しまれて、
    歌劇の主人公は早死にもできようが、
    ディーヴァ、女神と呼ばれようとも、
    歌姫も人間、
    神ならぬ身には色々あるのである。

    老化による容色の衰えがある。
    声の質はどうしても落ちていく。
    そこを技量、表現力、円熟味などで補っていっても、いずれ限界はある。
    ピークは過ぎてしまうのだ。
    誰より自分自身が身に染みてそれを知っているだろう。

    粋な姿はそのまま去ることだ。

    もう歌わない、姿を見せない。
    絶頂期の"歌姫"だけ人の記憶にあればいい。
    惜しまれつつ去る"伝説"・・・・・・

    しかしそれはとてつもなく難しい。

    舞台、光、喝采、

    その欲望はそうそう捨てられない。

    "歌姫"とて人間。
    皆が皆、"粋"になれるものではない。

    そんなこんなを踏まえた上で、歌姫の生き方はかくあれかし
    と、著者エリス・ピーターズは思ったのかもしれない。

    読後、強く鮮やかな印象となったのは、歌姫アントニア・バーンの存在である。

    少女の私が読んだなら、そう、こんな歌姫になりたいのと、きっぱりうなずいたことだろう。

    今の私がさらに言うとすれば、ミステリーとして、アガサ・クリスティーと印象が重なるということだ。

    鍵となるのは女性たち。

    揺るぎない存在感で他を圧する往年の歌姫。
    若く生き生きと困難に立ち向かう女性。

    鞄を持って駆けつける老医師。
    育ちのよい、今は少し問題を抱えた若者。

    というような登場人物群である。

    品がよく、すれっからしておらず、やわらかな皮肉とユーモアのある物語だ。

    近年の、物騒すぎる推理小説に疲れた人に、特におすすめする。

  • 修道士カドフェルシリーズで有名な著者のノンシリーズミステリ。
    ウイーンでオペラ界の歌姫を看取った関係者たちがロンドンに帰るチャーター機が、悪天候で雪山の村に不時着。そこで読み上げられた遺言状に一同は騒然となる。そしてその夜に事件が起こるのだが…
    カドフェルは時代背景の面白さで読んでいたが、これは思ったよりしっかりと黄金期のミステリだった。嵐の山荘、不穏当な遺言状、怪しげな登場人物…というありがちな設定ながら、キャラがテンプレとはいえしっかりしているし、ストーリーも起伏があって大変読みやすく面白かった。

  • イギリスの作家「エリス・ピーターズ」の長篇ミステリ作品『雪と毒杯(原題:The Will and the Deed、米題:Where There's a Will)』を読みました。
    「ジェフリー・アーチャー」、「マージェリー・アリンガム」、「エレナー・アップデール」に続き、イギリスの作家の作品です。

    -----story-------------
    クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫の最期を看取った人々。
    帰途にチャーター機が悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。
    彼ら八人がたどり着いたのは、雪で外部と隔絶された小さな村のホテル。
    歌姫の遺産をめぐり緊張が増すなか、弁護士によって衝撃的な遺言書が読みあげられる。
    そしてついに事件が──。
    修道士「カドフェル」シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格。
    解説=「三橋暁」
    -----------------------

    1960年(昭和35年)に発表された作品、、、

    外部と途絶したホテルでの惨劇を描いたクローズドサークル物… この舞台設定、大好きなんですよね。


    欧州のオペラ界に歌姫(ディーバ)として君臨した老女優「アントニア・バーン」が大往生を迎える… 姪の「ミランダ・クウェイン」と、その息子「ローレンス・クウェイン」、マネージャーの「トレヴァー・メイスン」、主治医の「チャールズ・ランドール」、共演者の「リチャード・ヘリャー」、秘書の「スーザン・コンロイ」等を引き連れての最後の公演旅行を終え、ウィーンのホテルで彼らが見守る中、「アントニア」は息を引き取った、、、

    残された一行は葬儀のためロンドンへと出立するが、チャーターした飛行機は折からの悪天候でオーストリアの山岳地帯に不時着を余儀なくされる… パイロットの「マクヒュー」を含む8人は村人に救出されるが、大雪のために山間の小さな村オーバーシュヴァンデックに足止めされてしまう。

    折しも翌日はクリスマス・イヴで、やがて一行が泊まることになった、家族経営の小さなホテル<牧場の馬>で晩餐が始まった… 故人の遺産を巡る言い争いから、同行の事務弁護士「ニール・エヴァラード」は、その席で老女の遺言書を朗読するが、思いがけない内容に一同は色を失う、、、

    故人の親友で、遺言にも名前のあった「リチャード・ヘリャー」がテラスルームで毒殺されて発見されたのは、その夜半のことだった… しかし、13キロメートル下方のバート・シュヴァンデック村とは、谷間の隘路で結ばれているが、大雪によりスキーも使用困難で不通となり、電話線も降雪により断絶され、村は孤立し、警察とも連絡が取れない状況だった。

    そんな中、パイロットの「マクヒュー」、事務弁護士の「ニール・エヴァラード」、秘書の「スーザン・コンロイ」が中心となり、犯人捜しが始まる… そして、動機と機会があったことから、「リチャード・ヘリャー」殺しの容疑者として部屋に隔離されていた「ローレンス・クウェイン」が毒を飲んで瀕死の状態で発見される、、、

    真犯人は別にいて「ローレンス・クウェイン」は殺されかけたのか… それとも、犯行が露見したことから「ローレンス・クウェイン」は自殺しようとしたのか!?


    遺産相続の関係で、5人の人物に動機があり、当然、その5人に容疑が向けられるのですが… 遺書を巡る事実が明らかになることで、状況が一変します、、、

    この仕掛けは面白かったですね… 本格推理としては物足りない感じで、もどかしさもありますが、物語全体の雰囲気は好みだったので愉しめました。


    以下、主な登場人物です。

    「アントニア・バーン」
     オペラ界の歌姫

    「スーザン・コンロイ」
     アントニアの秘書

    「ミランダ・クウェイン」
     アントニアの姪

    「ローレンス・クウェイン」
     ミランダの息子

    「トレヴァー・メイスン」
     アントニアのマネージャー

    「ニール・エヴァラード」
     事務弁護士

    「リチャード・ヘリャー」
     オペラ歌手。愛称ディック

    「チャールズ・ランドール」
     アントニアの主治医

    「マクヒュー」
     パイロット

    「フランツ・メーレルト」
     ホテル<牧場の馬>の主人

    「リーズル・メーレルト」
     フランツの娘

    「アガーテ・クロースターマン」
     ホテルのメイド

  • 「修道士カドフェル」シリーズの著者、ピーターズの作品です。感じがかなり違うんですね。
    犯人にはすっかり騙された!でも、歌姫アントニアにはやられたというところですかね。

  • まあまあ面白かったが、やや長かった。殺人事件と呼べるものは1件(殺人未遂を加えると2件)で、前半に起こるので後半が退屈。しかし翻訳者が上手いせいか読みやすかった。
    クローズド・サークルでの遺言状発表という設定は個人的には100点。

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