MORE from LESS: 資本主義は脱物質化する
- 日経BP日本経済新聞出版本部 (2020年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532176884
作品紹介・あらすじ
「経済が成長すれば資源の消費量が増えるに決まっている」
「資本主義と技術が進歩し、社会が豊かになれば、自然環境はダメージを受ける」
――産業革命以降、人間が繁栄すればするほど、地球を壊してしまうという予想が無批判に信じられてきた。
* * *
だが、実際にはどうであったのか。予想とはまったく逆のことが起きたのだ。
資本主義は発展し続け、世界中に勢力を拡大し続けているが、同時にテクノロジーが資源を使わない方向に進歩した。
人類はコンピュータ、インターネットを始めとして多様なデジタル技術を開発し、消費の脱物質化を実現させた。
消費量はますます増加しているものの、地球から取り出す資源は減少している。デジタル技術の進歩により、物理的なモノがデジタルのビットに取って代わられた。かつて複数機器を必要とした作業は、いまやスマホ一つで事足りる。
なぜ経済成長と資源の消費を切り離すことができたのか?
脱物質化へと切り替えられたのはなぜか?
このすばらしい現象について、なぜそれが可能となったのかを解き明かし、どんな可能性を秘めているのかを記していこう。
* * *
テクノロジーの進歩、資本主義、市民の自覚、反応する政府――「希望の四騎士」が揃った先進国では、人間と自然の両方が、よりよい状況となりつつある。この先の人類が繁栄し続ける道がここにある。
感想・レビュー・書評
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経済成長するにつれて資源の消費量が増えていき、やがて使い果たしてしまうという言説の間違いを指摘して、明るい未来と何をすべきかを提言する。
「希望の四騎士」として挙げられていた、資本主義、テクノロジー、政府の行動、市民の声によって、消費する資源を減らしつつ経済成長していく、というの理論は面白かった。
例えば、資源量が減るほど価格が上がるので、使用量を削減するインセンティブがはたらくというのは、「後40年で石油が枯渇する」論では抜け落ちてた概念だと思う。
四騎士すべてが噛み合った自動車業界と、すべてが裏目に出たソ連によるクジラの絶滅も腑に落ちた。
「世界は良くなっている」という明るい未来の提示は、ファクトフルネスに近いものを感じ、アクセルを踏み続ける必要性には納得。
遺伝子組み換え、核エネルギーの活用も、証拠と数字に基づけば推し進めてもいいのかもしれない、と思わされた。 -
著者は、マサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院主席リサーチサイエンティスト。デジタル技術が世界をどう変えるかを研究している。
資本主義への信頼が揺らいでいる中で、資本主義とテクノロジーの発展が世界を豊かにしている事実と理由を解き明かしてくれる。ただし市場だけでは対処できない問題も多く、市民の意識と反応する政府が必要であると説明する。一方でテクノロジー企業の寡占と、中流の没落、社会の分断といった、現代社会が抱える問題も浮き彫りにしている。
<要約>
これまでの常識を覆すMore from Lessというパターンが出てきた。少量の物質や材料、エネルギーで、より多くの製品や食料を生み出すことができるようになったのだ。つまり脱物質化が起きている。
米国ではGDPは右肩上がりに成長している反面、金属などの材料の消費量は1970年代でピークを迎え、その後は減少している。農作物の収穫量も年々増加しているが、肥料、灌漑の水、作付面積はピークを過ぎて減少している。経済成長に比べてエネルギー消費量も鈍化している。
このMore from Lessのパターンは「テクノロジーの発展」と「資本主義」がもたらした。近年のコンピューターを中心とした技術発展により、より少ない物質から多くの製品を生み出すことが可能になった。また企業にとって原材料費はコストであるため、利益追求のためにそれらを削減する努力を惜しまない。
イノベーターにより技術が生みだされ、起業家と投資家により革新的な企業へと成長を遂げる。既存の技術は特許により守られるため、他の企業は新たな技術を開発しなければならない。資本主義の中で企業や製品は常に競争に晒されるため、テクノロジーは絶え間なく発展していく。資本主義とテクノロジーがMore from Lessを加速させるのである。
ただし資本主義とテクノロジーだけでは解決できない問題がある。それは公害と動植物の絶滅など環境問題への対応だ。市場は多くの重要な事柄について対処できるが、負の外部性については適切に対処できない。
市場では売り手と買い手、取引に直接関係するものに便益を提供する。しかし第三者への負の影響にはうまく対処できない。例えばある商品を生産する工場の周辺で重大な汚染が発生しているとする。売り手と買い手には直接の被害は発生しないが、近隣住民といった外部には被害が発生している。このように公害や動植物の絶滅など環境破壊へ対処するためには、テクノロジーの発展と資本主義だけでは不十分で、これら2つを適切にコントロールするための「市民の意識」とそれに「対応する政府」が必要である。
「テクノロジーの発展」「資本主義」「市民の意識」「反応する政府」。これらの4つを「希望の四銃士」と呼び、これらがバランスよく適切に機能することが、豊かな未来を創る。More from Lessのような脱物質化と同時に世界の貧困も減っており、世界は豊かになっている。
しかし、ここ二十年で貧困層と富裕層が実質所得を大幅に伸ばしている中で、先進国の中流層だけは所得があまり伸びていない。中流層が没落しているのである。
これは産業が工業からサービス業へシフトする中で、多くの工場労働者や未熟練労働者が職を失ったためである。一方で破壊的なテクノロジーを持つ企業は、勝者総獲りの寡占状態で、勝者と敗者の二極化が起きている。また、工場や企業、職場を失った地域は衰退し、経済活動を通して生まれていた人と人のつながり(社会関係資本)も希薄化している。
「テクノロジーの発展」と「資本主義」は、中流層の没落、市場の寡占、社会の分断といった新たな問題を引き起こした。「市民の意識」と「反応する政府」は、これらの問題にも対処していかなければならない。 -
資本主義は人々の飽くなき需要を惹起し、大量消費すなわち環境破壊の根源である。資本主義に代わる良い制度もなければ、世界の人口も増加の一途だ。すなわち、考えられる未来は破滅的なものでしかない。一体、資源の枯渇までどれほどの猶予が残されているのか。
ところがこの本が語る事実はそうではない。実は、いくつもの主要な資源は消費のピークをすでに迎えたと知ることになる。例外であるプラスチックにしても、増加率は緩やかに推移しており、早晩ピークを迎えることと思われる。
これは消費欲に歯止がかかったからではなく、リサイクルの意識が根付いたからでもない(リサイクルは寧ろ脱物質化の妨げになる恐れも指摘されている)。テクノロジーの成せる業である。例えば電話機、カメラ、ラジオ、地図、再生機器等の機能はスマートフォン一台に集約された。大規模で産業化し機械化した農業はより少ない農地でより多くの農作物が生産できるため、農地が減った(その分自然が増えた)。人類は、ハーバー・ボッシュ法の発明により、マルサス主義的な人口論からの脱出を遂げたが、今や、またその先のステージへと進みつつある。「成長」と「自然」は必ずしもトレードオフでない。人類は成長しながら、確実に「脱物質化」している。可能としたのはテクノロジーである(正確には"希望の四騎士"なるものの活躍)。では、そのようなテクノロジーはどのようなインセンティブから産まれたのだろうか。例えば、市場参加者が日夜勤しむコスト削減がその一つである。<私たちは常により多くを求めるが、より多くの資源は求めない>(p136)
逆説的に、「自然に帰る」「足るを知る」といった成長を抑制する運動は、地球に優しくないことが言える。人々が田舎で自給自足に近い生活を営む姿は、牧歌的で愛おしく思えるが、裏を返せば圧倒的にエネルギー効率のよい都市から離れ、わざわざ非効率な生き方をしていると言える。地球に優しい世界を作りたいなら、適切な制度の上で資本主義、テクノロジーを加速させることが重要である。資本主義が問題ではない。寧ろ資本主義が不足していることが問題なのだ。
この本は、ただ資本主義やテクノロジーを翼賛するものではない。公害問題などの負の外部性、市民の自覚や反応する政府が不十分である点、資本主義が齎した分断(ソーシャルキャピタルの喪失)といった、資本主義が持つ課題へは、やはり対応が必要であるとされる。
一部ファクトフルネスのような内容もあるが、断然、ファクトフルネスの方が読み易い。 -
書評はブログに書きました。
http://dark-pla.net/?p=983 -
本書は「機械との競争」「セカンド・マシン・エイジ」などの著者として有名なMITのアンドリュー・マカフィー氏による最新の本です。一貫して読みやすく、データも豊富に提示されているのであっと言う間に読めました。本書の主張したいことは明白です。資本主義とテクノロジー進化は、(少なくともアメリカにおいては)脱物質化を進めている。ここでの脱物質化とは、資源消費量を少なくしながら経済成長をしているという意味です。しかし資本主義とテクノロジー進化だけでは、公害などの外部不経済に対処できない。そこで必要になるのが「反応する政府」「市民の自覚」。これによって公害がいろいろな意味で高くつきますので、企業は外部不経済の削減にも取り組むということです。マカフィーは、「資本主義」「テクノロジーの進歩」「反応する政府」「市民の自覚」を希望の4騎士と名付けています(これは明らかにスコット・ギャロウェイの『The Four GAFA:四騎士が創り変えた世界』を意識していると思います)。
本書ではアメリカについてかなり詳細なデータ分析をしていることから、少なくともアメリカでは著者が主張するような「モア・フロム・レス(少ないインプットでより多くのアウトプットを生み出している)」が達成できていることは間違いないと思うのですが、果たしてこれは地球全体としても言えるのでしょうか。本書の最後までこの疑問は消えませんでした。つまりどういうことかというと、グローバリゼーションの進展で、資源をたくさん使う製造過程がアメリカなどの先進国から、中国やメキシコ、東南アジアなどに移転されていることがこの背景にあるのでは、という疑問です。アメリカやイギリスは経済のサービス化が進みました。つまり経済に占める情報通信や金融、サービス業の比率が高まりましたが、裏を返せば、資源を消費し公害も生み出しやすい製造過程を新興国に押し付けている、という見方もできるわけです。いいかえれば、欧米先進国の脱物質化は、新興国のより一層の物質化(資源消費)のコインの裏側でしかないのでは、と感じるわけです。
ただ、たしかにデジタル技術は色々な意味で資源消費を抑制する方向にある気もします。無駄をなくす、最適化する、また本書にもありますように、以前は複数の家電製品を購入しないとできなかったことが、いまはスマートフォン1台でできてしまいます。またこれまではハードウェアが担っていた機能が、ソフトウェアで担えるようになっている面も多々あります。ですので、本書はデジタル革命が「モア・フロム・レス」に寄与すること、それはアメリカだけでなく世界の工場としての中国や他の新興国でも、その傾向が見え始めている、といった感じで分析をしてもらえると、きわめて説得力があったのに、と感じました。 -
技術の進歩は、経済の繁栄と脱物質化を両立させる。資本主義、テクノロジーの進歩、市民の自覚、反応する政府 ―― この4つの要素が引き起こす経済の脱物質化について詳述し、どんな可能性があるのかを見通す。
第1章 マルサス主義者の黄金時代
第2章 人類が地球を支配した工業化時代
第3章 工業化が犯した過ち
第4章 アースデイと問題提起
第5章 脱物質化というサプライズ
第6章 なぜリサイクルや消費抑制は失敗するか
第7章 何が脱物質化を引き起こすのか--市場と驚異
第8章 アダム・スミスによれば――資本主義についての考察
第9章 さらに必要なのは――人々、そして政策
第10章 <希望の四騎士>が世界を駆け巡る
第11章 どんどんよくなる
第12章 集中化
第13章 絆の喪失と分断
第14章 この先にある未来へ
第15章 賢明な介入
結 論 未来の地球 -
科学技術の発達の恩恵で、経済活動が活発になってもそれに比例して地球資源を食い潰していく訳ではなく、むしろピークは過ぎて効率化が進んでいる…ふむふむ。でも「希望の四騎士」なんてダッサイのが出た辺りから、既視感続きでつまんなくなったー。
ところで、「勝者総取り」方式って、経済用語なんですか?選挙方式だと思ってたんですけど。