波乱の時代 下

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532352868

感想・レビュー・書評

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  • 上巻では主に回顧録の形を取り、グリーンスパン氏の謂わばライフヒストリーを扱っていました。
    本下巻では彼の経済観・経済論、国際情勢、今後の世界について等々の、幅広く彼の思想が披露されています。

    ・・・
    もっとも印象が強いのが、彼が強固な自由主義者、レッセフェールを愛する男だという事でしょうか。
    その深度たるや、FRB議長にあって、時代が下って陳腐化した不要な規制は定期的に廃止するべきで、実際そうしていたと回顧する部分すらありました(箇所忘れました)。例えばヘッジファンドについてもバランスシートを当局に提出する点については彼は大の反対だということ。曰く、頻繁にポジションを変更するヘッジファンドのバランスシートを、たった一時点の記録を当局に出したところで数分後には変化している可能性が高い。つまり意味がないという話です。

    彼はマーケット、神の見えざる手の篤い信奉者です。きっとヘッジファンドに対する規制が無いとして問題にならないと考えているのでしょう。逆に問題になる場合はどういう場合でしょうか。ファンドが過度なリスクを取る場合? でもリスクとリターンが相関することから、ハイリターンを求めるならばリスクを負う側が気を付ければよいだけかもしれません。

    ファンドにも購入者にも足りない部分はあるかと思いますが、それこそがマーケットで互いに傷つけあいながら(!?)「ベストプラクティス」が積み上げられることを期待しているように見えました。これまさに自己責任。

    但し詐欺はいけません(氏が言っているんですが)。詐欺を防止するルールは当局は厳に取り締まり、それ以外はマーケットに任せるというようでした。

    ・・・
    面白いのは、このレッセフェールをグローバリズムやマクロ経済学にも結び付けていたことでしょうか。

    例えば、米国の経常赤字。かつて学校で習ったとき、この原因として高品質で低価格の輸入品を受け入れたためだということでした。グリーンスパン氏の解釈は「イノベーション」ということに見えました。あるいは投資。

    日本は経常黒字が多い国ということで、これまた投資した米国債の配当金や利金が多いことが説明として多かったと多いと思います。ただグリーンスパン氏的に説明するならば、もはや日本国内に有望な投資先がなく、投資先がグローバルになったと言えると思います。逆に米国サイドから見れば旺盛な資金需要を国内だけで満たすことが出来ず、海外からの資金を受け入れているということになります。

    こうした自由な資金の移動が米国でのイノベーションを生み、そして外国の投資を成功させた、そして地球全体として繁栄を形作った、ということですね。

    上手く表現できませんが、とにかく知的好奇心がすこし刺激されました。マクロ経済学は20年前に証券アナリストを取るときに勉強したっきりですが、何か間違えていたらごめんなさい。

    ・・・
    また、今後米国に影響を与えることになりそうな国々にも章を割いていました。

    中国、ロシア、インド、そして中南米です。全般的には、個人の権利が確立し、資本主義という市場という「神の見えざる手」が働くところにこそ繁栄があるという見方でした。中国は財産権が曖昧で不確か、ロシアは財産権の概念は為政者により変動する、インドは因襲的で規制が多すぎる、そして中南米はポピュリズムが資本主義に規制を与える、というのが発刊当初の氏の考えのようです。

    結構しっかり見ているんですね、という印象。
    グローバリズムとか新自由主義とか、弱い人の立場からはけしからんと考えていました。ただ、本作を読むと市場に任せる効率性、規制によるコストを撤廃しマーケットに還元するという考えも理解でき、なるほどと思った次第です。

    ・・・
    ということで戦後では最長の18年以上FRB議長として金利政策をリードしたグリーンスパン氏の回顧録でした。

    下巻は氏の思想が中心でしたが、含蓄のある面白い内容でした。哲学科出身にはちょっと難しかったのですが、経済をしっかり勉強した方にはより面白く読んでもらえると思います。

    金融関連に興味がある方、経済学(特にマクロないしは計量経済学)に興味がある方、米国や関連の地政学に興味のある方等々にはお勧めできる作品かと思います。

  • 自己啓発
    ビジネス
    お金

  • 大変勉強になった。いろいろと考えさせられた。
    資本主義における創造的破壊はやっかいだなあと
    感じた。これのおかげで今の裕福な生活があるのだと
    しても、これから先もっと裕福な生活があるとしても、
    創造的破壊を乗り切れるだろうかと不安になる。
    それにしても、グリーンスパンはすごすぎる!

  •  中央計画経済(社会主義)もはや経済体制として信頼できない。かたや、自由主義型の資本主義経済がグローバル化して勝利したとも到底いえない。たとえ物質的な豊かさが向上し、過去二世紀において6倍に増えた地球の人口を支えられるようになったとしても、資本主義は依然として受け入れがたいものがある。

     資本主義は安定や確実性を求める人間の欲求と衝突する。また資本主義の成果の配分は不公平だと感じ、競争においての原動力は人々に不安を呼び起こす。不安を感じる要因のひとつには、常に失業する恐れがつきまとうことにある。競争により現状、生活様式が大きく変化することで心地よさが奪われることにある(参照P26~)

  • これを自伝とするべきかは難しい。各地域・国の経済・社会の分析はためになるが、やはり経済危機を招いた認識ではあるだろう。

  • 5-1-6 金融論

  •  上巻の回顧録調から打って変わって、下巻では著者から見た世界経済の現在と未来が語られている。まずは日本や欧州、中南米など、世界経済のキーとなるような国の経済政策のこれまでの傾向について語り、エネルギー問題や高齢化問題など、今後の世界経済の大きな課題の原因を、新自由主義的な視点から分析している。日本の経済政策に対する分析や、アメリカの教育問題に関する分析など、かなり率直に思ったことを語っているように見受けられる。
     ただ、大きな課題設定としては適切だとは思うのだが、その解決は全て新自由主義によるのが適切だと言う単純さは、心霊現象の原因は全てプラズマだ、という思想に似た危うさを感じる。確かに、経済は市場を無視して成立するものではないが、市場は非常に大きな力には容易に屈するものである。市場はその過程において正しいかもしれないけれど、結果が最善とは限らないと思う。

     物理学では、古典力学で大きな物体の動きが説明できるようになり、量子力学により非常に小さな物体の動きが確率論的に予測できるようになった。そして古典力学は量子力学の近似として説明できることも分かった。つまり、非常に小さな原子の動きも、それが寄り集まって出来た星の動きも、根本的には同じ理論で説明できるわけだ。この理由の一つは、同じ種類の原子は全く同じ性質を持つことにあると思う。つまり、どの原子を選んでも、種類が同じならば挙動は同じなのだ。

     一方、経済学は人間の行動を予測する学問だ。そして経済の構成要素たる人間はそれぞれ異なる。このことが予測を難しくしている。確かに大部分の人は同じ状況では同じように行動を取るかもしれない。しかし、他人より儲けようと思い実行できる人は他人と違う行動を取る。これが経済学が理論として完成し得ない理由の気がする。

     さらに問題なのは、大金持ちの経済に対する影響力は、普通の人たちの経済行動をほとんど無視できるほど大きいということだろう。こう考えると、経済における人の集団は必ずしも均質とはいえず、寡数の大資本家の影響によって左右されることもありうるだろう。だから、市場が全体にとって最善の結果をもたらすわけではないと思うのだ。

     市場は確かに正しい。しかし、正しくない行動をする人にも最良の結果をもたらすために、より良い経済政策のあり方を探す姿勢は失わない方が良いだろう。

  • 前FRB議長グリースパンの自叙伝の後編。

  • 訳者がいいのか、この手の本としてはかなり読みやすい方だと思う。
    FRB議長を長年務めたグリーンスパンの回顧録。

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