日本型イノベーションのすすめ

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532314521

作品紹介・あらすじ

欧米型の追従では勝てない!モノづくり戦略の見直し、新展開を提言。市場原理主義が行き詰まった今、組織力の強みを活かした日本型「刷新」技法が注目される。文化・社会の特殊性からトヨタ式、先端業界の最新動向まで徹底分析。

感想・レビュー・書評

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  • サブプライム問題によって露呈したアメリカ式の経済優位の限界。
    では、日本はこの世界経済にどう立ち向かえばよいのか?
    本書ではまず、根本的な日本と米国の思考による違いを明らかにし、その結果両国に生じた感覚のズレをYou tube vs ニコニコ動画やPS3とWiiの比較など具体例を紹介する。
    その中から日本は欧米式ではない日本型のイノベーションの指針を示す一冊。

    内容としては経済的な話ではないものの、欧米的思考と日本的思考の対照がとても面白く、納得できる考えが多く含まれている。
    そこからイノベーションの話に進むのだが、ここに具体例があるのがありがたい。
    ただ、著者があとがきで述べているように同著の『なんとなく、日本人』の応用編となっているのでこの本を読んで少しでも興味を持ったなら『なんとなく、日本人』から読んだ後にこちらに移る方が理解が増すと感じた。

  • 前半は、シュンペーター、ドラッカー、クリステンセンの三大イノベーション論の日本への適用についての論点を整理していて、わかりやすい。また、トヨタ、ニコニコ動画、電脳コイルの事例も分り易い。しかし、後半にいくにつれ、肝心の「日本型イノベーション」への提言が、やや弱いように感じた。同様の提言は、本書でも触れられている東大・藤本隆宏教授が既に行っており、三大偉人をスパっと批判している割には、提言内容が乏しかった。

  • 米国企業で長く働き、
    現在は明治大学で教べんをとる著者が、
    「日本らしいイノベーション、企業の在り方」
    について分析し、提言を述べている。

    本書は着眼点と組立がユニークだと思える。

    だいたい経営系の本で「日米対比」をテーマとして持ち出すと
    「日本はなあなあ、米国式合理化を」か、
    「米国式合理主義は日本をダメにする、日本組織を重視せよ」か、
    というどっちかの白黒のスタンスであることが
    多いような気が個人的にするのだけれど、
    本書はそういう割り切りをしているわけではない。

    そもそも、前提構造の確認から入っている。それは、
    「他者依存性、役割の精緻化は日本に固有で動かしがたい」
    というもの。
    そこの不変性をしっかり確認したうえで、
    その構造からは何が得意なのかをよく考えて、
    そのテクストの中でイノベーションを起こすべし、
    ということを言っている。

    つまり、デカルト的自己確立から引き出される
    「客観型の全面的合理主義」を採用するんじゃなくて、
    関係性の中での最適解追求の手法として「部分的合理的であれ」
    ということだと私は解釈した。

    これは、実際多くの日本企業になじむ可能性は高いのでは
    なかろうか。

    5章で、「日本型イノベーション技法」のキーワードを
    取り上げていて、それがわかりやすい(p.188)
    「手」
    「間」
    「場」
    「こころ」
    これ自体は、まぁよく言われるフレーズでもあるのだが、
    著者は「意識的に修正を加えないとモノづくりに偏向しがち」と
    きちんとクギを刺している。
    まさにそのとおりで、日本の電子製品がこの数年世界でほとんど
    大ヒットを飛ばせていないのは、内向きモノづくりに終始している
    からかもしれない、と思ったりした。

    ただし、本書に全面的に賛同はしかねる。
    6章のPS3とWiiの勝敗について「ハード技術にこだわりすぎたから
    PS3は負けました」みたいな話は、ちょっと違和感を覚えた。
    技術が高いことは、可能性を引き出す上限を高める上では
    私は肯定的に捉えている。ただし、それをどうユーザーの
    ライフスタイルの中の満足に到達させるかという
    ソフトとハードの合わさった「生活者満足」が提案できなかったから
    ゲーマーでない一般の人にはPS3はイマイチな感じに映ったのだと思う。
    だが、ゲーマーにとってPS3の満足度は高いと考えられる。
    ハードに対してソフトがどれだけ売れたか、すなわちゲーマーが
    たっぷりゲームを楽しんでいるかどうかという点では、
    計算してないけど多分データを拾ってくれば、PS3がWiiを凌駕している
    ことは明らかになるだろう。
    「ハードの販売台数」と「ビジネスの成否」は単純なイコールではない、
    ということの考察が抜けていると思うのだ。

    また、スティーブ・ジョブズについての考察もズレていると思う。
    7章で(p.253)で、
    ソニーの出井元会長とジョブズを対比して、
    「ネット上での著作権を無視する方向に向かうジョブズは、
     明確なルールブレーカですが、彼は米国のヒーローでもあります。」
    と書いているけれど、
    ジョブズの伝記(W.アイザックソン著)を読んだ読者は、
    決してジョブズがそう思っていたわけではないことに気づくはずである。
    ジョブズは芸術を愛していた。ミュージシャンに敬意を払っていた。
    だから、iTunesという仕組みで、お金を払って簡単に楽曲を購入できる
    仕組みを整備することで、ユーザーへの満足とミュージシャンの収入を
    両立させようとしたわけである。
    著作権を無視したわけではなく、アーティストの対価受け取りモデルに
    イノベーションを起こしたというべきであろう。

    さらに、知られるとおりにジョブズは禅をはじめとする
    東洋思想に深く傾倒していた。
    そのことが、彼が生粋のアメリカ人でありながら、
    「モノの細部への作り込みに死ぬほどこだわる」ことと無縁ではない、
    というのもまた、ジョブズに関連した著書にはよく書かれる話である。
    「細部に神は宿る」と「大胆で迅速な経営」を両方
    ひとりの人物が持ち合わせていたことが、あそこまでの
    信じられないイノベーションを実現させていったといえるのではないか。

    だから、逆にいえば関係性にこだわり「細部」に留まる
    日本型を是としているままでは、永久に日本にジョブズは出てこないし、
    アップルも出てこないだろう。
    著者がイノベーションを起こす範囲や規模をどの程度まで考えているかに
    ついては、本書を読む範囲ではいまいち分からないが、
    とりあえず「世界に革命をもたらす」レベルのイノベーションは
    やっぱり起きないよねぇ、ってことを実感した。

  • 「なんとなく日本人」のエッセンスを元に日本型イノベーション(トヨタ、ニコニコ動画、電脳コイル等)の技法を解読した。読み応えがある。

  • ・「革新」と「刷新」
    広辞苑、
    「革新」:「組織・慣習・方法などを変えて新しくすること」
    「刷新」:「弊害を取り除いて事態を全く新しくすること」

    イノベーションの定義 by シュンペーター
    イノベーションにとって重要なのは、必ずしも新技術(発明)ではなく、既存の技術やアイデアといった物や力の新しい組み合わせ(シュンペーターはこれを新結合といっている)であり、
    かつ、それを実行することであるといっている。

    ・欧米的自己(絶対的、相互独立的自己)、日本的自己(相対的、相互協調的自己)

    ・役割に存在価値を見いだす日本人(役割ナルシズム)
    役割境界を設定した集団(役割構造を担保するもの)内での役割遂行が自己の確立と深くかかわっています。

    ・トヨタ式イノベーションの定義
    「脱常識」=> 「気づき」にもとづく「脱思いこみ」
    ・トヨタ式イノベーションのメカニズム
    「あるべき姿」への「思い(イメージ)の共有化
    「なぜを5回問う(5why)」
    「現地・現場」主義
    ・トヨタ式イノベーションの展開シナリオ
    ・「日々改善」によって「革新」レベルに達する「継続型」<=> 欧米の「一発型」

    ・独立的個人ではなく、相互主体性(「コンセンサス」ではなく「思いの共有化」)を核とする集まりの重要性
    個人ベースではなく、集団ベースに軸足がある
    ・再現性を担保する手段(機能設計)としてのプロセスではなく、目標に従属しない終わることのないプロセス遂行が目的
    ・再現性を問わないプロセスであるがゆえの、プロセスの向上・進歩、非意図的な非連続性の発現
    ・他者依存性を肯定することによる非意図的な結果の許容
    ・リアリティという一般性の再現ではなく、アクチュアリティという固有性・一回性の価値の評価
    ・メタ的な垂直・優劣思考ではなく、パラレル的な等価的な・並列的思考の重要性
     コントロールではなく、つながりからなる関係の重視


    日本的なイノベーション技法
    1)、手を通した小型化・詰め込みの発想
    2)、こだわり=窮め、極めの心性(内向きな役割精緻化の心性と関係性構築の心性)
    3)、「思いの共有化」を前提とする個別最適化の姿勢
    4)、絶えざる新奇性の取り組みの姿勢

    姿勢は振る舞いと異なり、条件反射に近く、ごまかすことはできないものです。

    ・「進歩」は「進んでいるほうが良い」、「進化」は「外部変化への適応としての変化であり、良し悪しを問われない」
    ・クリステンセンの論理では、「文明」の世界での競争を念頭に置き、あくまでも「性能」という単系的な発展段階上でいかに顧客のニーズに対して、リーズナブルな製品やサービスを提供し得るかという問題にある。
    一方、価値の中心軸が「文明」から「文化」へとシフトするという質的転換をふまえ、いかに「文明」と「文化」のバランスをとるかという問題である。

    ・"刷新”「出口におけるイノベーション(思いの強さとこだわりの結果としてのイノベーション)」
    ・”革新”「入り口でのイノベーション(意思の貫徹としてのイノベーション)」

    ・「終わることのないプロセスの遂行」


    ト、2009.6.24

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著者プロフィール

1957年、神奈川県に生まれる。東京大学卒業後、米国シカゴ大学社会科学大学院国際政治経済学修士・同大学経営大学院経営学修士。マッキンゼー&カンパニー、フォルクスワーゲンドイツ本社をへて、アグリメジャーである米国カーギル社に入社。ミネアポリス本社、オランダ、イギリス法人勤務をへて、NTTデータ経営研究所へ入所。同社パートナーをへて、2009年より明治大学国際日本学部教授となる。NHK「白熱教室JAPAN」で放映された大学の講義が話題を呼んだ。専門は社会組織文化論、知財文化論、社会システム論、イノベーションおよび知識経営論。著書には『日本型イノベーションのすすめ』『日本的改革の探究』(日本経済新聞社)、『なんとなく、日本人』(PHP新書)、『2050 老人大国の現実』(共著、東洋経済新報社)などがある。

「2014年 『没落する日本 強くなる日本人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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