宇宙戦争 (創元SF文庫) (創元SF文庫 ウ 2-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488607081

感想・レビュー・書評

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  • とがった上唇のついた特異なV字形の口、眉の隆起はなく、楔形をした下唇の下に顎もなく、この口が絶え間なくわなないている。ゴルゴンの蛇のように群がり合った触手、慣れない大気のなかで騒々しい音をたてて呼吸する肺、火星よりも大きな地球の重力のためか、見るからに重たげで苦しそうな動き─それよりなにより、とてつもなく強烈な光を放つ大きな目─

    なんとグロテスクで恐ろしい生き物なんでしょう、火星人は!
    でもこの火星人が未来の地球人の姿だとしたら。うわぁ、ショック……!
    作者H・G・ウェルズは、はるか未来における人類の姿は、脳が高度に発達し、手以外の器官が退化、頭ばかりが大きい蛸のような姿になると想像します。つまりウェルズにとっては、火星人=未来の地球人なのです。むむぅ、どれだけ文明が発達しても肉体を機械で補うことが出来ても、蛸人間はやだなぁ。

    火星人の到来になす術もなく蹂躙される地球人。
    逃げ惑い訳もわからぬうちに死んでいく人々。巨大な敵に数多の犠牲を払いながら攻撃する兵士たち。
    そのなかで「わたし」は、副牧師とともに廃屋で十日間を過ごしました。目の前に火星人がいる状況での緊迫した日々です。私には、その間の「わたし」の正気と狂気の間で揺れ動く精神状態や、副牧師への苛立ち、火星人に対する恐怖がまざまざとリアルに伝わってきました。
    「わたし」は何も出来ず、ただ火星人に見つからないように隠れ、食べ物を見境なく食べ尽くす副牧師への憎悪をたぎらせる……実のところ、今回一番印象に残ったのは、この廃屋での場面です。

    火星人対地球人。
    この未曾有の事態に人間ができることって、ほとんどないに等しい。
    改めて、この宇宙の中では人間なんてちっぽけな存在なんだよということを再認識させられました。

  • SFものはあまり読まないのですが、ウェルズの作品は表現がリアルで、内容も突飛しすぎていないため、「現実を綴った作品なのでは、」と思わせてくれる。読みながら頭の中で、映画のように映像が流れてゆくのは、彼の表現力が故であると思う。

  • 面白い… 読んでいなかった事を後悔するぐらい面白かった。
    まず、驚くのは100年以上前に書かれてとは思えないような先進性が目に付く
    技術の発展を予告するかのように戦闘機械や毒ガス、飛行機械などが登場し、未知との遭遇によりパニックに陥り、逃げまくる人々、喚く人々など本当にあり得そうな内容が面白い。
    読んでいると頭の何処かで聞いたことがあるような事が書かれているのは、この作品を原点としている為なのだろうと思う。それを思うとこの作品の凄さを改めて感じた。
    [more]
    実はこの作品と一緒に横山信義の『宇宙戦争19○○』シリーズを図書館で借りているのだけど、これを読んだ直後だとより面白いんだろうな…

  • 地球人のちっぽけなプライドをレーザーで焼き切るのだ!


     本作が成し遂げたのは、火星人がタコの形をしている! というイメージを人々の脳へ強烈に植えつける偉業で間違いありません……★

     宇宙人の侵略をテーマとするSF古典の一大傑作です☆ なんか落ちてきたけど隕石かな……? と思ったら、火星人が出てきてこんにちは。頭脳ばかりが異様に発達し頭が大きく細い触手を伸ばす、タコに似た火星人が地球人をせん滅させようとし、地球(主にロンドン)たちまち大混乱のストーリーです。
     このような緊急事態に、地球人としては最新(当時)の科学を最大パワーで総動員、すなわち軍備を持ち出します。ところが、タコさん星人が放つ毒ガスや怪奇光線のほうが、はるかに強力なのは明白で……。

     タコの脅威は大まじめに記されており、避難の克明な描写もインパクト大! 恐怖心をかきたてられながらも、しかし私はどこかなつかしいような気もしたのでした。有名すぎるのです、火星人=大ダコさん説が★ 侵略者への奇妙な愛着、宇宙人へのノスタルジー……という、倒錯した現代地球人の趣味を感じました☆

     しかし、呑気になつかしがっている場合ではありません。彼らの不気味さは、幽霊や妖怪とは質の違う怪異だと言えます。
     地球人ってヤツ(の一部)は、自分たちが誇る文明を凌駕する存在を、心底おそれているのではないでしょうか?
     実際は、地球人より高度な文明を持つ宇宙生物が現れたとしても、何らおかしくはありません。なのに、自分たちより優れた文明と出会うとこちらの文明を否定されるよな気がして、人類の進化が無意味になるようで、耐えがたい★
     プライド粉砕、なす術なき敗北感。単に襲われたり倒されたりするだけとは違う衝撃が、「種が滅ぼされる恐怖」には伴うのかもしれません。下等生物とみなしていた相手に覆される屈辱もありそうです。
     もっとも、進化や発展なんて思い込みで、ちっぽけで愚かなプライドだと感じますが……

  • ロンドン近郊に円筒形のものが落下し、中から火星人が出てきて人類への攻撃が始まった。初めは好奇心から落下現場に集まって来ていた人々は、火星人の攻撃が始まるとパニックを起こして逃げ出す。
    宇宙人襲来物の原点とも言うべき本だそうな。主人公も野次馬的に現場へ足を運んだが、やはり逃げ出した人間の1人。人の噂と新聞を介してじわじわと情報が広がっていく様子はやはり昔の話だなぁと思いつつも、人々が半狂乱になって逃げ出す様子はリアル。
    他の惑星へ攻め込んで来れるだけの知性を持っている異星人の振る舞いには最後のオチまで疑問だらけだが、異星人に攻め込まれるパニック物としては後に出た他の小説等はすべて単なるリメイクだというぐらい、必要なものがすべて織り込まれている。
    宇宙人襲来が現代で起きたらどうなるかというと、身の危険を忘れて撮影する人間が結構な多数にのぼり(笑)、それによって無駄に犠牲者が増えることでしょうね。丸1日あれば世界中が知ることとなりパニックに陥る、といったところか。
    100年以上も前に書かれたものだと思えば凄いのだが、やはり時代遅れで少々冷めた見方で読まざるを得ないので☆ひとつ減。

  • 1898年刊。英国ロンドン近郊の丘陵地帯、火星からの塔体が飛来し、地表に激突。やがて中から異形の異星人と戦闘機械が現れ、熱線兵器で町を破壊、黒雲のような有毒ガスを放射し、住民や兵士は一瞬にして殺戮される。村は炎に包まれ、町は廃墟と化してゆく。

    タコ型火星人のイメージもあり、素朴で幼稚な侵略ものSFか、という先入観があったのだが、内容は少々趣を異にするものであった。「戦火」を逃れる難民たちの状況が詳しく描かれ、(巻末解説にもあったが)「災害小説」の印象が濃いのだ。街道は避難者を満載した馬車であふれ、鉄道駅にも難民が殺到。都市と郊外の間を大移動する市民たちのパニック、醜い争いが活写される。
    本書が書かれたのは第一次大戦より前。しかも英国本国で大きな戦火を経験していないにも関わらず、これほどリアルな難民の様相を描いているのは驚き。

    主人公は、ロンドン近郊の小さな集落に暮らす著述家の男性。彼が経験した悪夢のような3週間あまりの日々が、ノンフィクションタッチで記述される。その1人称の書き方もあり、また、黒煙がたなびく無人の荒野をひとり彷徨する情景描写と内面の独白の感じから、大岡昇平の「野火」を想起した。

    また、以下の問題提起も。これは本作の主題の一つ。
    もし、より高位の侵略者が現れたなら、人間は下等動物や家畜のように支配される存在になり下がるかもしれない、という「if」である。
    主人公と敗残兵が会話する場面がある。
    そのとき、人間社会が築き上げたあらゆるもの、文明も文化も全てが意味を失うに違いない。人間は、アリのように蹂躙されるだけの弱い存在になる。そのとき、自分たちはどうやって生きのびるのか、いかに生きるべきなのか。
    かような議論がなされるのだ。

    本作は、未知のエイリアンを描くのが主眼ではない。
    侵略者の出現で、人間は、文明社会はいかなる衝撃を受けるのか。このことをシミュレーションし、問い掛ける。

    ★この創元SF版には、初出雑誌連載時の挿絵が再録されている。上質な絵で味があり、楽しい。

  • 火星人のテンプレを作ったと名高い一冊。
    原著は1898、100年以上前だというのだから驚き。
    そして、その内容をそれほどの時代錯誤を感じずに読めてしまう点もまた驚き。
    宇宙探索の進展は、思ったよりも遅いということなんでしょうかね。いまも昔も、やはり宇宙は謎に包まれている気がします。
    ただ、作中に自動車や携帯電話が出てこないことからわかるように、人類の文明、とくに兵器についてはさすがに隔世の感があり、現代ならもうすこし抵抗できるかな?でもこの100年で、当然火星人の文明も進んでいるだろうし…なんて妄想するのもまたSFの楽しみかたかもしれませんね。

  • 意外とグロい!小さいお子さんだとちょっと怖がってしまうかもしれませんが、面白かったです。
    1898年に発表された本ということで、その時代にこれを書けるHGウェルズはやっぱりすごすぎる!
    50年以上先の未来を見据えていたんじゃないかなと思わせられます。
    1900年代に入り、さまざまな宇宙人ものの作品が作られていきますが、この作品が後世のSF作品に多大な影響を与えたんだろうなと思いました。

  • ァーいいね

  • 小学生の時に、おそらく児童向けにリライトされたものを、読んだ記憶あり。30年以上振りの再読で、大筋は覚えていたものの、覚えのないシーンも多数あり、しかしそれが、本当に覚えてなかったのか、初読が児童向け故に割愛されたものなのか、真相は闇の中だ。
     改めて読んで、本作が19世紀末に書かれた20世紀初頭が舞台の近未来SF災害小説だったことを知った。そして、発表から20年も経たない内に、毒ガスや航空機が兵器として実用化されたことを思うと、ウェルズの先見性には驚くばかりである。

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