市場対国家 下: 世界を作り変える歴史的攻防
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2001年11月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (439ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532190958
感想・レビュー・書評
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「(ロシア)古い時代の経営管理者、労働者、年金生活者にとって「市場」は耐え難いストレスの原因でしかない。自分たちの生活に侵入してきた異物、社会の根幹を揺さぶるもの、自分たちの知識を混乱させるもの、これまでの蓄積してきた経験を無価値にしてしまうもの、自分たちの生き方を支えてきた考え方、苦労や苦痛に耐える根拠を与えてきた考え方に疑問を投げかけるものなのだ」p146
「(ジスカールデスタン大統領)国有企業には理解できない点がある。経営者は、エリートの中のエリートといえるほど優秀だ。しかし、効率的な経営ができず、変化に抵抗し、現実から遊離している。じつに奇妙なことだ」p222
「労働者の保護と非労働者への補助の点で、ヨーロッパは社会保障の水準が極めて高い。そのコストが高いことから、大企業による投資が抑えられ、小企業の設立も抑えられている」p353
「財政がぶつかる問題のなかで、規模の点で、「高齢化」に唯一似ているといえるのは、戦争だけである」p366
「社会主義は、魅力がはっきりしている。博愛主義、他人への思いやりと同情、連帯、尊厳と社会の改善、公正と公平、希望である。市場経済には、そのような直接の魅力はない」p375
「(市場経済の倫理性)個々人が自己の利益を追求していけば、社会が全体として良くなるとの見方に基づいている。私有財産、契約、自発性に基づく制度は公正であり、この制度があれば、国が無制限に、恣意的に権力を行使することができなくなる」p375詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
独特な生い立ちのインド、同世紀中に共産主義の栄枯盛衰を体現したソ連邦、そして憲法で自由を標榜するだけあって規制が苦手なアメリカの章が面白い。対して、中南米やEUは多少寄せ集め感がある。
経済政策は各国特色はありながらも、上巻と比べると同じような話題も多く食傷気味な感じはある。経済政策の大転換という点では上巻のイギリスが個人的に最も面白かった。 -
印象に残った一文を。1998年の著作やけど、著者の慧眼にただただ脱毛(←?)
"日本国民がもっと開かれた市場、競争の激しい市場を受け入れようとしているとは限らない。そうした市場のもとでは、不確実性がさらに高まり、安全が脅かされかねないないからだ。国が市場を「指導」した時代は、はるか以前に終わっている。国と市場の戦いが、今後何年かにわたって、日本の社会にとって中心的な課題になるだろう。この戦いは、政治の場で繰り広げられるだけにとどまらず、国民の心をめぐっても繰り広げられることになるだろう。" -
前篇はサッチャー革命が見せ場だったが、後篇はいよいよソ連崩壊、米国レーガン革命、EU統合が登場。そんな中、中南米とインドの話題が興味深かった。現職首相の暗殺を機に、引退を延期した政治家が後任になって国の方針を180度変えてしまったり、「彗星のごとく」という言葉があるが、ひとりのヒーローと数人の参謀がその国を活き返らせることがある。何かというと「政府はだめだ」と訳知り顔で満足する態度が狭量にすぎるのは当然としても、ますます複雑化する世界で一国の舵取りを行うのは大変なことだと思う。(といって現状に満足しているわけではないけれど)