宗教・地政学から読むロシア: 「第三のローマ」をめざすプーチン
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2016年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (385ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532176037
作品紹介・あらすじ
■現代の国際関係の基礎となっているウェストファリア体制では、宗教的要素を棚上げにして、世界秩序を「主権国家」が織りなすパワー・ゲームとして構想した。イデオロギーの対立を軸にした冷戦もまた、ウェストファリア体制の継続であった。しかし、冷戦の終焉を契機に、イデオロギーに変わる新たな政治の基軸として宗教の役割が見直されることになった。とくにウクライナ自体の東西分裂という構造的問題が次第に明らかになるとともに、世界政治の焦点は、中東危機、IS(イスラム国)問題や難民問題の背景にある宗教に移ってきたといえる。
■このウクライナ危機の最大の要因は、実は宗教である。千年にわたる歴史的・宗教的経緯を抜きに、つまり文明論的・宗教的アプローチ抜きに、今のロシアのアイデンティティ、あるいはロシアとウクライナとの特殊な関係は理解できない。そして、それを理解するカギとなるのが「モスクワは第三のローマ」という世界観だ。
■「第三のローマ」という考え方は、もともと、17世紀半ば、正教とカトリックとの和解という当時の国際的な潮流に乗ってカトリック的要素を取り入れ儀式改革を進めようとした「ニーコン改革」に反発し、モスクワを聖なる都=「第三のローマ」と信じた「古儀式派」といわれる伝統重視の保守派が唱えたものである。
■「古儀式派」とこの改革をめぐる分裂は、これまでのロシア論では無視されてきたが、21世紀に入って、そしてウクライナ危機により注目されるようになった。なぜなら、この宗教改革をめぐる対立問題が、単に宗教上の争いにとどまらず、ロシアとウクライナ、つまりモスクワとキエフとの関係の問題、そしてウクライナ危機やロシアのアイデンティティというきわめて現代的な問題の源流となるものでもあり、さらに、2017年に100年目を迎えるロシア革命の解明にも、ソ連崩壊の理解にもつながる重要な要素だからである。
■プーチンは、ロシアを「正教大国」と表現し、欧米国家ですら放棄しかかっているキリスト教的な価値をロシアが体現するとして、正教とロシアのミッションについて明確に語るようになった。ロシア正教会とローマ・カトリックとの歴史的和解はその成功例の一つだ。この「第一のローマ」と「第三のローマ」との和解は、IS(イスラム国)やシリアをめぐって緊張する中東やウクライナでの現実的紛争を解決する梃子ともなっている。「第三のローマ」としてのソフト・パワーを行使することにもつながるものだ。
■プーチンのロシアはどこへ行くのか――。「ロシアは常に理論の予測を裏切る」というテーゼを提起してきた著者が、文明論的・宗教的アプローチで、政治と宗教とが「交響」する、ウクライナ危機、現代ロシア政治の深層を解き明かす。
感想・レビュー・書評
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ウクライナ情勢やロシアとイスラム圏・アジアとの関わりについて,文化的・宗教的側面から考察する内容.ロシア国内では正教のニーコン改革以前の慣習を重んじる古儀式派の勢力が近代でも暗に影響しており,ソ連崩壊以降,世界的なイデオロギー上の空白を埋めるように,再びそうした影響が増している.信仰の薄くなった日本では想像しづらいが,ロシアは伝統的に宗教が高い信頼を置かれる地位を占めており,それを効果的に使うことで政治的な支持に繋げられるということだろうか.ウクライナの問題は西側諸国とロシアの対立という表面的なものだけではなく,ヨーロッパ・カトリック的な要素とロシア正教とのウクライナ国内における歴史的なせめぎあいという文脈も含んでいる.一方,ウクライナを巡る問題で西側諸国から制裁を受け,同時にエネルギー資源価格下落で経済的な打撃を受けているロシアは,シリアでの対IS作戦でアメリカなどとの連携を模索してもいる.
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「地政学」という角度からすると、ユーラシアの真ん中で睥睨するロシアの位置は、
太平洋と大西洋、そして北極海と中東世界といった間にあり、
その挙動は世界に直接響き、依然として超大国としての重みを持っています。
ただエネルギー大国ではあっても、決して経済的に超大国ではないのですが。
ですからこの本を読んでいると、ロシア連邦の共和国、旧ソ連の国々や、中東トルコ中国といったもともとあった大国など、たくさんの国々との問題を処理していかなければならない状況がすごくよくわかります。
そんななかでびっくりしちゃったことがあります。
今でも極北のシベリアでは石油、ガス開発の源泉を探しているとき、
遍歴派と呼ばれるような、宗教紛争で追放されたり自発的に逃れた
キリスト教異端派、霊的キリスト教徒のような集団の村が突如発見されることがあるそうです。
ロシア帝国以来彼らは、ソ連を含めた国家へのかかわりを一切拒否し、
なかには第二次世界大戦も知らなかったというものもいるといわれます!
そんなロシアにとって日本なんてちっぽけな国なんじゃない?
と思うけど、最近プーチンは東方シフトしています。
「脱欧入亜」中でも重要視しているのは日本ではないか?
3.11のときプーチン、セーチンらがエネルギー支援を申し出、
ショイグらの非常事態省も救援隊を日本に送ってくださいました。
また領土問題を除くと、日ロ関係には戦略的に大きな意見の相違がなくなってきたことも事実。
実は1905年の日露戦争時、正教会の従軍司祭たちは、
満州の野や日本海海戦で倒れたコサック兵など、
多くの古儀式系(後述)の兵士を宗教敵であるとして放置。
モスクワの古儀式派資本家たちが怒り、日露戦争さなか世論を動かし、信仰の自由を求め、ツァーリ政府から政教分離の勅令を公布させたそうです。
日本みたいなちっぽけな国の影響が大きかったんだなあと感心。
ロシアの政治文化を形づくってきた正教を含む東方正教というのは日本人にはわかりにくいですが、
ヨーロッパのキリスト教徒にもなかなか分かりにくいらしいです。
正教会と国家とは「交響」する関係だ、というのが長い伝統でした。
988年キエフ・ルーシのウラジーミル大公が受洗したところからロシアと正教会の関係は始まります。
1653年総主教ニーコンによる儀式改革が進められます。
これはカトリックとの和解の潮流による、当時なりのグローバル化、近代化。
これに対して「モスクワは第三のローマ」「聖なるルーシ」という潮流、これが古儀式派。
正教会が国家宗教と化したのに対し、こちらの人々は宗派や信仰集団分裂を繰り返し、しだいに個人化していく傾向。
現代ウクライナの古儀式派研究者タラネツは同派を「ロシア帝国の最強の反対派集団」とよんでいます。
21世紀になって明らかになったことは、ロシア革命を担った人々の多くが、
この古儀式派的世界で育った人々であったことです。
レーニンは無関係だったようですが、カリーニン、シュリャプニコフ、ルイコフ、モロトフ、(略)エリツィン、プーチンも!
そうだ、もう一つ面白い話
プーチンの祖父が勤務するホテルのレストランでよく食事をしていたのが、
怪僧ラスプーチン。
彼は正教内異端の鞭身派という潮流。
祖父は気に入られ金貨も与えられていたそう。
(ラスプーチンの親族はその後、不名誉な姓を嫌って「プーチン」に改称)
ロシア革命でレストランは閉店。
そして祖父は晩年レーニン家のコックになりました。
どんな料理だったのか、気になります。