星を継ぐもの【新版】 (創元SF文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488663315

作品紹介・あらすじ

【創元SF文庫60周年記念新版】
月面調査員が、真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体はなんと死後5万年を経過していることが判明する。果たして現生人類とのつながりは、いかなるものなのか? いっぽう木星の衛星ガニメデでは、地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの巨星が一世を風靡したデビュー作。第12回星雲賞海外長編部門受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ハードSFの巨匠ジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』です

    ハードSF…なんかエロい(おバカ)

    いゃあーゾワゾワした
    めっちゃSF!もうめっちゃSF!
    SFってこういうことよってのをあらためて感じました
    SF好きを名乗りたいならば絶対に読んでおかなければならない一冊ですよ
    確か国連総会で採択されてたはず

    まぁ難しいけどね
    難しいけど面白いのよ!

    今回この名作を手に取ったのは翻訳者である池央耿(いけひろあき)さんが先日お亡くなりになったのを知ったからなんよね
    SFやスパイ小説なんかを数多く翻訳された方で、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』は全部持ってました

    ブクログ本棚にも池央耿さん翻訳本、何冊か登録されてます

    お世話になりました
    ご冥福をお祈りします

    • ゆーき本さん
      \(*´▽`*)人(*´▽`*)人(*´▽`*)ノ
      \(*´▽`*)人(*´▽`*)人(*´▽`*)ノ
      2023/11/18
    • 土瓶さん
      最初の謎、設定は大好き。
      ワクワクさせてくれる。
      後半少しダレた印象でした。

      黒後家蜘蛛の会!
      懐かしいー。
      結局いつも執事か...
      最初の謎、設定は大好き。
      ワクワクさせてくれる。
      後半少しダレた印象でした。

      黒後家蜘蛛の会!
      懐かしいー。
      結局いつも執事かなんかがもってくやつ(笑)
      2023/11/18
    • ひまわりめろんさん
      久しぶりに読んでみようかの
      『黒後家蜘蛛の会』
      久しぶりに読んでみようかの
      『黒後家蜘蛛の会』
      2023/11/18
  • 【感想】
    本書は重厚なSF作品であると同時に新しい形のミステリ作品でもある。ストーリーの根幹はSFでありながら、SF特有の「世界の広がりを追体験していく」ような展開にはなっていない。むしろ世界は5万年前に既に完成されており、その完成図に含まれる謎を科学的見地から解き明かしていく。パズルのピースを1つずつ拾って組み合わせる作業が本書のメインであり、そこに生じる妙を楽しむ作品となっている。

    殺人事件を扱う普通のミステリであれば、主人公の視点から見た事件の叙述がそのままストーリーとなり、謎を解き開かす鍵は目撃者の証言、死体の状況、遺留品といった「作者が用意した証拠」になってくる。
    だが、本書における「謎を解き明かす鍵」は、本書を手に取る前から既に知識として読者のそばに置かれている。それは「基礎的な科学理論」だ。解剖学、分子生物学、遺伝学といった様々な分野の知識が出てくるのだが、その下地となっているのは「定理」である。例えば「ウラン235の半減期は7億年」であり、進化論の原則上「別々の進化の系列がある一点に収れんすることは不可能」である。こうした定理は、地球と同一の宇宙に属しているならば、どんな星のもとであっても不変の事実である。このような動かしがたい理論をフル活用することで、得体の知れない異星人の体構造を確認し、居住環境を推定し、星の位置や形状を仮定していく。そのように刻々と謎を詰めていく様子が、普通のミステリとは異なる知的好奇心をそそられるのである。

    また、ミステリである以上、読みながら理屈が合わないところが出てくる。私も「ルナリアンって結局どの星の生物なんだ?」とか「ミネルヴァの場所がなんかおかしくないか?」といった疑問が生じていた。そんなときは普通「登場人物が何かしらの嘘をついている」「筆者が狙って曖昧な叙述にしている」というアタリを付けて、ページを遡ったりする。
    だが、本書はそうした仕掛けを「科学のシンプルさと宇宙の複雑さ」に巧みに紛れ込ませ、謎を深めることに成功している。鍵は全て「基礎的な科学」の範疇にあるのだが、読者は自らが住む地球の常識に囚われ続け、複雑なストーリーを勝手に作り出してしまう。定理がある。それは間違っていない。ならば「人類史から見た宇宙の常識」が間違っているのではないか、という発想にたどり着き視点を変えないといけないのだが、これが何とも上手くできないのである。常識に囚われない柔軟な発想がいかに大切か、ということをあらためて知ることができた。

    本書のラストにはこの宇宙の種明かしがされるのだが、正直かなり突拍子もない話が待っている。普通のミステリでいうなら「犯人は鍵のかかった部屋の扉を幽霊のようにすり抜けたのだ!」みたいなトンデモな結末だ。だが、こうした荒唐無稽な落ちも本書が「SF」というくくりの中で進行してきたおかげで、意外すぎることなく、逆にスッキリ腹落ちするような読後感を得られる。とてもよく練られた構成だと感じた。

    従来のミステリの型に囚われない多面的な一冊。SF、ミステリの両方が好きな人はぜひおすすめである。

    ――――――――――――――――――――――――――
    【メモ】
    歴史上のこの一時期を通じて、20世紀の置土産だったイデオロギーや民族主義に根ざす緊張は、科学技術の進歩によってもたらされた、全世界的な豊饒と出生率の低下によって霧消した。古来歴史を揺るがせていた対立と不信は民族、国家、党派、信教等が渾然と融和して巨大な、均一な地球社会が形成されるにつれて影をひそめた。すでにその生命を失って久しい政治家の理不尽な領土意識は自然に消滅し、国民国家が成熟期に達すると、超大国の防衛予算は年々大幅に削減された。新しい核爆弾の登場は、要するにいずれはそこに至るであろう歴史の流れを速めたにすぎなかった。軍備放棄はすでに全世界の合意に達していた。
    軍備放棄の結果だぶついた資金、資源で大いに潤った活動分野の一つが、急速にその規模を拡大しつつある国連太陽系探査計画(UNSSEP)であった。すでにこの機関が掌握すべき責任事項のリストは厖大なものに脹れ上がっていた。ほんのいくつかの例を挙げただけでも、地球、月、火星、金星、太陽の軌道を回るすべての人工衛星の運行管理、月ならびに火星の有人基地建設とその運営、金星の軌道を回る実験室の打ち上げ、ディープ・スペースへのロボット探査船打ち上げ、外惑星への有人飛行計画の立案と進行管理等々といった具合である。かくてUNSSEPは各大国の軍備縮小の度合いに見合った速度で規模を拡大し、あぶれた技術者や頭脳を吸収したのである。同時にナショナリズムが退潮し、各国の正規軍が解散すると新世代の若者たちはその冒険欲のはけ口を国連宇宙軍(UNSA)の制服勤務の部署に求めた。新しいフロンティア開拓を目指して太陽系を縦横に宇宙船が飛び回る興奮と期待の時代がここに幕を開けたのである。

    「第一に、チャーリーはこれまでに建設されたいかなる基地の人間でもないということ。いや……というより」コールドウェルは意味ありげに声をふるわせて、ゆっくりと言った。「現在われわれが知っている世界のいかなる国の人間でもないのです。それどころか、チャーリーがこの地球という惑星以外の住人でないとは言い切れないのです」
    「何者であるかはともかく……チャーリーは5万年以上前に死んでいるのです」

    チャーリーの種属はどこかで人間型の進化を遂げたのだ。このどこかが地球であるか、ないしは地球以外の場所であることは自明の理である。初歩的な論理の原則から言っても、それ以外の可能性は考えられない。ハントは記憶の底を浚い、地球上の生物の進化を説明する理論について知っている限りのことを思い出した。何世紀にもわたるこの分野の涙ぐましい研究努力にもかかわらず、現在確立されている考え方では説明しきれないものがなお残されているのではあるまいか?数十億年という時間は想像を絶する長さである。不確実性の深淵のどこかで、現代の人類が登場するはるか以前に進化の過程を経験しつくして滅亡した別の人類が存在したかもしれないと考えることはあまりにも馬鹿げているだろうか?

    5万年の昔、今ではルナリアンで通っている一群の宇宙人が月面に立っていた。彼らがどこからやってきたかは当面の問題ではない。それはそれでまた別の話である。ちょうどその頃、豪雨のように隕石が降り注いで月の裏側を覆いつくした。隕石は月面にいたルナリアンたちを抹殺したのだろうか?
    おそらく抹殺したに違いない……しかし、その異変はどこであれもともと彼らが住んでいた惑星には何の影響もおよぼしはしなかったであろう。現在月面にいるUNSAの遠征隊が残らず死に絶えたとしても、長い視野で見れば地球に何の影響も与えはすまい。だとすれば、他のルナリアンたちはどうなったのか?
    なぜそれ以後掻き消すように姿を消してしまったのだろう?月で起こったことよりも、もっと広範囲にわたる大規模な異変があったのだろうか?その大規模な異変こそが、月に隕石を降らせたそもそもの原因だろうか?
    第2の異変が隕石を降らせ、同時に他の惑星のルナリアンたちを絶滅させたのだろうか?それとも、2つの事件は何ら因果関係を持ってはいないのだろうか?いや、そうとは考えられない。

    ●解釈
    (a)ルナリアン生存期間中ないしはその前後に主として月の裏側において高度に発達した兵器が使用されたと思われる。ルナリアンが戦闘に関与している可能性が濃いが、それを証明する材料は発見されていない。
    (b)ルナリアンが戦闘に関与していたとするならば、それはルナリアンの母惑星を巻き込む大規模な宇宙戦争であり、ルナリアン絶滅の原因であると想像される。
    (c)チャーリーは月面に孤立した大がかりな探検隊の一員であった。月面にルナリアンが居住していた明らかな痕跡があり、遺留品、遺跡は裏側に集中している。その後、隕石の集中落下によって事実上いっさいの痕跡は抹消された。

    はたしてルナリアンとミネルヴァンが同一人種であるか否かという疑問は解決されぬまま、今また新たな謎が加わったのである。ガニメアンはどこから出現したのか?ガニメアンはルナリアンやミネルヴァンとどこかで繋がりがあるのか?

    「そもそものはじめからわたしが一貫して主張してきたとおり、古典的な進化論は十全かつ揺るぎないものです。ルナリアンが地球からの植民者であったという考えは結論として正しかったのです。ただし、その結論に至る過程が事実と食い違っていましたが。地球上をいくら捜してもルナリアン文明の痕跡が発見されるはずはありません。もともと地球上にはそんなものはないんですから。それに、人類とはまったく別の進化系統を辿ってルナリアンが出現したという考えも否定されました。ルナリアン文明は、人類および地球上の全脊椎動物と同じ起源から、ミネルヴァで独自に発達したのです。その祖先は、2500万年前に、ガニメアンの手でミネルヴァに運ばれたのです」

    ハントは船体側面の各所に設けられた展望ドームで多くの時間を過ごした。1つだけ彼がよく知っているもの、すなわち太陽を見つめているうちに、ハントは少しずつ自分の存在に加えられつつある新たな大きさ、深さを理解するようになった。太陽の永遠の輝きや、生命の源泉であるつきることのない温もりと明るさは彼に安心感を与えた。ハントは古代の航海者たちのことを思った。航海術が未発達であった頃の船乗りは決して陸地が視界から消えるところまでは行かなかった。彼らもやはり、安心立命の拠りどころを必要としていたのだ。しかし、遠からず人類は未知の深淵に舳先を向け、銀河系外星雲へ渡ろうとするであろう。そこには彼らに安心を与える太陽はない。島宇宙に至る途中の海には星一つない。銀河系宇宙自体、無限の空間の中ではぼんやりとした影の薄い存在でしかありはしないのだ。
    その深淵の果てにはいかなる未知の大陸が待ち受けているだろうか?

    今からおよそ2500万年の昔、ミネルヴァの大気中の二酸化炭素濃度が急激に高まったのだ。何らかの自然現象によって岩石の化学組成中のガスが放散されたか、あるいは、ガニメアンの活動に何かそのような現象を惹起するものがあったのであろう。ガニメアンが異星生物の種をそっくり移入した理由もこれで説明される。その最大の目的は、二酸化炭素を吸収し、酸素を生成する植物で惑星を覆い、大気のバランスを回復することであったに違いない。動物はエコロジーの均衡を維持し、植物の成長を助けるために狩り出されたにすぎまい。しかし、この試みは失敗に終わった。惑星固有の生物は新しい環境に適応できなかった。そして、抵抗力のある異星生物が競争相手のいなくなった新世界で盛大に繁殖したのだ。

    「論理的に考えて、2つの月が実は同じものであったとする以外に説明はあり得ません。われわれは長い間、ルナリアン文明は地球で進歩したのか、それとも、ミネルヴァで進歩したのか、その答を捜し求めてきました。しかし、今わたしが述べたところから、それがミネルヴァであったことは明らかです。われわれは、まったく相矛盾する2通りの情報群があり、一方を取ればルナリアン文明は地球で進歩したことになり、今一方によればそれが否定されると考えてきました。これは、データの解釈の誤りです。それらの情報は地球について語るものでもなく、ミネルヴァのことを伝えるものでもありませんでした。それは、地球の、もしくは、ミネルヴァの「月」に関する情報だったのです。一部の事実はわれわれに地球の月
    について教え、また別の事実は、ミネルヴァの月を指し示していました。まったくそれとは意識せずにわれわれが2つの月は別のものであるという考えに執着している限り、この並立する事実の矛盾は決して解消し得ないのです。しかし、厳密な論理のしからしめるところとして、われわれが2つの月は同一であるという考えを導入する時は、あらゆる対立矛盾背反はたちどころに雲散霧消するのです」
    「星を失った月がどのくらいの期間太陽に向かって移動を続けたかはわかっておりません。何か月か、あるいは何年にもおよんだかもしれません。それはともかく、ここで自然界にままある、万に一つの偶然が働きました。月の太陽に向かって接近してゆく道筋が地球の傍を通ったのです。地球は時間のはじまりからその時までずっと、孤独に太陽のまわりを回り続けていました」
    「そうです。くり返して言いますが、地球はそれまで孤独だったのです。おわかりと思いますが、わたしの考えに従って、われわれに許された唯一の可能な解釈を取るならば、その解釈から導き出される結果も受け入れないわけにはいきません。つまり、この時点、今からかれこれ5万年前まで、惑星地球には月がなかったのです。2つの天体は互いの重力場が重なり合ったところで綱引きを演じました。そして新しい共通の軌道に安定して、以来今日まで、地球は宇宙の孤児であった月を自分の衛星として、あたかも親子のような関係を保ってきたのです」

    「きみは頭からそう決めてかかっているんだ……皆そう思い込んでいる。習慣的にそう思っているんだよ。人類は歴史を通じて、一貫してそう考えてきた。まあ、無理もないがね。人間が地球で育ったことを疑う理由は何一つありはしなかったのだから」
    ダンチェッカーは肩をそびやかし、まじろぎもせず一同を見渡した。「ここまで来れば、もう見当はついているのではないかな。わたしはね、これまでに検討した証拠から、人類は地球上で進化したのではない、と言っているのだよ。人類はミネルヴァで進化したのだ」
    「結論から言って、彼らはその試みに成功したと考えないわけにはいかない。氷河期の苛酷な世界に降り立った彼らがその後どのような体験を重ねたかは、しょせん知る由もないだろう。が、以後何代もの間、彼らが滅亡の瀬戸際で細々と生き続けたであろうことは充分想像できるね。彼らは知識や技術をことごとく失ったに違いない。しだいに彼らは原始人の生活に立ち帰った。4万年あまり、彼らはただ生存競争を戦い続けたのだ。そして、彼らは生き延びた。生き延びただけではない。彼らは地球に根を降ろして、子孫を殖やし、やがて広い地域に住み着いて栄えるようになった。現在、彼らの子孫は、彼らがかつてミネルヴァを支配したと同じように、この地球を支配している……諸君や、わたしや、他の全人類だ」

    「人間が地球上の他の動物となぜこうも違うのか、諸君は一度でも考えてみたことがあるかね?脳が大きいとか、手先が器用であるとか、その種の違いなら誰でも知っている。いや、わたしが言いたいのは、もっと別のことなのだよ。たいていの動物は、絶望的情況に追い込まれるとあっさり運命に身を任せて、惨めな滅亡の道を辿る。ところが、人間は決して後へ退くことを知らないのだね。人間はありたけの力をふり絞って、地球上のいかなる動物も真似することのできない粘り強い抵抗を示す。生命に脅威を与えるものに対しては敢然と戦う。かつて地球上に人間ほど攻撃的な性質を帯びた動物がいただろうか。この攻撃性ゆえに、人間は自分たち以前のすべてを駆逐して、万物の霊長になったのだ。人間は風力や河の流れや潮の動きを制御した。今では太陽の力をさえ手懐けている。人間は不屈の気概によって海や空を征服し、宇宙の挑戦を受けて立った。時にはその攻撃性と強い意思とが歴史に血塗られた汚点をしるす結果を招くこともあった。しかし、この強さがなかったら、人間は野に放たれた家畜と同様、まったく無力だったに違いないのだよ」

  •  月面で、五万年前の人間の死体が見つかる?!という謎から始まるSFミステリー。一九七七年米国で刊行、物語の舞台は二〇二八年ごろ。一九八〇年邦訳版刊行以来特に日本で愛され続け、なんと百刷超え、創元SF文庫を代表する人気作のひとつとのこと。二〇二三年夏以降、本作及び続編の新版が続々刊行され、未訳だった最終巻『ミネルヴァ計画(仮)』も出るらしい。ホットだ。私は図書館で借りた子供向けの『名作ミステリーきっかけ大図鑑』という名作紹介本で知り、読みたいリストに入れていたのを、今回オーディオブックで読んで(聴いて、ですけどなんとなく)みた。
     オーディオブック向きなのか問題は常にある。気分が乗らなくてもとりあえず進めるが、ちょっと忘れたところに戻って聞き直すというのが難しいので内容把握が曖昧になる。オーディオブックとの付き合い方は要研究であるがメリットもあるのでまだやめない。朗読は森田順平さん、主人公ハント博士のときの声色が好きでした。
     
    ▼死体(仮名:チャーリー)の謎そのもの
     これはメインディッシュ。これが知りたいという推進力で聞き進んでいくわけで、パワーは十分。レビューの最後に自分用ネタバレメモを書きます。

    ▼謎解きの過程
     これがなんとも地味で面白い。地道な調査で確たる事実を集め、仮説、検証と科学的にアプローチしていく。本作で語られる学問的な諸前提が現実の科学に照らし合わせてどれくらいリアルなのかは私にはわからないが、調査の進め方には魔法やファンタジーやご都合主義の入る余地なく、とても真実味がある。
     さらにこのプロジェクトのボスであるコールドウェルというおじさん(まあ主要人物のだいたいがおじさんだが)による人員配置がまた冴えていて、お仕事ものとしても面白い。彼の采配が光るシーンはいくつかあるが、何より、並いる科学諸分野のスペシャリストたちを率いるリーダーとしてハント博士を連れてきた慧眼と手腕が見事。コールドウェルが、ハントを「他の人が考えつかないような切り口で物事をみる特異な頭脳」を持っているという理由で引き抜いたとき、私にはその特異さというのがピンとこず、主人公は天才ってことかなあくらいに受け止めていたが、最後まで読んでみると、あの時やあの時の思考回路やひらめきを可能にするハントの力をコールドウェルは見抜いていたのか、と恐れ入った。
     
    ▼たまにロマンチック
     そんなわけで基本はアカデミックなプロジェクトものできっかりかっちりしており、ロマンスとか誰かの人間的成長みたいな大きなヒューマンドラマはない(そこもいい)のだが、時折ふっと人間味に満ちた情緒たっぷりのシーンが挟まれるところがまたニクい。ハント博士と初めは対立するダンチェッカー博士とのあれこれ、チャーリーの手記、ハントの感傷など。冒頭ではハントの相方的存在だったグレイが、ノリスケみたいな奴で楽しかったのだがいつのまにか消えていた。

    ▼今が舞台
     ほぼ今が舞台なので、五十年前に描かれた未来の答え合わせ的な楽しみ方もできる。紛争はなくなり…というところが、合っていなくて残念。この点や、ラストのダンチェッカーの語りなど、なかなか考えさせられるところである。

    ▼チャーリーの謎(完全ネタバレメモ)
    ※ここからはネタバレまくりメモ。

    ・続編を読まないと全ての真相が明らかにはならないが、とはいえ本作だけでも十分満足感はある。
    ・ところどころ私のメモが曖昧なのは、不明点の聞き直しを怠ったため。なので間違っているかも。あくまで自分用。

    ・かつてミネルヴァという惑星が火星と木星の間にあった。
    ・ミネルヴァ人=ガニメアンは、二五〇〇万年前に生きていた。高度な文明と技術を有していたが何らかの原因でミネルヴァは二酸化炭素過多になり生命の危機。その対策として地球からノアの方舟よろしく色んな生物を運んだ(交配して強くなろうとしたのか?この辺不明)。が、このプロジェクトは行き詰まり、ガニメアンはミネルヴァも地球由来の生き物も捨て、こぞって宇宙に飛び出した。彼らがどうなったかは謎。おそらく続編に続く。
    ・ミネルヴァに残された地球由来の生き物はミネルヴァにて進化を遂げた。五万年前ごろまでにホモ・サピエンス生まれる(サラッと書いたがこれが本作最大の驚くところ)。これがルナリアン。地球でもそのころまでにネアンデルタール人が生まれている。
    ・五万年前のミネルヴァはルナリアンの天下だが元々二酸化炭素問題などで環境もやばく、民族間は戦争状態。技術力は高い。他の惑星を狙って破壊できる兵器がある。チャーリーとコリエル?の所属する部隊はミネルヴァの衛星である「月」にいて、そこからミネルヴァを破壊する。
    ・ミネルヴァは木っ端微塵で宇宙の塵(小惑星帯)となり、「月」もそれを浴びる。さらに母体を失った「月」は太陽の引力に引かれてぐいーんと大移動、途中で、当時は衛星を持たない孤独な惑星であった地球の引力にひっかかる。色々あって地球の衛星、我々の知っている「月」となる。ここはロマンチックに語られる(本作第二?の驚きどころ)。
    ・この「ぐいーんと大移動」にかかる時間がどんなもんなのかが不明なのだが、チャーリー(とコリエル?)たちは移動後に青い地球を見て、最後の力を振り絞って地球に逃れることにする。
    ・チャーリーは行けなかったから月で死体となって見つかるわけだが、命からがらたどり着いた者もいる。これが我々人類の祖先。かつて持っていた技術も文明も失ったが持ち前の粘り強さで原始人として生き抜いた。ネアンデルタール人は空からやってきたホモ・サピエンス=ルナリアンに滅ぼされた(というか生存競争に負けた)のだった。あれまあ!私たちの母なる星は地球ではなかったのか!という驚き。しかし、我々は祖先からこの星を受け継いだのだともとらえられる。る?原題は“Inherit the Stars”と複数形。地球だけを指しているのではないようだ。
    ・ここんとこ、主人公ハントさんを差し置いていちばん美味しいところを持っていくダンチェッカーも見どころ。

    • akikobbさん
      111108さん、こんばんは。

      物語冒頭で理解が追いつかなくてのめり込めずそのまま放置しちゃうパターン、ありますよね。「気分」と私書いてま...
      111108さん、こんばんは。

      物語冒頭で理解が追いつかなくてのめり込めずそのまま放置しちゃうパターン、ありますよね。「気分」と私書いてますが、「理解できなくて気分が乗らない」も含みます!

      なんとか頑張って曲がりなりにも読み進んでいくと、あるとき急に興味を引くシーンに差し掛かって、そこから楽しめるようになることがあるじゃないですか。オーディオブックだと、そこまで行くのを自分が頑張らなくても強制的に進んでくれるのが楽です。
      音声だけでなく文字の本も持っていたら、面白くなってきたと感じた後に初めの方に戻り、飛ばしたいところは飛ばし、難しいところはゆっくり考えながら、と自分のペースで読み直したいなあと思うので、理解しづらい作品は本と音声との併用がベスト?かもしれません。
      2024/01/28
    • 111108さん
      なるほど、オーディオブックだと興味引くシーンまで自分で頑張らなくても強制的に進んでくれるというのはすごくいいですね!そして振り返りたい時は紙...
      なるほど、オーディオブックだと興味引くシーンまで自分で頑張らなくても強制的に進んでくれるというのはすごくいいですね!そして振り返りたい時は紙の本と。ダブル使いいいかも♪
      ‥とりあえず積読白状すると何故か読めることが多いので、本棚から探してきます!
      2024/01/28
    • akikobbさん
      「積読白状すると読める」ジンクスいいですね♪なんかわかります。
      感想楽しみにしております♪
      「積読白状すると読める」ジンクスいいですね♪なんかわかります。
      感想楽しみにしております♪
      2024/01/29
  • めちゃくちゃ面白い。
    これが1970年代出版?SF小説の金字塔と言われるのも納得。名作はやはり名作なのだな…と思う。

    ざっくりストーリーは以下。
    月で宇宙服を着た遺体が見つかった。該当の遺体を調べると、驚くべきことに5万年前に亡くなったということがわかる。
    これは宇宙人なのか?だがしかし、その遺体はどう調査しても我々地球の人間と言わざるを得ないほど酷似している。当然、地球には5万年前に月に行けるほどの技術力はなかったはずであり、彼の出自を含めて議論が紛糾。物理学者である主人公ヴィクター・ハントは本件の調査に参加することになる。

    海外翻訳小説の独特な文体はあるが読みやすい方。お前は誰だ?という謎解きのような楽しさとそこに絡む人間模様、そして終盤の「あまりに前提事項であるがゆえに見逃した」仮説への終着の仕方、そこに加えて1番最後にダンチェッカーから投げられた問い。いずれも秀逸。なお、専門用語についてはそうなるんだな、で理解を諦めて流し読み程度にした。

    星5つにするか迷った。続編もあるようで、ずっと翻訳されてなかった5巻(最終巻)が2024夏に刊行予定らしい。シリーズ読もう。

  • ずっと積んでた宇宙SFをやっと読んだ。
    専門的描写が多くてちょっと大変だったけど読み応えがあったし、こんな結末は想像もしなかった。

    近未来の世界、しかも舞台は宇宙。
    月旅行が海外旅行と同じくらい身近な時代。
    死体の謎を解こうとする科学者たちの様々な仮説や議論のシーンは、日常生活ではほとんど意識しない分野なので頭をフル回転させながら読みました。
    実際、各分野のスペシャリストが集まって、こんなふうに謎を解いていくんでしょうか…。
    なんかすごい…!

    前半はなかなか進展せず読み進めるのがちょっと大変でしたが、中盤からは勢いが増していく感じ。
    予想外の展開で最後の一行までおもしろかった。

    1977年の作品。この世界観が47年前に書かれたと思うと改めてすごいなぁと思う。
    何十年も前にフィクションだった世界が、時を経て現実味を帯びてきていると思うと気分が高揚します。

  • 何でもっと早く読んでなかったんだろ?
    面白かった。
    マクロスはこれも発想の一つになっていたのだろうなあ。
    展開は、この作品以降のものを知っているからか、少し読めてしまうのが残念。
    それと、アメリカのドラマや映画のようにエピローグが、人気が出たなら続編、となっているのには民族性を感じてしまう。

  • 海外のSF小説を読んだのはもしかして初めてかもです。この作品の存在さえ知りませんでした。
    外国人の名前は覚えにくくて最初登場人物を把握するのに時間かかりました。
    SFって面白いな、と思いました。想像力が刺激されるというか夢が膨らむというか。
    正直、ジャンル的になかなか食指が動かないのですが空想を旅したい気分になった時にまたSF小説も読もうと思います。
    これ、漫画化はしているけど映画化はしてないのですね。観てみたかった。

  • 長くて私に取って難解でそれでも何とか読了出来た事で良しとしよう。
    空想する事には忍耐力も情報量も必要である、と。

  • ハードSFというジャンルは初めてでしたが、とってもおもしろかったです。物理や科学の知識がなくても十分楽しめました。ミステリーっぽくもあり、最後まで目が離せません。1977年作とは驚きです。

  • ジェイムズ・P・ホーガン(1941~2010年)は、英ロンドン生まれ、工業専門学校で5年間、電気工学・電子工学・機械工学を学んだ後、いくつかの企業で設計技術者・セールスエンジニアとして働き、DEC(ディジタル・イクイップメント・コーポレーション)に転職して米ボストンに移住。1977年、仕事の傍ら書いた『星を継ぐもの』でデビューし、その後、作家専業となり、フロリダ、カリフォルニアに移住、晩年はアイルランドに暮らした。
    その作風は、科学技術(天文学・物理学・化学・数学・工学技術等)の正確で論理的な描写と、それらの科学知識に裏付けられた理論上可能なアイデアを中心とする、いわゆる「ハードSF」に分類される。
    処女作である本作品は、科学の理論とは実証に基づかなくてはならず、理論と現実に齟齬があるなら、尊重されるべきなのは現実であるという、ホーガンの科学に対する姿勢を反映した、典型的なハードSFである。続編の『ガニメデの優しい巨人』、『巨人たちの星』を併せて「巨人三部作」、更に、『内なる宇宙』、『Mission to Minerva』(未訳)までの5作で「巨人たちの星シリーズ」と総称されている。
    私はよく本を読む方であるが、専らノンフィクション系の本で、SF(と言われるジャンル)でこれまで読んだものは、『2001年宇宙の旅』、『日本沈没』、『復活の日』くらいなのだが、SFファンから圧倒的な支持を集めるといわれる本作品はずっと気になっており、今般読んでみた。
    そして、読み始めたら最後、一気に読み切ってしまった。
    物語は、月面で5万年前の人間の遺体が発見されたところから始まり、物理学、生物学、言語学をはじめとする、あらゆる学問を動員して調査が行われる中で、新たな事実が次々と明らかになり、仮説が作られては、否定されていくのだが、最後には、その「5万年前の人間の遺体が月面にあった」という、あり得ないと考えられた事実が矛盾なく説明されるのだ。半世紀近く前の作品ではあるが、専門知識を持たない読者からすれば、その科学的説明にも特段の違和感はない。
    創元SF文庫最大のベスト&ロング・セラーの評判に違わない傑作といえるだろう。
    (2024年4月了)

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ジェイムズ・P・ホーガンの作品

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