ナレッジ・イネーブリング: 知識創造企業への五つの実践

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (501ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492521182

作品紹介・あらすじ

「組織は知識をマネージすることはできない。組織にできることは、知識をイネーブルする(実現可能にする)ことだけである」。世界で競争優位を発揮する10の企業の多彩で豊かな知識創造のなかに、5つのナレッジ・イネーブリングの意義とその人間味ある実践をみる。全米出版協会ベスト・ビジネスブック賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • ナレッジ・マネジメントはなぜ失敗するのか?

    ナレッジ・イネーブリングとは、知識創造に促進効果をもたらす一連の組織活動。組織または地理的な境界や文化の壁を超えて知識を共有し、会話や人間関係を促進すること。

    ⑴ナレッジ・ビジョンの組織内への浸透、⑵会話のマネジメント、⑶ナレッジ・アクティビティストの動員、⑷適切な知識の場作り、⑸ローカル・ナレッジのグローバル化。

    知識主体の経済下では学習こそが新しい世界通貨となるであろう(ロバート・ライシュ)

  • 「知識創造とは社会的なプロセスであると同時に、個人的なプロセスでもある。暗黙知を共有するためには、各人が自分の思いを他人と共有しあわなければならない。そしてこの段階で、正当化プロセスが始まるのである。各個人は、他人の前で自分の信念を正当化するという大きな挑戦に直面しなければならない。これはとても大変なことであるし、またその時々の人間関係に左右されるから、知識創造はひどく壊れやすいプロセスになってしまうのである。知識創造は壊れやすいものなので、さまざまな組織活動を通じて注意深く支え、さまざまな障害を乗り越えて実現しなければならない。」(p.13)マルクス的に言えば、暗黙知の商品化による命がけの飛躍である。
    「『ナレッジ・ビジョンの組織内での浸透』は、知識創造活動を組織全体に合法化するために行われる。」(p.16)単なる根回しではなく、合法化する装置が必要なのである。
    「個人的知識を共有するためには、相手に自分のアイデアを聞いてもらい、それに対して反応してもらわなくてはならない。建設的で助け合う関係を築いていれば、自分の洞察を相手と共有し、関心事を自由に議論できる。そのような関係があれば、知識創造の源であるミクロ・コミュニティの形成や自己組織化が促進される。よい関係を築いていれば、知識創造プロセスにおいて不信や恐怖、不満が生じることもないし、新市場、新顧客、新製品や新製造技術といった未知の領域を恐れずに安心して探索していくことができる。」(p.78)変化のスピードと安心をいかに両立させるか。あるいはあきらめるか。
    「ケアとは、ものの見方や視点の個人差を尊重し、個人が自分独自の技術や仕事のやり方を自発的に開発していくことを認めるということである。」(p.112)自主研修や自宅研修さらには職場を離れた研修の精神に合致する。
    「トヨタと供給業者の平均的な距離は三〇マイル(約四八キロ)であり、そのため、毎日、トヨタの一万六三五人もの従業員が供給業者とフェイス・トゥー・フェイスで交流している。これと同様のことをアメリカで行うことは難しい。たとえば、ゼネラル・モーターズは供給業者から平均して四二七マイルのところに位置しているため、フェイス・トゥー・フェイスの交流は一日一一〇七人程度である。」(p.128)人口密度の高さによる集積による暗黙知の共有による依拠しすぎてきたことが日本の強みであったとともに、現在では日本の弱みになってきているように思われる。日本はもっと暗黙知の形式知化に意を果たすべきである。
    「第三の『分散方式のビジョン浸透』をとる企業では、さまざまな集団、部門、そして個人までもが独自のナレッジ・ビジョンを発展させることが許されている。このアプローチの利点は、ビジョンが現行の知識や社員活動と密接に結びついていることである。そしてビジョンが機能するかぎり、組織のメンバーからレベルの高いコミットメントや理解を獲得することができるだろう。逆に弱点は、企業内にビジョンがたくさんあるために調整がきわめて難しいことである。」(p.199)府立高校によく見られるアプローチである。異動が稀であったときにはよく機能したのであろう。新しいアプローチが必要であるが、問題は各校が企業なのか、府立高校全体が一企業なのかである。
    「暗黙知や複雑な経験と同じように、言葉のもつ影響は、かかわっている人々、コンテクスト、そしてある程度、予期せぬ出来事によって異なるのである。」(p.236)実践的認知として大切なことである。府教委は多くの職場での理解を一つの言葉だけで得ようとしすぎている。あるいは校長・教頭が府教委の言葉を各学校の言葉に翻訳することをサボタージュしている。
    「組織はさまざまな目標に合った適切なコンテクストを実現するような組織構造を作り上げる必要がある。」(p.316)実行調整組織としての運営委員会と将来の必要を検討するための企画委員会。
    「文章の存在そのものが重要な象徴的機能を果たしていた。」(p.396)官僚主義と封建主義の根強い日本においては、文章化は同じような重要な象徴的機能を果たすであろう。
    「書類が散在したオフィスに効率的な文章の保存・検索システムを設置するのは大変な仕事だった。しかしシステムが稼動しだすと、生産プロセスで文章化された情報を効果的に利用するための不可欠な前提条件とみなされるようになった。」(p.397)これも遅れた日本においては同様のことがいえるであろう。
    「あるインド人マネジャーは、西欧人は主に仕事のために生きていて信仰心に欠けると考えていた。しかし、スイス人技術者の多くがヒンズー教に深い興味を抱き、彼ら自身も信仰心をもっていることがわかると、最初の考えを完全に変えるにいたったと述べている。」(p.398/399)これからの多分化交流を考える際に示唆的である。信仰心のある者との交流は信仰心を接点とするのが最もたやすいであろう。日本人は自らの信仰心を内視すべきである。
    「大事なことは、他者が直面する困難な問題を強調し、認知することである。数多くの境界を超えて知識を交換することは、特にその境界が理解を妨げるような組織的、個人的障壁となっているときには、けっして容易なことではない。しかし、ローカル・ナレッジのグローバル化は、ローカル・レベルで知識の再創造が行われると同時に始まる。」(p.408)いいかえれば、グローバル・ナレッジはまだ存在しないのであって、単一のローカル・ナレッジから再創造された複数のローカル・ナレッジという知識群が存在しているに過ぎないのかもしれない。
    「確かに、ジェミニ・コンサルティングの企業文化、共通言語、会話は知識創造に対する障害というよりも、知識創造のイネーブラーとなっている。」(p.437)単独文化、単独言語がポジティブな役割を果たす場合もある。「生活上の優先順位が明確な社会で育つ子どもたちは、ある面では幸せです。なぜなら、家族としても社会としてもその『一番大事なこと』に揺らぎがないから、そして、子どもたちもその『一番大事なこと』に貢献できる可能性があるのです。」(吉村峰子、「国際理解ってなに?」)特にメンタルに自立していないものはこのような状況のほうが貢献しやすいのかもしれない。

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