無と意識の人類史: 私たちはどこへ向かうのか

著者 :
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492223987

作品紹介・あらすじ

新型コロナウイルスの出現、大規模災害をもたらす気候の激変と温暖化、グローバル資本主義による格差と分断・・・
人類は「拡大・成長」と「不老不死」の夢を未来永劫、追い続けるのか。
地球規模での「第三の定常化」時代に向かう現在、人類が「無」をどう捉えてきたかを遡りつつ、私たちの世界観、生命観、死生観の在り方を壮大なスケールで問いなおす。
人口減少・定常型社会の社会保障、コミュニティ、死生観、哲学等、ジャンル横断の研究・発言を続けてきた第一人者による人類史への気宇壮大なアプローチ。

[第一の定常化]ホモ・サピエンスの増大 →転換1「心のビックバン」
[第二の定常化]農耕と都市の拡大 →転換2「枢軸時代/精神革命」
[第三の定常化]近代の進歩 →転換3「地球倫理」へ
人類は新たな「生存」の道への転換を図れるのか?

「狩猟採集社会や農耕社会それぞれの拡大的発展において、それが資源・環境的な制約にぶつかった際、人間はそれぞれ『心のビッグバン』『精神革命』という大きな意識転換あるいは従来になかった思想ないし観念を生み出し、…新たな『生存』そして『創造』の道を見出していったのだ」(本文より)


【著者紹介】
広井良典(ひろい よしのり)
京都大学こころの未来研究センター教授。1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務を経て96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。16年4月より現職。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行っている。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞。その他の著書に『ケアを問いなおす』『死生観を問いなおす』『持続可能な福祉社会』(以上、ちくま新書)、『日本の社会保障』(第40回エコノミスト賞受賞)『定常型社会』『ポスト資本主義』(以上、岩波新書)、『生命の政治学』(岩波書店)、『ケア学』(医学書院)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)など多数。


【主要目次】
イントロダクション:生の有限性、地球環境の有限性

第1章 無と死を考える時代

第2章 有限性の経済学

第3章 超長期の歴史と生命

第4章 無の人類史

第5章「火の鳥」とアマテラス

第6章 有と無の再融合

エピローグ:時間の意味

感想・レビュー・書評

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  • 歴史、哲学、物理学を駆使して「無」あるいは「死」について考察していく本。現在は人類史の3回目の「成長・拡大」からの「定常化」の時期にあり、その先の「無」は何なのかを考える。生と死は断絶したものでなく融合していて、認知症はそんなファジーな位置にあると。
    なかなか理解し難い部分もあったが、宗教、文明、環境さらには「火の鳥」「アマテラス」などを引き合いに説明を試みてくれている。

  • 広井良典(1961年~)氏は、東大教養学部卒、東大大学院総合文化研究科修士課程修了、厚生省勤務、米MIT客員研究員、東大先端科学技術研究センター客員教授、千葉大学法経学部教授などを経て、京都大学こころの未来研究センター教授。専攻は公共政策、科学哲学。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等についての哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。
    私はこれまでに著者の『死生観を問いなおす』(2001年)、『ポスト資本主義~科学・人間・社会の未来』(2015年)等を読んできたが、前者で書かれている「輪をなす時間/重層的時間モデル」(生は生で完結。“現在が永遠”)という死生観、後者における、資本主義が行き詰った今、我々が目指すべきは、過剰の抑制、再配分の強化・再編、及びコミュニティ経済の展開に基づく「定常型社会/持続可能な福祉社会」であるという主張、いずれにも強く共感したことから、著者がそれら一連の著作の到達点と位置付ける本書も手に取った。
    本書では、まず、今日において、“現代版「不老不死」の夢”の議論が活発になっていること(脳の情報すべてを機械ないしインターネット上にアップロードして永遠の意識を実現するという「意識の永続化」と、老化を止めるという「身体の永続化」)、及び、新型コロナ・パンデミックや極端な気候変動のような、人間の行う経済活動の規模が自然環境や地球の許容度超えたために生じたと考えられる現象が増えていることを挙げ、前者は「生(個人の人生)の有限性」、後者は「地球環境や生態系の有限性」、即ち、いずれも「有限性」というテーマが、我々人類に突き付けられているのだという。

    著者の考え方のフレームワーク・概要は以下である。
    ◆人類は誕生以来、狩猟採集社会前期までの拡大・成長の後、約5万年前に成熟・定常化(定常化①)へ移行するが、その時に「心のビッグバン」(自然新興)が起こった。また、農耕社会への移行に伴い再び拡大・成長するが、BC5世紀頃に成熟・定常化(定常化➁)へ移行し、その時に「枢軸時代/精神革命」(仏教、キリスト教などの普遍思想・宗教の誕生/)が起こった。「心のビッグバン」と「枢軸時代/精神革命」は、「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展へ」という内容において共通していた。そして、約300~400年前に産業化(工業化)社会に移行したことに伴い、再度拡大・成長してきたが、その限界に達した現在、我々は第3の定常化(定常化③)の入り口にいるのではないか。そして、そこで生成される新しい思想・価値原理とは「地球倫理」と呼べるような世界観ではないか。
    ◆「無の人類史」という観点から見ると、人類誕生以降「有と無の未分化」が続いた後、定常化①に「無の自立」、その後の拡大期に「無の「異世界」化」、定常化②に「無の概念化・抽象化」、そして直近までの産業化(工業化)による拡大期に「無の排除」が起こった。そして、定常化③においては「有と無の再融合」が行われる(べきな)のではないか。
    ◆そして、上記の1点目が「地球環境や生態系の有限性」を、2点目が「生(個人の人生)の有限性」を、それぞれ、ポジティブな形で乗り越えていくための考え方である。

    読み終えてみると、死生観をめぐる哲学的・理念的な議論と、地球環境の有限性、定常型社会、人類史といった社会的な次元の議論とが混じり合った幅広い内容となっているが、著者の他の著作同様、ロジカルかつ丁寧な論理展開により、わかりやすく、かつ納得性の高いものとなっている。
    著者の「我々(個人および社会)はどこから来て、どこへ向かうのか」についての思索の到達点を示す力作といえると思う。
    (2021年6月了)

  • この本を読むきっかけは、雑誌「ひらく」の連載を読んでいて知ったということです。
    著者の本は少々読んだことがありましたが、ずっといい続けてきたことが、一応この本で一定の整理がついたようです。
    最後に書いていますが、コロナ禍で、執筆する時間が取れ、筆が動いたと。
    イントロダクション 生の有限性、地球環境の有限性
    第1章 無と死を考える時代
    第2章 有限性の経済学
    第3章 超長期の歴史と生命
    第4章 無の人類史
    第5章 「火の鳥」とアマテラス
    第6章 有と無の再融合
    エピローグ 時間の意味
    あとがき
    著者は高校時代から「生きる意味」を深く掘り下げ考えるということの重要性を感じ、大学、研究生活と続き、母の痴ほう症など色んな経験の積み重ね、また、人との出会いでこの本が書けたということだ。
    無から有そして無、しかしながら「無」はただ単なる「無」ではなく、意味ある「無」にすべく、どれほど有意義な「有」を過ごせるのかが重要なポイントのようです。

  •  人類史における拡大・成長と定常化のサイクルは、3つのフェーズに分けられる。
     それは、狩猟採集社会、農耕社会、そして産業化(工業化)社会である。各社会では、成長の後、定常化するまでに、人の意識にはそれぞれ変化があったのだとか。
     狩猟採集社会では、心のビッグバンがあり、人間のこころという固有の領域が生まれた。農耕社会では、枢軸時代/精神革命があり、キリスト教などの普遍宗教が生まれた。
     そして、産業化(工業化)社会では、地球倫理という考え方が生まれた。つまり、地球資源や環境、人間の寿命は有限であることを意識し、宗教の多様性を理解しつつ、それらの根底にある自然信仰を積極的にとらえていくということだ。
     しかし、それだけでは不十分であり、もっと超長期つまりビッグヒストリーを考えないと駄目なんだ。宇宙の誕生、いやそれ以前からの歴史を考えないといけないというから、なんとも壮大な話である。
     

  • 中身を消化できてはいない。けど、「環境、経済、社会」と哲学に加えて物理学という普段統合して考えてこなかったことを書いてくださっている。
    何か明示的な結論が与えられるものではないが、これから思考する方向性に広がりをくれた本。
    またいつか読み直す必要が出そう。か、広井先生の続編を読むだろうな。

  • 死とは、生とは、有とは、無とは…?哲学的な問いに対して学問的見地から迫ろうとする本。ちょうど1週間前に読んでたシュレディンガーの生命とは何かが引用されていたり、仏教「超」入門に書かれていた思想に通ずる考察があったりと、最近読む本の話題・興味としては近しいものだった。生と死の連続性はなんとなく分かるが、有と無の連続性は結局ポイントがずれていた気がした。定義の問題になるのでは…
    老年的超越という概念が面白かった。

  • タイトルに惹かれて購入しましたが一気に読了できました。本書は、最近注目されている「ビッグヒストリー」の流れを汲んだトーンで、世界の経済社会を科学との絡みの中で概観します。本書では、世界が現在「第三の定常化」に向かっている、という主張がなされます。ちなみにここでの「定常化」とは人口動態(人口数)やGDPで表現されるような経済面での定常化を指します。逆に言うと、定常化社会では、心のビッグバン、精神革命のように、思想面では「定常化」とは程遠く、新たな思想や表現形態、芸術、文化がどんどん花開く時代、となります。その意味で私は「精神面での拡張時代」と理解しました。

    そして本書ではそのような定常化時代にとって「無」と「死」という概念の再定義化、あるいは日本人からするとアニミズム的(八百万的)回帰がなされるのではないか、というのが重要な主張になるわけですが、私自身は強く共感しました。生と死は離散的な存在ではなく連続的な存在であること、無はネガティブな意味ではなく、有を生み出す源泉であってポジティブな意味を持ちうる、というのは極めて東洋的、仏教的で私はすんなり腹落ちしました。密教でいうところの大日如来、あるいは草木国土悉皆成仏、という思想が、日本だけでなく世界的に今後リアリティを増していく、あるいは「共同主観」としての地位を確立していくような印象を本書から持ちました。

    一点、本書では「無限から有限へ」というベクトルが提示されていますが、これはあくまで物理世界だけの話だと思います。人口やGDP、地球環境はまさに有限という認識が強まる一方、精神世界はむしろより「無限化」していくのではないか、人間の創造力、想像力には限度がない、精神世界の大拡張時代が到来するという気がしました。

  • 広井良典先生の著書は、『定常型社会』、『人口減少社会のデザイン』に続いて3冊目の読了。本書は、壮大で観念的な箇所が多々あり、ちょっとな難解だった。ただ、

    [第一の定常化;ホモサピエンスの増大]
    →転換1「心のビッグバン」
    [第二の定常化;農耕と都市の拡大]
    →転換2「枢軸時代 / 精神革命」
    [第三の定常化;近代の進歩]
    →転換3「地球倫理」

    は、昨今の「資本主義の終焉」やSDGsを想起しながら腹落ちできた。人類史上の「第三の定常化」に生きる者としてしっかり意識していこう。

  • エントロピーの増大に抗い、外に開放されながら、「定常的」であること。

    エントロピーと自己組織化の奇跡的な均衡が、人間の体という境界線で起こっているということなのか!

    さらには、
    一個の人間を基軸にしたとき、その内側、つまり器官から細胞、分子に至るまで、同様のことが起こっており、その外側、つまりコミュニティから社会、地球、宇宙に至ってもまた、同様のことが起こっているのだ。

    複雑極まりないことを、シンプルに解き明かし、まるで「解った!!」かのように勘違いさせてくれる、この手の本が大好きだ。

    ここでは書ききれないほどの無数の「アハ」体験。
    この本はヤバい。

  • 國學院大學「大学生にこそ読んで欲しい」おすすめ本アンケートより。

    ※國學院大學図書館
     https://opac.kokugakuin.ac.jp/webopac/BB01887305

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著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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