- Amazon.co.jp ・本 (535ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488415020
作品紹介・あらすじ
灼熱の太陽に疲弊したパリで見えざる敵に狙撃されたカケルを気遣い、南仏へ同行したナディアは、友人の一家を襲う事件を目の当たりにする。中世異端カタリ派の聖地を舞台に、ヨハネ黙示録を主題とする殺人が4度繰り返され……。2度殺された屍体、見立て、古城の密室、秘宝伝説等、こたえられない意匠に溢れる、矢吹駆シリーズ第2弾。
感想・レビュー・書評
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矢吹駆シリーズ、2作目。
カタリ派の秘宝云々の辺りは二階堂黎人のようなケレン味オカルト話かと思わせられたが、それらはもっと壮大なスケールの哲学論争に包絡される。
トリックの必然性、重厚な謎解き、それらもまた大流の一要素に過ぎない。
(未発表作も含め)あと8作もこのシリーズの作品が残されてるなんて!素晴らしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前作「バイバイ、エンジェル」は薀蓄が哲学的で非常に難解でしたが、本作は前作ほどではなく、且つ情景描写が多くなっているので、若干取っ付き易くなっていると思います。確かにカケルと女教師シモーヌの思想対決は骨が折れますが、物語の本筋と密接に絡んでいるので不思議と引き込まれます。
ストーリーは、ヨハネ黙示録の見立て殺人、二度殺される死体、密室殺人、アリバイ崩し、キリスト教異端カタリ派の秘宝伝説など、これでもかと言うくらい本格ガジェットのが詰め込まれています。トリックはそれほど凝ったものではありませんが巧さを感じますし、見立てた理由も納得のいくものになっています。途中で語り手のナディアとバルベス警部の推理が披露され二転三転して行く展開もスリリングで秀逸。オールタイムベストに名を連ねるのも頷ける超大作です。 -
自らを悪と規定しつつも、根底では人間への信頼を捨てきれない矢吹駆
彼は罪を犯し、母国日本を逃亡した身でありながら
解脱を果たすために赴いたチベットの奥地で、導師に命じられるまま
現世の悪を見極めようと、再び下界へ降りてくる
一方、女教師シモーヌ・リュミエールは
革命の成功が新たな悪を生み出すという現実に打ちのめされながら
それでも神のつかさどる善性を信じると言い
世界を我が手で修正しようとする矛盾には気づかぬまま
南仏の反原発運動に携わっていた
前作でラルース家の連続殺人事件を解決した矢吹駆だったが
その際、犯行グループの心の弱さを無慈悲にえぐったことに関して
彼らと親しかったナディア・モガールを泣かせてしまう
そしてシモーヌ・リュミエールも泣いていた
やはり犯人たちと面識のあったシモーヌは
彼らを走らせたやむにやまれぬものの悲しさについても知っていたから
自由意志とその責任にこだわる矢吹の厳しさを傲慢と見なして
非難するしかなかったのだ
しかし彼女のそれは、神の威光を借りて他者を抑圧する考えでもあり
周囲に言わせればやはり傲慢ということになるのだろう
そういう意味でシモーヌと自分が似ていることに
もちろん聡明な矢吹駆は気づいていたに違いないが
しかしそういった無意識の傲慢さが
新たな悪を招き寄せることについてはどうだったろうか -
矢吹駆シリーズ2作目。
歴史とかいろいろからんでて、いやー、読み応えバッチリ。
でも、ナディアのバルベス警部に対する態度かなんかちょっとなぁ。かなりひどい事、言っているのが何だかなぁって思った。 -
矢吹駆シリーズ二作目。本格的な探偵小説とそれへのメタ的視点、思想や哲学を一緒にやったのがこのシリーズの特徴だが、今回はカタリ派の財宝やらナチズムの影やらヨーロッパの魔術史やら歴史、伝奇オカルトまで一緒にやろうとした感じすらある。ものすごいペダントリーと蘊蓄である
事件も二回殺された死体や密室の首吊りと本格的で、しかも黙示録に見立ててあるから怪しげな雰囲気は満点。好きな人は一気にはまる大作だろう
今回は矢吹駆があんまり探偵してなくて(ただし、詳しく言えないが後半どんでん返しあり)、純粋にシモーヌ・ヴェイユ神学との対決をしてる印象。しかし今回の矢吹はウザい(笑)!オレが哲学の教師だったらこういう考え方の生徒はぶん殴りたくなる。だけに今回の結末はなんか納得
矢吹のナルシシズムが軽く揺さぶられるのもオレ的にポイント高いが、今回は事件の流れと思想的対決を、ちゃんと小説として密接に絡ませたのがポイント高いなあ。初期の矢吹駆じゃ一番面白いかもしれん。そして浮かび上がる真の悪役、ニコライ・イリイチ。彼との対決は、いよいよ初期三部作のラスト、薔薇の女へ持ち越しか?次回はバタイユ思想と対決するようだ -
笠井潔「サマーアポカリプス」読了。小説も面白かったが、奥泉光の解説がなかなか興味深かったので備忘のためメモ。なぜ笠井潔が探偵小説を書くに至ったかの分析。チャンドラーにも通じるものがあると個人的には思う。
「元来小説は主題や思想に格別の関心をもたない。小説とは多くの細部からなる一個の構造物であり、小説は細部以外のものを何一つ必要としない。・・・主題性を強引に持ち込み際立たせようとすれば、小説の構築性そのものを崩壊させてしまう。とはいえ思想や主題は小説にとって価値がなくとも、人間には大切なものであるから、作家は失敗の危険を冒してでも敢えて主題性にこだわらざるを得ない。」
「単に様式性に無自覚なだけで、自分が束縛されている事実に気づかないが故に自分が自由だと信じているだけである。」
「平凡にとことん留まることで個性を、制度にあくまで内在することで解放を、様式を徹底的に追求することで様式の破壊を求めたのだ。」 -
思想部分に触れないとこの物語は語れないと思うが、その思想部分の提示が物語として読むことが出来ず楽しめなかった。やってことはシンプルで、そのシンプルさを出しつつ主人公の思考を出していくかという小説なのかな。
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6/1 読了。
私は矢吹駆に向いてなかった。 -
前作から続く予備知識があれば、また、原発に対する思想論争に造詣が深ければ、もっと楽しめたかもしれないです。理由あって以前から読みたかった作家なんですが、ヴァンパイアのイメージが強くて、ちょっと手が出せず… 本作を読んで、少なくとも“そういう”系の作家では決してない、ってことは分かりました。でも掘り下げて生きたいかといわれると… いわゆる本格系ミステリだと思うんですが、ちょっと突拍子もない部分とか、何か奇を衒った部分がないと、大満足!ってところまではいかないようです、自分。よほどの余力が出てくれば、シリーズ他作品にも手を出してみます。