日本の農林水産業: 成長産業への戦略ビジョン

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
3.72
  • (2)
  • (9)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 82
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532133962

作品紹介・あらすじ

豊かな自然に恵まれているにもかかわらず、いまや風前の灯状態に陥っているわが国の農林水産業を復活させるには何が必要か。「政府の失敗と市場の失敗」の観点から問題点を浮き彫りにし、具体的改善策を展望する、待望の一書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 農業、水産業については、リーズナブルな提案だと思った。

    他方、林業はどうか。
    経済学はすっきりとした補助線を引くのには適しているが、社会的な粘着性を無視していないか。
    所有者の意思なしに、非生産林に分けることがどんなに難しいか。

  • 東2法経図・6F指定:612.1A/H43n/Sakaguchi

  • 政府の規制改革会議で農業を担当していた著者が、日本の農業、林業及び水産業の問題点とその解決策を提言したもの。農業の問題点は、農地法と農協で、兼業農家の保護と新規参入を妨げていること、農地の大規模化ができないことであり、林業の問題点は、多額の税金を投入しているにもかかわらず、生産林に特化して支援できていないため、産業として成り立っていないことであり、水産業の問題点は、乱獲のため水産資源が枯渇してしまっていることである。これらの問題点を簡潔にかつデータを用いて説得力をもって的確に指摘しており、とてもわかりやすかった。印象に残った記述を記す。
    「すべての経済政策は、それによって得をする人だけではなく、損をする人も必ず生む。その際、「一部の人が損をする場合には、たとえ多くの人が得をしても、改革をしない」というルールを採用するならば、何も動かない低迷した社会になってしまう」
    「兼業農家戸数の維持の効果を持つ諸政策は、農協・自民党・農水省の「農政トライアングル」が推進してきたものである」
    「兼業農家に農業を続けさせるために国際価格の7倍以上の米価を人為的に作り出している。この結果、日本には著しく過剰な農業人口が存在する。しかも、その多くは都市の労働者よりも、主業農家よりも、豊かな兼業農家である。この兼業農家のために、膨大な国費が投ぜられ、米以外の農業生産を抑制するさまざまな規制が設けられ、さらには工業製品の輸出にも弊害を生み出している」
    「農地は、農家要件を満たさない者への農地の所有権移転等は認められず、簡単に宅地などへ地目変更することができない。これらの許可不許可を決めるのが農業委員会である」
    「わが国の森林は戦中・戦後に必要物資や復興用として大量に伐採されたため、戦後直後に大量の植林が行われた。現在、戦後造林地が成熟期(伐期)を迎え、潜在的な木材供給力は、急増している」
    「わが国の林業の衰退は、先進国の中では特有の現象である。わが国は国土の66%にあたる約2500万haの森林を保有し、蓄積量も欧州の林業国に劣らない状況にあるにもかかわらず、木材生産量は著しく少なく、木材資源が有効に活用されていないことがわかる」
    「わが国の2008年度の林野公共予算は2678億円となっている。一方、フィンランドの森林整備事業の予算は約266億円である」
    「造成された人工林は1000万haを超えており、わが国の森林面積の約4割を占めている。現在の森林蓄積は1950年代と比較して2倍以上の40億m3となっており、毎年8500万m3の成長量があるなど量的には充実しつつある。わが国の国土面積3779万haのうち、森林面積はその66%を占めている」
    「漁業は、日本においては資源が枯渇しつつあり衰退しているが、資源管理を改善した諸国では漁獲量は改善しており、若者が次々に就職している産業となっている。そのうえ発展途上国の所得増などにより、水産物への需要が世界的に伸びている。このことから、やり方次第で、日本の漁業の将来は明るくなるだろう」
    「ITQを導入していない日本では、多くの場合、魚の大小にかかわらず根こそぎ獲ってしまう。このため、魚は大きく成長する前にほとんどいなくなってしまうので、漁業者が水揚げする魚のサイズは小さく、価値のないものが多く含まれる」

  • 150725 中央図書館

  • 日本の農林水産業の生産性を上げ、諸外国と同じように「若者が参入する産業」にするためにはどうすればよいかを、経済学的な視点から考えている。基本的な方向性としては、市場と政府の役割分担に着目し、農林水産業の「市場の失敗」、「政府の失敗」を分析することで、市場の失敗是正のための適切な介入策とともに、政府の失敗をなくす方策を提案している。
    本書で提案されている、農業における参入規制の緩和、林業における路網整備の重視、水産業におけるオリンピック方式からITQ方式への移行などの政策案は、いずれも概ね賛同できるものだった。本書の提言は、あくまでも経済学的観点からの改革案なので、政治的事情で実際にこのとおりにいくことはないだろうし、その実現が効率性以外の点からは完全に望ましいわけでもないとは思うが、今後の日本の農林水産業改革の方向性として間違っていないと思われる。

  • 鰻の高騰、TPP参加を巡る経済界と農業界との攻防等、いま日本の農林水産は大きな転換期を迎えているように感じる。そんな中で出会ったこの一冊。著者の八田さんは2007年から10年まで、内閣府の規制改革会議の委員として農業タスクフォースの主査を務め、高田さんは事務局でこのタスクフォースの幹事を務めた学識者。その畑の一人者であるだけに現状や問題分析にも詳しく、また課題解決に向けてどうこれからの農林水産を展開していけばよいのかも交えていたので大変内容に厚みがあり説得力があった。おすすめ!
    1次産業である農林漁業が3次産業に取って代わられた現代。時代経過によりなるべくしてなったように感じていた部分もあったが、著書を読んで考えを改めた。いまの衰退劇は「市場」の失敗、「政府」の失敗、そしてそれらに対し適切な処方を怠ってきたツケ、「オリンピック方式」という誤った規制方式のありかた、農協による寡占独占が新規参入の障壁になっている実情等、現状に合わせて制度を見直せば成長産業になる可能性を大きく秘めていることがよくわかった。この著書で提言されたものが1つでも多く実現されることを願う。

  • 林業の部分のみ読みました。
    林業の状況はある程度他の本でも把握はしていましたが、ここでは日本の林業政策の問題点が非常にシンプルに記述されていてわかりやすかった。特に森林組合の性格が民間林業事業者の育成や、効率的施業を妨げるような制度になっているということはこれで初めて知ったことで参考になりました。

  • 内閣府での議論のまとめと言う感じか。経済学の視点で農業問題を切っている。・・・と言うのだが、どうなんだろうな。有効な施策なのか。同じミクロに依拠しているなら本間先生の方が面白い気がするが。ただし、これを浅いと思う必要はなくて、経済学的視点で農業問題を「概観する」本だと思えばいいのかも。
    一点挙げるなら、例えば農地取引の主体についての議論だが、本書では民間不動産業者等を含む複数の主体による競争状態が必要だと指摘している。一方で、農地情報の一元化というのは農地流動化の必要十ん条件であると考える農経の研究者は多いように思う。この点などは、政策論とその効果計測の観点から掘り下げうる課題だと思います。
    しかし、そこで農業経済学者のレゾンデーとるが疑われてしまうわけですね。経済学者からは経済学やってると思われてないのかなーとか思ってしまいます。特に参考文献を見てたらそう思いました。頑張って研究したいと思います。

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

八田 達夫(ハッタ タツオ)
大阪大学名誉教授・政策研究大学院大学名誉教授
1943年東京都に生まれる。1966年国際基督教大学(ICU)教養学部卒業。1973年ジョンズ・ホプキンズ大学経済学部博士(Ph.D.)。オハイオ州立大学経済学部助教授(1972-74年)、埼玉大学教養学部助教授(1974-77年)、ジョンズ・ホプキンズ大学経済学部助教授・准教授・教授(1977-85年)、大阪大学社会経済研究所教授・所長(1986-99年)、東京大学空間情報科学研究センター教授(1999-2004年)、国際基督教大学教養学部教授(2004-07年)、政策研究大学院大学(GRIPS)学長(2007-11年)、学習院大学客員研究員・特別客員教授(2011-13年)を経て、現在、大阪大学名誉教授・政策研究大学院大学名誉教授。

「2013年 『ミクロ経済学 Expressway』 で使われていた紹介文から引用しています。」

八田達夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×