ティンカー・ベル殺し (創元推理文庫 Mこ 5-7)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488420185

作品紹介・あらすじ

帰省時に小学校の同窓会に参加した井森建は、研究の疲れから会食の場で気絶してしまい、夢の中で〈蜥蜴のビル〉となって、ネヴァーランドという子供と妖精と海賊の棲むおとぎの国に紛れ込んでしまう。ピーター・パンという闊達な少年と少年ウェンディ、そして妖精ティンカー・ベルらに拾われるが、ピーターは無邪気ゆえの残酷さで、海賊のみならず、手当たり次第に自分の仲間である迷子たちもカジュアル感覚で殺してしまうサイコパスだった。

感想・レビュー・書評

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  •  まず小林先生のご冥福をお祈りいたします。

     不思議の国を探し続けて、三千里、相変わらず蜥蜴のビルは彷徨っていた。今回、彼が紛れ込んだのはネヴァーランド。
     
     そこでは殺人鬼さながら、ピーター・パンが海賊や仲間である迷子、赤膚族・陽性を気ままに殺していた。
     殺伐としたその島へ約束を果たすべく戻ってきたウェンディ。

     無邪気な殺意を誰にも向けるピーター・パン。その殺意はティンカ・ベルにも向けられて……。

     シリーズの最後まで読みたかったです。それはかなわない夢となってしまいましたが、この作品も楽しく読ませていただきました。

  • アリス殺しからのシリーズ最終巻。
    もう続きがないのがわかってて読むのは残念だけれど相変わらずビルが愛おしくて面白い。またアリスから読みたくなりました。

  • アリス殺しから読み始め4作目。
    この本を読もうとした時に、小林
    泰三さんが亡くなったことを知る。
    まだまだ、次のシリーズを読みた
    かったのに…
    ティンカーベル殺しは、世界観も
    わかりやすく、読みやすい作品
    だった。
    アバタールの無限ループは、恐い!

  • 「アリス殺し」に登場した「蜥蜴のビル」たる井森健は、小学校時代の同窓会に参加する傍ら今度はネヴァーランドの世界に迷い込んでしまった。
    ネヴァーランド越しに現実世界に起きる殺人事件にどんどん巻き込まれていく井森は、真相を掴むことが出来るのか。

    「ピーター・パン」をあまり深く知らないながら、ティンカー・ベルやウィンディ、フック船長は流石に聞き馴染みがあったので、現実世界とのリンクを意識しつつ読み進められたかな、と。
    ディズニーの世界観のピーター・パンを思い描いてた為に、最初から驚く展開と犯人は彼しかあり得ないのでは?という思い込みでビルと一緒に騙されました。

    まだまだ色々な童話作品に構想を膨らませておられたと後書きにあり、大変残念です。
    「アリス殺し」をはじめ楽しく拝読させていただき、ありがとうございました。

  • ものすごくバタバタと人が消えていった…

    犯人は分かってるのに何のための調査??と思いながら読み進めていましたが、…ティンカー・ベルだけは理由がある普通の?犯行でした。
    ラストも、どうまとまるのか?と思いましたが、うまいこと悪い人は悪い目にあっていたので、まあ…スッキリ…

    でも、ちょっとグロかったかな。
    今回に限ってではないですが(^_^;)

  • メルヘンシリーズハマって全部読み続けて、3作目で「そろそろこの設定で続けるのもネタ切れかなぁ?」って思ってたけど、今回は犯人が分かった上で進む、このシリーズでは新しい手法で面白かった!
    ラストの方は個人的にはメルヘンシリーズ史上一番イヤなグロさで読後は若干病む。けどこの感じがクセになってきっとまた次作も買っちゃう

  • 井森の結末の構想も考えられていたようで、最後まで読み届けることが出来ず非常に残念。
    シリーズ通して有名な児童作品の世界とリンクしたちょっとグロめのミステリー。
    登場人物の繋がりを考えながら事件を解決していく過程はとても面白かった。

  • ネバーランドと、現実っぽい世界のパラレルワールド。ネバーランドで死ぬと現実っぽい世界でも中の人が死ぬ設定。現実っぽい世界で死ぬとリセットされるので、ネバーランド側が上位世界らしい。唯我独尊で些末なことで次々に人を殺すピーターパン。明らかに怪しいピーター自ら、アリス殺しにも出てきた蜥蜴のビルと、ティンカーベルを殺した犯人を探すお話。アリス殺しと比較すると、やたらグロいのと、トリックに少しずるさを感じたかな。

  • 描写グロすぎ、お前かい!って感じ

  •  いわゆる「メルヘン殺し」シリーズ第4弾。アリス、クララ、ドロシィときて、ティンカーベル殺し。相変わらず、地球とアーヴァタールが存在する世界が存在する。アーヴァタールが死亡すれば、地球上で、アーヴァタールに対応する存在が死亡し、地球上で死亡しても、「夢」になってしまって、アーヴァタールが死亡するわけではない。共通する登場人物は、地球上では井森建という大学院生であり、そのアーヴァタールは不思議の国の喋る蜥蜴「ビル」。基本的な設定はそのままで、色々な世界で犯罪が起こる。
     プロットも共通しており、アーヴァタールとそのアーヴァタールに対応する人物のズレが生かされる。
     今回は、ピーターパンの世界であり、井森はいわゆる「雪山の山荘」に近い設定で、雪山での旅館において、同窓会に参加している。ピーターパンに対応する人物は、日田半太郎という人物。そのほかの同窓会の参加者や旅館の従業員の中にも、ピーターパンの世界にアーヴァタールが存在する人間がいる。ピーターパンは殺人鬼で、気軽に殺人を行う。その度に、同窓会の参加者や、旅館の従業員が死んでいく。
     このシリーズでは、地球上のAという登場人物のアーヴァタールがBと見せかけて、実はCでしたということが、お約束的に存在する。今回は、富久という同窓会に参加している教師が、「フック船長」だと見せかけて、実は「ウェンディ」だったという点がポイントとなっている。富久≠フック船長は見え見えで、富久=ウェンディも想定内なので、この点はあまり意外性にはなっていない。
     これまでのシリーズではあまりなかったことだが、今回のティンカーベル殺しでは、富久は、地球上で死ぬと、夢となり、時間が遡るということを利用している。
     大きな特徴は叙述トリックが使われていること。双子が1組しか存在せず、双子にはアリバイがあると見せかけて、実は双子は2組存在し、そのうちの1人が犯人。ティンカーベールを殺害する場面は普通に描かれており、ティンカーベルを殺害したのは「ピーター」と呼ばれる。ピーターパンが犯人だと、登場人物も誤解しており、読者も誤解するように描かれている。ピーターが犯人であることを、最後にどう明かすのか。倒叙モノのように見せかけ、実は、「ピーター」という人物はもう一人存在し、真犯人がピーター・ダーリングという二組の双子のうち、一人の人物だった。これが意外性といえば意外性なのだが、ピーターパンが犯人ではなさそうということが、伏線…というよりあからさまに描かれており、意外性はそこまでではない。上手い、という印象
     謎解きをするのは、地球上では樽井友子であり、ピーターパンの世界ではウェンディ。樽井友子=ウェンディと思わせるような記載ぶりだが、ウェンディが自分が人魚から聞いたことを推理に組み込んでいるのに、樽井友子はその点を組み込んでいないこと、ピーターパンが二と四の区別がつかないということを話していることから、樽井友子がウェンディではなく、マブ女王であると分かる。
     最後に明かされる双子がウェンディを殺害しようと思った動機。これもポイントとなる。ピーターパンが犯人であれば、ピーターパンは意味もなく殺人をするので、動機は問題にならない。しかし、双子は異なる。双子はなぜウェンディを殺害したかったのか。動機は地球上で、富久が教師として生徒に性的な悪戯をしていたこと。これにより将来が台無しになったとして、富久を殺害するために、ウェンディを殺害しようとしたというもの。これもアーヴァタールと地球上の登場人物の存在の関係を踏まえて動機
     このように、この作品全体は、アーヴァタールと地球上の人物の関係を、登場人物が認識している。それを利用したり、アーヴァタール殺しの動機になってりたりする。これはシリーズものとして、これまでのシリーズを読んでいることを前提としたものであり、この作品から読む人のことをあまり考えていない。
     富久は、雪の中で熊に襲われて死亡し、死ぬ前に眠り、目覚めるという課程を経たため、よみがえってもそのまま死ぬというループに取り込まれる。これは、ウェンディが見ている悪夢となる。
     メルヘン殺しシリーズの第4弾として、さすがにこの作品から読む人を想定せず、これまでシリーズを読んできた人に向けた作品となっている。これまでシリーズを読んできた人を想定して描かれているため、アーヴァタールの特性を登場人物までが利用し、殺人の動機になったり、その特性を利用して追い詰められた状況を脱しようとしている。こういったう要素は進み過ぎると複雑化しすぎ、マニアックになり過ぎてしまう。著者の小林泰三が亡くなってしまったことから、シリーズはこれで終わってしまい、寂しい部分もあるが、この辺りで終わって、マニアックになり過ぎなかったのは、よかったのかもしれない…とも思う。
     デキとしては、叙述トリックのうまさ、アーヴァタールの使い方のいずれも円熟味があり、上手いと感じる。しかし、純粋な驚きは薄い。上手い小説であると感じる。面白くもあるが、突き抜けたものはない。ギリギリの★4で。

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著者プロフィール

1962年京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」で第10回SFマガジン読者賞国内部門、2014年『アリス殺し』で啓文堂文芸書大賞受賞。その他、『大きな森の小さな密室』『密室・殺人』『肉食屋敷』『ウルトラマンF』『失われた過去と未来の犯罪』『人外サーカス』など著書多数。

「2023年 『人獣細工』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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