ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第12版> 株式投資の不滅の真理

  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532358235

感想・レビュー・書評

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  • 2023/03/08
    2023年8冊目。
    読み難い本だが学びは多い。
    『金持ちになりたいなら急がないことだ。しかし重要なのは、今すぐ始めることだ。』

  • テクニカルやファンダメンタル等のあらゆる手法を紹介した上で、株価はあくまで「ランダム」だと断定。積極運用を行う証券アナリストを役立たず扱いするなど、その筋の人に刺されないか心配になるが、御高齢大丈夫だろうか。洋書特有の読みにくさはあるものの、皮肉の効いた表現(コイン投げのプロとか)も面白く、インデックス投資のバイブルとして長く愛されるのも納得の内容。ただし、根本的にはアメリカ人によるアメリカ人向けの本なので、入門としては日本向けにローカライズされた本を読むのが無難だとは思う。

  • 投資バイブル。10年ぶりに読んだが初心に戻れた。
    また、当時の版から現代に即したアップデートがされていて改めて投資方針を検討できた。

  • かなり読み応えのある投資本でした。
    この本にかかりっきりで、他の本がぜんぜん読めないのが辛かったです...

    株式市場の理論や投資手法、人間の損失回避願望、有望銘柄を自分で見つけるプロセス、分散投資やリバランスについて詳しく知るにはもってこいの本書で紹介されるのは、一朝一夕で儲けられる株式投資法ではありません。細々と、長々と、運用したいものです。

    決めたこと:
    ①暗号資産(仮想通貨)は買わない
    ②相場が過熱しているときは冷静になる
    ③バブルに巻き込まれない
    ④若いうちに多少リスクをとってみる
    ⑤新興国株式のインデックス・ファンドを買う

    p112
    株式投資によって堅実に富を増やすことは、そんなに難しくはないのだ。後の章で取り上げるように、幅広く分散された株式ポートフォリオを買ってじっと待っているだけで、長期平均的にはかなり高いリターンを享受することができる。ただ気をつけなければいけないのは、一夜にして大金持ちにかれるかもしれないという投機の馬鹿騒ぎの中で、大切な財産を賭けたくなる誘惑に負けないことだ。

    p131
    ブロックチェーンや類似の分散型公開帳簿技術の特性は、医療診断履歴や車両点検、修繕履歴といった分野への応用が可能と思われる。

    実際、ブロックチェーン技術は取引コストを引き下げ、執行のスピードアップをもたらす大きな可能性を持っている。

    p136
    オランダのチューリップ・バブルは、ある日多数の投資家や投機家がとりあえず値上がり益を確保しようと、一斉に売りに出されたことをきっかけに暴落が始まった。一方ビットコインの場合は、「ホエールズ」と呼ばれる特定少数の大口保有者が存在する。もし彼らが保有分の一部分でま売りに出そうものなら、価格は暴落するだろう。二〇一八年時点で、ビットコインの発行総数のおよそ五〇%は、五〇人以下の投資家の手に集中していると言われている。これらの大投資家はまた、共謀することによって市場価格を操作することも可能だろう。これらの大口保有者たちが、価格水準や投資戦略について意見交換すること自体は、違法とは考えられていない。様々な規制でがんじがらめになっている株式と異なり、ビットコインの世界は今のところほとんど規制がないのだ。このため、ビットコイン市場は一般の投資家にとってはとりわけ危険な市場といえるだろう。ビットコインはいつ裏切られてもおかしくない投資対象と考えるべきだ。

    p171
    マゼランファンドの運用で名を残し、今は引退したあのピーター・リンチは、ファンドマネージャーとしての駆け出しの頃、このアプローチを巧みに駆使して大成功した。彼は組み入れ候補銘柄の期待成長率対株価収益率の比率(いわゆるPEG比率)を弾いて成長可能性の割に株価収益率が低いものだけに投資したのである。これは単なる「低PER」戦略とは異なる。

    「成長が期待でき、かつ低PERの銘柄を探そう。もし成長が実現したら、利益成長と株価収益率の上昇による二重のボーナスが得られるため、大きな利益をもたらすだろう。将来の成長がすでに織り込みずみの高PER株には気をつけよう。もし成長が実現しなければ、利益の減少と株価収益率の低下で二重の損失を被るからだ」

    p204
    問題は、一度そのような規則性が市場参加者に知られれば、人々はそれが実際に起こるのを妨げるように行動するだろうということである。したがって、もしある人物がそのような規則性に気づいたとしたら、彼は黙ってその技法を自分だけでやり続けるだろう。なぜなら、その方が得られる分け前が多いからだ。真に有効な方法ならば、それを他人と分かち合おうとする動機はどこにもないに違いない。

    p205
    証券会社がテクニカル・アナリストを雇うのは、彼らの分析が投資家により頻繁な売買を行わせ、その結果、証券会社により多くの手数料が落ちることを期待するからだ。

    p256
    この分析でちょっと逆説的なのは、リスクの高い外国株式を少しだけ加えることによって、ポートフォリオ全体のリスクが低下するというところである。

    p257
    ポートフォリオのリスクが最も小さくなるのは、外国株式一八%とアメリカ株式八二%という組み合わせであることがわかった。さらにアメリカ株式だけだったところに一八%だけEAEF株式を加えることによって、ポートフォリオのリターンも高まっている。

    リスクの高い外国株式を加えることによって、より高いリターンとより低いリスクが実現できるというのなら、これは個人投資家にとっても機関投資家にとっても無視するわけにはいかない。

    p264
    さらに、総リスク、すなわちリターンの変動性のうち、ある部分を証券の「システマティック・リスク」と呼んでいる。これは、株式市場全体が変動し、また全部の株式が少なくともある程度は一緒に動く傾向があることから生まれるリスクである。株式のリスクのうち残りの部分は、「非システマティック・リスク」と呼ぶ。これは、例えばストライキや新製品の発表など、その企業特有の要因によって生まれるリスクのことである。システマティック・リスクは市場リスクとも呼ばれ、個別銘柄やポート・フォリオが市場全体の変動に対して反応する度合いを示す。銘柄やポートフォリオによっては、市場の動きに非常に敏感に反応するものもあれば、比較的安定しているものもある。この相対的な変動性、または市場に対する感応度の大きさは、過去の実績に基づいて推計することが可能で、ギリシャ文字のベータ(β)として広く用いられているのだ。

    p265
    基本的には、ベータはシステマティック・リスクを数字で示したものである。ベータの測定には数字が用いられるが、その背後にある考え方は、これまでファンド・マネジャーが何十年もの間肌で感じてきたことを厳密な数字で示そうとするものにすぎない。ベータは、基本的には個々の銘柄やポートフォリオのリターンの動きと、市場全体のリターンの動きの相関関係を捉えるものである。

    ベータの計算は、まずS&P五〇〇などの広範な市場指数のベータを一と想定するところから始まる。ある銘柄のベータが二であれば、その株価は平均して市場の二倍揺れ動く。(中略)プロはしばしば、ベータの高い株式のことを攻撃的(アグレッシブ)な銘柄と呼び、逆に低い株式を防御的(ディフェンシブ)な銘柄と呼ぶ。

    p266
    非システマティック・リスクとは、個別企業に特有の要因によって引き起こされる、株価(そして株式のリターン)の変動性のことである。大規模な新規受注の獲得、有望な鉱脈の発見、労働争議、財務部長の使い込みの発覚といったニュースの影響を受けて、株価は市場とは独立して動くことも多い。
    こうした要因がもたらす株価変動に伴うリスクは、まさに分散投資によって取り除くことができる。ポートフォリオ理論の核心となるのは、株価は常に一緒に動くとは限らないから、他の株式のリターンの変動と組み合わせることで変動性を相殺し、低下させることができるというものである。

    p269
    これはおよそ六〇銘柄のところで非システマティック・リスクが事実上、除去されるということなのだ。(中略)残っているのは、ポートフォリオの中にある個別銘柄のシステマティック・リスクのみであり、それはベータで示される。

    p272
    CAPMは、長期平均的に高いリターンを得るためにはポートフォリオのベータを高めればよいと主張する。ベータが一より高いポートフォリオを作るためには、データの高い株式を買うか、平均的な変動性を示すポートフォリオを信用買いすればよい。
    ※一般に、ポートフォリオのベータはそこに組み入れられている銘柄のベータの加重平均値になる。

    p273
    ウォール街では、初期のベータ信奉者は、単に高いベータの銘柄をいくつか持つことによって長期的に高いリターンを得ることができると自慢したものである。また、市場のタイミングを読むことができると考えていた人々は、もう一つ強力な武器を手に入れたというわけだ。彼らは市場が上昇すると思う時にはベータの高い銘柄を買い、下落する恐れがあると思われた時にはベータの低い銘柄に乗り換えればよかったのである。この新しいアイデアの熱狂的な普及に応えるために、証券会社の間にベータ計測サービスが流行し、投資機関独自のベータの推計値を提供することが進歩のシンボルとなった。ベータの推計値は、今ではメリルリンチのような大手の証券会社やバリューラインのような投資情報サービス会社から簡単に入手することができる。

    p283
    長期間にわたって計測すると、データとリターンの間の実際の関係は理論が想定するような形にはなっていない。さらに個別銘柄のベータは対象期間によって値が不安定であり、計測する際の市場指数として何をとるかによっても影響されてしまう。

    しかしながら、ベータやその他のいかなる尺度にしても、それらは機械的にリスクを測り、将来のリターンを確実に予測するための簡便な方法ではないことに注意する必要があろう。

    p292
    「投資アドバイスはもらうより売るほうが、遥かに儲かる」

    p293
    多くの行動ファイナンス学者は、企業収益の成長性の予測能力に関する自信過剰が、いわゆる成長株が過大評価される傾向をもたらしていると主張する。(中略)こうした、誰もがもてはやす成長株の利益成長率の過大評価が、成長株グループの投資パフォーマンスがバリュー株グループを常に下回る傾向をもたらしていることの有力な証明になるだろう。

    p295
    (前略)自分はある程度結果を左右できるという幻想が、投資家をポートフォリオの中の負け犬銘柄にこだわらせるのだ。そしてその延長線上で、ありもしない株価トレンドや、将来の株価を予測する株価パターンの存在を信じるようになる。実際、何とか過去の株価データから将来を予測できる可能性を探るために多大な努力がなされてきたにもかかわらず、時間軸の上での株価の動きはきわめてランダムで、将来の株価は基本的に過去とは無関係なのだ。
    一般の人は厳密な確率論の原則を理解せず、類似(similarity)や代表性(representativeness)に基づいた直感を用いて判断するため、問題が増幅される。

    p306
    すなわち個人投資家は、値上がりした銘柄を処分し、値下がりしている銘柄は持ち続けるという、はっきりした選好を持っているのだ。うまくいって値上がりした銘柄を売れば売却益が得られ、自尊心は大いに満たされる。逆に値下がりしている銘柄を売れば、現実に損失が発生し、自尊心も大いに傷つく。

    こうした損失回避行動は、合理的な投資理論の下では明らかに最適な選択ではない。(中略)というのは、値上がり銘柄を処分すれば、それが非課税口座でない限りキャピタルゲインが発生する。一方、値下がり銘柄を処分する場合はキャピタルゲインは発生せず、またある範囲では他の銘柄の値上がり益と相殺できる。仮に値下がりしている銘柄が近い将来値上がりする可能性が大きい場合でも、とりあえず処分して損失を出し、値上がりの期待できる同様のリスクカテゴリーの他の銘柄を新たに購入すればいいわけだ。

    p315
    頻繁に売買を繰り返す投資家のパフォーマンスは例外なく、じっくりバイ・アンド・ホールドを続ける投資家よりも劣っている。

    地道に幅広い銘柄に分散投資したインデックス・ファンドを辛抱強く持ち続ける投資家こそが勝利を手にする。

    p320
    新規公開株(IPO)を公開価格で入手できれば大儲けできると信じていないだろうか。

    私のアドバイスは、IPOを公開価格で買ってはいけないし、また公開直後に公開価格を上回るば株価で売買されるIPO銘柄は絶対に勝ってはいけないということだ。歴史的に見て、IPO投資の平均的なパフォーマンスは全然良くなかった。すべてのIPO銘柄の公開後五年後の平均リターンを詳しく調べたところ、市場平均より年平均四%も低かったことが分かっている。IPOのリターンは公開後六ヵ月以降、市場平均を下回り始める。というのも、最初の六ヵ月の間はロックアップ期間と言って、公開した企業のインサイダーたちが持ち株を処分することを禁じられているからだ。そしてその縛りがなくなった途端、多くのIPO銘柄の株価はおかしくなり始める。

    個人投資家にとってのIPO投資の結果は、さらに酷いものだ。というのは、本当に将来性のあるIPO銘柄を公開価格で手に入れられる可能性はまずありえないからだ。そうした魅力的IPO株は、引き受け投資銀行の大口顧客となっている大手の機関投資家や、非常に裕福な個人投資家にかっさらわれてしまっている。もし取引のある証券会社から電話がかかってきて、「いいIPO株がありますよ」と言われたら、まずその銘柄は負け犬だと思っていい。大手の機関投資家や上得意の個人にはめ込めないような時にだけ、証券会社は小口の個人投資家に声をかけてくれるというわけだ。したがって、個人投資家が公開価格で入手できるIPO銘柄は最悪なものだけということになる。こうしたIPO投資ほどあなたの財産を痛めつける投資戦略を、私は他に思い浮かべることはできない。

    p326
    時価総額ベースで市場インデックスに含まれる全ての銘柄をそっくり組み入れたファンドをじっと保有するだけで、市場平均と同じリターンが得られるのだ。組み入れ銘柄の入れ替えを行わないため、ほとんど売買手数料は発生せず、不必要な益出しもしないから税金もほとんど払う必要がない。もしある銘柄の株価が二倍になったとすると、何ら売買せずにインデックス・ファンドの時価にそのまま反映されるのだ。

    (前略)市場平均を買った場合のリスク、すなわちベータは一・〇だ。

    p327
    幅広い分散投資を行いつつ、一つまたは複数のファクターを重視して運用するポートフォリオのパフォーマンスを評価する時に重視されるのが、「シャープ・レシオ」と呼ばれる指標だ。(中略)一般に投資家は、リターンは高くリスクは低い方を好む。そしてシャープ・レシオはこの二つの要素を合わせて計測するものだ。この尺度の分子は、特定の運用戦略から得られた超過リターン、すなわち総リターンから無リスク金利(三ヵ月物政府短期証券の利回り)を差し引いた値だ。一方分母は、その運用戦略によって得られた総リターンの変動の大きさを示す、標準偏差値だ。
    今、運用戦略A、Bがあり、共に平均リターンは一〇%、標準偏差値はAが二〇%、Bは三〇%だったとしよう。この場合のシャープ・レシオは、Aが〇・五(一〇%÷二〇%)、Bが〇・三三(一〇%÷三〇%)となる。ここから、Aの方が一単位のリスクに対して、Bよりかなり高いリターンをあげたことがわかる。
    スマート・ベータを支持する人たちは、全ての銘柄を時価総額加重で組み入れたポートフォリオは、必ずしも「最適ポートフォリオ」とは言えないと考える。それよりももっとシャープ・レシオが高くなるような組み入れ方があり得るというのだ。その鍵になるのが、「バリュー株グロース株」、「小型株対大型株」、「モメンタム株対非モメンタム株」といった、いくつかのファクターにウエイトをかけてポートフォリオを構築することなのだ。

    p328
    つまり、スマートベータ運用は、追加のリスクを取ることによって、追加のリターンを高めようとする運用なのだ。

    p329
    バリュー株とはPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が低い銘柄のことだ。

    私は個人的にはバリュー株投資に対して大いに知的に共鳴している。私が重視する銘柄選択ルールの一つは、EPSの健全な成長が見込めるのに市場がまだそれを十分には評価していないため、PERが相対的に割安な状態にあるというものだ。

    p330
    低PER銘柄、あるいは一株当たり純資産(BPS)、キャッシュ・フロー、売上といった指標に対する株価の倍率が低い銘柄群を組み入れたポートフォリオは、CAPMモデルを用いてリスクの度合いを調整した後で測っても、平均以上のリターンをもたらしてきたことがわかっている。

    p331
    低PERと並んで低PBRルールも有効だ。低PBR銘柄とは、株価の一株当たり純資産、または簿価と呼ばれる指標に対する倍率が低い銘柄を指し、やはり安定保有すれば平均以上のリターンが得られている。

    低PERも低PBRも市場がリスクを織り込んだ結果であることだ。というのは何らかの経営不安を抱えている銘柄は、直近のEPSやBPSに対して一見割安な株価がついていることが多いのだ。
    「バリュー・ファクター」の大きさを計測する標準的な手法は、「HLM」と呼ばれる。

    (前略)バリュー株ファンドはPERとPBRが低い銘柄群だけを組み入れている。バンガード・グループが提供しているのはETF形式のもので、VVIAXというコード名で取引されている。このETFはCRSP・US大型バリュー株指数をトラックするように組成されている。この指数はアメリカの大企業セクターの中でバリュー株と見なされる銘柄を中心に幅広く分散投資した株価指数だ。そしてVVIAXは同指数を構成すすべ全ての銘柄を、指数と同じ組み入れ比率で保有するファンドだ。

    研究者たちが見出したもう一つのはっきりしたパターンは、非常に長期で見るといわゆる「小型株」のリターンが「大型株」を上回る傾向が強いということだ。イボットソン・アソシエートによると小型株の一九二六年以来の長期平均リターンは、大型株を年率二%ポイント上回っていたというのだ。

    p333
    (中略)小型株は大型株に比べるとリスクが高いということを忘れてはいけない。したがって、小型株のリターンが結果的に高いのは当然と言える。

    p334
    ごく短期間ではあるが、市場にはいわゆる「モメンタム」が存在することがわかっている。モメンタムというのは勢い、慣性あるいはトレンドのことで、株価が上昇した翌日も上昇が続く確率の方が、下落する確率よりもわずかに高いということだ。
    一方、より長期を取ると、今度はモメンタムではなくて「リバージョン」、すなわち平均への回帰性が認められる。株価が何ヵ月、あるいは何年も上昇トレンドをたどると、その後には相場に非常に大きな調整が起こるというものだ。

    p337
    これまで紹介してきた四つのファクターを重視した投資信託やETFが実際に販売されている。VTIおよびSPYと呼ばれるETFは、株式市場全体およびS&P五〇〇指数の動きを機械的にフォローする市場インデックス・ファンドだ。いずれも、私が長年推奨してきた、もっともシンプルな市場インデックス・ファンドだ。

    p339
    (前略)単一ファクター・ファンドは決してスマートな運用とは言えない結果に終わっている。

    p340
    (前略)市場ベータ、サイズ、バリュー、モメンタムの四つのファクター・ファンドに、資金を二十五%ずつ分散投資した結果を示している。それによると、分散運用によってポートフォリオのリターンの変動率(標準偏差)は大幅に低下し、シャープ・レシオは大きく高まっている。

    p344
    等金額組み入れのS&P五〇〇インデックス・ファンドは、各構成銘柄を五〇〇分の一ずつ組み入れて運用される。この結果、時価総額加重ファンドに比べて、相対的に小型株とバリュー株のウエイトが大きくなる。半面、時価総額が大きく伸びているアマゾンやアルファベット(グーグル)などのグロース銘柄のウエイトが低くなる。

    また、等金額ファンドは組み入れ比率を維持するために、絶えず値上がり銘柄を一部売却してリサバランスを図る。その分だけ常にキャピタルゲインが発生し、税負担が重くなる。
    マルチ・ファクター・ファンドの運用成績は、まずまずと言える。ファクター間の相関係数が低く、あるいはマイナスのため、シャープ・レシオは単純なインデックス並みの水準になっている。その上で、若干ながらプラスの超過リターンを生んでいる。ただし、リバランスに伴うキャピタル・ゲイン税がハンディーになっている。

    p345
    マルチ・ファクターのスマート・ベータ・ファンドは、単一ファクターよりは優れた成績を残している。これはファクター・リターンの間の相関係数が低い、あるいはマイナスになっていることによるところが大きい。とりわけ経費率が低いファンドを選べば、通常のインデックス・ファンドの代用品として使えるだろう。
    とはいえ、これらのファンドが生み出す超過リターンや優れたシャープ・レシオは、あくまで追加のリスクを取った結果、うまくいったに過ぎないことを忘れてはいけない。

    p346
    優れた成績を上げられるかどうかは、一にも二にも購入した時点の相場状況がどうであったかにかかっている。

    また、小型株に特化したファンドは、大型株に比べて大幅に割安に放置されていた時を起点に計測すると、非常な好成績をあげたように見える。しかし好成績をあげたファンドが注目を集め、組み入れ銘柄群の株価が上昇した後で購入しても、その後のパフォーマンスに大いに失望させられることになりかねない。
    ある時期に非常な好成績を上げて注目を集めた運用戦略は、それが広く知れ渡るとだめになることが多い。このことは、優れたリターンが取ったリスクに対する正当な報酬ではなく、市場の一時的な気まぐれによる過大評価の結果に過ぎないときは、特に要注意だ。したがって、本書で一貫して強調してきた、幅広く分散投資された市場インデックス・ファンドへの投資が運用の柱であるという考え方は、いささかも修正する必要はないのだ。少し冒険してみたい投資家は、資産の中心部分は市場インデックス・ファンドで運用した上でチャレンジするのがいいだろう。その場合には、単一のファクターに賭けたファンドではなく、経費率の低いマルチ・ファクター・ファンドを選ぶことをお勧めしたい。

    p357
    自己資本資金で株式のような高リターン資産に集中投資するのか、それともレバレッジをかけて確定利付証券を保有し、自己資金に対するリターンを高めるのがいいのかという選択だが、私は後者のほうが効果的と考えている。前者の場合には、どうしても高リスク商品への資金配分が大きくなり、分散投資のメリットがあまり享受できないからだ。

    p367
    お勧めは、自動継続型の掛け捨て死亡保険だ。更新するたびに健康診断を受ける必要がないからだ。ほとんどの人にとっては保険料が低減するタイプの契約がいいだろう。と言うのは、歳を取るにつれて必要な死亡保険額は少なくなるからだ。ただし注意すべきは、六〇歳以上の人の保険料は急上昇するということだ。その年になってなお死亡保険に加入したい場合には、非常に高くつくということだ。その年齢に達すると、カバーするリスクは早死の可能性ではなくて、長生きし過ぎて蓄えが底をつくリスクなのだ。そこで元気なうちは掛け捨て保険で早死リスクをヘッジしつつ、節約した保険料の差額を運用して増やすのだ。

    p369
    マネー・マーケット・ファンドは手元現預金を運用する手段としては、最も魅力的な商品だ。

    p384
    そして実効税率が高いグループに入っている人にとっては、免税と州地方政府債で運用することによって、納税額をかなり減らすことができる。もしあなたが所得税率が高いグループに属し、また経常的な収入が間に合っているなら、運用の中心は免税債券と配当は少ないが長期的に値上がりする可能性の強い銘柄群の株式に置くべきだ。株式の値上がり益は売却して利益を実現するまでは課税されないし、もし死後子供たちに遺産として残すなら、永久に課税されないかもしれないのだ。
    他方、もしあなたの実効所得税率が低く、また収入に余裕がないというなら、運用の中心は課税債券と安定的に高い配当で株主還元するタイプの銘柄の株式にすべきだ。

    p387
    ポートフォリオを盤石にしたいなら、保有資産の一部をREITに投資することを強く勧めたい。それにはいくつか理由がある。まず、REITは歴史的に株式に比肩する高い値上がり益と配当利回りを上げてきたことだ。その上、REITを加えることによって、一層大きなリスク分散効果が得られる。というのも、不動産投資のリターンは株式や他の資産クラスとの相関があまり高くないのだ。したがって、REITを加えることによってポートフォリオ全体のリスクが低下する。その上、不動産投資はインフレ・ヘッジに最も効果的な資産だ。残念ながら上場REITの数は何百もあり、その中から選んだり買い替えたりするのは簡単ではない。さらに、たった一つのREITを組み入れるだけでは不動産の種類や地域に関して十分な分散効果は期待しにくい。

    p388
    さらには運用、管理費用を低く抑えたREITインデックス・ファンドも販売されている。

    そこで債券に投資する際の、四つの選択肢を指し示そう。第一は「ゼロ・クーポン債」と呼ばれるタイプで、購入する時に満期までに得られる年平均リターンが約束されるものだ。二番目はノーロードの債券ファンドで、多数の債券を組み入れた投資信託の持ち分に投資するものだ。三番目は限界所得税率の高い投資家向けで、免税債券ないしはそれを組み入れたファンドだ。そして最後は、インフレ修正条項付きの長期国債で、TIPSと呼ばれるものだ。ただし、これら四つのタイプの債券商品は、市場動向によってかなり異なった値動きを示す。そして二〇一〇年代に入っての前代未聞の異常低金利状態が続いている中で、債券に投資するに当たっては十分な注意が必要なのだ。

    p390
    公社債市場における価格形成は、少なくとも株式市場並みに効率的だと考えられる。したがって運用コストの低いインデックス型がおすすめだ。中長期の公社債に幅広く分散投資して保有し続ける債券インデックス・ファンドは、頻繁に売買して中身を入れ替える積極運用よりもら少なくとも経費率と手数料の差だけは高いリターンをもたらすと考えていい。もちろん購入する時には手数料のかからないノーロード型のファンドを購入することだ。

    p392
    債券市場では金利が上昇すると、既発債の市場価格は下落する。逆に金利が下落すると、債券価格は上昇する。ところが往々にして債券の発行者は突然「繰り上げ償還する」と宣言して、あなたの保有する債券を額面で取り上げる行動に出るのだ。そして下落した後のより低い金利の下で、新しく債券を発行し直すのだ。この行為を既発債を「コールする」と言い、それを可能にするのが債券発行条件の一つとして付けられている。「コール条項」だ。これは発行者に満期前の任意のタイミングで、繰り上げ償還する権利を認めるものだ。したがって長期債に投資する際は、近い将来金利が低下しても、発行体が繰り上げ償還して借り換えることを禁止する、一〇年間のコール禁止条項がついているかどうかを必ず確認してほしい。
    もしかなりまとまった金額を債権に投資する場合には、毎年運用手数料を取られるファンドを購入するより、利回りの高い特定の債券を直接購入した方がいいだろう。高格付債に限定すればリスクは小さいため、わざわざ多数の債券に分散投資する必要はなく、リターンも高くなるだろう。
    一方、投資金額が数千ドル程度と小口の場合には、流動性が高くリスク分散も図れるファンドに投資する方が賢明だろう。また、ファンドによっては特定の州、地方政府のものに限定して投資するものもある。これを買えば利息収入は国ばかりか州地方政府の所得税も免税になる。

    新興国債に関する常識的なアドバイスは、「慎重に」ということだろう。リスクは高く、格付けも低いものが多いからだ。しかし多くの新興国のGDPに占める負債残高は先進国よりも低く、また政府の財政バランスも健全なところが多い。その上、これらの国々の経済成長率は高い。したがって新興国物を中心としたハイ・イールド債に広く分散投資したファンドは、資産運用の一部分としては賢明な選択と考えられる。

    p405
    非常に長い期間で見た時の株式投資の平均リターンは、二つの基本要因からもたらされる。それは足下の配当利回りと今後の一株当たり利益、配当の成長率である。

    p406
    長期平均の株式投資の総リターン=投資時点の配当利回り+その後の配当の期待成長率

    しかし、投資期間が一年あるいは数年といったより短いものになると、第三の要因が非常に重要になってくる。それは市場の評価水準の変化-特に株価配当倍率あるいは株価収益率-の水準の変化である。(株価配当倍率はより一般に使われる株価収益率の変化と同様な動きをすると考えてよい)。

    p407
    株式配当倍率はまた、その時々の金利水準にも影響される。金利水準が低い時は、債券と比較される関係にある株式の配当利回りも低下し、したがって株価収益率は上昇する傾向がある。逆に高金利の局面では、金利に対抗して配当利回りも上昇する傾向があり、株価収益率は低下する。

    p408
    (前略)ますます多くの企業が伝統的な配当の形ではなく、自社株買い戻しの形で利益を配当日に還元し始めたからだ。自社株買い戻しは、投資家にとっても企業経営者にとってもメリットがある。投資家にとっては税法上、通常の配当よりも有利なのだ。長期値上がり益に対する税率は、配当収入に対する最高税率に比べてずっと低い場合が多いからだ。自社株を買い戻す企業の発行済株数は減少するため、一株あたり利益額は大きくなり、株価も上昇する傾向がある。したがって、自社株を買い戻す企業の株式は、税率が配当より有利な値上がり益をもたらす可能性が高いのである。しかも、値上がり益に対する課税は売却時まで持ち越すことができるばかりか、相続すれば払わずにすませることもできる。この結果、株主の利益の最大化に努める立場にある企業の経営者は、配当金を増やすよりも自社株買い戻しの方を重視し始めたのである。

    今日、経営者の報酬の大きな部分はストックオプションに依存しており、一株あたり利益が株価が上昇してはじめて価値が生まれるのである。自社株買い戻しはこれを実現する安易な手段というわけだ。株価が上がれば、それだけ経営者のストックオプション分の価値も高まるが、配当をいくら増やしてみても現在の株主の財布を膨らませるだけだけなのだ。

    しかし、この一〇年を見ると、利益の伸びの方が配当より遥かに高くなっている。別の言い方をすると、いわゆる配当性向(利益のうち配当として支払われる割合)が低下していることになる。

    p411
    (前略)株式投資のリターンの三大決定要素は、①投資した時点の配当利回り②一株あたり利益の成長率、③株価収益率(ないしは株価配当倍率)の水準の変化である。また債券投資に関しては、①投資した時点で計算された最終利回り、②金利(利回り)の変化、そして満期まで保有しない場合には債券の市場価格の変化

    p419
    (前略)投資リターンがどこから生じるかを説明するためには、倍率、すなわちバリュエーションの変化が重要なカギを握っているということである。一九六九年から八一年にかけて利益成長はインフレ率を十分上回ったにもかかわらず、利益、配当に対する倍率がリスクの増大を反映して大幅に低下したのだ。

    p425
    (前略)かなり確実なリターン予想の経験則がある。それは、どのくらい先まで見るかにもよるが、長期的な株式リターンの変動の約四〇%は期初の市場平均PER水準によって決まる、という法則だ。

    (前略)期初のPERが低い時に投資すればその後一〇年間の平均リターンは高く、反対にPERが高い時に始めると低いリターンに終わるという、はっきりした傾向があることがわかる。
    ただ、ここでPERをはじく時に用いた利益は、実際の数値ではなく規則的な変動パターンを調整した後の利益だ。この数値は、専門家の間ではサイクル調整後PER:CAPEと呼ばれている。CAPEのデータ・シリーズはロバート・シラー教授の運営するウェブサイトに行けば見られる。また、利益数値は、「過去一〇年間の平均利益」の形で計測されるものだ。「過去五年間の平均利益」のデータも入手可能だ。こうして計測された二〇一八年の「シラーCAPE 」は三〇倍になっている。

    p430
    個人が投資を行う上で最も重要な意思決定は、人生の各ステージに応じて、株式、債券、不動産、マネーマーケット商品などの「アセット・ミックス」をいかにバランスのとれたものにするかという決定であろう。(中略)投資の総リターンの九〇%は、投資家の選択したアセット・ミックスによって決まるという。投資の成功度合いのわずか一〇%弱が、選択された資産の中身、例えば具体的にどの銘柄や投資信託を選ぶかに依存するにすぎない。

    p434
    投資対象を保有し続けられる期間が長ければ長いほど、ポートフォリオに占める株式の割合を高めるべきなのだ。一般的に言って、投資期間がかなり長期になって初めて、株式から平均的に得られる高いリターンを期待することができるのだ。

    p436
    ドル・コスト平均法(中略)は単に一定の金額を毎月もしくは毎四半期に、長期間にわたり同じ投資対象、例えばインデックス・ファンドを同額ずつ買い続けるとし方法のことである。同一金額の資金を同じインターバルで継続的に株式に投資し続けることによって、ポートフォリオの中の株式を全て高値で取得することが避けられるため、リスクをなくせないまでも、かなり減らすことができる。

    p439
    しかし、相場が急落し、その後すぐに回復する見込みがないような場合は、結果的にその時が絶好の買い時ということが多い。期待と欲望が相乗効果で膨れ上がってバブルを生むのと同じように、悲観と落胆が折り重なって、市場のパニックを引き起こすことも多い。大々的なパニックは、最も華々しいブームと同じように、理由が何もないことが多い。どれほど見通しが暗かろうと、物事は徐々に快方に向かっていることが多いのである。

    p447
    少額の資金の場合、直接株式に投資すると手数料が割高になるため、ノー・ロード型の投資信託を選ぶのが賢明である。投資信託は利息を自動的に再投資してくれるし、配当やキャピタル・ゲインも再投資してくれる。

    p473
    多くの人がインデックス運用とはS&P五〇〇指数を買うことだと間違って思い込んでいる。しかしもはや、今日ではそれだけがインデックス運用ではない。S&P五〇〇指数はアメリカ経済の最もダイナミックな部分を構成する、何十もの中小企業企業群を除外しているからだ。この結果、私は今では、もし一つだけアメリカ株のインデックス・ファンドを買うとするなら、S&P五〇〇ではなく、市場の動きをよりよく反映していると思われるラッセル三〇〇〇ウィルシャー五〇〇〇、もしくはMSCIブロードUSインデックスの方を勧めたい。
    過去八〇年間のアメリカ市場の推移を見ると、総じて小型株のパフォーマンスが大型株を上回ってきた。(中略)主要なブルーチップ銘柄と比べると、小型株の方がリスクは高い。しかし、分散投資でリスクを軽減した後の小型株ポートフォリオは、ブルーチップ銘柄のポートフォリオよりもかなり高いリターンを上げる可能性がある。

    p474
    S&P五〇〇がカバーしているのは、アメリカの株式時価総額の七五%ないし八〇%ほどである。したがって文字通り何千もの銘柄が、S&P五〇〇以外の二〇%ないし二五%の中に含まれているのである。ここに含まれている企業群のほうが、リスクも高いけれどより大きなリターンも期待できる、有望成長株であることが多い。そして、ウィルシャー五〇〇〇には、ニューヨーク証券取引所をはじめ、アメリカン証券取引所、ナスダックに上場されているアメリカ株式のほとんどが含まれているといってよい。またラッセル三〇〇〇とMSCIインデックスは小規模で流動性も乏しい企業を除くほとんどの公開銘柄を含んでいる。これらのより広範な市場指数に基づくインデックス・ファンドがいくつも販売されており、一般にトータル・ストック・マーケット・ポートフォリオと呼ばれている。過去の成績が将来を保証するわけではないが、これらの広範に分散投資したインデックスファンドが今後も平均的な積極運用ファンドより高いリターンをもたらす可能性は大きい。
    その上、インデックス投資の範囲は何も国内株に限る必要はない。(中略)国際分散投資によって、あるいは不動産のような異質な資産を組み入れることによって、あるいは資産の一定割合をインフレ・スライド型国債を含む債券に配分することによって、リスクをさらに引き下げることができる。これが現代ポートフォリオ理論の基本的なメッセージである。

    p474
    アメリカの投資家が犯しがちな失敗は、十分な国際分散投資を怠ることだ。というのは、今ではアメリカの経済の世界に占めるシェアは約三分の一にすぎないからだ。もちろん、アメリカのトータル・ストック・マーケット・ファンドだけでも、かなりの分散投資になっている。アメリカの多国籍企業が、事業の大きな部分を国際的に展開しているからだ。しかし、中国、インドをはじめ多くの新興国経済は、先進国よりもはるかに高い経済成長を続けており、今後も当分の間高い成長が持続する見通しである。そして21世紀半ばには、世界一の経済大国になるとみられている。こうした理由から、以下で紹介するいくつかのモデル・ポートフォリオのすべてに関して、私はかなりの割合を新興市場に振り分けることを提案している。
    新興国経済は、二一世紀に入ってからも当分高い成長を続けそうだ。これらの国々は先進国に比べるとまだまだ労働人口が若いため、当分高成長が賄えるのだ。加えて、二〇一八年時点で見ると、新興国市場の株価収益率はアメリカに比べてかなり低水準にとどまっている。前の章で見た通り、出発点のPER(CAPE)が低いと、長期平均の株価リターンは高くなる傾向がある。この傾向は新興国市場についても当てはまるのだ。ちなみに二〇一八年の新興国市場のCAPEは、一二倍以下になっている。アメリカの半分以下の水準だ。
    新興国市場に関しても、インデックス運用は極めて有効だ。これらの市場は先進国ほどには効率的ではないが、運用コストや手数料が非常に高い。その上市場の流動性も低く、売買やトレーディングのコストも高い。その結果、経費を差し引いた後のリターンで見ると、圧倒的インデックス運用の方が有利なのだ。S&Pによれば、二〇一八年までの一五年間で見ると、積極運用される新興国ファンド全体の九五パーセントは、S&P/IFCI EM指数を下回る成績に終わった。

    p475
    毎月の生活費に充てるために確実な現金収入を重視する人は、配当支払いの比較的多いREIT型不動産投信や配当性向の高い株式銘柄の組み合わせ比率を高めるのがいいだろう。

    p476
    それからまた、私は読者の資産の大半ないしすべてが税法上優遇される退職性積立プランの一環として運用されていることを前提に、お話していることに注意してほしい。一般の債権はすべてその種のプランのもとで投資すべきことは言うまでもない。しかし、通常の税率で課税される投資の場合には、一般の債券ではなく免税債で運用すべきである。もし課税される状態で株式投資を行う場合には、「節税型インデックスファンド」の活用が検討に値するだろう。

    p478
    S&P五〇〇銘柄を組み入れた「スパイダーズ」などの取引所上場インデックス・ファンド(いわゆるETF)は、現物による解約が認められているため、税法上は通常のインデックス・ファンドよりも多少有利である。現物による解約とは、解約の請求があれば、低コストの現物株で返してもいいのだ。これはファンドにとって課税対象取引とは見なされず、したがって税法上値上がり益を認識しなくてすむ。その上、解約する投資家はファンドの平均取得コストではなく、個別の株式売買の時と同様、それぞれの投資家がファンドを取得した時の価格に基づいて課税されることになっている。それにETFの運用コストは、通常のインデックス・ファンドよりもさらに低く抑えられている。アメリカ株のみならず、外国市場を対象としたものを含め様々なタイプのETFが上場されている。まとまった金額をインデックスで運用したい時には、ETFは非常に優れた投資手段である。
    しかし、ETFの場合には、証券会社に払う手数料(ディスカウント・ブローカーの中には手数料なしでETFの売買を仲介するところもある)と、売り値と買い値のスプレッドから生じる取引費用が発生する。したがって、少額の投資資金で小刻みにインデックス・ファンドを買い増すタイプの投資家には向かない。こうした人にはノー・ロードの投資信託の方が適している。

    p479
    個々の銘柄に投資したい場合でも、多くの機関投資家が採用しているやり方を見習うべきだ。それは、運用資金の大きな部分をインデックスで運用し、残りの資金でこれはどう思う、個別銘柄に賭けるやり方である。コアの部分で市場平均を確保できていれば、安心して個別銘柄リスクを取れるというものだ。

    p480
    もっとも、株式投資を一種のゲームと考えて楽しむ余裕のある人にとっては、以下の説明に従って理にかなった戦略を立てれば、少なくとも株式を選択する上でのリスクを最小にすることができよう。
    しかし、私の勧める戦略を実行に移すためには、投資に必要な情報源をしっかり押さえてかかる必要がある。ほとんどの投資情報は街の図書館で手に入る。そして、主要な日刊紙の金融欄、特にニューヨーク・タイムズとウォールストリート・ジャーナルには必ず目を通すべきである。さらに、バロンズなどの主要な週刊誌も、常時そばに置いてほしい。ブルームバーグ・ビジネス・ウィーク、フォーチュン、フォーブスといった経済誌も、投資のアイデアを得るためには大切である。
    主要な投資助言サービスも役に立つ。例えば、スタンダード・アンド・プアーズの出している『アウトルック』や、バリューラインの『インベストメント・サーベイ』は、目を通すようにしたほうがいい。前者は週刊で毎週推奨銘柄を載せている。後者は毎週の推奨銘柄のほかに、過去のデータや現状評価、ほとんどの主要銘柄のリスク評価(ベータ値)も載せている。

    ルール1 少なくとも五年間は、一株あたり利益が平均を上回る成長を期待できる銘柄のみを購入すること
    大変難しいことではあるが、一株あたり利益が成長する銘柄を選ぶのが、ゲームに勝つための最大のポイントである。持続的な成長だけが一株当たり利益、配当を増やし、市場での株価収益率の上昇も期待できる。株価収益率が上がれば、あなたの賭けはさらに大きなものになる。したがって、利益が急増し始めた銘柄を運良く見つけた場合には、一株当たり利益と株価収益率の両方が同時に高まるという、二重の恩恵に浴する可能性がある。

    ルール2 企業のファンダメンタル価値が正当化できる以上の値段を払って株式を買ってはならない
    私は株式のファンダメンタル価値を正確に予測することは決してできないと確信しているものの、株式が妥当な価格帯にあるかどうかはだいたい判定できると思っている。その第一の基準は市場平均株価収益率である。株価収益率が市場平均と同じか、それをあまり上回っていない銘柄を買うべきである。
    有望銘柄発掘の鍵は、まだ市場が株価収益率の面で大幅なプレミアムを織り込んでいない成長株を探すところにある。ルール1で述べたように、そういう銘柄の成長が現実のものになった時には、しばしば二重の恩恵にあずかれる。一株当たり利益と株価収益率の両方が上昇することによって、大幅な儲けが得られることになる。同じ理由から、すでに何年も先まで成長を織り込んでいて、株価収益率が非常に高くなっている銘柄には気を付けたほうがいい。利益が成長するのではなく、逆に減少したりすると、今度はダブルパンチを見舞わされる。株価収益率も利益の低下とともに下落するため、大幅な損失を被ることになる。今世紀の初めには、多くのハイテク成長株が馬鹿高い株価収益率で売買されていたが、このルールに従って行動していれば、これらの銘柄に手を出して大火傷を負うという危険から身を守ることができたはずだ。
    さて、私のこの議論は今流行りの「低PER銘柄を買う」戦略に似ているが、同じではないことに注目してほしい。私のルールに従えば、市場平均よりやや高い株価収益率の銘柄を買うことも、その銘柄の将来の期待成長が市場平均を上回ってさえいれば、何の問題もない。
    言い換えれば、私の戦略戦略は相対的低PER戦略といってよい。人によってはこのアプローチを「GARP戦略」と呼んでいる。期待成長に比べて株価収益率が相対的に低いと思われる銘柄を買うことである。平均を上回る成長を遂げる銘柄の選択に成功したなら、平均を上回るリターンはほぼ約束されたと考えていい。
    ルール3 近い将来、「砂上の楼閣」作りが始まる土台となるような、確固たる成長見通しのある銘柄を購入するとよい
    (前略)まず、その銘柄にまつわる成長物語が、他の投資家にアピールするようなものかどうかを、じっくりと検討していただきたいということである。ぱっと広まるような夢が描けるストーリーだろうか。投資家が「砂上の楼閣」を築きたくなるようなストーリーだろうか。それも、しっかりした土台に裏付けられたものだろうか。十分に見極めてほしい。

    ルール4 なるべく売買の頻度を減らすべし
    私の投資哲学は、できる限り売買の頻度を減らすべしということである。(中略)いくつかの例外を除いて、年末には損を出した銘柄を売ることにしている。年末に下がり銘柄を整理する理由は、キャピタルロスは一定の限度額まで税控除にするか、キャピタルゲインと相殺することが認められているからである。したがって、損失を実現することによって、ネットの税金を減らすことができる。
    私は、常に値下がり損を一括計上するというわけではない。期待した利益成長が現実なものになりつつあり、先行き株価が反発する見込みがあると判断した場合には、もう少し待つかもしれない。しかし、損切りすればすぐに節税できるのがわかっている時には、値下がりしている銘柄をあまり我慢して持っていることはお勧めしない。

    p485
    どうしても自分で有望銘柄を探したいという人には、ポートフォリオの中心部分はインデックス・ファンドで運用し、残りを個別銘柄に賭けるという混合スタイルを強く勧めたい。もし老後の備えの大部分が株式インデックス・ファンドや債券、不動産などに幅広く分散投資されていれば、安心して個別銘柄に賭けるリスクがとれるだろう。

    p487
    私は、何年もかけてなぜある投信が別な投信よりも優れた成績を上げたのかを、いろいろ分析してみた。上記のように、過去の成績は決してあてにならない。しかし、ある程度信頼できる要因が二つあることがわかった。一つは経費率で、もう一つはファンドの中身の回転率だ。経費率が高く回転率も高い投信は、確実に投資家にとってのリターンを目減りさせる。
    投信の中で成績のいいファンドは、ほどほどの経費率と低い回転率のものが多い。運用会社や販売会社の取り分が少ない分だけ、投資家の取り分が多くなるのだ。バンガード・グループの創始者ジョン・ボーグルは、「投資家は払う分が少ないほど得するのだ」と言っている。

    p490
    コンピューター・ベースの投資サービスは、いくつかの点で対面式のやり方よりも効率的だ。ほとんどの場合、このタイプの投資サービスはインデックス・ファンドを組み合わせる運用を基本にしている。具体的には、最もコストの低い、ETF形式のインデックス・ファンドが用いられる。また、顧客の選考にもとづいて、リスク水準を一定に保つようにポートフォリオが自動的にリバランスされるようなプログラムが組まれている。リバランスは、受取配当金や資金新規資金を、相対的にウエイトが低下した資産クラスに配分する形で行われる。コンピューターを用いれば、最適なリバランスのタイミングや中身は簡単に決められる。
    こうしたコンピューター・ベースの投資サービスは、インデックス・ファンドの買い持ちを基本にしているため、一種の消極運用である。このため積極運用のように頻繁な売買は行わず、不必要なキャピタル・ゲイン税が発生しない。加えて、多くのサービス会社では、税金の支払いを最小化するプログラムを提供している。伝統的な投資サービスでは、この手のプログラムは一部の大口顧客に対してしか行ってこなかった。コンピューター化されたサービスでは、これをはるかに効率的に、幅広い顧客に対して提供している。
    この節税プログラムは、コンピューターによる投資サービスの中でも、ひときわ優れたものだ。具体的には、評価損の出ている銘柄やファンドを探し出して売り、ほぼ同等なもので割安に評価されていると思われるものと入れ替える操作を、組織的にやるのだ。これによって、ポートフォリオのリターン・リスク特性を一定に保ちつつ、税負担を最小にするものだ。
    もちろんこうした節税は、納税の先延ばしにすぎないともいえる。しかし、節税分は直ちに再投資に回され、複利ベースでリターンを生み続ける。したがって、納税の先延ばしによって損することはまずないのだ。とりわけ、短期の値下がり損を用いて節税した場合には、やがてキャピタル・ゲイン税を払うことになった時には軽減税率が適用されるのだ。また、投資を子供たちが相続したり、慈善目的で寄付される場合には、税金そのものが免除される。
    節税プログラムのもとでは、値下がり損を出すために組み入れ銘柄の組み換えを行う。しかしこの運用は、伝統的なインデックス投資と少しも矛盾をきたさない。

    p492
    こうして組織的値下がり損を生み出して、ポートフォリオの他の部分で生まれる値上がり益と相殺するのだ。

    p509
    ROEが重視されるのは、それが株式投資の総リターンを決める鍵を握っているからだ。株式投資の総リターンは、配当利回りと株価の上昇率からもたらされる。そして、株価収益率が安定的ならば、あるいは平均PERで考えれば、株価の上昇率はEPS(一株当たり利益)の成長率に等しくなる。毎朝のEPSのうち配当を支払った残りが内部留保として純資産に積み増され、それが翌朝に再びROEで再運用されて、EPSの成長を生み出すのだ。このように、ROEこそ株式投資の総リターンの二つの構成要素の、両方の産みの親なのだ。
    以上が、「ROEこそが株式投資の総リターンの決定要因」の論理的説明である。実際に、主要国の大企業の平均ROEと実現した株式投資の総リターンの長期平均値を調べてみると、密接に関連していることがわかる。

  • 長い目でじっくり資産を築いていきましょうというお話。よく言えば堅実。悪く言えば退屈。

    結論、長期でTOPIXやS&P500などの指数に連動するファンドを毎月定額で積み立てていきましょうということ。

    コツコツ積み立てていくにあたり、大事なこと。

    金融資産からの収入以外でどれだけ収入があるか、また自身の環境(独身,家族持ち,定年など)がどの位置にあるかによって、取れるリスクが変わってくる。そのため、その時々に応じた適切なリスクに抑えましょうということ。

    原則、高いリターンを求めるならその分リスクも高まる。自身がどれだけのリターンを求めるかはそのリターンが実現する割合も含めて決めること。

    過去の結果が現在と将来の結果を保証するものではないということ。

  • 両学長のyoutube「リベラルアーツ大学」で紹介されていた本です。分量が多かったので、一部飛ばして読みましたが、歴史から実際の投資の手法まで学べることが多かったです。米国の話ですが、投資の基本的な考え方を学ぶのに参考になります。

  • ・toppointで読む
    ・テクニカル分析はトレンドに気づくのが遅いし皆がやるので意味がない
    ・ファンダメンタル分析は合理的に株価を説明できる前提が疑わしいし、分析コストが割に合わない
    ・ドルコスト平均法
    ・リバランス
    ・インデックス投資

  • 今まで漠然と持っていた金融や資産運用の知識が体系化されてすごく良かった

  • チューリップバブルから仮想通貨バブルに至るバブルの歴史やファイナンス理論(ファンダメンタルズ、β、CAPM、行動ファイナンスなど)のコンセプトを学ぶことができる。
    資産形成についての議論は、米国と日本とで環境が異なるのでそのまま妥当しない部分もあると思われる。また、著者が説くとおりインデックスファンドは資産形成上有用と思われるものの、The Hidden Costs of Index Tracking(https://www.winton.com/research/the-hidden-costs-of-index-tracking)が説くような議論も見逃せない。

  • 株初心者向けに推奨されていた本(2 of 17)

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著者プロフィール

プリンストン大学名誉教授
1932年生まれ。プリンストン大学経済学博士(PhD)。同大学経済学部長(1974-75、77-81)、大統領経済諮問委員会委員(75-77)、エール大学ビジネススクール学部長(81-88)、アメリカン証券取引所理事などを歴任。世界的な投信会社バンガードの社外取締役としても活躍。

「2023年 『ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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